感銘を受けた演劇って何度でも鑑賞したいですよね。分かります。
ほな、36万2880通りの演劇が見れる『少女☆歌劇 レヴュースタァライト 舞台奏像劇 遙かなるエルドラド』でも起動するか。
…………36万2880通り!?!?!?
『少⼥☆歌劇 レヴュースタァライト』といえば、可愛い見た目の舞台少女による華やかな演劇を描く……かと思いきや、第1話から急に生き残りバトルロイヤルが繰り広げられる意外性抜群な内容のTVアニメ&劇場版で、数多のオタクをバチバチに沸かしたメディアミックス作品です。
そんな『レヴュースタァライト』が初のコンシューマーゲーム化。
こんな紹介しているけど、本作は全編ぶっ通して“スタァライトされちゃったキリン”向けです。
だって、36万2880通りの演劇パターン(?)があって、1周2時間以上は余裕でかかるボリューム(??)があり、それが全てフルボイスでおくられる(???)、狂気じみたビジュアルノベルゲームなんです。
アニメも劇場版も完成度はハッキリ言って神、沼にハマることは必至。だからこそ「聖翔音楽学園99期生」の姿を何度でも見たい、それは分かります。だからって36万通りも舞台パターンを生み出すなんて思わないだろ。36万周できちゃうってどういうこと?
ブシロード、正気か……?
そうして、膨大な数値に困惑を極める筆者と『少女☆歌劇 レヴュースタァライト 舞台奏像劇 遙かなるエルドラド』が邂逅。筆者は幾原邦彦監督作品の大ファンで、監督のお弟子さんである古川知宏監督が手掛けたTVアニメにもすぐに虜になってしまった人間です。スタァライトされちゃった1人として、本作をプレイしないわけにはいきません。
勇んで向かったまだ見ぬ99期生の物語。その中身は舞台の観客である我々キリンの願望が“これでもか”と詰め込まれている、超濃密ファンディスクだったのだ──。
先に結論だけ言わせてほしい、狂気と愛が詰まりすぎてる1本だと
結論から言うと、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト 舞台奏像劇 遙かなるエルドラド』は、見たかったモノが全部ブチ込まれた、そして開発の狂気と愛が詰まりまくった、スタァライトされちゃったキリンへのご褒美ゲームでした。
『レヴュースタァライト』のオタクは全人類買った方がいい。こんなオタクへの福利厚生が手厚いゲームが世に放たれること、あるか???いや、ない。
アニメ『レヴュースタァライト』といえば、ウルトラビッグスーパークソデカ感情を向け合う舞台少女2人の関係性が毎話描かれました。
今改めて言語化していると、初見時に抱いた「あれ、こんなヤベェ依存関係のニコイチペアを描く話だったんか……?」と困惑した感想がまざまざと思い出されます。9人とも仲の良い99期生は一緒に料理を作ったり、先生からの叱られ案件を隠蔽したり、ふんわりとした絡みはありました。
でも、特定の2人組以外の絡みって実はそんなにない。オタクたるもの、ちょっとした描写に触発されて「あの子とあの子の絡みがもっと俺は見たいんだよォー-!!」なんて欲望、抱きますよね。大丈夫、そのオタクの願望……『遙かなるエルドラド』が叶えてくれるぜ。
「お持ちなさい。あなたの望んだその星を」
本作では、劇場版でも一瞬だけ名称が出たり劇中セリフが飛び出たりした戯曲「遙かなるエルドラド」に99期生が挑みます。
戯曲の主役は、白い衣服に身を包む王子様のような「アレハンドロ」と、対照的に黒衣を纏い薄暗い闇を抱える「サルバトーレ」の2人。そんな彼らの配役は、また新たなクソデカ感情を見せてくれそうな4ペアからプレイヤーが自由に選ぶことができちゃいます。
「そんじゃまずは香子&双葉のケンカップルでも見てみるか~!」と意気込んだところで、選択肢を見ていきましょう!
「星見純那&愛城華恋」
「花柳香子&天堂真矢」
「西條クロディーヌ&石動双葉」
「露崎まひる&大場なな」
思ってた組み合わせとぜんぶ違う!!!とくに「まひる&なな」とか……。それめっちゃ見たかったやつ!
こんな感じで、本作は従来のニコイチペアの法則が完全に崩れています。
まだ何も始まっていないのに意外な展開で困惑と期待が極まるなか、筆者はアニメ第2話でもいきなり大進展の関係性を見せた純那と華恋のルートを選択。ちなみに、劇場版でチラ見せされた本戯曲の稽古シーンを演じているのも、このふたりです!
案の定、元運命の相手・神楽ひかりへの未練タラタラな華恋を見て「オッ、違うペアでもやっぱ運命の相手のことは忘れられないんすねー」なんて呑気に思っていました。
だが、その既成概念を星見純那がぶち壊す!
純那といえば、キリンのオーディションで華恋に敗北。本人もずっと心残りに思っていたそうで、今回のダブル主演をきっかけに華恋に「復讐する」と宣言します。
実はこの“復讐”というワードは、2人が演じるアレハンドロとサルバトーレの関係性をひとことで表すもの。クソデカ感情を“向け合わない”華恋・純那ペアが演じる男たちは、クソデカ感情を向け合うふたりなのです。
純那自身も彼女が演じるサルバトーレも復讐心を熱く燃やし、それに対して真っ向から立ち向かう華恋とアレハンドロ……2人の心情が見事に配役と合致。戯曲「遙かなるエルドラド」の主演は、「もうこの2人しかありえない」と思えるほどに新たなペアとしてここに確立しました。
他のペアも気になるが、これ以上に当てはまる2人がいるなんて思えない。「遙かなるエルドラド」の主役は、純那&華恋に決定です!俺の選択は間違いじゃなかった~~~!!ウォ──ーッ!
……まだ1ルートしか見ていないのに?
ひとまず例として1ルート取り上げましたが、全ルート完走した感想はもちろん、「全員アレハンドロとサルバトーレじゃねぇか……」です。
「これは誰が演じても素晴らしい脚本だ」という意味ではなく、むしろ各々が同じ役を演じているにも関わらず、全く異なる内容が展開されるからこそ、全員アレハンドロとサルバトーレなんです。
これまでメインとして絡みが描かれなかった各ペアは、自身が演じる役を咀嚼していく過程で海に行ったり2ケツしたりとにかく仲を深めていくのですが……やっぱり全員、自分が抱いている何かしらのわだかまりが役と被る!そして思い思いの“相手にぶつける復讐心”を役に込める!
だからこそ、その人にしかできないアレハンドロまたはサルバトーレが生まれ、見事に“同じ戯曲なのに4回初見が味わえる”内容になっているのです。
なかでも香子&真矢ルートでは、劇場版でバイクに跨ることにした香子の心変わりが判明するなんて掘り下げも。バイクを颯爽と駆る香子、大好きなので描写がもっと欲しかったところなんですよ。
何から何まで細かいところに手が届く至れり尽くせりなスタイルで、とにかく“見たかった部分”がガチで全部お出しされます。
そしていまさらですが、これほどファンが望んでいた要素が余すことなく反映されているからこそ、ハッキリ言って地続きになっているアニメ&劇場版を視聴しないまま本作を始めることはおすすめしません。
もちろん配役オーディションで大まかなキャラのプロフィールは説明されます。ですがその際にも彼女たちのアニメでの活躍が語られるため、見ていないと「何のこっちゃワケわからん」状態に99%の確率で陥るかと思います。
もし、ここまでお読みいただいた方が「なんだこの記事、そんな荒ぶるほど『レヴュースタァライト』って面白いのか?」と感じられたら本記事を途中で読むのを中断して、スタァライトされてから舞い戻ってきてください。誘導文になっていますが、また履修後に皆さんが本稿に辿り着くであろうことを確信しているのでご安心ください。
B組やジュディ・ナイトレー。アニメの“脇役”たちが“主役”へ躍り出る
そして忘れてはならないのが、本作の主人公ともいえるB組「舞台創造科」所属・眞井霧子と雨宮詩音の存在。彼女たちはアニメ版でも登場しており、全体を指揮し見極める眞井と、脚本に全身全霊を注ぐ雨宮の組み合わせはいつも妥協なき舞台を作り上げてきました。
ハッキリ言って舞台創造科がいないと戯曲は完成しないのに、主だって描かれることはなかったいわゆる裏方。そんな裏方にもしっかりスポットライトが当たるのが本作です。
B組に思いを馳せてたオタク──ー!!報われる日が来たぞ──ッ!
アニメでも劇場版でも信頼関係は垣間見えるけど、決して大きな尺を割いて登場することはなかったふたり。99期生のニコイチ法則になぞると間違いなくただならぬ関係だと思っていましたが、その通りでした。
ふたりの歩みは出会いから遡り、アニメ版で華恋により再生産させられた第100回聖翔祭での戯曲「スタァライト」に対する復讐心、そして今回の「遙かなるエルドラド」へ抱く想いまで全部語られます。
さらに将来を誓い合って、お互いの左手薬指に指輪交換する。
え、もしかして本作って眞井&雨宮カップルの結婚式に参列するゲームでしたか?
同じくアニメで脇役だったけれど、強い存在感を放っていた「ジュディ・ナイトレー」が、ラスボスになって再登場。彼女は、あのひかりからトップスタァの座を実力で勝ち取った謎に包まれた超大物……にも関わらず、アニメ第8話にしか出番がなかった存在です。
99期生との初対面時には、すでに役になりきり殺気だけで圧をかけて周囲を震え上がらせ、そして出会ったばかりなのにみんなの個性や舞台に対する向き合い方を瞬時に見抜き分析、と強キャラ感バチバチ。
そらひかりも負けますわ……。という説得力を確かなものにしました。天は二物も三物も与えるを体現しており、たった1人でこれまで固定メンバーだった99期生の輪に瞬時に溶け込み、影響を与えていきます。
これまで狭い“ふたりだけの世界”で生きてきた99期生は、本作では新たなペアを見つけ次の舞台に進んでいく。そして「王立演劇学院」という外部から来たジュディの後押しもあったからこそ、劇場版EDに繋がったんだなって……。筆者はそう思いました。
今これを読んでいるキリン(あなた)も、真の意味で「舞台創造科」になれる
さて、先程から“4ルート”と、冒頭でいきなり出オチになった36万2880もの数字とはえらく違うことに疑問を抱いている読者もそろそろいらっしゃることでしょう。
この数字の正体は、4ルート制覇後に解禁となる「El Doradoモード」における「遙かなるエルドラド」の配役の組み合わせ総数。
9人の舞台少女を主役、敵役、脇役からなる計9役、つまり36万2880パターンにプレイヤーが好きに当てはめることができるモードです。
これがまあトンデモない代物で、本編でも綿密に語られた「遙かなるエルドラド」の内容が一言一句あますことなく見せてくれます。「本編ってダイジェスト舞台だったんか──い!」ってツッコミ待ったなし。本編で1時間の尺だった戯曲は、実はフル尺で2時間だったわけです。
そしていよいよブシロードの狂気を確たるものにしてしまうのが、“36万2880通りの演技が全部フルボイスで観劇できる”ということ。
正気か、ブシロード……?(冒頭に戻る)
ハッキリ言って、これはどうかしているとしか思えませんでした。確かに、全く同じ内容で立ち絵だけ各キャラに変更となると「El Doradoモード」の存在価値はほぼないと言っても過言ではないでしょう。
そこへ意味を付与するのがフルボイス化ですが、だからって36万パターンを収録するってマジで何なんだ。どうなってんの、スタァライト九九組キャストの皆様──!!!(ありがとうございます!)
しかし、怖すぎ……と震えてばかりでもいられない。このトチ狂った物量のおかげで、オタクから囁かれていた「大場なな&神楽ひかり」の組み合わせをはじめ、ダークヒーローを演じる華恋、そして彼女に仕えるまひる……など、キリがない配役を現実のものにできます。
ちなみに筆者は執筆中、延々と本モードを数多の配役で回していました。個人的に特にお気に入りになったのがアレハンドロ役のひかり。幼少期の演技がたどたどしくて、メッチャかわいい。
あとは本編でも見れる刺殺に長けた大場なな、カルメンシータ役でドレスをまとい可愛すぎる女の子になった双葉、いやらしいキャバレロ卿の演技がたまらん香子などなど。こうなったら「El Doradoモード」お気に入り配役デッキを組まずにはいられません。自分やれます。対戦よろしくお願いします。
『レヴュースタァライト』ではファンのことを「舞台創造科」と呼称します。(本稿ではB組のお話をするため表記がゴチャつくことから多用していませんが)本モードのおかげで、これまで舞台少女を外野から見ているキリンでしかなかった我々が、真の意味で舞台創造科になれるのです。
さて、本文途中でアニメを履修しに行ったキリンの皆様もそろそろお戻りの頃でしょうか。次の舞台となる『少女☆歌劇 レヴュースタァライト 舞台奏像劇 遙かなるエルドラド』、その勢いのままプレイしてください。
ファンの心をくすぐるゲームって、お祭りゲー、集大成、その他いろいろな表現があります。でも、36万2880もの圧倒的物量でファンの夢を全部叶えた作品って、本作が初めてじゃないでしょうか。書けば書くほどこの数値、意味が分かんねぇな……二度と書くことないかもしれない。
オブラートに包まずに言うと「制作コストヤバそうすぎ」な1本ですが、なんとそのお値段3,980円(税込)。価格バグってないか?
改めて「あの日、あの舞台でスタァライトされて良かった」と心の底から思える出来栄えでこの世に放たれた『レヴュースタァライト』初のコンシューマーゲームは、99期生の物語に幕を下ろすのに相応しい作品でした。
でも……オタクは欲深い生き物だから、これだけは声高らかに言っておきましょう。
まだまだ見たいぜッ、99期生の物語!!!