さまざまな分野の専門家と共にゲームの世界を「さんぽ」して、世界の見え方の違いを学ぶゲーム実況企画“ゲームさんぽ”。
ゲーム実況者のなむさんによって発案された同企画では、気象予報士とゲーム内の天候を観察したり、精神科医とゲームキャラクターの心を分析したり、ゲーム内の環境を活用し「人によって見え方の違う世界」が共有されてきた。
ニコニコ動画では5月より「ゲームさんぽ」元担当編集者いいださんらによるニコニコチャンネル「ゲームさんぽ/よそ見」が始動。さまざまなタイトルと専門家を組み合わせたゲームさんぽが投稿されている。
https://www.nicovideo.jp/watch/so43021251
さて、今回紹介するのはゲーム実況企画“ゲームさんぽ”を投稿するニコニコチャンネル「ゲームさんぽ/よそ見」にて公開された『【オタク大歓喜】スーパーマリオ64な世界で読む任天堂の配信ガイドライン&Cyberpunk2077の同意書 -2本立-/ゲームさんぽ』という動画。
本動画では案内人としていいださんとカズマサさん、専門家としてシティライツ法律事務所より水野祐さん、前野孝太朗さんが出演。
『Minecraft』で作られた裁判所でのさんぽや、法律の専門家の視点からビデオゲームの利用規約を掘り下げる同チャンネルとしては珍しいゲームさんぽの様子が収められている。
本稿では『【オタク大歓喜】スーパーマリオ64な世界で読む任天堂の配信ガイドライン&Cyberpunk2077の同意書 -2本立-/ゲームさんぽ』より、『Cyberpunk2077』の世界をモチーフとした裁判所をさんぽしながら、同作の同意書に迫る一場面をピックアップし、ご紹介する。
文/富士脇 水面
いいだ:
今回は『Cyberpunk2077』をイメージした裁判所を立ててくれって「さんぽシティ」のメンバーにオーダーをしたけど、その法廷は?
カズマサ:
法廷はメインの通りをくぐり抜けた先にゲートのようなものがありまして、ここで裁判をやっているとのことです。
前野:
えっ、ここですか?
いいだ:
俺が前に見た状態と違うんだけど?
水野:
全然違う?
いいだ:
ここが法廷?
水野:
これが未来の……。
前野:
これ未来の法廷?
カズマサ:
だそうです。
いいだ:
どう解釈したらいいのか……。
水野:
これはムズイ。これは結構難易度が高い。
前野:
未来では裁判官はもういないんですかね?
水野:
もうAIなんじゃない?
前野:
AIだから?
水野:
いや知らんけど。
いいだ:
……。
一同:
(笑)
いいだ:
沈黙(笑)。あれなんじゃないですか、もう入った瞬間に判決が下されて有罪・無罪みたいな感じの。
水野:
自動執行されるみたいな。
前野:
その感じですよね。
カズマサ:
コンセプト的にはもう裁判でやるのはあとは形だけ
水野:
なるほど、儀式的な。
カズマサ:
悪いと決まったら
水野:
もう自動的に。
いいだ:
という世界で見に行きますけど『Cyberpunk2077』のガイドラインが面白かったという話ですね。
いいだ:
エンドユーザーライセンス同意書とここに書かれていますが、これご存じの方も多いかもしれませんね。
水野:
そうですね。結構有名な。
いいだ:
全文と要約っていうのがあって、要約のほうがめちゃくちゃ砕けた文体になっていると。
いいだ:
このエンドユーザーライセンス同意書、水野さんの推しポイントとしては?
水野:
まあ別に……。別にっていうのもあれだけど(笑)。結構有名な事案ですけど、利用規約がコミュニケーションツールとして使われつつも、法的な文書としての拘束性も確保しなくてはいけないっていう両側面から見るととっても面白い事案かなっていう風に思います。
水野:
最近インターネットのサービスとかでも法律文書だと読まないし、読まれない。実際にどういうことが書いてあるのかも分かりづらいっていうことで、ユーザーが読みやすいようにして可読性を高めるってことで利用規約に「つまりこういうことです」って要約を書くことも多くなってきているんですけど。
水野:
それをこの『Cyberpunk2077』の利用規約はハードボイルド調に書かれているのが出たときに面白かったですよね。
水野:
だけどこの要約にも“だが忘れるな。法的拘束力を持つのは左側に書いてある長いバージョンのほうだ。右側にいま俺が書いているのは… まあ、「役立つおまけ」程度に読んでほしい”って書いてあるように、結構中途半端っちゃ中途半端。
いいだ:
「法的拘束力」というちゃんとした言葉を使ってくれるんだってのは意外ですよね。
前野:
法的にはどうしても全文残さなきゃならないんですね。なので要約で面白いことを書いても、結局問題になるのは左側なんですよ。
なのでそういう意味である種要約してふわっと書いているので、右側だと捨象されている部分も結構あるんですね。
前野:
そういう部分では「結局左側読まなきゃならんやん」と思う部分もありますね。
いいだ:
文字数的には減ってないっていうところも(笑)。
カズマサ:
ただ読みやすくっていうアプローチですよね。
いいだ:
楽しくはなってる。
水野:
“おい、聞いたか? もし君たちがどうしても読みたいなら、会社としては、二次創作ガイドライン、CD PROJEKT RED の一般ユーザー同意書、おまけに CD PROJEKT RED プライバシーポリシーまでを全部チェックしてくれと言っている。まあ、俺もべつに止めはしない。頭がクラクラするまで、読みまくってくれ。”
前野:
作ってるのこの会社ですからね。「頭がクラクラするまで読みまくってくれ」って言いながらそんな長い文章を作っているのこの会社なので……。なんだか自作自演みたいなところありますけど(笑)。
いいだ:
中では担当者が別なんでしょうね。
水野:
これを翻訳……。利用規約とかだと結構弁護士が翻訳することも多いので、弁護士が右側も翻訳してたらちょっと……。なかなか大変な仕事ですよね。
前野:
世界観知らないといけないですからね。
水野:
口調とかね、悩ましい仕事ですよね。
いいだ:
これもやっぱりゲームの世界のナイトシティって街の住人の体裁で語られているからムズいっすよね。
水野:
でも、これって本当に手間でしかないから、ここまで頑張って作ってやり切っている感に拍手を送りたい。
前野:
それは間違いないです。もう本当に頑張っていると思います。ある種無意味な作業に……。
水野:
無意味って言っちゃったよ(笑)。
前野:
法的には無意味な作業だけど、こうやってユーザーのために副読本を作っているわけですから、それはすごいことですよね。
水野:
これ最後のほうとか結構面白かった気がするなぁ……。
水野:
“もう一回、さいごに言っておく。左側のフルテキストのバージョンに法的拘束力がある。”もうこれ弁護士に書けって言われたんでしょうね。弁護士か法務に「何度も言っといてください」っていう風に。
いいだ:
“法的拘束力”って二回言ってますからね(笑)。
水野:
“それではナイトシティで、思いっきりハジけてくれ!”とか言って(笑)。利用規約、かくも面白いというか。
前野:
知恵ですよね。知恵と工夫と、今後そういう知恵とか工夫がまた増えるんだと思いますけれども、どうなりますかねぇ。
カズマサ:
ゲームによっては「このゲームに登場する団体は現実のものとは関係ありません」っていうのをゲーム内のキャラに読ませるゲームもありますよね。『ペルソナ5』だとイゴールが。
前野:
イゴールが読んでいましたね、冒頭で。あれは導入としてすごくいいですよね。
単なる警告ではなくて作品の入りとして読むので。
水野:
演出にもなっている?
前野:
演出にもなっているんですよ。
カズマサ:
「いいえ」を押すとゲームが終わるっていう。
水野:
へぇー!そうなんだ。配信とかだと最近はゲーム利用規約をポータル的に集めて検索できるサイトができてますよね。非公式なんだけど、あれもすごい良い取り組みだなって思いますね。
前野:
ありがたいですよね。
いいだ:
助かる。
水野:
もちろん最終的にはちゃんと個々の規約を見なきゃいけないんですけど、わかりやすくする試みとしては良いですよね。
前野:
配信ガイドラインの対象が分かりづらかったりとか、配信ガイドライン自体が見えづらかったりってこともあるので、そういうのを一元化してくれると助かりますよね。
いいだ:
配信ガイドラインがないゲームとかも全然あるじゃないですか。どんだけ探しても見つからないから本当にこれは「ない」ということでいいのか?っていう踏ん切りがいつまでもつかないみたいな時あります。
水野:
配信ガイドラインが「ない」ということを確認しきるのは難しいですもんね。
いいだ:
ないなら「ない」と書いてくれって……。
いいだ:
こういう法的には無駄になるお遊び的なガイドライン作りはやらないんですか?
前野:
この右側の文章ですか?やったことないですね。
水野:
僕ね、漫画のキャラ。右側に漫画の吹き出しみたいな感じで要約を作った利用規約を作ったことはありますね。
それはゲームじゃなかったんですけど、漫画関係のアプリでやったことがあります。
いいだ:
それはお客さんからのオーダーがあって、読みやすいようにとかってことですか?
水野:
そうです。
前野:
さすがに「こういうの作りましょう」っていうのは弁護士の側からはやや提案しづらいですかね。面白いとは思いますけどね。
水野:
あってもいいと思うし、ゲームは普通のITサービスとかアプリケーションとかよりも、こういう世界観とか利用規約っていうものが、コミュニケーションツールとして重要性があるっていう認識が少しづつ広がってきているのかなとは思いますけどね。
前野:
でもゲームでやるんだったら、ガイドラインの方かなと思いますけどね。利用規約ではなくて、さっきのネットワークガイドラインみたいなもの。
任天堂もゲームごとにかなりいろいろ出されていますけども、そういったもののほうが柔らかいコミュニケーションで文章は書きやすいので、利用規約よりもそういったもので書くことが多いかもしれないですね。
いいだ:
どちらも一応「契約」になる……?ユーザーと事業者の。
前野:
ガイドラインの場合は「契約」にならない場合もあると思います。例えば任天堂のネットワーク利用ガイドラインっていうのは、特に皆さん「同意」をする場面がないかもしれない。
もしかしたら会員登録するときに同意しているのかもしれないですけれども、少なくとも任天堂以外の大手ゲーム会社さんの配信ガイドラインの場合っていうのは「同意」をするタイミングがないと思いますので、そうすると契約にはならない可能性もありますね。
いいだ:
だからより柔らかくても大丈夫っていう……?
前野:
利用規約は確かに契約だからっていうところもあるんですけども、“こういう場面で契約が成立して、違法なことが起きた時には損害賠償請求をして、裁判所はここにおいて”みたいな法的に書かなきゃいけないことがどうしても決まっているので。
前野:
利用規約の場合はこういう風に「感謝して、応援しています」っていう文章だけでは終われないんですね。
ガイドラインっていうのはたぶん利用規約が元で契約を締結していて、その上で守ってほしいルールを提示するものなので、そういう裁判所がどこだとか損害賠償がどうこうっていうのはガイドラインに全部書く必要がない。
前野:
なので柔らかく書きやすいってことかなと思いますね。
いいだ:
カズマサ君はその辺のなんか匙加減というか……。認識してた?利用規約とガイドラインって言葉の違いみたいな。
カズマサ:
名前が違うものなので意味するもの、意味したいもの、やりたいことが違うんだろうなとは思っていたんですけど、それが具体的にどう違うのかはやっぱりわからなかったので知りたいところですね。
水野:
でも、利用規約とかガイドラインって書いてあるものでも契約としての拘束力があるものも十分たくさんあるので。
前野:
あまり名前は重要じゃないんですね。ガイドラインって書いてあっても「ガイドラインに同意してサービスを始める」って書いてあればそれは「契約」になりますし。
利用規約って書いてあっても別に同意とかなくただ書いてあるだけであれば、例えばこれが「任天堂の著作物の利用に関する利用規約」って名前であったとしても、特に同意を取ってなくてこれを示しているだけであれば「契約」にならないってこともありますので。
前野:
そこは名前ではなくて、どういう同意の取り方をしているのか、どういう示し方をしているのかってところが大事になりますね。
いいだ:
それの傾向としては規約のほうが同意を取ることが多いから、多分そういう空気になるってことですよね。いやぁ~……楽しいですね。
水野:
楽しいかどうかはちょっとだいぶ自信がないですけど。いやでも……自分は楽しみましたね。
いいだ:
自分も普段無意識に接していて、一応すごい気を付けてみてはいますけど、(マイクラのコミュニティ運営にあたって)なんか訳の分からないガイドラインを自分も作ったりしていたので。
ちょっと見え方がクリアになってきたのでこれから息がしやすい感じがします。
水野:
この利用規約とかガイドラインっていうのも、昔は契約書面でやったようなことを、紙に書いていたことをインターネットとかゲームとか「デジタル時代の契約書」みたいな新しい形の契約書だと思うので、まだ「デジタル時代の契約」っていうのは現在進行形で進化していってる。
水野:
まだまだ形が十分定まり切っていないものだと思うので、特に二次創作ガイドラインとか配信ガイドラインとか、その辺りってすごいわちゃわちゃ今してると思うんですけど。
まさにこの文化を作っていってるのは、ユーザーと配信者、あるいは事業者。パブリッシャーとかデベロッパーとか関係者のみなさんで作っている文化なので、この利用規約やガイドラインも。
水野:
だから法律の話って言うと硬いのかなとか、怖いのかなとか、面倒くさいのかなとか思っちゃいがちなんですけど、一緒にそうやって作っていく「文化のひとつ」だと捉えるとちょっと目線も変わってきたり、
あれこれこれについて喋ることも、その文化の発展のひとつなのかなみたいに思うと目線が変わってくるかなって自分は思いますけどね。
いいだ:
法律とかルールってなると守んなくちゃいけないもので怖い。破ったら何か罰が下るんじゃないかみたいな。何となく怖い雰囲気は心のどっかで感じちゃうんですよ。
でも、水野さんがずっとやられていることかと思いますけど、ルールってものをそういう風に捉えないで、もっと皆が生きやすくなるための道具として見ていこうよっていう考え方がありますよね。
いいだ:
それを「文化として見る」っていうのが本当にしっくりくる。そこの作られていく過程自体も楽しんでいいんだなーっていうのが、今日の動画のなんとなくのまとめ。
水野:
特にマイクラとかゲーム内でのユーザーの自由度が高くなってるって話があったと思うんですけど、その空間がある種の自治区なので、その自治区のルールを自分たちで作っていくのは当たり前のことかなぁと思うので。
もちろん法律的な「それでもやっちゃいけないよ」みたいな大きな世界の大きなルールと、自分たちの空間の「私たちのルール」というか、そういうのはもっと自由に作っていいみたいな。
水野:
そのルール自体もまさにこうやって「作っていけるもの」というか。そういう風に捉えられたらいいんだろうな。
いいだ:
今回は普通に「裁判所を建てられるから」って理由でマイクラを選んでますけど(笑)。
水野:
そういう順番だったんですね。
いいだ:
でもテーマ的にしっくりくるなぁって今言われて思いました。
水野:
なるほどなるほど、確かにね……。マイクラみたいにルールも創っていけるみたいな。
前野:
おぉ~キレイ。
いいだ:
めっちゃいい。
水野:
やっぱりそうだよなぁ……。
いいだ:
いやぁ……想像を絶する良い会になりました。
前野:
本当ですか?(事実確認)
水野:
あとはもう編集の力で何とかしてもらうしかないっていう(笑)。
ただもう……なんていうかこの世界だけで十分飯いけちゃうので。
前野:
裁判所もマリオの世界も本当にすごかったので、すごい楽しかったですね。
水野:
それ見るだけでも十分価値がありましたね。
前野:
トークはおまけってことで(笑)。
いいだ:
さんぽ市民の皆さんもありがとうございました。
前野 水野:
ありがとうございました。
法律の専門家と共にビデオゲームの利用規約を掘り下げるゲームさんぽでは、本稿紹介の『Cyberpunk2077』だけでなく任天堂の「配信ガイドライン」などにも注目。
専門家の視点には利用規約やガイドラインがどのように見えているのか、ぜひ本動画からチェックしてみてほしい。