優れたアクションゲームには、優れたアニメーションが宿る。プレイヤーが分身であるキャラクターにゲーム内で感情移入できるのも、丹精に作られたアニメーションがあってこそ。そしてそれはメジャータイトルでも、そしてインディーゲームにおいても変わらない。
さて、今回紹介するインディーゲームは『Curse of the Sea Rats』というメトロイドヴァニアである。これまで様々なインディーゲームを紹介してきた筆者だが、実のところメトロイドヴァニアと呼ばれるジャンルについてはそこまで造詣が深いわけではない。
しかしながら、本作は優れた手描きアニメーションとバラエティ豊かなアクションによって、この手のジャンルの初心者である私にとっても非常に遊びやすく楽しい作品に仕上がっている。この記事ではその全体像をお見せしよう。
文/植田亮平
※この記事は『Curse of the Sea Rats』の魅力をもっと知ってもらいたいPhoenixxさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
手描き2Dアニメが彩る数々のアクション
本作はアクションRPGの要素を多分に含んだメトロイドヴァニアである。ゲームの舞台は18世紀のアイルランド海岸。悪名高き海賊の魔女「フローラ」によってネズミの姿に変えられてしまった4人の主人公が、フローラの呪いを解くため、そして凶悪な力をもったフローラを捕えるため、多くの試練が待つ壮大な冒険へ挑む。
主人公が4人と書いたが、本作は実際に4人のキャラクターから好きなキャラクターを自由に選択できる。
それぞれ見た目や性能、バックストーリーの異なるキャラクターから1体を選び、プレイヤーは冒険に出発することになる。ちなみにキャラクターはプレイ中変更可能なので割と気軽に選んでもかまわない。マルチプレイでは最大4人で一緒に遊ぶこともできるため、個性豊かなキャラクターによる賑やかなアクションが楽しめるだろう。
アクション内容は各キャラクターごとで大幅に異なる。剣で攻撃するキャラクターもいれば拳一つで道を切り開くキャラクターもおり、さらには遠距離からクナイを投げて攻撃するキャラクターもいるなど、非常にバラエティに富んでいる。そんなキャラクターたちの魅力が最大限に現れるのが、記事冒頭でも触れた「手描きの2Dアニメーション」である。
本作は操作キャラクターから敵キャラクター、ボスキャラクターに至るまでほぼ全てのキャラクターが美麗な2Dアニメーションで動く。
ひとつひとつのコマが手描きで表現されたキャラクター達のアニメーションは、振り向き動作といった小さな動きから攻撃のモーションといった派手なものまで、全てが3Dでは出せない質感を備えている。
3Dで制作された背景との親和性も見事だ。3Dによって色彩豊かに描かれた背景と、手描きゆえに生まれる固有の表現を持ったキャラクターとのコントラストは、本作を優れた2.5Dゲームたらしめている部分であろう。キャラクターに描かれる影が背景の光源を意図的に無視するといった表現は2.5Dにおいてよく見られる表現だが、本作もそうした魅力がよく目立っている印象を受けた。
一つ具体的な例を出して、手描き2Dアニメーションが持つ魅力を説明しよう。例えば以下のプレイ画面を見てほしい。
これは本作のボス戦をプレイしている様子だが、ここで敵のボスのアニメーションを細かく区切ってみていこう。このボスの一連の動作は以下のような動きで構成されている。
こうした表現技法は、多くの場合アニメ制作の手法から逆輸入する形で取り入れられていることが多い。もちろんそこにかかる作業量は尋常ではないだろう。なにせ3Dアニメーションがコンピューターのフレーム補完にまかせる部分を、すべて手作業でやっているのだから。
しかしこうしたアニメーション技法が、結果としてゲームの素晴らしいアートスタイルを際立たせることに成功している。その点で、本作は2Dアニメーション(特に手描きによる)の魅力がこれでもかと詰まっている。
メトロイドヴァニア初心者をクリアへ導く多くの要素
続いては本作のゲーム部分について紹介しよう。本作が「メトロイドヴァニア」としてどの程度の完成度を持っているのかについては、おそらく私よりもメトロイドヴァニアファンの方がより詳しく語れると思われるので、ここではメトロイドヴァニア初心者である私が独自に感じた良い点をいくつか挙げてみようと思う。
RPGシステムのありがたみ
メトロイドヴァニアの大きな特徴として探索を進めていくごとにプレイヤーの取れるアクションが増えていくという点があるが、本作はそれ以外にもレベルの概念があり、敵を倒して経験値を集めれば自動的にレベルが上がっていく。レベルが上がるとステータス全般が伸びるので、これによって少なくともアクションが難しすぎて詰むということが起きなかった。
もっとも、昨今のインディーメトロイドヴァニアの多くがこのRPGシステムを採用しているので、本作の特徴的な部分というわけではないが、それでもこのジャンルの初心者にとってこれがどれほど心強いものであるのか身にしみてわかった。特にアクションもそろっていない序盤においては、この「クリア保証」がとりわけありがたかった。
スキルツリーによるカスタマイズ
先ほどのレベルアップ要素以外にも、本作には各キャラクターを強化できるスキルツリーがある。これは敵を倒した時に得られるリソースを消費して解放していくもので、キャラクターのパラメーターを強化するものから新しい必殺技を獲得するものまで幅広いものがある。スキルツリーと言っても作りは非常に簡素なものとなっているが、このスキルツリーによってプレイヤーがキャラクターの成長にある程度の方向づけを行えるのは大きいと感じた。
例えばキャラクター固有の必殺技を伸ばすスキルの取り方をすれば、強力な必殺技によって敵を遠距離から倒していくというプレイが容易になるし、一方で基礎ステータスを伸ばす取り方をすれば、かなり高い敵の火力を耐えながら接近戦を繰り広げることができる。スキルの中にはいわゆるパッシブスキル的なものもあり、与えたダメージの30%分を回復するといった物まで存在する。一部のスキルは若干オーバーパワーぎみではあるが、しかしバランスを壊す程度のものではないため、このあたりのレベルデザインはしっかりと調整されているのではないかと思う。
ほど良いテンポ感
これは本作がインディーゲームであることにも起因しているのかもしれないが、とにかく全体的なテンポ感がよく感じられた。セーブポイントからセーブポイントへの距離、フィールドに点在するボスエリアの配置等はどれもそれほど距離が開いておらず、大ボリュームの本格メトロイドヴァニア作品というよりも、次々とエリアボスを撃破していくベルトスクロールアクションに近いプレイフィールであった。
探索が長大になればなるほど、道に迷ったり強敵に狩られるリスクも増える。もちろんそれこそが醍醐味だというファンもいるだろうが、少なくともメトロイドヴァニア初級者の自分にとっては、本作のテンポは非常にマッチしていたし、おそらくこのジャンルに触れたことの無い人にとってもベストなものに仕上がっているのではないかと思う。
多くのボスたちと小ネタ要素
最後にもう一つ、本作のボス戦と小ネタ要素について紹介しよう。
本作には非常に多種多様なボスが登場する。全体的なボリュームに対してのボス戦の比率も高く、エリアの節々にとにかくボス戦が待ち構えている。全部で何体のボスがいるかはネタバレになるので言えないが、少なくともプレイ前に私が想像していた2倍ほどのボスがいた。
さらに各ボスキャラクターも手描きであり、先ほど紹介した美しいアニメーションが各ボスに一切の手抜きなく用意されている。これら大量の魅力的なキャラクターの動きを見るだけでも、十分に価値あるゲームだと言えよう。
また、ボスたちの攻撃方法もそれぞれ独自の魅力を持っており、プラットフォームアクションが求められるものから、敵の攻撃を搔い潜ることに特化したものまで様々で、いわゆるコンパチキャラなどもいない。ボスによっては倒すことによって新たなアクションが獲得出来るものもおり、そのボスの攻撃方法が後に獲得できるアクションを連想させるものになっているなど、ゲームデザイン上の面白い仕掛けも用意されている。「ボス戦」という点においては、本作は他のインディーメトロイドヴァニア作品と比較してもかなり高いレベルでまとまっているのではないかと思う。
そして、本作はインディーゲームらしい一面、すなわち、素晴らしい小ネタの数々も持ち合わせている。それはフィールド背景に映る屍であったり、ゲーム内のコレクションアイテムの説明欄であったりとさまざまな場面で確認できる。いくつか具体的なものを紹介しよう。
まずは「宝物」と呼ばれるコレクションアイテムだ。これは実際のゲームプレイには何の影響もないやりこみ要素の一つに過ぎないのだが、各アイテムにユーモアの効いた説明文が用意されているのが面白く、思わず集めたくなってしまう。この麦わら帽子の説明文を確認すると「海賊王になりたかったイカれた男がかぶっていたもの。」と書かれている。いったいどこのゴム人間のことだろうか……。
次にフィールドの背景に用意された小ネタだ。とある神殿の背景にあるなぞの屍。この衣装と盾は、明らかに「彼」である。こういった小ネタが用意されているのはゲーマーとしても嬉しい。
カジュアルに遊べるメトロイドヴァニア入門作
「カジュアルに遊べるメトロイドヴァニア入門作」。『Curse of the Sea Rats』を総評するなら以上のような文言がうってつけではないかと思う。
本作のメインストーリーはシリアスなものとなっているが、全体的な雰囲気としてはひじょうにほんわかとした明るいゲームだ。本作の悪役である「フローラ」も、悪役としての残虐性を秘めていながら、その子分たちとのやりとりはどこか間抜けでコミカルなものになっている。その他キャラクターたちの掛け合いもそういったノリで進行していくため、全体的なキャラクターデザイン等も鑑みれば、どの年代でも楽しく遊べるようなデザインがゲーム全体でなされていると見るべきだろう。
また、ゲームの難易度も比較的優しく、複雑な操作やゲージ管理なども求められない、シンプルイズベストなアクションゲームとなっているのも魅力だ。こういった点から見るに、家族みんなで遊んだり、友達とカジュアルに攻略していくメトロイドヴァニア作品として本作はうってつけだ。思えば、4人マルチができるメトロイドヴァニア作品というのもそれほど多くはないんじゃないだろうか。
いずれにせよ、「このジャンルに興味はあるけどいきなりビッグタイトルはやりたくない」というゲーマーにおすすめするなら、本作が100点の期待に応えてくれるだろう。