1990年代のシミュレーションRPGに大きなリスペクトを捧げる新作シミュレーションRPG『ユニコーンオーバーロード』。本作について語る前になにより伝えたいのは、予想を超える「狂気的なボリューム感」の作品であるということだ。
『十三機兵防衛圏』も手がけたアトラスとヴァニラウェアのタッグで送られる本作は、ユーザーの期待値がかなり上がっていることと思うが、その期待にばっちり応える強度を持っている。
本作の物語は、誰もが童心に返るようなときめきに満ちている。王位継承者であり主人公、解放軍を率いる若きカリスマのアレイン、彼の従者であり共に剣の腕を磨くレックスなど、スタイリッシュでリッチな現行機ならではの表現で描かれる「古き良き」を感じられるど真ん中のストーリーは、多くのゲームがリリースされる中でもひとつの個性として輝いている。
壮大な物語にカスタマイズ性の高い戦闘、サブクエストや収集要素といったボリューム・自由度・密度の三拍子が揃うことで、隅から隅までうまみが詰まっているのだ。
今回電ファミは、とあるストーリーの区切りまでをひと足お先にプレイさせていただく機会を得た。試遊では触りきれないほどのサブクエストや収集要素が道中に落ちており、最後の方はそれらを横目にフラグが立つ地点まで爆走しなければ間に合わないほどであった。
本稿では、5時間ぶっ続けで遊び、大いに楽しんだプレイから見えた「本作の狂気的なまでのボリューム感」をレポートしたいと思う。
文/anymo
広大なフィールドに散りばめられた要素の数々
今回の試遊では、先述の通りストーリー序盤のとある区切りまでをプレイしている。難易度は「CASUAL」、「TACTICAL」、「EXPERT」の3つから選ぶことができ、筆者はシミュレーションRPG初心者ということもあり、一番下の「CASUAL」でプレイした。
広大なフィールドに用意された要素は以下のとおり。
・クエスト
・町の解放と復興
・採取と守備兵配置
・砦と名声/勲章
・遭遇戦/採掘場
物語を進めるためのメインクエストにくわえて、盗賊団に襲われた町を助けたり、力試しに応じたりといったサブクエスト、町を解放するためのリベレートクエストなど、出会した出来事がクエストとして記録されていき、好きなものから進めていくことができる。
「ガレリウス」によって支配された大陸では、困っている人が至るところに存在している。マップに点在するそれらの町へ赴き、帝国軍に勝利して町や砦を解放することで多くの要素が解放される。仲間のひとりを守備兵として配置することができたり、武器屋や防具屋、宿屋が使用可能になるほか、採取したアイテムを納品することで町が復興し、新たな施設が追加されるのだ。
また、最初からラスボスにだって挑める自由度の高さも大きな特徴だ。これは極端な例だが、普通にプレイしていても納品クエストや採取などの要素が広大なマップの中に大量に用意されているので、それらをどれくらい埋めていくかは個人によってかなり違うだろう。誰もが「自分だけのルート」で物語を進めることができるのだ。
今回の試遊では、5時間遊んでもこれらの魅力的な要素のすべてに触れることはできなかった。体感としては、「めっちゃデカい海の浅瀬でちょっとちゃぷちゃぷしたくらい」である。収集要素や納品クエストなどはほぼ全スルーし、後半は時間内に物語を進めるためにサブクエストもスルーせざるを得なかった。それほどまでに、本作の寄り道要素というのは充実している。なんの制約もなくプレイすれば夢中で時間を溶かしてしまうことが容易に想像できた。
初心者からマニアまで全員が楽しめる懐の深いシミュレーション
本作の戦闘はカスタム性の高い要素が絡み合う複雑な側面を持つが、適度に頭を捻って戦略がハマったときの達成感を味わえるものでもあり、初心者からマニアまで全員が楽しめる懐の深いものだ。まずは、戦闘の大まかな流れから見ていこう。
「ステージ」が開始すると、プレイヤーはまず拠点から小隊を選択して出撃させる。出撃した小隊を選択し、ルートを決めて敵のところまで移動。そうしてエンカウントした敵と戦闘する、というのが基本の流れだ。戦闘は各キャラのスキルが発動する自動戦闘となっており、操作面でのスキルは関係なく戦略のみに集中できる。
「ステージ」はマス目ではなく、マップ上の道に沿ってルートを決める。敵も自軍もリアルタイムに移動する盤面となっているので、筆者のようなシミュレーションRPG初心者でも戦況が直感的に理解しやすい。
敵を倒すことで手に入る「ブレイブ」も重要な要素だ。小隊の出撃とキャラクターごとのスキルの発動にはこれらが必要となっており、温存するもガンガン使うもプレイヤーに委ねられる。
また、小隊ごとの戦闘可能回数には制限がある。アイコン右上の数字が戦闘可能回数となっているので、これが0になる前にステージ中に点在する拠点に「駐留」するか、その場で一定時間待つ「休息」で回復させる必要があるのだ。
シミュレーションRPGに馴染みがないと多くの要素に面食らってしまうかもしれないが、ひとつづつ解説が挟まるうえ、最初からすべてが解放されているわけではない。戦場に放り出されて無限の選択肢を前にオロオロすることもないため、初心者にも親切な作りになっている。ステージ中は複数の小隊を一気に指示するために慌ただしくなるものの、移動時間以外はタイムリミットが止まる仕様のため熟考した上で判断を下すことができる。
レベル上げはもちろん重要だが、単にレベルをあげて戦いに向かわせれば勝てるわけではない。スキルや駐留、アイテムを駆使しながらどの小隊を立ち向かわせるか、休ませるかといった戦略の部分こそが重要だ。
この頭をフル回転させながらプレイする感覚と、これらがハマって「王手」がかかったときの高揚でプレイ中は退屈することなく、5時間ぶっ続けでも集中力を保っていられた。嫌になって投げ出すことはないが、当然ヌルくもない絶妙なバランスだ。
カスタマイズ性の高い戦闘
出撃させる小隊はすべて、プレイヤー自身で編成することが可能だ。最大5名が編成可能で、立ち位置までも指定できる。クラスとその組み合わせによって得意な立ち回りが異なるため、配置も重要な要素のひとつだ。もちろん、キャラクターごとに武器や防具、アクセサリーなどの装備品も編集できる。
ここまでの要素のみでも十分なカスタム性を持っていると言えるが、それだけではない。キャラクタースキルの優先順位や発動条件を編集できるという、マニア向けの「作戦」機能も備わっている。例えば、回復スキルを「一番HPの低い味方に」という条件づけをして優先順位を最上位にすることで回復に振った動きをさせることができる。
試遊した限りでは、最低難易度の「CASUAL」ではこれらにノータッチでも敵に打ち勝つことができた。十分に本作に慣れ親しんでから挑戦しても問題ない。逆に、高難度でやり応えのあるプレイ感を求めるユーザーや、オンライン対戦でのプレイには必須の機能となりそうだ。
まさに「王道」。ロマンあふれる物語とそれを彩る現行機ならではの2Dグラフィック
最後に序盤のストーリーについても触れておこう。
舞台はコルニア王国。将軍であるヴァルモアが突如古代ゼノイラ王国の末裔であるとして、大陸全土を支配するに至った。主人公であるアレインはコルニア王国の王位継承者でありながらもその身を追われて、パレヴィア島へと逃げ延びる──というところから物語はスタートする。
コルニア王国が滅亡してから10年後、教会で祈りを捧げるスカーレットと、海辺で剣の腕前を切磋琢磨するアレインとその従者であるレックスのふたりが開幕早々爽やかで、本作がどのように王道を描いていくのかが提示されている印象的な場面だ。
本作の物語でなにより大きいのは、主人公・アレインの主人公っぷりだ。
プロローグでは、アレインの母であり女王・イレニアがヴァルモアに立ち向かうため別れを告げるシーンが描かれる。使えてきたイレニアが滅びの運命を引き受け、ヴァルモアの元に向かうという深い悲しみを抱えている騎士・ジョセフを見て、アレインは「僕のことはいい。お前も行って母上の力になってくれ」と提案する。まだ10歳にも満たない子どもなのに、母の運命とそれを受け入れなければならないジョセフの痛みを理解しているのだ。
アレインの聡くて強く気高い部分が描写されたこの場面から始まるからこそ、そのあとの反乱軍の発足、各地で仲間を集めていくというスピーディーな展開にすんなりとノることができる。各地で彼に共鳴した人々がともに反乱軍に加入していっしょに戦うことに説得力がある、ど真ん中の主人公に感情移入しながらプレイできる。
序盤でとあるキャラクターが「新しい王様になるんだろ?なら褒賞は望みのまま…だよな」と仲間になることを承諾する場面もアツい。単にアレインについていきたいという動機だけではなく、(照れ隠しにも思える)自身の損得勘定で仲間になることを選ぶ。「クゥ~これこれ~」と言いたくなるような、胸の熱くなる王道の場面だ。
2D的なグラフィックでありながらも超動くキャラクターグラフィックも大きな魅力だ。プロローグでイレニアが膝を折ってアレインに話しかけたところでは、まさか立ち絵から体勢が変わるとは思っておらず驚いた。
戦闘の場面では攻撃や被ダメージ、ストーリーでは表情や衣服の揺れなどがアニメーションで表現されていることで、3Dモデルにはない背景との一体感を見せている。鎧や剣を照らしている光の表現も美しく、2Dのアニメーションだからこそどこを切り取っても一枚絵のような迫力がある。
今回の試遊の中ですら、教会を守る天使やニヒルな密偵、秘術で姿を変えた魔女など、魅力的なキャラクターが続々と登場した。一部キャラクター同士は旧知の仲であったりと、それぞれに関係値も存在しており、メインの物語の傍らで描かれる彼ら彼女らの物語も気になるところだ。
ボリューム感たっぷりだからこそ、約束された達成感
本作のメインストーリーは、確実に20時間ほどでクリアすることはできない。さまざまな収集要素や町の復興などを含めるとかなりの数の寄り道要素やクリア後コンテンツが楽しめるうえ、オンライン対戦まで用意されている。
広大なマップを自由に探索して自分だけのルートで物語をクリアしたときの達成感は、このボリューム感ならではの大きなものになるだろう。
試遊で触れた魅力のなるべく多くに触れるように執筆したものの、記事に使うための画像を選定するためにプレイ映像を観ながら、一プレイヤーとして感じたのは「早く遊びたい!」というシンプルな気持ちだ。発売日である2024年3月8日(金)まで、焦れったくも楽しみな日々を過ごそうと思う。