スマートフォンならではのゲーム体験とは何だろうか?
機器性能の向上と開発ノウハウの蓄積、そして周辺デバイスの恩恵によって、ド派手なアクションから臨場感あるARゲームまで、モバイルゲームはどのような種類のゲームでも実現できる可能性を帯びてきた。
ここでは「スマホならでは」というゲームの例として、一つのインディーアドベンチャータイトルを紹介したい。中国は北京に拠点を置くSalt Game Studioの『遠いトコロヘ』だ。
本作は非常に直感的な操作で進むゲームである。ダイアログやテキストボックスによって進行する従来のアドベンチャーとは打って変わって、まるで紙芝居のように絵と物語が連動して進行してゆく。
かつて似たような形式のアドベンチャーゲームで『Florence』という作品を遊んだことがあるが、本作はこれと似たタイプのゲームと言える(買い切りのスマホADVは大体このタイプかもしれないが)。
とはいってもこれだけでは伝わらないと思うので、ここからは具体的にどのようなゲーム体験が用意されているのかを紹介していこう。
「遊ぶ紙芝居」的なゲーム
先ほども述べたが、本作は文字主体のアドベンチャーではなく「絵」を主体にしたアドベンチャーゲームである。それはまるで紙芝居のページをめくるように、いや、というよりも「ピッコマ」等の縦スクロール漫画をスライドする感覚が中心の作品だ。
プレイヤーが干渉するのは画面いっぱいに表示された絵である。基本的に画面をタップするだけで進むということはなく、そのシーンに応じた最適な位置をタップしたりスライドしたりしてゲームを進行させる。
基本的に画面はモノクロで構成されており、プレイヤーがどこを操作すればよいかが分かりやすく示されている。といってもその全てが決められたところをタップするというものではなく、ある程度プレイヤーに「ひらめき」を要求してくる部分も登場する。
本作のようにそれほど操作の難易度が問われないゲームにおいて、ゲーム性からプレイヤーに満足な面白さを与えるのはそれほど容易ではないだろう。そこで、本作がこだわったのは「演出」である。
本作にはプレイ中に「おおっ」と唸ってしまうような凝った演出が多い。画面を右から左へ、あるいは上から下へスライドする度に、画面は登場人物たちのさまざまな状況を映し出す。本来見えなかった部分が見えるようになる、世界に彩りを与える、そして二人の男女が出会う……などなど。
これはパズルや工作絵本に近い感覚だろう。横からはみ出た紙を引っ張ればキャラクターが出てきたり、ページの穴が次のページの絵に重なったり、そういった創意工夫が本作には溢れている。
ここで全ての演出について説明することはできないが、とにかくも、本作の演出力は非常に優れていると感じさせられた。。
そしてもちろん、本作の豊かな演出の魅力は、本作がスマホの画面上で展開されるということと関係する。それを説明するために、本作の最大の演出、画面方向の切り替えについて紹介しよう。
スマホの画面をフルに使いきった演出がすごい!
説明が遅くなったが、本作のストーリーは二人の男女の出会いと別れを描く切ないラブストーリーとなっている。
もちろん、美しい劇伴と声優さんたちの読み上げで彩られた、悲しくも美しい本作の物語はそれだけでも遊ぶ価値がある。いっぽうで、肝心なのはストーリーにおいてもスマホならではの演出が存在することだ。
本作でプレイヤーは男女2人の主人公の物語を同時並行的に進めていくのだが……。
なんと!男女によってゲームプレイ中の画面の向きが縦と横に切り変わるのである(女性主人公のときは横、男性のときは縦)。このシステムは『Florence』にもない本作の特徴だ。
物語の転換点がそのままゲームプレイの切り替えとなる、なんとも粋な演出である。
そして二人の主人公によって画面の向き、つまり物語が進む方向も違うわけであるから、当然その中で使われる演出の種類も画面の向きによって大きく異なってくる。一つのゲームで二度おいしいというなんとも練られたシステムだとつくづく感心する。
本作はSteamでもリリースが予定されているが、私は本作を遊ぶならぜひともスマホでのプレイをおススメしたい。
このゲームにおいて、あなたのスマホは巨大なおもちゃ箱、あるいは仕掛けが沢山詰まった絵本へと変身する。
タップし、スライドし、時には画面全体を回転させる……この画面をフルに使った演出と遊びの幅が本作の醍醐味である。対象年齢を問わずだれでも楽しめるゲーム性ながら、非常に多様性のある体験が待っているだろう。
『遠いトコロヘ』は日本語でのリリースも予定されており、現在翻訳作業も進められている。私たちとは少しだけ地理的な距離のある中国が舞台となっているが、ストーリー自体は非常に普遍的な恋愛物語となっている。日本のゲーマーにも気に入られるだろうと私は思う。
そして最後にもう一度強調したいが、私的に本作の「目玉」は何と言ってもスマホの画面を使い切った演出にある。ゲームとして楽しむ以上に、一つのインタラクティブメディアとして楽しむといいかもしれない。
美麗なイラストや音楽に”直に”触れて体験すれば、本作の物語は数倍もの感動をあなたに与えてくれるだろう。