2019年ころから流行りはじめ、今もなお急成長し続けている“マーダーミステリー(マダミス)市場”。大流行している中国ではカラオケと同じくらい普及が進んでおり、市場規模は3000億円を誇ると言われている。
とはいえ、日本ではまだまだ知る人ぞ知るジャンル。そこで、電ファミニコゲーマーでは「マダミス界隈がさらに盛り上がってほしい!」「マダミスの魅力をもっと広げたい!」という想いのもと、マーダーミステリー評論家として活動しているにっしー氏による連載企画をスタート。
本企画では、にっしー氏おすすめのマダミス作品を中心にマダミスを楽しむための情報を発信していく予定だ。連載第1回目となる今回は、「マーダーミステリーって何?」というテーマで、マダミスの魅力、遊び方などをお届けしていく。
“マーダーミステリー”というゲームジャンルを聞いたことはあるでしょうか。
マーダーミステリーとは「プレイヤーが物語の登場人物になって、会話や証拠を通じて事件の犯人を探す推理ゲーム」です。
マーダーミステリーはアナログゲームでここ数年の間に勃興したゲームジャンルです。
いまや専門店が全国にいくつも存在し、マーダーミステリーを題材にした映画やテレビ番組、舞台もいくつも公演されています。
『LIAR GAME』とコラボした舞台が公演されたり、ホロライブやにじさんじといったVtuberもマーダーミステリーの実況動画を目にした方もいるのではないでしょうか。
また、マダミス作品の検索サイト「マダミス.jp」に掲載されているだけでも作品数は3200以上あり、1日2作品のペースでリリースされています。
とはいってもその知名度はまだまだ限定的です。耳なじみがないという人は少なからずいるでしょうし、聞いたことはあるがプレイしたことはないという人も多いでしょう。
しかしマーダーミステリーはのめり込むと、誇張ではなく人生を捧げるほど夢中になる人が出るくらい魅力的で、物語を体験したい人、推理やコミュニケーションが好きな人にぴったりのゲームです。
そこで本記事ではマーダーミステリーがどういうゲームで、何が魅力なのか、どこでプレイできるのかを紹介します。
文/にっしー
犯人探しのゲーム
マーダーミステリーをジャンルとして成立させる面から最も重要な要素は「犯人探し」です。
何らかの事件(たいていは殺人事件)がゲーム開始前に発生していて、プレイヤーはアリバイや物証を元に話し合って推理し、その事件の犯人を絞り込んでいきます。
一般的にゲームは会話と調査、投票で成り立っていて、プレイヤー同士の会話による情報交換や駆け引き、カードという形で提示される手がかりやアイテムの調査(カードを引く)、投票による多数決での犯人の決定から構成されています。
犯人を探す側は複雑に絡み合った糸を解きほぐすように情報の整理や論理的な思考、ひらめきで犯人に迫り、犯人のプレイヤーは嘘やごまかしで逃げ切りを目指します。
登場人物になりきって決断する
会話を通してプレイヤーの中にいる犯人を探す点で人狼ゲームや『Among Us』などに似ています。
しかしプレイヤーが登場人物の一人になるという点は大きく異なっています。登場人物の視点で物語を体験できるのは、マーダーミステリーのもう一つの大きな特徴です。
登場人物にはどういう半生を送ってきたのか、なぜ事件現場にいるのか、何をしたいのかといった背景があります。そしてたいていは登場人物同士に家族や恋人、友人、ライバル、復讐相手といった何らかの関係性があります。
プレイヤーは推理を始める前にこうした設定を読み込み、その人物として行動し、選択します。
たとえば自分の恋人が犯人で復讐のために殺人を犯していたと判明した場合、自分が捕まってでも愛する人を徹底的にかばうのか、罪は罪として警察に引き渡すのか────その登場人物だったらどう行動するのかという思考をトレースして決断することになります。
登場人物たちは犯人を探すために現場に居合わせているわけではなく、それぞれが個人の目的を持って集っています。何かを探していたり、何かを隠そうとしていたり、誰かを助けたり妨害しようとしていたりします。
プレイヤーは事件の犯人探しと平行して、個人の目標を達成するためにも行動します。そのためにほかのプレイヤーと協力したり、対立したりします。
時には犯人であっても、個人の目標では探偵側と利害が一致することもあるでしょう。
常に全員で話し合うのではなく、一対一でこっそり口裏合わせや交渉を持ちかけることもできます。
物語に没入する
単にプレイヤーとして推理したり、対立したりするだけではなく、登場人物として行動し、選択することで物語の展開が変化します。
複数人のプレイヤーの行動が重なることで、思いがけない物語が紡がれることもあるでしょう。
復讐に駆られた相手が包丁で刺そうとする恋人をかばおうとしたら、十数年ぶりに再会できた生き別れの兄弟が自分をかばって凶刃を受けるといった悲劇が起きるかもしれません。
登場人物たちの人生の岐路に立ち会い、登場人物の代わりにプレイヤーが決断を下すことで、大げさに言えば別人の人生を疑似体験できます。
物語が中心に据えられている点はRPGやアドベンチャーゲームに似ていますが、物語を第三者視点で鑑賞するのではなく当事者視点で没入できるので、登場人物になりきる感覚をより強く感じられます。
推理や交渉、物語を個々に楽しめる娯楽はマーダーミステリー以外にいくつもありますが、この3つを同時に体験できるのはマーダーミステリーだけです。
1回限りの体験
そんな魅力的なマーダーミステリーがどこで遊べるかを紹介する前に、気に留めておくべき点がふたつあります。
ひとつは同じ作品は一度しか遊べないこと、もうひとつはプレイ人数が決まっていることです。
マーダーミステリーは物語が作り込まれているが故に、登場人物たちの設定や誰が犯人なのかが固定されている一本道のゲームです。
犯人当てのゲームで、初めから犯人が分かっていたら面白くないのは想像に難くないでしょう。作品との出会いは一期一会です。
また物語や人間関係が作り込まれているため、作品ごとにプレイ人数は固定されています。7人用の作品を6人以下や8人以上では遊べません。
とはいえプレイ人数は作品ごとに違っています。作品をえり好みしなければ、この人数でないとマーダーミステリーを遊べないということはありません。
4人~8人用がプレイ人数のボリュームゾーンですが、20人用やひとり用といった作品もあります。
マーダーミステリーを遊べる4つのプラットフォーム
マーダーミステリーはどこで遊べるでしょうか。
大きく分けると店舗作品、パッケージ作品、PC作品、スマホアプリ作品の4つのプラットフォームがあります。
1.店舗作品
店舗作品はマーダーミステリー専門店で遊べる作品です。マーダーミステリーが遊べるお店は東京近郊だけでも20店舗以上、全国では50店舗以上があります。
代表的な店舗はラビットホール、クイーンズワルツ、ジョルディーノ、マダミスHOUSE、NAGAKUTSU、これからミステリーなどです。
店舗はひと昔前のコンソールゲームくらいのプレイ料金がかかりますし、ほとんどの場合は予約しないと遊べませんが、お店でしか遊べない質の高い作品が安定して揃っています。
複雑なマーダーミステリーではゲームマスターと呼ばれる進行役が必要となるのですが、店舗ではプロの進行役がリードしてくれます。
何よりお店の空間や映像、音、実物の小物や衣装を使った演出のおかげで、物語へより深く没入する感動が体験できます。
2.パッケージ作品
パッケージ作品はボードゲームのようにパッケージを購入して知り合い同士でプレイします。ボードゲームショップや通販サイト、一部の家電量販店などで販売されているほか、ゲームマーケットやコミックマーケットといった同人即売会でも、個人サークルのインディー作品が販売されています。
店舗のような演出は難しいので没入感では劣りますが、パッケージをひとつ購入すれば遊べる手軽さがありますし、仲間同士が顔を合わせて対面で遊ぶのは楽しいものです。
大手流通に乗っている作品は店舗作品と比べても遜色ないクオリティです。
3.PC作品
PC作品はブラウザベースのゲームプラットフォームとボイスチャットを利用して遊ぶ作品で、ほぼすべての作品がBOOTHというオンラインマーケットプレイスで販売されています。
ブラウザベースではありますが、会話やカードを引くといったプレイ&フィール感は対面と遜色ありませんし、中にはアドベンチャーゲームのようなPCならではのちょっとした演出のある作品もあります。
時間を気にせず自宅で遊べる手軽さがありますが、進行役が必須の作品も多く、その場合はSNSなどで進行役を探す必要があります。
4.スマホアプリ作品
スマホアプリ作品は『UZU』というマダミスプラットフォームアプリで遊べます。
アプリには進行役やボイスチャットといったマーダーミステリーをプレイするにあたって必要な機能がすべて揃っていて、アプリ上で完結して遊べます。
アプリ内でプレイヤー募集が行われているので、マーダーミステリーを一緒に遊ぶ知り合いがいなくてもひとりで気軽に遊ぶことができます。
無料あるいは低価格な作品が多く、最もカジュアルに遊べるプラットフォームですが、それゆえに深い感動がある作品は限られています。
最後になりましたが、筆者を軽く紹介させてください。
日本で唯一のマーダーミステリー評論家として活動しています。
『anan』のアナログゲーム特集号やボードゲーム専門誌などのマーダーミステリー部分を担当、執筆しています。
コンソールゲームのプロデューサーとして長年ゲーム業界に籍を置いていて、その経験を活かした作品のレビューや業界分析をSNSで発信しています。
これからも制作者や店舗関係者ではなく、プレイヤーにいちばん近い立場でなるべく中立的に作品を紹介していきます。
今後、電ファミニコゲーマーでは、マーダーミステリーの作品紹介も行っていく予定です。