「ファミコンウォーズが出ーるぞッ!」(ファミコンウォーズが出ーるぞッ!)
「こいつはドエラいシミュレーション!」(こいつはドエラいシミュレーション!)
「のめりこめる!」(のめりこめる!)
「のめりこめる!」(のめりこめる!)
「かーちゃんたちには内緒だぞ!」(かーちゃんたちには内緒だぞ!)
そんな強烈極まりない歌が流れるテレビコマーシャルで今なお一定の知名度を誇る、任天堂のターン制戦術級シミュレーションゲーム(ストラテジーゲーム)『ファミコンウォーズ』。
そのシリーズ最新作にして、2004年にゲームボーイアドバンス向けタイトルとして発売された『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』のリメイク作品、『Advance Wars 1+2 Re-Boot Camp』が2023年4月22日にNintendo Switch向けに発売された。
……日本を含む、アジア地域以外で。
「よもや、この時代に日本未発売の任天堂の新作ゲームが現れようとは……。」
過去に遡れば『Geist(ガイスト)』【※】のように、任天堂が日本での発売を見送ったタイトルはいくつか存在する。だが、近年はそういった日本での発売を見送るゲームはかなり減った。そんな中、この『Advance Wars 1+2 Re-Boot Camp』である。
しかも、このゲームは日本でも発売された『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』のリメイク作品。なぜ、そのようなゲームが日本未発売に……?
※『Geist(ガイスト)』:2005年8月15日に海外限定で発売されたファースト・パーソン・シューター(FPS)。人間や機械などに憑依して謎を解いたり、敵と戦うシステムを特徴とする。当初、日本語版の発売も予定され、2004年開催の「NINTENDO WORLD Touch! DS」に試遊出展されたのだが、最終的に発売中止となった。ちなみに『メトロイド』の主人公サムス・アランが大変ユニークな形でゲスト出演(?)している。
だが、Nintendo Switchはゲームソフトの起動を国・地域ごとに限定させる「リージョン制限」を設けていないゲーム機。そのため、日本未発売でも、ゲームソフトさえあれば普通に遊べる。まさに「日本で出ないなら、海外版を買えばよかろうなのだ!」ということで、筆者は(想定を上回る)円安ダメージを受けながら購入へと至った。
2024年11月25日(月)で、『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』は発売から20周年を迎える。
本作に関しては、初報のあった2021年に電ファミニコゲーマーでもニュース記事が掲載されているが、実際にゲーム本編を遊んでのレビュー・レポート記事は存在しない。買った人間としては、その具体的な情報や中身のことを伝えて残す必要があるのではと思い、このたび筆を執るに至った。
なお、本作においては発売から1年半以上が経過した日本語版発売の兆しはない……。正直、筆者個人の考えでは99.99%無いと考えていたりするのだが、本記事を通してどんな内容なのか気になっている人にゲーム本編の雰囲気などが伝われば幸いである。
2作を1本にまとめたカップリングタイトル『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』
最初に『Advance Wars 1+2 Re-Boot Camp』のオリジナルである『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』を紹介しておきたい。
『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』は2004年11月25日、ゲームボーイアドバンス向けに発売されたターン制戦術級シミュレーションゲーム。『ゲームボーイウォーズアドバンス』とその続編『ゲームボーイウォーズアドバンス2』を1本にまとめたカップリングタイトルである。また、この作品は1988年にファミリーコンピュータ(ファミコン)向けに発売されたターン制戦術級シミュレーションゲーム『ファミコンウォーズ』のシリーズ最新作でもある。
『ファミコンウォーズ』は1988年の第1作発売の後、携帯ゲーム機『ゲームボーイ』向けの新作として『ゲームボーイウォーズ』を1990年に発売している。
この『ゲームボーイウォーズ』は『ファミコンウォーズ』と異なり、マップのマス目にスクエア(四角形)ではなく、ヘックス(六角形)を採用していて、それを踏まえた戦術が必要とされる作りを特徴としていた。
この『ゲームボーイウォーズ』は『桃太郎電鉄』、『ボンバーマン』などで知られたハドソンが思考ルーチン(AI)の高速化を図ったアップグレード版『ゲームボーイウォーズTURBO』を開発。任天堂とのライセンス契約を交わし、ハドソンが販売も担当する形で1997年6月27日に発売された。その後『ゲームボーイウォーズ』は『ゲームボーイウォーズ2』、『ゲームボーイウォーズ3』と、ハドソン開発による新作が相次いで作られ、独自の展開を見せている。
『ゲームボーイウォーズアドバンス』は、タイトルこそ『ゲームボーイウォーズ』の名を冠しているが、実際には『ファミコンウォーズ』の系譜に連なる新作となる。
それを象徴するのがマップのマス目で、『ファミコンウォーズ』と同じスクエアを採用している。また、開発も初代『ファミコンウォーズ』と『ゲームボーイウォーズ』、そして1998年発売の『スーパーファミコンウォーズ』に携わったインテリジェントシステムズが担当している。まさに本流の新作なのである。
基本的なゲームの内容も『ファミコンウォーズ』および『ゲームボーイウォーズ』とほぼ変わりない。歩兵や戦車といったユニットを手持ちの軍資金を消費して「工場」の施設で生産し、カーソルでつかんで動かしながら都市などの施設の占領、敵軍との戦闘を繰り広げつつ、敵本拠地の制圧、もしくは敵軍の全滅を目指すターン制の戦術級シミュレーションゲームだ。
簡易で特徴が分かりやすいユニット名称、それぞれの相性と数字のぶつかり合いに徹した戦闘システムなどの『ファミコンウォーズ』で確立されたゲームデザインなどもそのままである。
厳密には本作の時系列上の前作に当たる『スーパーファミコンウォーズ』がゲームデザインのベースになっており、同作で初登場した「将軍」を発展させた「ショーグン・システム」が導入されている。
『スーパーファミコンウォーズ』における「将軍」とは、異なるAIをキャラクターへと見立てたシステムで、主にシングルプレイにおいては誰を相手に選ぶかで全く違った戦いが楽しめることを特徴としていた。
例えば「フォン ロッソ」という将軍であれば、守りは一切考えずにひたすら前進する戦術を駆使してきたり、(ものすごく危ない名前だが)「ヘットラー」ならば戦闘工兵を大量生産する”質より量”の戦術を駆使してくるといった感じだ。
中には強力なステータス補正、ボーナス効果が付与される将軍もいて、(これまたギリギリすぎる名前だが)「ビリーゲーツ」ならターン開始のたびに軍資金ボーナスが入る、「キャロライン」なら時折、戦闘時に致命傷を与えるクリティカルヒットが出るなど、難易度選択機能としての役割を兼ねていることも特徴のひとつとなっていた。
「ショーグン・システム」はこれをさらに発展させ、キャラクターごとに異なるステータス・ユニット性能補正がかかるようになった。
「マックス」というキャラクター(ショーグン)を例に出せば、直接(近距離)攻撃に優れる一方で、間接(遠距離)攻撃は射程にマイナス補正がかかってしまう(※射程2の遠距離ユニットが、マックスだと射程1に低下)といった感じだ。
また、戦闘を重ねるたびに「ブレイクゲージ」が溜まっていき、満タンに達すると「ブレイク」(ショーグン・ブレイク)が使用可能になる。
いわゆる必殺技で、発動させることで全ユニットの攻撃力アップのほか、マップの天候を雪に変える、全ユニットの体力を回復するといったパワーアップおよびサポートを図れるようになった。中には全ユニットにダメージを与える嵐を発生させるという、文字通りの必殺技もある。なお、いずれのブレイクも効果が作用するのは1ターンのみである。
このシステムの導入により、過去のシリーズ作における課題になっていた戦況のこう着、互いの戦力が拮抗して長期戦に陥る事象が発生しにくくなり、テンポよく戦闘が展開されるようになった。また、演出面でも派手さが増したほか、ショーグンというキャラクターが打ち立てられたことにより、ストーリー性もプラスされることになった。
現にゲームモードにもストーリーに沿ってマップを攻略していく「キャンペーン」が導入されている。他にも最大2~4人参加可能なマルチプレイ、オリジナルのマップを作れるエディットが登場。細かい所では、『スーパーファミコンウォーズ』で初登場となった黄色の軍(イエローコメット)、緑色の軍(グリーンアース)も続投している。
そして続編『ゲームボーイウォーズアドバンス2』では、より強力な上位ブレイク「スペシャルブレイク」が追加。「キャンペーン」にも敵専用のマップ兵器が新たに追加されたほか、その破壊を目的とした特殊マップも登場するなど、大幅な進化を遂げている。
このように全体としては『スーパーファミコンウォーズ』をベースに発展させ、ゲームデザインと戦術性の面にも「ショーグン・システム」という新要素を通して一新を図った新作となっている。
なぜ『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』は2作セットでの発売になったのか?
しかし、なぜ2作を1本にしているのかと、特に当時を知らない世代ほど疑問を覚えるかもしれない。
実の所、当初は2001年の秋に『ゲームボーイウォーズアドバンス1』が単体で発売される予定だった。また、本作はシリーズで初めて海外展開も実施された新作で、『Advance Wars』の名で日本に先んじて2001年9月10日に発売。日本語版はその後になるはずだった。
しかし、後に無期限の発売延期が発表された。その理由は公式には明言されていないのだが……北米版の発売日から、その次の日に何があったのかは容易に推測できるはずである。
そして時は2002年を迎えるが、1年経っても日本語版の続報はなし。さらにその次の2003年5月には、なんとアメリカで開催されたゲーム見本市「E3」にて続編『ゲームボーイウォーズアドバンス2(原題:Advance Wars 2: Black Hole Rising)』がお披露目。日本語版の前作の発売が一向に決まらない中、海外先行で次の新作が発表されてしまったのだ。
この続編は同年6月24日に北米先行で発売。例によって、日本での発売は不明とされた。
ようやく動きがあったのは2004年のこと。結果的に海外で続編が発売済みだったことから、2作を1本にしたカップリングタイトルの形での発売が決定。同年11月21日に発売されたのである。つまるところ、海外ではそれぞれの作品が個別に発売された。2作セットの『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』は日本独自のタイトルなのである。
そして、今回の『Advance Wars 1+2 Re-Boot Camp』は、そんな日本でしか展開されなかった『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』初の海外版であり、すべてを装いも新たに一新したリメイクとなる。
2作を1本にするコンセプトを深めたリメイク版『Advance Wars 1+2 Re-Boot Camp』
『Advance Wars 1+2 Re-Boot Camp』は2023年4月22日より、北米と欧州向けに販売されている。日本を含むアジア地域向けには展開されておらず、ゲーム内言語は日本語に対応していない。
本作の開発はアクションアドベンチャーゲーム『シャンティ』シリーズや『熱血硬派くにおくん外伝 River City Girls』、そして『魂斗羅 オペレーションガルガ』の発売が記憶に新しいアメリカのWayForward Technologiesが担当。オリジナル版を開発したインテリジェントシステムズは参加していない。
コピーライトの表記にはインテリジェントシステムズの名があるが、本編のスタッフクレジットを筆者が確認した限り、主要スタッフはすべてWayForward Technologiesのメンバー。インテリジェントシステムズは特別協力として、3名の関係者【※】が参加するだけに留まっている。
※この関係者のうち、オリジナル版の開発に携わっていたスタッフは2名だけである。
基本的なゲームの内容はオリジナル版に準拠。ただ、カップリングタイトルだったオリジナル版とは異なり、リメイク版は1本の新作ゲームとして統一させる方向でまとめられている。
具体的にはモードセレクト画面がひとつに、「キャンペーン」は『ゲームボーイウォーズアドバンス1』と『ゲームボーイウォーズアドバンス2』のシナリオを選ぶ形にするといった統合が実施されている。
グラフィックも原作のドット絵から3DCGに変更。テイストはリアル志向ではなく、玩具の模型(フィギュア)っぽさを押し出したコミカルなものになっている。マップもジオラマをモチーフしたデザインになっており、玩具っぽさを前面に出している。
また、ショーグンたちのデザインもアニメ調に一新。さらにオープニングを始め、アニメムービーが節々に追加されている。「ブレイク」も当然のように(?)キャラクターがアニメーションする作りに改められ、大幅に派手さと迫力が増している。
ちなみにショーグンたちのデザインはオリジナル版の頃から日本、海外とで一部、差異があった。リメイク版は海外版をベースにしているのだが、アスカ(Sonja)は日本語版と海外版の折半とも言えるデザインに変更。また、ビリーは日本語版をベースにしたデザインになっている。
もうひとつ、ショーグンに関しては『ゲームボーイウォーズアドバンス1』と『ゲームボーイウォーズアドバンス2』で、衣装にも大きな差異があったが、リメイク版は統合の方針に沿って2作共通になっている。
それとは別に、リメイク版独自に新たにデザインが描き起こされたショーグンもいる。あえてネタバレ防止の形で、”『ゲームボーイウォーズアドバンス1』にのみ登場するショーグン”とだけ言っておく。オリジナル版は容量的な”都合”を感じさせるものだったが、リメイク版は新規に描かれているのだ。
他にショーグンたちの所属する国の名称も、江戸時代や昭和時代の日本をモチーフにした「イエローコメット」が「ゴールドコメット」に変更されている。さらに「キャンペーン」では各国の兵士が会話イベントに登場する一幕があるが、全軍に女性の兵士が追加されている。いずれも時代の移り変わりを踏まえた変更といったところである。
システム面では、早送り機能とターンやり直し機能が新たに追加された。前者はZRボタン押しっぱなしで、ユニットの移動から戦闘シーンまで早送りできるというものだ。
後者はメニュー画面から選べるもので、ユニットを意図しない所に動かしてしまった際の1ターンリセットが可能になった。ただし、いわゆる一手戻しではない。ターンの始まりまで戻すものである。ついでに言うと、過去のターンに遡ってやり直すことはできない。回数制限はないため使い放題だが、上手い話に裏ありといった感じだ。
また「キャンペーン」に難易度選択機能が追加された。実はオリジナル版にもクリア後要素で難易度選択機能はあったのだが、リメイク版には優しい難易度として「CASUAL」が初回プレイ時に選べるようになった。
これを選ぶと、プレイヤー側の戦力が相手よりも充実した状態でマップ攻略に挑めるようになる。ターンごとに入る軍資金が増える、ステータス補正がかかる、といったような変化はない。
さらに「キャンペーン」ではクリアしたマップの再プレイが可能に。オリジナル版は一方通行で、クリアしたマップを再び遊びたければ「キャンペーン」をまた最初からやり直すしかなかったのだが、2008年発売(※日本では2013年配信)の『ファミコンウォーズDS 失われた光』(以下、失われた光)収録の「ストーリーモード」のシステムが逆輸入された。
これにより、『ゲームボーイウォーズアドバンス1』のマップ分岐、『ゲームボーイウォーズアドバンス2』の「研究所」マップへの挑戦難易度も軽減されている。
『失われた光』からは簡易攻撃コマンドも逆輸入されている。ユニットをつかみ、移動場所を指定する際に敵ユニットにカーソルを合わせ、決定ボタンを押せばそのまま攻撃を仕掛ける(戦闘シーンに突入する)というものだ。
『失われた光』の時はカーソルを合わせて決定ボタンを2回押す必要があったが、本作は1回押せばすぐに切り替わるという手数を減らした仕組みになっている。ゆえに『失われた光』のプレイ経験がある人は、最初に戸惑うかもしれない。
他にはゲームモードにもオンライン対戦、エディットで作ったマップのアップロードおよびダウンロード機能も新たに追加された。細かい部分でも「キャンペーン」のストーリーが僅かに加筆されていたり、音楽に新曲として初代『ファミコンウォーズ』と『スーパーファミコンウォーズ』のアレンジ楽曲が複数追加されているというのもある。
全体的には現代向けのパワーアップを素直に施したリメイク版となっている。一部ショーグンのデザイン変更にあるように日本語版の要素を取り入れている部分もあり、ハイブリット感も滲み出た仕上がりだ。
豪華にしつつ、オリジナル版の一部仕様もあえてそのままにして残す作り込み
実際にその仕上がりはどうだったのかと言えば、シンプルに現代風の豪華さをプラスした『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』となっている。特にグラフィック、演出周りは元の良さを残しつつ、より派手に強化するという素直な進化を遂げている。
『ファミコンウォーズ』伝統の取っつきやすさ、オリジナル版『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』の強みでもあった操作レスポンスの良さも健在だ。
日本語に対応していないため、プレイするに当たっては英語などの言語でのプレイを余儀なくされるが、歩兵や戦車といったユニットの名称は分かりやすい単語で記されているに加え、デザインを一目見るだけで特色や強さが分かるようになっているので、辞書要らずだ。さすがに「キャンペーン」のストーリーなどを理解しながら遊ぶとなれば、辞書は必須になるが。
筆者個人が特に感心させられたのは、よくも悪くもオリジナルの『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』を忠実にリメイクしていることだ。
例えば相手ショーグンの指揮を担当する思考ルーチン……今で言えばAIだが、オリジナル版では本拠地近くまで進軍すると、歩兵ばかり生産を繰り返すようになり、逆転への意欲を失うという変化が見られた。
この傾向は後発の『ファミコンウォーズDS』で多少、改善されたのだが、なんとリメイク版はオリジナルのAIを踏襲。歩兵の生産を繰り返す動きを見せるようになっている。正直なところ、後発の作品での改善を知っていると、これは実質退化なのだが、あえてオリジナル版を再現する所にこだわりを感じさせる。
それでいて、改善の必要のある箇所にはちゃんとメスが入れられている。一例として「索敵マップ」、見える範囲が制限されたマップは、AI側にはこちら側のユニットの位置が丸見えになっていると思しき挙動がオリジナル版には見られた。対し、本作は見えていないことを察する動きをするようになり、多少ながら関連するマップの難易度も妥当なバランスに調整された。
そして、これは『ゲームボーイウォーズアドバンス2』限定の話題になるのだが、「キャンペーン」後半で敵ショーグンとして現れる「ホーク」のAIも改善された。
相手側の全ユニットに1~2のダメージを与え、使用側の全ユニットは1~2回復するという強力なブレイク「ブラックウェーブ」およびスペシャルブレイク「ブラックストーム」を扱うショーグンで、その特徴からオリジナル版経験者からは通称”吸血鬼”と称された強敵である。
そんな彼はブレイクゲージが溜まれば即座に次のターンでブレイク(スペシャルブレイク)を繰り出してきたのだが、その傾向が変更され、若干、状況を読んで繰り出すようになった(つまり、ゲージ満タン直後のターンで繰り出さなくなった)。これにより、物量による消耗戦になりがちだった一部マップの難易度も緩和され、攻略しやすくなっている。
だが、「キャンペーン」の難易度周りで最も大きな変化が現れているのはクリア済みマップの再プレイが可能になったことだ。
最もその恩恵を受けているのが『ゲームボーイウォーズアドバンス1』。同作には特定の条件を達成することで、特別なマップが解禁されたり、違うルートに移るといった分岐イベントが多数仕込まれていた。
再プレイ解禁で、リメイク版ではすべての分岐パターンが楽しめるようになると同時に、周回の必要もなくひとつのセーブデータ内で全部のマップが体験可能になった。これもオリジナル版経験者には嬉しい変更点で、どうしても”漏れ”が生じてしまう仕組みにストレスを抱いていた人にはたまらないだろう。
同じく続編の『ゲームボーイウォーズアドバンス2』の「キャンペーン」でも、特定の条件を達成しないと解禁されない「研究所」のマップを攻略しなければ、「新型戦車」という強力な戦車ユニットが使えない制約があったのだが、これも再プレイが可能の恩恵により、あとからの挽回が効くようになった。
おかげで、全ユニットが解禁された状態で最終マップに挑むのも容易になっている。もっとも、『ゲームボーイウォーズアドバンス2』の最終マップは、新型戦車があってもなくてもかなりの高難易度だったりするのだが。
難易度に関しては、選択機能が設けられたのもありがたいところ。基本的に難易度はセーブデータのロード画面から自由に切り替え可能に加え、例えば「CASUAL」で10マップほど攻略したあと、「CLASSIC」に切り替えてもその進捗が維持されるようになっている。
ただし、マップごとのクリア評価は難易度ごとに独立している都合、引き継がれない。逆に言えば、難易度別のクリア評価を最高の「S」に達成させるやり込みが可能になったことで、遊び方次第では非常に長く楽しめる作りになっている。
また、前述したが本作は『ゲームボーイウォーズ』の名を冠しながら、中身は『ファミコンウォーズ』の系譜に連なる新作として設計されている。
ただ、オリジナル版にはその系譜を感じさせる部分が「フリーバトル」に収録された『ファミコンウォーズ』のマップしかなかった。リメイク版は、そこにアレンジされた音楽が加わったことで、系譜に連なる新作としてのらしさがある程度増した。
『ファミコンウォーズ』の音楽は初代『メトロイド』、『Dr.マリオ』、『MOTHER2 ギーグの逆襲』などで知られる元任天堂の田中宏和氏が手がけている。多くの任天堂作品で耳に残りやすい楽曲を作ってきたこともあってか、『ファミコンウォーズ』にもそのような楽曲が揃っていた。本作はそんな『ファミコンウォーズ』の楽曲をいくつか拾っている。使いどころにも意外性があり、シリーズを知る人ほど「なるほど!」と納得すると同時にニヤリとしてしまうはずだ。
ちなみに筆者個人が最も衝撃を受けたのは『スーパーファミコンウォーズ』で追加された新曲が使われていたことである。どこで使われているのかは秘密だが、コンビニエンスストア「ローソン」で展開されたスーパーファミコンのゲームソフト書き換えサービス「NINTENDO POWER」オリジナルの新作として発売され、海外では未発売の『スーパーファミコンウォーズ』までフォローする所に大きな感動を覚えた次第だ。
他に元々、ゲームソフト2本を1本にまとめた関係上、それぞれのタイトルで購入する必要のあった「ウォーズショップ」の販売アイテム(別モード用のマップ、ショーグンなど)が、統合されたおかげで手間が軽減されたのも嬉しいところ。
また「キャンペーン」のマップ再プレイ解禁によって、購入に必要な通貨(ウォーズポイント)が集めやすくなっているのもありがたい。細かい所でも、携帯モードとの相性は申し分なし。また、後発の『失われた光』から引き継がれた簡易攻撃コマンドも、遊びやすさの向上につながっている印象だ。
豪華にした弊害で、全体的なテンポはオリジナル版よりも低下した
一方で、オリジナル版から明確に後退したと言える部分もある。
最も際立っているのはゲーム全体のテンポだ。「ブレイク」(ショーグンブレイク)を発動させると、直後にマップ上のユニットにその効果がエフェクトと共に付与される演出があるのだが、このスピードがオリジナル版から大幅に遅くなってしまっている。ビジュアル的に派手になったことによる代償を受けてしまった感じだ。
また、相手が不利になると専用の台詞が挿入される演出が新規に追加されたのだが、これもテンポの悪化を招いている。この台詞をスキップすることができないのも拍車をかけている感じだ。(イベントスキップ機能自体は備わっているのだが……)
筆者は『失われた光』の経験者なのだが、そちらを体験済みだと戦闘シーンのボタンスキップが廃止されているのも残念。実は2005年に発売された『ファミコンウォーズDS』から戦闘シーンのボタンスキップが可能になり、ゲーム全体のテンポが大幅に底上げされたのだ。『失われた光』でもそれが継承され、前作に勝るとも劣らない快適性を実現していた。
だが、リメイク版は早送り機能との兼ね合いとグラフィックを3Dに一新した都合のためか、簡易攻撃コマンドとは異なり引き継がれなかった。
元々、オリジナル版もスキップには対応していないので、それに則ったとも言えるのだが、非常に便利な機能だっただけに、引き継がれなかったのが残念な限りだ。簡易攻撃コマンドが引き継がれているだけに尚更である。当の戦闘シーンもグラフィックこそ派手になったものの、ややもっさりとしたものになってしまっているところが惜しい。
ただ、早送り機能である程度、テンポを早めてプレイすることは可能。また、オリジナル版同様に戦闘シーンを丸々カットするオプションは健在である。もし、テンポが気になるなら、こちらをOFFにしてプレイするのがおススメだ。
さらにこれはオリジナル版経験者にとって賛否の分かれる部分だが、ターンごとの途中経過をセーブできなくなった。代わりにロードすれば消滅してしまう中断セーブが導入されている。
これはおそらく、ターンのやり直し機能との兼ね合いから削られたのだろう。そのため、オリジナル版を1ターンずつ小まめに記録しながら遊んでいた人には、ちょっと辛い仕様変更と言えるかもしれない。
他に少し惜しいところとして、難易度選択機能が挙げられる。「CASUAL」はもっと易しくて良かったように思える。基本的に戦力差しか違いがなく、難易度の低下を感じにくいのだ。そのため、通常の「CLASSIC」とほぼ変わらない難易度のマップも少なくない。前述したが、軍資金が増える、攻撃力が上がるみたいなボーナスもあって良かったように感じてしまったところだ。
そして、オリジナル版でも健在だった中途半端に低年齢層向けで、軽いストーリーもそのまま。『ゲームボーイウォーズアドバンス2』の「キャンペーン」開始早々に主人公格のショーグン「リョウ」が放つ問題発言も変わっていない。一部ショーグンの設定にまつわる大きな矛盾も修正されていないなど、詰めの甘い部分には人によってはガッカリしてしまうかもしれない。
とは言え、一部のイベントは台詞が加筆されていたりも。オリジナル版では会話のやり取りだけだったイベントにも一部、アニメムービーによって詳細に描かれるものがあるところも注目に値するところだ。
手触り感の良さと遊びやすさで一歩先を行く元祖の強み。一方で日本語版の発売はかなり怪しそう
総じてオリジナル版よりもテンポ周りで大きな課題を残しており、経験者なら賛否が分かれやすい。ただ、順当にパワーアップした部分や改善された箇所もあることから、良好なリメイクとしての出来に収まっている感じだ。
昨今はインディーゲーム界隈にて、『ファミコンウォーズ』および『ゲームボーイウォーズアドバンス』に影響を受けた作品も出てきている。
その中で、任天堂も推したことがあるファンタジー版『ファミコンウォーズ』こと『Wargroove(ウォーグルーヴ)』は、影響を受けた作品の中でもとりわけ象徴的と言える。2023年10月には続編も発売されただけに尚更だ。
ただ、改めて本家本元をプレイすると、操作の手触りの良さは圧倒的にこちらに軍配が上がる。元々、オリジナル版『ゲームボーイウォーズアドバンス1+2』は手触りも大変素晴らしく、特にカーソルの動かす際の小気味よい効果音とレスポンスの良さといった部分によく現れていた。
リメイク版もその手触りの良さはきちんと再現しており、何も考えずカーソルを動かすだけでも心地よい気持ちに浸れる。カーソルの効果音もオリジナル版のものを踏襲しているだけあって尚更だ。思い通りに動かせて、戦闘にじっくり取り組めるという点においては、どんなに影響を受けた作品が出てきても本家本元には敵わないなという感じだ。
それだけに海外専売で、日本では未発売という現状がもどかしい限りだが。
しかし、現実に戦争や紛争が起きているという報道がされ、その凄惨な映像もSNSに流れてきたりする昨今。
海外版も当初は2022年春の発売を予定していたが、同年2月下旬の出来事による世界情勢の変化により、無期限発売延期となった経緯があるため、初お披露目された2021年の時よりも大変厳しい状況にあるのは間違いないだろう。そのこともあって、筆者は日本語版が発売される可能性は00.01%と推察している。
その低すぎる確率が今後、ミラクルを起こすか否かは分からないが……、オリジナル版は日本国内でも展開されたタイトル。特殊な形でもいいので、日本語で遊びたい人が遊べる手段が整えられる未来を待ちたいところである。
それ以上に来てほしい未来は、(理想論すぎるが)現在の戦争や紛争を伝える報道が無くなることによる平和だが。そういうことはゲーム内だけのことと言われ、『ファミコンウォーズ』シリーズがなんの足かせもなく発売できるようになる時代が来ることを心から願う。