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売られた少女(CV:釘宮理恵さん)と盗賊のロードムービー描く『飢えた子羊』は、千里の道のりと揺れ動く感情を繊細に描いた中国テキストアドベンチャー。聡くて掴み所のない少女が魅力的すぎて、旅とプレイヤーの心を引っかきまわす

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中国の零创游戏(ZerocreationGame)が手がけるテキストアドベンチャー『飢えた子羊』

本作、なんと釘宮理恵氏が声優として出演している。

『飢えた子羊』レビュー・評価・感想:売られた少女(CV:釘宮理恵さん)と盗賊のロードムービー描く中国テキストアドベンチャー_001

リリース直後から中国国内のみならず日本のユーザー間でも話題を呼んでいる本作。10月23日より日本語ボイスが実装され、なんとメインキャラクターの一人である「穂」役の声優として、釘宮氏がキャスティングされている。これだけでも、本作が気になってくる方は多いのでは。

さらに現状はPC(Steam)のみの対応となっているものの、開発チームはNintendo Switch版の開発にも取り組んでいるとのこと。本作が気になった方はこちらもあわせて続報をチェックしてほしい。

本稿では、日本語ボイス実装版を一足早く体験した筆者の視点から、本作のストーリーや遊びやすさ、そして注目のキャラクターボイスについてご紹介する。

物語の核心に触れるネタバレは極力避けるが、本作について一切の情報を入れたくない方はご注意いただきたい。

文/植田亮平
編集/anymo

※この記事は『飢えた子羊』の魅力をもっと知ってもらいたいアクティブゲーミングメディアさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。

明王朝末期を巡る、売られた少女と盗賊の旅

『飢えた子羊』のタイトルの原題「饿殍:明末千里行」にもある通り、本作は「明末千里行(明朝末期の千里を行く)」物語だ。中国史の出来事を下地にした歴史系の作品、さらに「千里を行く」ロードムービー的な作品でもある。

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物語の舞台は中国の明朝末期(西暦1632年)。中国の崇禎元年から崇禎14年までの時代である。

本作のストアページには当時の歴史背景が簡潔に説明されているので、解説文をそのまま引用する。

当時、土地併合問題が深刻で、国内の戦争が続きがあるだけではなく、国外からの侵略も防ぐ必要もあります。しかも災害の多い小氷河時代にあって、毎年のように飢饉が起こり、国民は泥に酔った鮒のように苦しんでいます。

長年の大災害が続いた後、朝廷の過酷な統治は変わらず、餓死者が続出し、飢饉と反乱が各地で起きました。

この解説から推察できる通り、本作の雰囲気は全体を通して陰鬱で暗いテイストが続くそれはテキストだけではなく、ビジュアルや音楽でも同様だ。全体的に色合いを暗くした背景や静かで悲しげなBGMが、本作の悲壮感を絶妙に仕上げている。

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生きていくにはきわめてシビアな時代の飢餓の苦しみや争いなど──人間のダークな部分がかなりリアルに描かれているのが本作の世界観の特徴だろう。

物語は、主人公である盗賊の「良」がそんな時代に人身売買で生計を立てようと企てるところから始まる。

人買いからの依頼を受けた良は、相棒の「舌」と共に4人の少女を「華州」から「洛陽」まで運ぶ旅に出発する。その旅で良はとてつもない運命に巻き込まれていき……というのが本作の大まかなあらすじである。

“主人公の目的が人身売買”という非常に奇抜な設定であるが、作中では特にこれといって倫理的な「お説教」の場面が用意されていないのも特筆すべき点だろう。というのも、この時代においては貧しい一家の子供が裕福な親の元へ売られるというのはある種一つの道理であるという価値観が伏流しているからである。

実際、子供を手にかけることを嫌う良自身ですら「子供たちが飢え死にするなら人身売買もやむなし」ということを吐露している。

貧しい時代に起こるであろうタブーが登場する本作の世界だが、そこで登場人物たちそれぞれに「踏み越えてはならない境界線」が存在するのが本作の注目ポイントだと筆者は感じた。

これはよくてあれはダメ、人によって違う「境界線」は、この物語の一つのテーマである。

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あいまいな境界線上で揺れ動く関係性。聡くて掴みどころのない少女・穂が物語を動かす

さて、本作のストーリーにおいて最も欠かせないのは、主人公である良と人身売買の商品として売られる定めとなった少女「穂」の関係性である。先ほど境界線の話をしたが、この二人も「敵か味方か」という非常にあいまいな境界線上で揺れ動く関係性となっている。

穂は貧しい家の生まれであり、ある意味で、この物語の一番の「関係者」とも言える。「人身売買の旅というローカルな物語」から「全てを引き起こしたのは誰か?という巨大な物語」へ、物語のスケールを飛躍させる作中のキーマンであると同時に、良と並ぶ影の主人公とも言える。

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穂はかなり頭のさえる少女だ。良に対してときに従順に、時に反抗し、非常にトリッキーな立ち回りを演じる。物語序盤から良は彼女を不審がるが、物語が進むにつれて、そして彼女の「本当の目的」が明らかになるにつれて、彼女と良の関係性は一気に別のものへと置き換わる。

物語の中で、良はしきりに自身のことを「狼」、人身売買で売られることとなった少女たちのことを「子羊」と呼ぶ。これは喰うもの喰われるものという単純な比喩以上に、自身がどのような状況に置かれているかを知るもの、もっと単純に言えば「盲目的」であるということを含意している。

実際、良は本作の第一章で自身の名について「良とは善の意なり。善という字は口を開けた子羊を表す」と述べている。これは作中における良の立場を明確に表した一節となっているのだが、これ以上はネタバレになるので、その真意はプレイして確かめてほしい。

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ただ一つ言えるのは、この物語が明朝末期を題材にとったというのは多分に意味があるということだ。

歴史の中で物質的な欠乏にあえぐ登場人物たちの悲劇を描く作品かと思われた本作だが、プレイヤーの選ぶ選択によっては本作は意外な展開を見せる。

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その点で、本作の物語を分類するのであればやはり「歴史モノ」と呼ぶのが相応しいかと思われる。歴史の中に消える物語なのか、それとも歴史を変える物語なのか。

良と穂のたった二人の小さな関係性が大きな物語に発展していく様は、ある種「セカイ系」と表することさえできるだろう(たぶん、言い過ぎでもあるだろうけれど)。

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掴みどころのない解説になってしまったが、とにかく、良と穂の目的がどのように成就するかというのがこの物語のもっとも面白いポイントとなっている。そしてその面白い展開がどのように転ぶかというのが、私たちプレイヤーの選択に委ねられているというわけだ。

もちろん、純粋に良と穂の絡み自体もクオリティが高い。
盗賊の若い男と何やら裏の在りそうな「少女」のどこかぎこちないやりとりも、そのような関係性が好きなプレイヤーならどっぷりハマれることは間違いないだろう。

私が好きなのは浴場での一幕だ。幼い穂が見せるコケティッシュな一面と、それを一顧だにしない良のハードボイルドさ。ここは日本のプレイヤーにもグッとくる場面だと思う。

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釘宮理恵さんによる「穂」の演じ分けが光る。日本語ボイスでキャラクターの息遣いまでも感じる

ここからは、冒頭でも述べた日本語ボイスについて述べていきたい。
もともと中国語でのボイスしかなかったころから声優の名演が好評だった本作だが、日本語ボイスの実装にあたってもそこは揺らがない。

本作の日本語ボイス、およびローカライズは完璧である。

そしてその中でも、何と言っても穂役の釘宮理恵さんの名演が光る。

作中、穂が影絵劇の「呂布、三英傑と戦う」を演じる場面では、“中国語の影絵劇を、影絵劇に慣れていない少女が演じる”というなんとも難しいシチュエーションを見事に「日本語で」演じており、これにはビックリした。

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それ以外にも飢えに苦しむ穂、大人を騙すときの穂、子供の無邪気な面を見せる穂など、非常に多彩な演じ分けが行われている。このことにより、穂の一語一句はテキストから得られる情報以上のものを、その時々の感情や息遣いまでもプレイヤーに与えてくれる。

もちろん、穂以外のキャラクターたちも素晴らしい演技となっている。
売られる少女の一人である「紅児」は田舎の貧しい両親に売られた低い身分の少女であるが、これを日本語ではやや東北訛りに近い形で表現している。

良の相棒である舌は作中の狐顔から想像される通り非常に狡猾な男だが、日本語ボイスでは怪しげな声と普通の声を混ぜ合わせることで、軽薄なイメージの裏にどこか任侠を重んじる彼の一面が見えて面白い。

「キャラが立つ」というのはまさにこういうことを言うのだろう。とにかく、本作の日本語ローカライズはテキスト含め非常にクオリティが高い。
個人的に好きだったのは「水溝村」という荒れ果てた村に住む老人の声である。名前もついていないモブキャラなのだが、彼の声を担当した声優の怪演には注目だ。

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最後に、本作のゲームプレイ部分について若干の解説をしておこう。

本作は基本的にテキストを進めながら2択を選んでいくという非常にシンプルなアドベンチャーゲームとなっている。後半に進むにつれシナリオの分岐がやや複雑になっていくが、それ以外は外せば即やり直しという簡単な作りだ。

オートセーブやスキップなどの機能があらかじめ備えられているためリトライは非常にやりやすく、フローチャートなどでシナリオの分岐も確認も可能。チャート埋めや始めからのプレイなども簡単だ。

ゲーム自体のボリュームも良くまとまっており、読み始めから全ルートの攻略までそれほど大層な時間はかからない。システム面で混乱することもそうないだろう。

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また、史実を題にとった物語である以上、中国史の知識があるとより楽しめる作品になっているとは思う。しかし、物語の最中にそういった知識が必要とされる部分はほとんどない。

実際のところ私も中国史にそれほど明るくないが、本作はあくまで良と穂の物語であるためだろうか、物語にすんなりと入り込むことができた。作中に出てくる用語や漢字も、日本語での読み上げがあるため、頭に入ってきやすい。

意外にも思えるテーマを扱う本作だが、日本語ボイスやローカライズ、そして親切設計なシステムによって「物語」に没入できる、そんな丁寧な作品に感じた。厳しい時代の中で生きる男と少女の数奇な運命。それをぜひとも、本作で体験してみてほしい。

『飢えた子羊』は税込1200円。日本語ボイス対応を記念したセールが開催されており、過去最大の25%オフの900円で購入が可能。セールは10月29日(月)午前3時までを予定しているので、本作が気になる方はぜひはやめにチェックしよう。

ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。
編集者
3D酔いに全敗の神奈川生まれ99’s。好きなゲームは『ベヨネッタ』『ロリポップチェーンソー』『RUINER』。好きな酔い止めはアネロンニスキャップとNAVAMET。
Twitter:@d0ntcry4nym0re

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