クトゥルフ神話と漁業が融合した異色のゲーム『DREDGE』。
本作はそのユニークなジャンルもさることながら、以外にも「ある程度落ち着いて、ゆるやかに遊べる」釣りゲームとなっている。
作風がユニークであるからこそ、なぜ「クトゥルフ神話」をモチーフにしながら「ホラーゲーム」ではない作品が誕生したのか。非常に気になるところだ。
このたび『DREDGE』のリードアーティストであるアレックス・リッチー氏、プログラマー兼ライターのジョエル・メイソン氏、3Dアーティストであるマイケル・バスティアン氏、そしてプロデューサーであるナディア・スローン氏へメールインタビューをする機会を得た。
インタビューではDLC『The Iron Rig』に関する開発秘話も伺うことができたため、本作の“不気味かつチル”な作風、そして漁業を軸にゴリゴリと探索や装備の拡張を行う快楽を堪能した方は、ぜひ楽しんで頂ければ幸いだ。
聞き手/マシーナリーとも子
編集/りつこ
※この記事は『DREDGE』の魅力をもっと知ってもらいたいBlack Salt Gamesさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
クトゥルフ神話をモチーフとしながら、可愛らしい作品が好きなゲーマーたちにもヒットした理由
──『DREDGE』は「クトゥルフ神話×漁業」というコンセプトでありながら、ゲームとしてはいわゆる「ホラーゲーム」ではなく、「釣りゲーム」が主軸となっていますよね。
どのような考えのもとに、本作のゲームデザインやコンセプト設計を行ったのでしょうか。
マイケル氏:
私たち自身、ホラーゲームはあまり好きではないので、いかにもプレイヤーを怯えさせるホラーゲームは作りたくなかったんです。
もっと不安に満ちた雰囲気の作品を作りたかったし、怖いことが起こるとすれば、それはプレイヤーの頭の中で起こるようにしたかったんです。
また、本作ではプレイヤーが好きなように作品の世界を体験できるようにゲームをデザインしました。怖いことを体験しなくても、ゲームの大半をクリアすることができます。
アレックス氏:
私たちはホラーゲーマーではないですが、ホラーのテーマ性やダークな物語は大好きです。
だから本作の作風は、私たちの経験と趣味の結果として生まれたものだと思います。本作は完全にホラーゲームと呼べるつくりにはなっていませんが、ゲーム内では不安な感覚を存分に表現しています。
ナディア氏:
『DREDGE』では、その気になれば怖いものをほとんど避けて遊べるようになっています。なぜなら、我々がプレイヤーだとしたら、怖いのを避けてゲームを遊びたいからです(笑)。
とはいえ、本作が極度に怖いわけではないことがユーザーさんにとっても魅力的であったことには、本作が発売した後に気付きました。
特に可愛らしい作品が好きなゲーマーたち(cozy gamers)は、昼間の釣りを中心に楽しんでいました。なので、夜でも安心して遊べるようなモードも用意しました。
──『DREDGE』のクトゥルフ神話と釣りを組み合わせるというアイディアにとても心惹かれました。本作を制作するにあたって、クトゥルフ神話以外には何からインスピレーションを受けたのでしょうか。
ジョエル氏:
ゲームシステムに関して、私は 他のゲームでも釣りのミニゲームが大好きです。なので「釣りゲーム」そのものがメインになった作品を作りたいと思っていました。
「釣りゲーム」について考えている中で、私が日頃感じている海や深海そのものの恐しさ思い出したんです。なので、自然と「釣りゲーム」と「ホラー要素」が結びつき、作品の元となるアイデアを思いつきました。
ナディア氏:
私たちは海の深さについてほとんど知らないし、時に異世界のように感じられます。なので、私たちが作る作品に重要なインスピレーションを与えてくれました。
『DREDGE』では「海」そのものが重要なキャラクターとなっています。実際にプレイすれば、昼は自分と魚しか存在しないように思えるものの、夜になると人間の感覚を超えた領域の存在を予感せずにはいられないと思います。
マイケル氏:
私は真のホラーファンとは言えないのですが、3Dアーティストとして不気味なクリーチャーが大好きなんです。
そこで、より恐ろしいクリーチャーを追求したとき、自ずと実際の生物に着目することとなりました。というのも、自然界にはすでに恐ろしい生物に溢れているからです。なので、実際に海に生息する生物などは、アートワークにおいて大きな影響を受けました。
──また、『DREDGE』はクトゥルフと漁というコンセプト、ゲームプレイの小気味よさ、グラフィックなど様々な魅力があります。これらはどのような順序で思いついたのでしょうか。
マイケル氏:
『DREDGE』のアイデアがチーム内で提案されたとき、まず「Lovecraftian Fishing 」(ラブクラフト風釣り)という言葉が使われました。 その後、ジョエルとアレックスはアイデアをさらに深く掘り下げ、実際のゲームにするためのプロトタイプをいくつか作成していくかたちとなりました。
アレックス氏:
つまるところ、まずコンセプトが最初にあって、そこからゲームのアイデアが生まれたかたちですね。
ビジュアルに関してはいろいろなものからインスパイアされましたが、そのうちのひとつが、わずか2週間で作った本作のプロトタイプです。
そのプロトタイプは素早く作る都合上、非常にシンプルなアートでした。しかし、そのシンプルなアートが、世界観の不気味な雰囲気とコントラストがあり、ゲームの薄気味悪い雰囲気を構築することに役立ちました。
──トロール船による漁業をゲームの柱にするにあたって、取材はどのように行いましたか。
マイケル氏:
生き物や生態系に関しては、インターネットで検索することが多かったです。アートワークにおいては、 現実世界の生き物や場所をモチーフにすることで、かなりデザインしやすくなりました。
アレックス氏:
ジョエルは魚の専門家なので、魚や釣りなどの設計や判断は、彼に従うようにしていました。
しかし、ボートや作中に登場するテクノロジーについては、『DREDGE』の舞台となった時代に利用可能だったものをリサーチしています。ただ、アイアンヘイブンという架空の企業が、私たちの世界には存在しない技術を活用しているため、作中にはファンタジー要素も存在します。なので、時代の文明を基準にしつつ、必要に応じてフィクション要素を用意しています。
──漁においては、釣りをするときのリールの音や奇形魚を釣り上げたときの不気味な粘着音など、効果音も印象的です。どのようなプロセスで効果音を制作したのでしょうか。
アレックス氏:
デイヴィッド・メイソンとMikatte Musicが、オーディオチームとして素晴らしい仕事をしてくれましたね。
ナディア氏:
あの効果音は、実はアレックスが作ったものなんです。ただ、デイヴィッドが参加したときに完璧すぎて変えられないと思ったようです。
──『DREDGE』の開発はDLC『THE IRON RIG』をもって一段落と見ていいのでしょうか。また今後のBlack Salt Gamesの展望についてもお聞きしたいです。
ジョエル氏:
現在の私たちの焦点は、まだ『DREDGE』を遊べていない新しいお客さんに『DREDGE』を提供することです。その先の将来的な計画については、現時点では秘密です(笑)。
ナディア氏:
『DREDGE』を発売したときには、この作品がどれほどのプレイヤーにリーチできるのか想像もつきませんでした。
なので、発売から1年半の時を経て、ふたつのDLCをリリースした今でも、プレイヤーが新コンテンツを待ち望んでいる状況に驚かされます。『The Iron Rig』ではポーランド語をサポートしましたし、今後数カ月中には、プレイヤーの皆さんが待ち望んでいる新しいプラットフォームにも『DREDGE』を提供したいと考えています。
便利な「旅商人」はゲームの必要から生まれ、世界観の奥行きにも貢献した
──ゲールグリフ以降登場する箱舟の旅商人について。彼女ひとりで魚の買い取り、船の修理、アップグレードまでできてしまう万能ぶりに驚き、登場以降は彼女を中心にゲームプレイする快適さに溺れました。
反面、グレートマローに魚を売りに行かなくなってしまったことで、あの街のことが心配になってしまいました。開発にあたって快適さとグレートマローの食料事情、どちらを取るかの葛藤はありましたか。
アレックス氏:
私たちは、プレイヤーにグレートマローに縛られることなく探検してほしいと思っていました。だから、旅商人はそのための解決策として用意しました。
ちなみに、プレイヤーが旅商人に売った魚は、他の地域で流通するんです。つまり、彼女に魚を売ることで、グレート・マローの人々に食料を供給することができます。
ジョエル氏:
開発のなかでワールドを拡大し、エリアを増やしていくうちに、やはりプレイヤーが魚を売るためにグレートマローに戻らなければならない点が問題になりました。
そこで、私たちは「旅商人」の存在を思い付き、実装に至ったんです。
さらに、トロール網によって移動しながら魚を獲れたり、設置型のカニ漁を利用したりすることで、ゲームが進んだ後も快適に漁を楽しめると思います。
──最新DLC『THE IRON RIG』にて、本編のステラーベイスンで登場した研究者と、彼女の口からチラリと出てきたアイアンヘイブンに焦点が当てられたのには驚きました。
『THE IRON RIG』については当初のリリース段階から制作予定があり、その伏線として彼女が登場していたのでしょうか。
マイケル氏:
『DREDGE』の本編を開発しはじめた段階では、未だDLCのプランが固まっていませんでした。
DLC『The Iron Rig』のデザインを開始した時点で、既存の世界しか使えないという制約があることを理解していたので、すでに本編で登場したキャラクターを採用することは計画の一部になっていました。
ストーリーの展開については、はじめにゲームプレイのループを開発し、それにマッチしたストーリーを探す中で自然に作られていきました。
アレックス氏:
『DREDGE』本編の世界には、多くの謎が残されています。その謎をきっかけに、続編やDLCで作品の世界を拡張することもできるんです。
当初はそのような目的はなかったのですが、結果的にDLCに適していましたね。
──港湾労働者に、海底と関係がありそうな荷物を渡すと廃人になってしまいます。おそらく奇形魚や汚染物質を口にしたことが原因と思うのですが、同じく奇形魚を食べたグレートマローの魚屋が正気を保っているのはなぜなのでしょうか。
アレックス氏:
あなたが港湾労働者に届けた荷物の中には、DLC『The Iron Rig』に登場した「黒い液体」に似た物質が入っていたと思います。
いっぽうで、魚屋は異常な魚を1匹食べています。もしかしたら、彼は私たちが知らないようなかたちで影響を受けているのかもしれません。
ジョエル氏:
キャラクターによって個人差があるのは、ずばり量と質です。黒い液体は人によってさまざまな影響を与えるんです。
DLC『The Iron Rig』に登場する科学者のように、物質をさらに精製することができる人間には……。
きっと悪いことが待ち受けているでしょう。
『Dota』に『ウィッチャー3』から『英雄伝説VI』『Balatro』まで、とてもゲーマーな開発者のみなさん
──今回、私は『DREDGE』をPC(Steam)でプレイしたのですが、本作はどのプラットフォームで特に好評を得ていますか。
マイケル氏:
昨年に本作がSteam Deckの最優秀賞にノミネートされました。そういった受賞歴も踏まえて、このゲームは携帯ゲーム機にも最適だと思います。
ナディア氏:
ちなみに、日本ではNintendo Switch版が大人気ですね。本作においては、Steamと並んで最も売れているプラットフォームです。
──なるほど。少し余談になってしまうのですが、開発陣の皆さまのベストビデオゲームと、最近遊んだゲームで好きなものを教えてください。
マイケル氏:
いろんなゲームを飛び回るように遊んでいますが、『Dota』にほとんどの時間を費やしていますね。といっても、金曜の夜に遊びでプレイしているだけですが(笑)。
あとは『Total War Warhammer』というゲームも大好きで、ここ数年で一番好きなゲームは『Sekiro』です。
アレックス氏:
好きなゲームが多すぎるし、ジャンルも様々なので選ぶのは難しいですね。
パッと思いつくのは『Hyper Light Drifter』『Thief』『Dishonored』『ウィッチャー3』『ファイナルファンタジーIX』『Hollow Knight』『Baldur’s Gate 3』などでしょうか。
最近はストーリー重視のゲームが好きで『英雄伝説VI 空の軌跡』をプレイし始めました。
ジョエル氏:
現存する最高のビデオゲームは『Red Dead Redemption 2』だと思いますが、『Destiny 2』や『Hollow Knight』も大好きです。
今年プレイしたベストゲームは『Animal Well』ですが『Balatro』もすごい中毒性があって大好きです(笑)。
ナディア氏:
自分は『ウィッチャー3』がこれまでプレイした中で最高のゲームだと思っていますが、最近ではMintrocketの『Dave the Diver』が素晴らしかったです。
また、数ヶ月後に発売される『Civilization VII』にもとても期待しています!
──最後に、ゲーム中に登場する奇形魚のなかでとくにみなさんが気に入ってるデザインものを教えて頂きたいです。
マイケル氏:
私が一番好きな異形の魚は「暴食アカウオ」ですかね。 もはや「尻尾のついた口」のような生物には、クールで不気味な魅力があります。
アレックス氏:
私のお気に入りは230番目の魚です。この魚には最もバックグラウンドがあり、釣り上げる頃には「どこから来たのか」がわかるようになっています。
また、私が最後に描いた魚なので、特別な魚です。
ジョエル氏:
私は「シロガンギエイ」ですかね。とても醜悪で、人間の顔が皮膚から突き出ていますから(笑)
ナディア氏:
「熱狂するサメ」ですね。とても不吉だから。
──ありがとうございました。(了)
本作において「クトゥルフ神話」と漁業が融合し、さらには「ホラーゲームではない」作風が採用された理由。それは意外にも、開発陣による「釣りミニゲームが好き」というモチベーションと「海が怖い」というプリミティブな感覚があった。
開発陣の趣味や感覚からアイデアを生み出し、自分たちで出来ることから逆算して作品世界を拡張する。そういった等身大の開発過程からは、どことなく『DREDGE』に感じる優しく可愛らしいテンションを窺えるように思う。
なお、Steamストアでは『DREDGE』のデジタルデラックス版が40%の1799円で購入できるセールが10月1日まで開催されている。
あわせてDLC等のバンドルのセールも実施されているため、興味がある読者は涼し気な漁業を楽しんでみてはいかがだろうか。