これもうアニメじゃん!!!!!
そして廃遊園地で始まる、蒼崎青子と久遠寺有珠最大の決戦。
なぜ、こうなったのかというと……
この記事には『魔法使いの夜』のネタバレがほぼ全て含まれています(クリア後要素への言及もあります)。できればクリア後に読むことをおすすめします。よろしくお願いします。
星が瞬く
あけましておめでとう、諸君。
というわけで『魔法使いの夜』の記事です。ワケのわからない冒頭に混乱している方もいるかもしれないので一応ちゃんと「魔法使いの夜の記事です。」って宣言してみました。対戦よろしくお願いします。
「えっ?まほよやってなかったんすか?しばくぞ?」というみなさまの声が聞こえてくるような気がするんですが、2012年当時の私はPCを持っていませんでした! てかPC持てたの割と最近です!! 許してください!!!
だから今回コンシューマーで発売されたのが本当に嬉しい! 『月姫 -A piece pf blue glass moon-』もそうですが、「遊んでみたかったけど色々な理由で中々手が出なかったゲームがリメイク、リマスターされる」のは本当に良いものです。
お前は絶対に裏切り者!!!!!
『魔法使いの夜』を遊び始めてまず真っ先に感じたのが、「なんとなく雰囲気が良い」ということでした。えっ? 「なんとなく雰囲気が良い」って何の情報量もない? お前の主観しかない? いやいやでも、このゲームを遊んだ人にはなんとなく伝わらないこともないんじゃないでしょうか?
1980年後半の「三咲町」を舞台に魔法と学校と山を巡るジュブナイルが描かれる『魔法使いの夜』。いつか訪れる高度経済成長に夢を抱く世界。そんなに限界ではないけど、この街の不便さに不満があるような、そこまでないような感じがする地方都市。相反するふたつが融合した空間の上に成り立つ、ちょっと落ち着いた学園生活の心地良い空気感。
この静かで落ち着いた空気感が『魔法使いの夜』の魅力としてかなり大きい部分だと思います。お菓子で言えばカントリーマアム。飲料で言えばホットの午後紅茶<ティー>。ハンターで言えばモラウ。
いや、何かホント『月姫 -A piece pf blue glass moon-』とか永遠に「志貴さま生きてるか!?志貴さま生きろ!!」と、遠野邸第3のメイドばりに志貴さまの体調を心配し続けていたので、まほよの空気感は安心します。
三咲町で暮らしたことはないのに、徐々に三咲町の住民であるかのような感覚と、土地への愛着が湧いてきます。あ、でも神秘が跋扈しすぎてるから別に三咲町には住みたくはないです……
そしてこのゲームを触っていると徐々にわかってくるんですが………………なんか演出すごくない?
上記の動画を見てください。いや、動画見てないのにこの文章に目線を移してる人がいたらとりあえず動画見てください。「ビジュアルノベルで動画にしないと凄まじさが伝わらない」ってどういうコトやねんって感じかもしれないんですが……なんかこれすごくない?
「テキストを読む」ということを前提として作り込まれた演出……と呼べばいいのでしょうかね。あくまで第一に読ませたいテキストがあって、そこに引き込むための演出がすごい。
単純な「映像」としての演出ではなく、「ビジュアルノベル」のために作り込まれた演出の職人芸。その上で、直感的に見てもなんかすごい。この「なんかすごい」という圧倒される感じに出会えた時って、嬉しいです。
お恥ずかしながら私はアドベンチャーやノベルゲームをゴリゴリに触る人間ではないので、専門的なお話をできないのが申し訳ない限りなのですが……そんな素人目から見ても「これはちょっとヤバくないか?」と思います。ちなみにADVだと『ノラと皇女と野良猫ハート』が私のお気に入りです。明日原ユウキが一番好きです。いやホラ、一応種崎敦美繋がりじゃない?
青子の歩みに合わせて移ろう三咲町の風景。明滅する歩行者用信号機。しとしと雨が降りしきる曇天は寒気があるけれど、どこか温かくて……。これは映像じゃないんだけど、私の脳が映像だと錯覚する。
「ボタンを押して文章を読み進める」というビジュアルノベルの性質を考え抜いたうえで作り込まれたこの演出は、バトルシーンだけでなく学園での日常生活でもバンバン挟まってきます。おそろしく早いスクリプト、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
あと山城先生が一向に裏切らない。裏切る気配もない。お前……神秘関係ないんか? なんでこの人はちょっと糸目でちょっと眼鏡でちょっと声帯が日野聡なだけの一般教職員なんだ。もうオッズ大変なことになってるでしょ。裏切り者界のイクノイックスかエフフォーリアなんじゃないのか貴様は!?
殿下の知らない童話
キャ~~~~~~~~~~~~~♡♡♡
殿下~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡
槻司鳶丸。三咲高校の副会長にして、理事長の息子。太い家を持っているくせに言動がちょいちょいヤカラっぽい。みんなから「殿下」というあだ名で呼ばれている。
僕はまほよでこのキャラが一番好きです!!!!!
思えば、私はTYPE-MOON作品だといつもいつも男キャラが好きになっている。別に型月じゃない時も男の方が好きになってるんですが、なぜかいつも男が好きになっている。
『月姫 -A piece pf blue glass moon-』の時も、遊び始める前は「アルクかわいい!琥珀かわいい!!」とか抜かしてた割に、いざ遊び終わったら私の指定ポケットカード<推しキャラ>には遠野志貴、乾有彦、マーリオゥ・ジャッロ・ベスティーノという綺麗な野郎統一デッキが完成していました。
一応名誉(?)のために言っておくと、私にそういう趣味があるワケではないのです。あ、もちろんアルクも琥珀さんも好きですよ?
でも、なぜか男の方が好きになってしまう。そして鳶丸殿下もご多分に漏れず「結局男の方が好きになってた」の典型例。そもそも生徒会副会長で、この顔で、家は太いけど柄悪くて、結構ノリよくて、人のこと信用してないのに静希草十郎は結構気に入ってて、そんな友人に真剣に向き合っていて……私から言わせれば殿下を嫌いになる要素はないと思います。
そして『魔法使いの夜』の面白いところとして、「日常がメインに描かれている」という点があります。いや、「メイン」と言ってしまうとやや過言かもしれません。「日常を尊重している」の方が正しいでしょうか?
とにかく、まほよはバトルだけでなく、その合間にある日常にこそ旨味が詰まっている。というか、ベースに日常があって、その合間にバトルが挟まってくる感覚に近い。作品の主軸としてはジュブナイルコメディ『静希草十郎の奇妙な日常』が置かれていて、その合間合間に週刊連載バトルアクション『マジックバトラー青子』が挟まってくるような感じ。え、話をややこしくするな?
プレイ前は「おそらくこれは血で血を洗う魔術戦争が待ち受けている作品なのだろう……」という勝手な印象を抱いていたので、三咲町での日常をたっぷり描くこの作風に驚かされました。
そしてみなさん、突然ですが問題です。この人は何を食べているでしょう?
正解は…………
「フォークでおでん」ですね。
ここのおでん食ってるシーン、謎に職人芸が発揮されているし【※1】、「こんなおでんの食い方する人いるんだ……」という面白さもあるし、まほよでも一二を争う好きなシーンです。
そんな久遠寺邸での楽しい日常も魅力のひとつ。丘の上にある魔女の館にやってきちゃった草十郎さんのドキドキ♡ハーレムが始まるのかと思っていたのに、そこには双破滅生活女<ハチャメチャくらしオンナ・デュアル>のところに山の丁寧な暮らしを携えた草十郎さんがやってきてQOLが上昇する家庭の姿が描かれていた……。
久遠寺邸で飯食ってるシーン、なんとなく良いですよね。そう、なんとなく良い。私が最初に書いた「なんとなく雰囲気が良い」とは、久遠寺邸の食事シーンで流れているような、静穏だけど、どこかやわらかい空気感を指しているのかもしれません。
「かもしれません」って何だよと思うやもしれませんが、もうこればっかりは実際に『魔法使いの夜』を遊んでもらって私の言っている「なんとなく良い」空気感を感じていただくしかない。まほよのこの空気を完全に言語化してしまうのは……なんとなく無粋な気がします。直接、あなたの肌で三咲町の空気を感じ取ってください。
※1「有珠さん<マイ天使>がおでん食ってるシーンの職人芸」
『魔法使いの夜』には「えっ、今のどういう技術なん?」とツッコミたくなるような謎技術がたくさん登場するのですが、個人的にこのおでんを食べるシーンはトップクラスに驚かされました。本当は自分が取ろうとしていたしらたきを青子のフォークに妨害され、出汁という名の水面に映った有珠の顔が怒りに震える。なんなんでしょうこのシーン。一応下に貼ったので見てみてください。
そしてみなさん、そろそろお気付きでしょうか。さっきからこの記事に貼られている『魔法使いの夜』のキャプチャ、「似たような構図のシーン」が全く登場していないことに……
ホント変態ですよねこのゲーム。
一応全シナリオをクリアした後にザーッとまほよの総CG数を数えてみたのですが、大体200枚くらいありました。ホント変態ですねこのゲーム。私の勝ちだな。今計算してみたが、まほよのCG数は地球の引力に引かれて落ちる!
そして書いてる内に気付いてきたのですが、まほよの画面の作り方のすごいところのひとつとして、「三人称視点で場面が作られている」という点がある気がします。さっき「あんま詳しいこと書けないです……」みたいなこと言ってたのは忘れてください。今思いつきました。大体このくらいのライブ感が通常運行です。
大体こういうノベルパートは、基本的に「現在、主人公になっているキャラクターの一人称視点」で場面が描かれることが多いです。志貴さまが主人公になっているとしたら、眼前には愛らしい笑みを浮かべる琥珀さんが。黄金樹海紀行だとしたら、その眼前には24時間限定で聖夜を祝う神父が。
ところがどっこい。『魔法使いの夜』は、「その場にいる登場人物全員が映るような三人称視点」で場面が作られている。ここが珍しい気がします。
もちろん、青子の視点から描かれている時は青子の一人称に切り替わる時もあるし、静希くんの視点から描かれている時は草十郎さん視点にもなります。が、まほよはベースに三人称視点が存在する。
この三人称視点から場面や物語が描かれることによって、これまで紹介してきた「テキストを読ませるため」のハイレベルな演出の切れ味が増す。それと同時に、まるでひとつのドラマ作品を見ているかのような空気感が作品全体をコーティングする。
何気に今作は主人公が草十郎になりすぎることもなければ、青子になりすぎることもない独特の温度感が結構好きだったりするんですが、そこも三人称視点が上手く作用している点だと思います。
物語と画面が三人称で進行することによって、「誰か一人の視点から物語が進行し続ける」ことがなくなる……つまり語り手側に過度に感情移入しすぎることがなく、プレイヤーはより客観的に、俯瞰的に物語を楽しむことができる。
最初に触れた「三咲町の空気感全体が好きになる」は、もしかしたらこの俯瞰的な視点からストーリーが描かれることによって、より広い視点で『魔法使いの夜』の世界を捉えられたが故の副産物なのかもしれません。
私はどちらかというと、世界観や舞台よりもキャラクターひとりひとりの方が好きになることが多いです。でも、まほよの場合はそうじゃなかった。三人称で描かれた、この世界全体が好き。まほよの登場人物たちが会話している、この空気が好き。う~ん、すごいゲームじゃない?
うたかた花火<スターマイン>
これもうアニメじゃん!!!!!
はい、冒頭回収ありがとうございました。
すいません、ドンブラ式アバンやりたかっただけです。
しかしもうこれは……おかしくないか?
これ元は10年前のゲームってマジすか? どういうこと? TYPE-MOONには未来人が存在するのか? まほよ遊んでる時の「え?このゲームどういう技術で作ってんすか?」という人類未踏の古代遺産<オーパーツ>や全く底の見えない大穴を覗きこんでいる感じ、個人的には『ベイグラントストーリー』【※2】を遊んでいた時の感覚に近いです。
※2「ベイグラントストーリー」
2000年にスクウェアから発売された、PlayStation用ゲーム。背景をCGのイラストとし、その上をポリゴンのキャラクターが歩き回るスタイルが比較的多かった当時の中で、背景もキャラクターもフルポリゴンによるリアルタイムレンダリングを行っている作品。とにかく「これどういう技術で作ったんすか?」って感じのゲームです。
とりあえず遊園地戦のビジュアルノベルの限界を超えたすごさを堪能してもらいたいので、ここから動画をいっぱい貼ります。ゲームメディア史上最も動画を掲載した記事、目指していくか。
ものすごく誤解を招いてしまいそうな言葉ですが、『魔法使いの夜』は感覚的に「『月姫 -A piece pf blue glass moon-』を開発した経験値を活かし、ついに完成した次世代アドベンチャーです!」と言われた方が納得感があります。
いや、ものすごく誤解を招いてしまいそうなのでフォローを入れると、どちらの演出が上か下かみたいな話ではないです。断じて。もちろん月姫リメイクも独自のすごい演出がめっちゃ入ってます。
でも、自分の気持ちに嘘はつけないから……そう言われた方がまだ納得感がある。特に青子の弾倉みたいに紋章が回転する演出わけわかんなくない? どうなってんのこれ? ホントはこれ2030年くらいのゲームを第五魔法で持ってきたんと違うか?
みなさん知らないと思うんですけどこの久遠寺有珠って子、かわいいです。
何気に、なぜなにプロイ【※3】を見たクリア後にもう一度この遊園地戦を見ると、当然の如くフラットスナークを繰り出してくる有珠に「お前、何しちょる?」という疑念が湧いてきます。
そしてここで触れておきたいのが、『魔法使いの夜』の幕間……何か知らないうちにシレっと追加されている「日常エピソード」の部分です。さっきから何回も「まほよは日常パートが面白い」と書いているのは、ここの幕間エピソードの印象が強いからかもしれません。
※3「なぜなにプロイ」
まほよ版なんとか道場とか教えてなんたら先生コーナー。全体的に「有珠、嘘だよな……」って感じの内容ですが、プロイキッシャーの説明自体は割としっかりやってくれます。普通にグレートスリーを草十郎と青子相手に切ってくるのどうなってんだ。もしかして有珠さんはアレッスか?初心者相手に600族出しちゃうタイプッスか?Lv1の相手をセグレイブで轢きまわすことに快感を覚えるタイプの……………ギャ────────!!!!
こういった感じで知らぬ間にこっそり書庫に「八.五章」が追加されていたりする。ここではどう見ても裏切り者なのに別にそんなに裏切り者じゃない神父が登場したり、何か怪しい商売を巡ってひと悶着が起きたり……とにかく三咲町の何気ない日常が描かれています。
そして「ほぼここにしか登場しない」と言っても過言ではないキャラクターもいたりする。
それがこの「久万梨金鹿」。
かわいいですよね。
めっちゃどうでもいいかもしれませんが、実は私、今回『魔法使いの夜』を遊ぶにあたって、できる限り事前情報を得ないようにしていました。やっぱりゲームは知らない状態でプレイしたい。それが功を奏し、「意外と空気感が落ち着いている」、「演出ヤバすぎ」、「草十郎の肘どうなってる?」といった新鮮な驚きを味わえたのですが、この久万梨金鹿だけは逆パターンでした。
ここらで一発青色<はじまり>の魔法を開いて時を3ヶ月前に戻しましょう。2022年10月中旬、私は徳島で開催されていた「マチアソビ」というイベントを訪れていました。そしてそこでは『魔法使いの夜』のステージも開催中。静希草十郎役の小林裕介氏と久万梨金鹿役の安済知佳氏が登壇しており………なんとなく深層心理で「あっ、久万梨金鹿ってめっちゃメインキャラなんだ」と思ったのです。
そこから時が流れて12月。私の中では「たぶん久万梨金鹿は蒼崎青子と久遠寺有珠に次ぐ、第三の魔術師に違いない。3号ライダーに違いない。だってCV安済知佳だぜ?リコリスだぜ?」という勝手な妄想が膨らんでいました。
実際、全然3号ライダーとかではない。
久万梨金鹿は一般人も一般人。神秘も魔法も秘匿も関係ない、普通に大学進学を目指す女子高生。だがそこが良い。そこがかわいい。そしてそんな彼女が本領を発揮するのもまた、本筋からはちょっと外れた日常の番外編。まさしくまほよの一般人代表と言えるかもしれません。
去年の12月31日に地上波で放送された毎年恒例の『Fate/Grand Order』特番のまほよコーナーにて、普通にクリア後要素の紹介が始まって「知佳!裕介!待ってくれ!俺まだクリアしてないから!!」と慌てふためいたのもいい思い出です。……と、そういえば私、今回の『魔法使いの夜』は冬にプレイしたんでした。
いや、12月8日発売なんだから何を急に当たり前のことを……と思われるかもしれませんが、『魔法使いの夜』は特に「冬場にプレイする」のが楽しいゲームだと思います。肌寒い外気から室内に逃げ込み、暖房であったまりながらハードを起動するのは冬場の最も楽しいゲームの遊び方ですが、まほよは特に向いてる。
そもそも『魔法使いの夜』の舞台は年末の三咲町。肌寒そうな三咲町を舞台にした、一冬の物語を……あったかい部屋でのんびりプレイする。ああもう最高です。特に12月30日は、コミックマーケット101に参加するために徹夜で(寝坊したら終わりだから)まほよをプレイしていました。楽しかったです。この「冬に魔法使いの夜を遊べた」ことそのものが、とても幸せなことなのだと思います。
そして遊園地は少年と少女の思い出の地になって、幕を閉じていく。
…………ってこれ、遊園地デートじゃん!!!!!
こんな夜に
さっきからチラチラ「山」だの「肘」だの書いている通り、やっぱり最後はこの「静希草十郎」という男の話をしたい。しかしその前に『魔法使いの夜』の後半から本格的に登場するふたりに触れましょう。
それが「蒼崎橙子」と「ルゥ・ベオウルフ」のふたり。いや、ひとりと一匹?
そしてやっぱり私、『魔法使いの夜』だとベオくんが一番好きです。
最近はもう「別に一番好きなキャラが何人いてもいいか」と開き直るようになってきました。最悪の浮気者です。こうなってはいけません。「マーリオゥが好き」と書いていたところから察してくれたそこのアナタ、ありがとうございます。
まずビジュアルと声も好きなんですが……「人間をその時の気分や指の一振りで容易く殺してしまうようなキャラ」が好きなんですよね。いや、たとえが細かすぎてイマイチ伝わってないかもしれません。
たとえば『妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ』のオーロラとか、ナガノ先生が描いてるユニコーンとバイコーンとか、『幻想水滸伝2』のルカ・ブライトとか、ああいう人間の常識の埒外の存在で、容易く弱者を喰ってしまうようなキャラが好きです。こればっかりはもう理由とかはなく「性癖」としか言いようがありません。
ベオくんが人を喰らう時の淫蕩に耽った眼が好き。限りなく美しく、果てしなく完成された形を持ちながら、一度牙を剥けば残虐に、残酷に、無残に他者を犯す獣となるベオくんが好き。生命と欠落の意味を知るために、悦と恐れの快感を味わうために、万能であるが故の未知を知るために、他者を喰らう獣としての性が好き。
この人はなんなんでしょうね。
まほよをクリアする前の私は「青子には何があったんだよ……」「橙子には何があったんだよ……」と思っていたのですが、結局クリアしても「青子には何があったんだよ……」「橙子には何があったんだよ……」と思っていました。いや、トーコさんはいい意味で変わってないとも言えるかもしれません。
そんでまあ最後にこのふたりが襲いかかってくるんだから大ピンチ!
橙子とベオくん強すぎワロタ。青子と有珠めっちゃ死にかけてるけど? もう『魔法使いの夜』はバッドエンドやね……月姫兄さんと空の境界姉さん、あとはよろしくお願いします……
その答えは「肘」でした。
静希草十郎乾坤一擲の肘が炸裂した瞬間、リアルに「なんやコイツ!?!?!?!?」って声が出ました。山だからか!? 山育ちだからか!? 「山ではね、熊と戦うのが当たり前なんだよ」じゃもう済まない領域まで来てるが!?
ここでベオくんに理解<わか>らせ属性が完全に付与されてしまったのもホントにかわいそうでかわいい。わざわざ記事に書くようなことなのかと言われたらそうじゃないかもしれませんが、『魔法使いの夜』について書く時にここに触れないのは嘘なんじゃないのか!? 私は肘から逃げない! 山からも逃げない!!
静希草十郎は……ホントに変な奴だと思います。型月の主人公は変な奴ばっかですが、草十郎さんは特筆して変な人だと思います。いや、穢れも悼みもない世界で育ってきた彼こそが人の自然な姿であって、逆に私たちが変なのかもしれない。静希草十郎を見ているとそんな疑念すら湧き上がってくる。
そして私にとって、『魔法使いの夜』はよくわからなかったです。蒼崎青子の人としての強さも、静希草十郎の度が過ぎた純粋さも、私にはよくわかりませんでした。よくわからなかったというより、理解しようとしても、どうしても人としてそこに辿り着くことができなかった。
私は人として強くありません。純粋さもありませんし、人として醜悪だと思います。基本的に人のことをあまり信じられていないですし、他者を「自分にとって有益かどうか」で判断していることもあります。
それを悪いことだと理解していて、私はそんな「他人を道具のように見る」ことを嫌っているのに、私自身がそう考えている時がある。人として救いようがない。他人を信じないことで弱さを隠し、強さを保つのは……とても正しいとは思えない。自分の人生における一番の観客である自分自身が、自分の姿に最も納得していない。最高の客席で「こんな人間は、登場人物として最悪だ」と思っている。
だから私は、静希草十郎も蒼崎青子も理解できませんでした。どれだけ近付こうとしても、遠く遠く離れて行ってしまう彼方の星。全てを受け入れていながら、その実、何も手に入れていない少年。全てを捨ててきたようで、その実、何ひとつ失っていはない少女。あの雨の会議室で、自らの醜さと正反対の気高さを見たのは……私自身でもあるのでしょう。
話の着地点として「理解できなかった」なんて……とても褒められたものじゃありません。でも、物語というものは、これまで築き上げてきた自分を映す鏡でもある。そこにすら嘘をついてしまうのが許せなかった。何もかもわかったフリをして御託を並べるなんて、私は絶対認めない。少なくとも自分が好きな文章の中でくらい、自分には嘘をつきたくない。
私から見える『魔法使いの夜』に登場する人たちは、それこそ一面に花が咲き乱れた野原のようです。こんなにも美しいのに、目を背けたくて仕方がない。でも、もっと見ていたい。私の手が届かない、美しくて綺麗なものを、ずっと見ていたい。
だから……理解できなくても、好きです。とても好きです。蒼崎青子も静希草十郎も私には理解できない人間だけど、同時に人として大好きです。そもそも人を好きになることに、その人の何から何まで理解する必要はないと思います。ちょっと言い訳くさいですが、私はせめて、多くのものを愛したいのです。
冗談で振りかざされた指先で描かれる、私には辿り着けない気高さや優しさ。瞬く星のように綺麗な尾を引くそれは、まるで、魔法のようで……。この物語も、私の書庫からはずっと消えない大切な本になるのだと思います。彼女たちのことをずっと忘れないように、そっと本棚の上にしまっておきます。
……ということを、TYPE-MOON作品を遊ぶとよく考えてしまいますね!
え、何? 最後にお前が恥ずかしくなるな……? う、うるさい!!
そんなフルボイス化・フルHD化された『魔法使いの夜』は、PS4とNintendo Switchにて好評発売中! 個人的には冬の間にプレイするのがオススメです。今逃したら来年になっちゃうので、早く遊んでください。
それでは、貴方の心の内に輝く星がするりと降りた時、またお会いしましょう。
My Dearest
はい、終わる終わる詐欺!
やっぱりここの話をしなきゃ終われない。なんと『魔法使いの夜』にはクリア後シナリオ……「誰も寝たりしていいけど笑ってはならぬ」という番外編が存在しているのです!
そしてなんとこれは本編からまた一年くらい時間が経過した三咲町が舞台となっており…………
誰?
誰です!?
誰だよコイツ
……といった感じで、明らかに本編に登場していない謎の魔法少女メイ・リデル・アーシェロットまで登場する始末。いやホントに誰この人!? 静希くん? 今までずっとリデルさんに助けてきてもらったこと忘れちゃったの? 橙子を封印できたのも……ベオを倒せたのも……全部リデルさんがいたからじゃないか……!
明らかに『魔法使いの夜1』と『魔法使いの夜 After story』の間にあった『魔法使いの夜2』を前提に話が進んでいます。クソっ! オレがPS6が手に入らなくて『魔法使いの夜2』をプレイできていないせいで! …………冗談ですからね。
そしてこれまた面白いのが、番外編はあの「久万梨金鹿」が主人公となっています。実は3年間、鳶丸殿下に恋慕を抱き続けていた我らがメインヒロイン久万梨金鹿。そんな金鹿は今、人生最大の岐路に立たされていた。6年かけて準備し続けていた大学に進むか、それとも、その……好きな………あの人の……
あぁ、どうかこの曖昧な日常が、終わらなければいいのに………そんな甘い<スイーツな>夢を少女が抱いた時、童話は願いに応える━━━━
といった感じで、「ときめきクマリアル ~久万梨金鹿のドキドキ♡学園生活~」から「久遠寺邸殺人事件」へ移り、最終的には「絶対に笑ってはいけない久遠寺邸24時」へとコロコロ話が入れ替わっていきます。自分で書いててもかなり意味不明なんですが、事実を列記してるだけで未プレイの人にはネタバレ予防になるんだからすごいです。
『魔法使いの夜』本編では排されていた「選択肢によるルート分岐」が登場したり、とにかくまほよ本編を遊んでいる人ほど面白い。ちなみに私は3回バッドエンドを踏みました。
そして私が何よりも好きなのは、「(久万梨金鹿の視点から)この曖昧な日常が終わらなければいいのに」という願いが描かれていることです。
最初に「なんとなく雰囲気が良い」と書いた、「なんとなく」の正体。それはこの「曖昧な日常」にこそあるのだと思います。神秘と現実が交差する三咲町、自然の衰退と文明の進歩が重なる1980年代後半、子供から大人になっていくジュブナイル、どうしたってこんな片思いを諦めきれない、中途半端な気持ち。
……『魔法使いの夜』はこれらのあやふやな部分が、とても心地いい作品なのだと思いました。
私だって終わりたくない。終わって欲しくない。いつかゲームには、エンディングがやってくる。その度に、「終わらなければいいのに」と思う時がある。『魔法使いの夜』は、まさしくその「いつまでもこの楽しい日常が続けばいいのに」と強く願ってしまう作品でした。そしてこの作品が最後の最後に、「エンディングの先の日常」を描いてくれたのが、大好きです。
なんでこのゲームは終わってしまうのか。
どうして自分は終わりを目前に、ボタンを押して時計の針を進めてしまったのか。
この日常への片思いを、一体どこにしまっておけばいいのか。
まぁでも、一旦終わってしまったものを「終わった」と受け入れることも大事です。このゲーム、第2部と第3部が存在しているらしいので。えぇ~? ホントにぃ~??
彼らの日常は続く。そして私の日常も続く。一度ページがなくなってしまったのなら……次はもっと素晴らしいもの<続き>を手に入れないといけない。後悔を、いつか、後悔と思わないために。
そして何気に、私が『魔法使いの夜』をクリアしたのは1月4日でした。
ちょうどピッタリ……とは言えないけど、滑り込みお正月シーズン。あのエンディングを新年と共に迎えることができたのは、何よりも素晴らしい体験だった。何よりも価値のある終幕だった。物語が終わってしまう寂しさを上書きしてくれるような、晴れやかな気持ちになれた。いずれあっさり終わってしまう時が来るのかもしれないけど、それまでは古い友人のように、この物語の続きを待つとしましょう。
最後に一枚、このページを閉じてしまう前に……付箋を貼っておきましょう。
新しい年を、君たちと迎えられて良かった。またいつか、会おうね!