「ソウルライク」と聞けば今ではもはや知らない人は殆どいないであろう有名ジャンルである。メジャーからインディーまでその幅はひたすらに広く、ソウルライクという名前だけで括ってしまえば、そこは神ゲー、クソゲー、スルメゲーが混在するレッドオーシャンの様相を呈している。
そのシステムはアーケード時代のアクションゲームのようにいつまでもクリアできないわけでなく、かといって古いRPGのような単調なプレイも強要しない。難しさと成長のバランスが上手くかみ合ったシステムは、アクションRPGとしての完成形と言ってもよいだろう。
そんな「ソウルライク」だが、私はこのジャンルを遊ぶ機会に恵まれているように感じる。かつて電ファミニコゲーマーでは『ELDEN RING』のレビューを書き、ブラジルで生まれた新進気鋭のソウルライク『Dolmen』を遊ばせていただき、そして今回もまた、ソウルライクについて記事を書かせてもらう機会を頂いたのだから。
今回プレイしたのは『Lies of P』という韓国生まれのソウルライクだ。3人称視点の3DアクションRPGなので、分類的には「本流」のソウルライクということになるだろうか。
画面構成や世界観含め多分にフロム作品からの影響を受けている作品であることは間違いないが、その内容はいかほどか。これまでフロム作品を比較してきた筆者が、序盤3時間ほどのプレイを体験できるデモ版で遊んだ感想をお届けしよう。
童話「ピノキオ」を再解釈、世界観はダークなスチームパンクに!
『Lies of P』のストーリー、世界観は童話『ピノッキオの冒険』が基となっている。ピノキオと言えば多くの人々がディズニー作品をイメージするかと思われるが、原作はイタリアの作家、カルロ・コッローディによる児童文学作品である。
名作童話をダークにリバイバル、という試みは今に始まったことではなく、最近ではA・A・ミルンの児童小説『クマのプーさん』の著作権保護期間が終了したことで同作を基にしたホラー映画が制作されたし、「ピノキオ」に関しても、原作を生んだ本国イタリアでは2021年に『ほんとうのピノッキオ』というダークファンタジー映画が公開されている。
もちろん、本作もそうした流れの延長にあるといってよいだろうが、重要なのは本作において「ピノキオ」の物語がどのような世界観に昇華されているかということである。私の感想を述べると、本作の世界観は「非常に万人向け」だと感じた。
本作の舞台となるのは「クラット」と呼ばれる巨大な工業都市だ。自動人形産業によって発展し、一時は華やかな時代を迎えた都市だったが、その人形が人間に反乱を起こして以来、街で蔓延した疫病も相まって都市の文明はほとんど壊滅状態に陥ってしまった。
そんな「クラット」を救い人形たちの暴走を止めるべく、ピノッキオこと「P」とゼペットじいさんは奮闘してゆく、というのが本作のあらすじである。
ソウルライクの特徴として「ダークな世界観」が挙げられるが、本作でもなるべくそういった趣向を取り入れようという気概が見て取れる。街のタイルにはところどころ血が飛び散っているし、道端には動物の死骸が転がっている。街灯などの照明も暗く、一見すると全体的にホラーチックなビジュアルとなっている。
開発者曰く本作の都市は「ベル・エポック」の時代を参考にしているらしいが、最も近いところで言うと『BloodBorne』がこの系統だ。街並みに移る建物やキャラクターの衣装、空の色合いも似ているだろう。
では、どこで『BloodBorne』と差別化されているかというと、これは敵のデザインやナラティブ部分、武器のデザインがそうだ。『BloodBorne』の世界観の暗さはクトゥルフ神話をモチーフにしたコズミックホラーの要素で構成されていたのに対して、『Lies of P』では機械文明やダークファンタジーを基にした「ダークスチームパンク」とも呼べる世界観になっている。
もちろんナラティブ部分もこの影響を受けており、ホラーで孤独な雰囲気でありながら、敵キャラクターの設定や道中で拾う手紙などに書かれたフレーバーテキスト、主人公であるピノキオの動機など割とカッチリ決められている。プレイヤーに考察や解釈を求めるフロム作品とは大きく異なる点と言えるだろう。
本作の難易度は?
ここからはゲーム部分について触れていこう。まず、本作の難易度の総評としては「普通にムズイ」。ひとつ断っておくと、こうしてソウルライクを毎回遊んでいる私であるが、特段人よりゲームが上手いわけではない。むしろ人より下手な部類なので、その点はご容赦いただきたい。
敵の強さは雑魚敵、ボス含めおおむね良い印象を受けた。もちろんメチャクチャに強い攻撃をしてくるわけだが、攻略できないわけでもない。初心者でも倒せるし、経験者もうなる、そんな塩梅であった。
複数の敵を捌くシチュエーションはデモ版の範囲ではあまりなく、多分だが本作は1体1を上手くこなしていくタイプのゲームと見受けられる。複数の敵をうまく捌いていく『Dolmen』とはこの点において異なるだろう。
敵の強さ以外で難しかった部分が、「戦う場所の選定」だ。本作のマップはかなりの立体構造になっており、デモ版で遊んだパートだけでも、屋内から市街地、建物の屋上など、上から下まで往ったり来たりの道中であった。さらに武器はマップのオブジェクトや壁に当たると引っかかってしまう仕様になっており、長いリーチの武器では満足に振ることもままならない。もちろん高所から落ちれば落下死もしてしまう。そんな具合であるから、戦う場所の選定にはかなり苦労した。
屋上から屋上にかかる細い一本橋の上で、遠距離攻撃の敵のフォローを受けながら槍を持った敵がこちらへ近づいてくる状況はさすがに辟易としたが、こういったスリルが好物のプレイヤーなら間違いなく面白いと感じれる戦闘になっていた(そして実際、これは慣れるとかなり面白かった)。
戦闘システムは王道に、武器システムはオリジナリティ溢れるものに
戦闘面での操作に関しては、ソウルライク経験者であれば一発で理解できるものになっている。ローリング、強攻撃、パリイ(厳密にはパリイではなくジャストガード)、バックスタブなど、フロム系に共通するものが多い。
その中でも回避の挙動や、殴った分だけガードの白ゲージを回復できるゲイン要素などは『BloodBorne』のシステムをかなり踏襲しており、攻め有利なシステムとも言えるだろう。
戦闘面で差別化されているのは主に武器関連である。『Lies of P』の武器システムで特に光っているのは「柄の付け替え」と「リージョンアーム」の二つだ。
まずは「柄の付け替え」から話そう。本作の武器は攻撃のダメージ源となる刀身部分と、武器を振ったときの挙動や特殊スキルを付与できる柄の部分の2つが合わさることによって一つの武器になる。これらは自由に組み替えることが可能であり、リーチや挙動、スキルをプレイヤーの好みにカスタマイズできる仕様になっている。
このシステムはかなり上手いことできているなと感じた部分だ。なにせこれによって、武器の種類がめちゃくちゃ多くなるのだから。例えば今回のデモ版で入手できた武器は全部で5種類なのだが、刀身と柄の組み合わせで見ればその種類は15種類、これだけで非常にプレイの幅が広がっていることが分かるだろうか。
用意されている武器だけでなく、プレイヤーが自ら武器を作っていく感覚は私の見てきたソウルライク中では唯一無二であり、武器を付け替え試行錯誤している瞬間は非常に面白いものであった。本作の素晴らしい個性と言える。
もう一つの「リージョンアーム」もオリジナリティがあって良い。ピノキオの左腕は機械の義手になっており、この義手の種類を変えることによって特殊なアビリティを使うことができる。体験版で装備できるのは「高火力で殴れる義手」と「ワイヤーを射出して敵を引き寄せる義手」の2つだったが、製品版ではおそらくバラエティ豊かな義手が用意されているだろうと思うので、これによってさらに戦術の幅が広がりそうだ。
この2つの要素だけで本作は既に「ただの模倣」ではない独自のゲームになっている。実際に遊んでみてそれを強く感じたのは、プレイヤーの選ぶ「出自」がないという点だ。
本作の多様性は魔力特化、脳筋特化といったステータス振りではなく、「独自の武器ビルド」と「リージョンアーム」の組み合わせによって担保されているように見える。
そもそも本作の主人公はPでありプレイヤー自身ではないのだから、わざわざ出自を選ぶ余地すらないのだ。つまりこのシステムが採用されているのは、本作のストーリーからしてゲーム上の必然だったというわけである。そういった点を鑑みればなおのこと、このゲームデザインは優れていると言えるだろう。
「嘘をつくことが人間らしさ」って、なんか深いじゃん?
ここからは個人的に最も注目しているポイントを話そう。本作のサイドクエストと「嘘をつく」シナリオ分岐である。
本作のストーリーは随所に答えを選択する場面が用意されている。メインチャートの最中やサイドクエスト等で、プレイヤーはPに「正直に答えさせる」か「嘘をつかせる」かを選ばなければならない。本当のことを言った場合でも嘘をついた場合でも、何かしらの内部ステータスがカウントされていることが確認できたので、これによって物語の分岐や結末が変わってきそうだ。
また、選択肢に答える以外にも、拠点となるエリアで音楽を聴いたり等、人間らしい行動をとればステータスがたまるので、プレイヤーの行動が直に物語に影響を与えている、そんな心持ちでプレイするのが望ましいだろう。
こういった要素がある場合、あえて残酷な方向に舵を切ってシナリオを楽しむプレイヤーもいるだろうが、本作のシナリオはそういったプレイヤーが泣いて喜びそうなものになっているなあと思った。これは私の予想だが、本作のシナリオは結構深いテーマが用意されていそうだ。
「人間」になることを目指す「人形」のP、道中に仕掛けられたフラグや選択肢、既にある物語をダークに再解釈している故、こういった要素がどのようにプレイヤーを裏切るのかにも期待したい。実際に人間になれるのかはプレイヤー次第。もちろんどれほど嘘をついたからと言って、人間になれる保証などないのかもしれないが……。
次に遊ぶソウルライクとしては間違いない作品
今、次に遊ぶソウルライク作品を探しているのならば、間違いなく『Lies of P』をウィッシュリストに入れておくのが良いだろう。
グラフィック、戦闘システム、シナリオ、世界観、武器の種類……。どれをとっても本作はAAAの期待値を持っており、死にゲーに飢えるジャンキー達にとっては間違いない作品になっているように感じた。これほどまでの完成度を誇るソウルライクはそう何作もない。『ELDEN RING』・『Dolmen』を終えたプレイヤーが次に遊ぶべきは間違いなくこれになるだろう。
今回遊べたのはゲーム序盤の体験できるデモ版であった。それだけでもかなりの満足感を得たので、あとはゲーム全体のボリュームにも期待したい。何はともあれ、これを読んでいるゲーマーたちに良き死にゲーライフがあらんことを。
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