マップを移動しつつ、行く手を阻む謎を解いたり、アイテムを使ったり、時には人に話しかけるなりしてストーリーを進めていく。見た目はRPGだが戦闘要素はなく、探索と謎解きにフォーカスしたゲームデザインを特色とする探索型アドベンチャーゲーム(およびホラーアドベンチャーゲーム)は、2023年現在もなお、フリーゲーム界隈で継続的に新作が発表されているジャンルだ。
その多くが株式会社KADOKAWAより発売されているRPG制作ソフト『RPGツクール』シリーズを用い、作られているのもひとつの傾向である。
そんな探索型アドベンチャーゲームには、ビジュアルや演出面で独自のセンスを発揮した作品や、ツールの限界を突破した作品が存在し、一部は高い人気を獲得して商業ゲームへと躍進したり、メディアミックス展開が組まれるケースも少なくない。とりわけ著名な例としては、2023年現在はPLAYISMよりコンソール版が展開されている『ib(イヴ)』が挙げられるだろう。
そして、メディアミックス展開も実施された例としては『クロエのレクイエム』が挙げられる。ゲームサークル「ブリキの時計」によって2013年に公開された同作は、天才バイオリストの少年「ミシェル」が黒髪の少女「クロエ」と共に、呪われた音楽家の館を探索していくホラーアドベンチャーゲームだ。ホラーを名乗りながらも可愛らしく魅力的なキャラクター、多彩な謎解きを売りとし、好評を博した。
2023年6月20日からは、Steamでグラフィック全般の一新を始めとする大幅なアレンジが図られたリメイク版『クロエのレクイエム -encore-』が発売中である。
そんな『クロエのレクエイム』を手掛けたゲームサークル「ブリキ時計」の新作が『少年期の終り』だ。2023年秋にSteamで発売予定で、2ヶ月に1話の連載形式による展開が予定されている。(※このため、販売形態も早期アクセス版になる。話数は全5話を予定。)
その『少年期の終り』が東京ゲームショウ2023のPLAYISMブースにて、プレイアブル出展された。
2023年秋に遊べるようになる1話をわずかながら体験できたので、そのレポートをお届けする。
取材・文/シェループ
人間の価値が機械によって決定されるディストピアが舞台の探索型ADV
作中の舞台となるのは、機械仕掛けのオーバーロード「R・カレルレン」により、人間の未来を評価・決定されるようになった未来。その評価は「人間スコア」なる数値で現され、進路に初恋の相手、日々の食事までもが選ばれるようになっていた。
主人公の「ジョバンニ」は、指名手配中の父親を持つ境遇から、最も低い人間スコアが設定された少年。そのため、システムの管理下にある機械(ロボット)に限らず、人間からも日々、酷い扱いを受けていた。
ただ、彼は人間がプログラミングをしなくなった現代で、自らコードを書くという古い技術を身に着けており、それを駆使してダークウェブの「裏バイト」を日々こなしていた。すべては入院中にある肉親の医療費を稼ぐためである。
だがある日、病院からそれまでとは比較にならないほどの高額の送金を要求される。それに合わせるかのようにダークウェブ側にも異様に高い報酬額の仕事が舞い込む。迷った末、ジョバンニはそれを引き受け、完了させるのだが、それと共に自らが通っている学校の”すべて”が彼を襲うようになる……というのが、今回のデモで確認・体験できたストーリーの一端となる。
ゲームの内容は探索型のアドベンチャーゲームということで、マップを歩き回って気になる所を調べたり、会話を展開しながらストーリーを進めていく。ただ、今回体験した範囲内だと、イベントの多くはジョバンニのパソコン内で進行。裏バイトのハッキング、報酬の送金といった重要なイベントの多くがこちらで繰り広げられるようになっていた。
本作は最新の『RPGツクールMZ』で作られているようで(※マップ上の会話ウィンドウがそれを物語っていた)、パソコンの画面自体はメニューに該当する。ただ、その全体像は実際のパソコンのデスクトップを忠実かつ疑似的に再現したものになっており、メニューの面影も原形もほとんどなし。
各種項目(デスクトップ上のアイコン)もマウスでクリックして選ぶスタイルで、非常に手の込んだものに仕上げられていた。それぞれのアイコンを選んで展開した際にも、ちゃんとその中身が表示されるに限らず、固有の情報が膨大なテキストでギッシリと書き込まれている。とりわけ「学内SNS」の情報量は圧巻で、ちゃんとSNSらしくデザインされている。正直、このすべての情報を読んで確かめるだけでも、試遊時間をすべて使い切ってしまうのでは……と思うほど圧倒的なボリュームで、ストーリーと世界観づくりへの並々ならぬこだわりを感じさせる仕上がりだ。
そのストーリーも管理AIに人間の生活や将来が決定されるというディストピア感もさることながら、先行きが気になる展開が目白押し。特に謎のハッキングを経てからの展開は、今後の予測不能さを物語ると同時に、ゲーム(探索周り)部分でも大きな変化が起きる予感をさせるものになっている。
迫力溢れる2Dピクセルアートと、容赦ない描写の数々
また、一連のストーリーの表現において際立って光るのがグラフィックだ。すべて2Dピクセルアート(ドット絵)で描かれているのだが、これが驚くほどよく動く。
とりわけ凄いのはゲームスタート間もなく始まるジョバンニと、ある経緯から彼に同行する高い人間スコアを持つ青年「カムパネルラ」の掛け合いである。もはやアニメそのもの、と言っても大げさではない躍動的な動きには度肝を抜かれるかもしれない。オープニング以外にも、マップ上でのキャラクターたちの細かな動き、パソコン上にジョバンニの顔が映し出されるなど、グラフィック周りの見所は満載だ。
今回、体験できたのは多くがストーリー進行に絡むイベントだったが、一部、逃走系イベントもあり、そこでは一瞬のミスが命取りのスリリングな展開が楽しめた。なお、ここでミスすれば”処分”確定である。その時にはジョバンニが大変なことになるのだが、こればかりは人によっては結構、精神的に応える恐れがあるので覚悟が必要かもしれない。
ジョバンニが同級生から苛めを受ける場面があることも然り。リアルに限らず、ネット側……パソコンの「学内SNS」でも陰湿なやり取りが展開される一幕があるので、苦手な人は要注意である。ただ、逆に言えば人間のスコアで扱いが変わるディストピアの現状を体現した描写になっていると同時に、ストーリーで人間の汚い面にも向き合う姿勢が現れている。
連載形式で紡がれるストーリー。この2人の少年期の”終わり”とは
現時点で公開されている一部スクリーンショットによれば、この体験できた範囲以降には新たなキャラクターの登場のほか、一部、バケモノと対峙するイベントも設けられていることが示唆されている。それと共に探索周りにもどんな変化が生まれるのか、そしてストーリー的にもどんな展開を迎えるのか。探索型のアドベンチャーゲームを好むプレイヤーに限らず、SF、ジュブナイル好きにも注目の新作と言えるだろう。
繰り返しになるが、本作は連載形式で展開されるので、全話を通して遊べるようになるのはそれなりに先になる。だが、この世界観と雰囲気に強烈に惹かれる何かを感じたのなら、秋発売予定の早期アクセス版で彼らの旅路を共に追いかけてみてはいかがだろうか。