「初めて見るのに、どこか懐かしい」
それが、今回紹介する『鉄道にっぽん!メモリアル キハ85 特急南紀編』をプレイしたあとの気持ちです。剣と魔法の大冒険や、巨大組織の陰謀を暴く──そんなゲームをプレイしたあとのカタルシスとはまた異なる、あたたかいのに爽やかな気持ちが胸に残りました。
本作は、ソニックパワード社が開発する鉄道シミュレーター『鉄道にっぽん!』の、引退車両にフォーカスを当てた新シリーズ『鉄道にっぽん!メモリアル』シリーズの第1弾。愛知県の名古屋駅から和歌山県の新宮駅を通る「特急南紀」の引退車両「キハ85系」の運行体験を、当時の実写映像とともに楽しめる作品となっています。
……ところで、筆者は実は「鉄道ミリしら」(鉄道のことを1ミリも知らない)です。
列車のことは「通勤や通学に利用する乗り物」という認識の域を出ませんし、「特急南紀」が通る地域にも全く縁がないので、編集部からレビューを依頼された時に「自分で大丈夫か……?」と不安でした。ところが編集部いわく、「非常にエモい作品なので、ぜひ鉄道ミリしらの人にプレイしてほしい」とのこと。
実際に本作をプレイしてみると「なるほどたしかに、これはエモい……。」と納得。
五感に訴える演出の臨場感や没入感のある鉄道シミュレーター体験には開発チームの鉄道愛を感じますし、初心者でもなんとなく「鉄道のロマン」みたいなものを感じられる作品に仕上がっているんです。
のどかな日本の自然のグラデーションや、引退した車両という題材も合わせて、初見の人でも「鉄道」という馴染み深い乗り物での思い出を刺激され、それぞれのノスタルジーを感じられるような素敵な作品になっていました。
本稿では、そんな本作のノスタルジーを構成するハイクオリティな要素や、「ゲーム」としてのプレイ感などを、発売前の先行プレイの感想をふくめて紹介したいと思います。
※この記事は『鉄道にっぽん!メモリアル JR東海 キハ85 特急南紀 編 』の魅力をもっと知ってもらいたいソニックパワードさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
実写映像とマッチした、リッチな演出。臨場感高く、日本ののどかな風景を楽しめる
「鉄道ミリしら」なうえ、「鉄道シミュレーター」というジャンルも初体験の筆者。ゲームを開始してまず感じたのは、実写映像とそれに付随するサウンドやコントローラーの振動などが織りなす、あまりに臨場感あふれる運転士体験でした。
ゲームを開始すると、出発駅である名古屋駅のホームに停車した状態からスタートします。その瞬間に感じたのが「自分は今、列車に乗っている」という感覚です。どういうことかというと、手元のコントローラーが停車中の列車の細かな振動を再現して震えるんですね。これが非常にリアルで、目の前に広がる運転席の光景と相まって、一瞬でゲームの世界に飛び込むことができました。
駅を発車してからも、走行中の「ガタンゴトン」という揺れをコントローラーで完全再現。switchのHD振動の活かし方として「電車の走行中の揺れ」を再現するものがあるとは……!
さらに、サウンド面も非常にリッチです。通常の線路から鉄橋に切り替わった時の音、すれ違う対向列車の走行音。筆者は本作に登場する「キハ85 特急南紀」に乗ったことはありません。ですが、普段電車に乗るときの感覚からすれば実在の列車に乗っている感覚と遜色ない、リアルな音響です。
サウンド面で特に筆者が感動したのは、警笛(空笛)の仕様です。本作には列車の運行中、任意のタイミングで警笛を鳴らすことができるシステムがあります。もちろん、運転士としての「ごっこ遊び」的な楽しさを味わえるほか、線路脇や踏切に作業員がいる場合など、適切なタイミングで鳴らすことでスコアが上昇する仕組みでもあります。
筆者が驚いたのは、なにげなしにトンネル内で警笛を鳴らした時のこと。警笛の音が、きちんとトンネル内で反響したようなエフェクトで聞こえるんです。開発チームの鉄道愛や、細やかな気配りを感じたポイントでした。
本作のウリのひとつである、「引退前のキハ85系から撮影した、実写の運転映像」は、当たり前に臨場感たっぷりです。名古屋から出発し、序盤は田園風景と住宅地が入り混じる光景、中盤の起伏に富んだ山間地帯、終盤では紀伊半島の海辺を臨む眺めと、全長231kmの旅程の中で、「のどかな日本の自然」が非常に豊かなグラデーションを見せてくれます。
後述する、運転シミュレーターとしてのゲーム部分との噛み合い方も完璧。本作のUIには「現在地の勾配」が表示されます。現実の線路上に現れる標識がアイコンとして表示され、速度調整の目安になるものなのですが、現実の地形と、ゲーム内の勾配が完全にリンクしているんです。
どれほど完璧かというと、ゲーム中盤、比較的起伏の激しい区間に差しかかった時のこと。細かな勾配の変化に、筆者はゲーム内のアイコンではなく、自然と実写映像に現れる「現実世界の標識」を見て速度調節を行っていたんです。
ゲーム内のUIでは、現在走っている線路の勾配が表示されます。それと比べて、実写映像では、ワンテンポ早く標識を視認することができるので「これから勾配が変わるぞ」ということをあらかじめ認識できます。基本的にはゲーム内のアイコンの方が見やすいのですが、起伏の激しい場所ではそんな芸当が有効なほど、ゲームシステムの部分が現実世界に忠実に作り込まれているんです。こうした再現度の高さに、本作における「原作」である実際の「特急南紀」への深いリスペクトを感じました。
入り込みやすく奥深い鉄道シミュレーション体験。やり込み要素もガッツリ
本作の鉄道シミュレーター、ゲームとしての側面にも触れていきましょう。
正直なところ、筆者はゲームとしての本作をちょっとナメていました。「引退車両から撮影した実写映像」という推しポイントのこともあり、「鉄道に詳しくない自分がプレイして、果たしておもしろいのだろうか……?」という懸念があったんです。しかしながら、本作は初心者でもすぐに、運転士になることができます。
本作で運転する車両は「ツーハンドル式」と言って、加速を調整する「マスコン(自動車でいうアクセル)」と、減速を調整するブレーキを、それぞれ別のレバーで操作する形式です。コントローラーのボタン配置も、左手で加速、右手で減速を操作する形になっていて、操作を直感的に理解することができます。
走行中の速度調節に関しても、UIに表示されるグラフの通りに調節していけば、ダイヤ通りの運行が可能。少しコツは必要ですが、すんなりと入り込むことができました。
操作自体は簡単で、とりあえず列車を動かす分には非常にスムーズな一方、運行するのは現実の路線です。周囲の環境や路面の勾配によって細かなスピード調節が必要ですし、起伏の激しい箇所などは注意深くその変化を気にしなければなりません。筆者は本作ではじめて、「列車の運転って結構忙しいものなんだな」ということを知りました。でも、その程よい忙しさがゲーム的な状況判断としても面白いんです。
本作は「特急南紀」の全行程を各停車駅ごとに分割して遊ぶことができます。その中でも緊張するのは、駅への停車です。通常走行時はある程度の範囲内の加減速で対応できるのが、停車時はかなり手前からなめらかに減速していかなければいけないので、ブレーキの加減が非常に難しい。うっかりオーバーランでもしようものならゲームオーバーになってしまうので、1ゲームの締めくくりとして気が引き締まります。
本作にはスコア機能が搭載されており、「定刻通りに到着できたか」と、「どれだけ正確に停車できたか」が主な採点対象になるのですが、最高ランクの「S」を取ろうと思うと、それこそ現実世界並みの正確さが求められます。ダイヤ通りの運行に関しては、さきほど述べた速度目安のグラフに沿って行けばおおむね達成できるのですが、停車の正確さで高得点を取ろうと思うと、数センチ単位の調節が必要で、ゲーム的なやりこみ要素としても楽しいところです。
本作のクオリティの高さは鉄道愛を感じる要素でありつつ、没入感が削がれたり気が散ったりすることがなくプレイに集中できるという「ゲームとしての完成度の高さ」でもあります。
【※】EB装置……「緊急列車停止装置」の略。運転中に運転士が失神・居眠りなどをした場合に備え、一定時間操作がされないと警告音が鳴ったり、非常ブレーキが作動したりする。
そして、本作は「現実の路線を走るシミュレーターだから、1プレイに要する時間も現実の走行時間と同じ」なんです。
筆者はこの事実をゲーム中盤にふと再認識し、ハッとした気分にさせられました。
これが他のゲームジャンルであれば、ゲーム自体に先を見たくなるような動機づけがされていて、どんどんストーリーやステージを前に進んでいきたくなるものです。最近だと、特にスマホゲームなどであれば、周回やスキップの快適さは重要視されるところですよね。
ところが本作には、ショートカットもなければ、どれだけ急いだとしても、制限速度以上にスピードが速くなることはないし、そもそも求められているのは定刻通りの運行です。「鉄道シミュレーター」としては当たり前の仕様かもしれませんが、これが筆者には新鮮でした。最近のゲームに多い「生き急ぐような感じ」ではなく、リアルタイム性がもたらす「しみじみとしたゲーム体験」があるんです。
そもそも、「日常生活では味わえないようなシチュエーションで、五感を含めた一人称的な体験ができる」ということがビデオゲームの良さのひとつですよね。筆者の場合、それが普段は「剣と魔法のファンタジー世界」だったり、「ネットワークやロボット工学が発達したSF的な近未来」だったりするわけですが、本作ではそれが「現実世界に存在する、引退してしまった車両の運転席」であるところに、ゲームというメディアの可能性を感じました。
完成度の高いゲーム体験と開発陣の鉄道愛が感じさせるノスタルジー。人々が鉄道に感じるロマンについて「鉄道ミリしら」が考えてみた
筆者はこれまで、「鉄道にロマンを感じる」という心理はあまり理解ができませんでした。本作を通じて、初めてその一端に触れることになったわけですが……。改めてこの機会に、「鉄道の良さってなんだろう?」ということを、素人なりに考えてみました。
まず思ったのは、「キハ85系」という車両のことも知らなければ、「特急南紀」の通る地域にも縁がない筆者が、本作のプレイを通してなぜかノスタルジーに似た感情を覚えたことです。ひとつ言えるのは、個人的なことですが、筆者の生まれ育った場所も本作の前半に見られる「田園地帯と、その中に立ち並ぶ住宅」という風景の多い地域だったこと。地元の電車に乗った時の景色に、どことなく重なるものがあったんです。
このように、列車というモチーフ自体が、それぞれの「鉄道にまつわる経験」を想起させるということがあると思います。旅行の時に乗っていた車両を見たら、当然その旅のことを思い出すでしょうし、学生時代に通学で使用していた路線に久しぶりに乗ってみたら、その時好きでヘビロテしていたアーティストの音楽が脳内再生されるようなこともあると思います。
そのうえで、鉄道はひとつの路線や車両が数十年というスパンで運用されるが故に、地域に根ざしたイメージが世代を超えて共有されるものです。我々もよく「〇〇線はこんな雰囲気」、「〇〇駅の周辺はこんな街」という例えをしますよね。さらには、路線や車両を超えた「日本の車窓風景」みたいなパブリックイメージもあることでしょう。
鉄道にまつわる表現で、「想いを乗せる」という言葉がよく用いられますが、これってあながち大げさなことを言っているのではなくて、それぞれの路線や車両、そして鉄道というもの全体に、さまざまな人の「思い出の総体」みたいなものが乗っていて、それがロマンの一端になっているのかもしれないな、というのが、本作をプレイした感想でした。
怒らないで聞いてほしいのですが、鉄道ファンの方たちって「なんだかやたらと車両に詳しい人たち」というイメージがありました。それも考えてみれば、物語が好きならその登場人物も好きになるように、ある種当たり前のことなのだなと腹落ちしたんですね。
本作は、これまで紹介したような臨場感あふれる演出や、没入感の高いゲームプレイの完成度によって、そうした郷愁や旅情のようなものを存分に感じられる作品になっています。それこそ、開発陣の「キハ85系」に対する思いも乗っていますしね。筆者は作中の田園風景にノスタルジーを感じましたが、これが東京生まれ・東京育ちの人であったとしても、その人なりの「懐かしさ」のようなものが感じられるはずです。
「特急南紀」の231kmという道程をリアルタイムに運転していくという体験を通じて、そういった懐かしさを感じながら、自分の運転する車両にもちょっとした愛着が湧いてきます。全行程をクリアすると、開発陣からエンディングという名の「キハ85系」へ向けた「お疲れ様メッセージ」が流れますが、いつの間にか自分も列車に対する感情移入ができるような気持ちになっていて、非常にプレイしたあとの余韻が心地よく、あたたかいゲーム体験でした。
本作は、「キハ85系」や「特急南紀」が好きな鉄道ファンの方にはもちろんおすすめできますが、鉄道シミュレーター未経験の方にとっても、その第一歩としてふさわしい作品だと思います。
記事中のスクリーンショットを見ても分かる通り、本作はインスタントな刺激を得られて、ドーパミンがドバドバ出るようなタイプの作品ではありません。それでも筆者が感じたような「チルい味わい」のようなものは確かにある作品です。忙しい毎日の中、ちょっとリラックスして「特急南紀」の旅情に浸ってみるのもいいかもしれません。
さらに、本作を予約することで、「Nゲージ キハ85系 ワイドビューひだ・ワイドビュー南紀 4両基本セット(KATO 10-1886)」やNintendo Switch向けの「ズイキマイコン」など豪華賞品が当たるキャンペーンにも参加可能。詳細は以下の記事にて紹介しているので、本作の購入を検討している方、本作をすでに予約した方はぜひチェックしてほしい。
『鉄道にっぽん!メモリアル キハ85 特急南紀編』はNintendo Switchで2024年12月19日発売。パッケージ版とダウンロード版の両方で展開されます。
JR東海承認済 / 伊勢鉄道商品化許諾済