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カードゲームの宿命「先攻有利問題」ってどうすれば解決するの? 「エクストラPP」を導入した『シャドウバース ワールズビヨンド』アプローチ事例【CEDEC2025】

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ターン制のカードゲームにおける宿命とも言える課題として、「先攻有利問題」というものがある。

先に行動するほうがリソースや、戦術の幅で有利になりやすい。多くのカードゲームが抱える構造的な問題だ。

2016年6月よりサービスを開始し、今年で9周年を迎えたデジタルカードゲーム『Shadowverse(シャドウバース)』では、カードを強化できるシステムである「進化」の回数を増やすことでこの格差にアプローチをしていた。しかし、根本的な解決には繋がらなかったという。

そこで、2025年6月よりサービスが開始された後継作『Shadowverse: Worlds Beyond (シャドウバース ワールズビヨンド)』では、異なる方法でこの問題にアプローチを行った。

その中で、特筆すべきなのが「エクストラPP」(いわゆる追加リソース)の導入だ。このシステムにより、先攻・後攻の手番格差の軽減はもちろん、序盤の事故防止にも繋がっているというのだ。

語られたのは、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会が開催する、開発者向けカンファレンス「CEDEC2025」のセッション「『Shadowverse: Worlds Beyond』二度目のDCG開発でゲームをリデザインする~遊びやすさと競技性の両立~」にて。

本セッションには、株式会社Cygames(サイゲームス)で『シャドウバース』および『シャドウバース ワールズビヨンド』のリードゲームデザイナーで、TCGプランナー マネージャーの宮下尚之氏が登壇

本記事ではセッションで語られた内容をダイジェスト形式でお届けしていく。

【CEDEC2025】カードゲームの「先攻有利問題」ってどうすれば解決するの?『シャドウバース ワールズビヨンド』アプローチ事例_001

文/シェループ
編集/竹中プレジデント


ゲーム設計において課題に「遊びやすさと競技性の両立」と「先攻有利問題」

宮下氏いわく、『シャドウバース ワールズビヨンド』の設計においては「遊びやすさと競技性の両立」と「先攻有利問題」というふたつの課題を掲げた。

「遊びやすさと競技性の両立」は、言葉からしても困難で相反するテーマだが、多くの新規プレイヤーに遊んでもらうためのシンプルで遊びやすい設計を厳守。そのうえでeスポーツシーンのため、探求し甲斐のある複雑さも押さえることに取り組んだ。

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「先攻有利問題」は『シャドウバース』に限らず、多くのカードゲームが抱える構造的な問題である。

カードゲームは1対1のターン制で展開され、最初に先攻後攻を決めてからスタートするのが基本となる。しかし、先に行動する側になるほど手札とリソース、戦術の幅で優勢になりやすい。

前作はこの構造的問題に対して、後攻プレイヤーに有利なカードを継続的にリリースしたり、『シャドウバース』特有の要素である「進化」の回数を後攻プレイヤーほど増やすようにする措置を取って対処していた。

しかし、根本的な解決には繋がっていなかったという。

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後攻プレイヤーが主導権を握りやすくなる「エクストラPP」を導入

そこで「カードではなくルールで課題解決」というアプローチを取った。

カードの能力は複雑化するほど特徴の把握が困難になるが、ルールなら最初に覚えてもらえれば多少複雑であっても、プレイヤーの負担は比較的小さいと宮下氏は語る。

この実質“発想の逆転”とも言える手段を用い、「カード能力のシンプル化」と「新要素追加でルールを奥深くする」というふたつの施策が生まれた。

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「カード能力のシンプル化」は言葉通り、カード能力を極限にまで絞り込むという施策だ。前作は1枚あたりに記された能力テキストが競技性担保の反動で膨大になり、その特徴を把握するだけでもプレイヤー側に多くの労力を要した。

『シャドウバース ワールズビヨンド』は個々のカードの役割を明確にし、本質的な能力のみに絞り込んでシンプルな構造のカードへと転換。並行して能力テキストも簡潔になり、新規プレイヤーでも理解しやすいものになった。

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「新要素追加でルールを奥深くする」に関しては、「超進化」と「エクストラPP」のふたつの要素で対応した。

特筆すべきは「先攻有利問題」にもアプローチした「エクストラPP」(いわゆる追加リソース)だ。これは後攻プレイヤーを対象にした新要素で、序盤から高コストのカードを使えるようになり、主導権を握りやすくなった。

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リソースが増えることで、先攻プレイヤーとの格差も軽減。さらに事故防止の策としても機能している。

事故というのは、手札に高コストのカードしかなく、何もできずそのまま相手に一方的に攻められて敗北してしまうというものだ。とくに序盤の2ターン付近で起きやすく、新規プレイヤーにストレスを与えやすい側面を持っていた

これに関しても「エクストラPP」で高コストのカードを使える機会を設けて、事故を防止する結果へと繋がった。

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この「エクストラPP」は当初、コスト0のカードを想定していたが、特定クラスへの偏重や手札上限の問題が発生。

最終的にUI上のボタンとして実装することで、複数の問題を同時に解決するシステムとして完成に至ったという。


本セッションでは、ほかにも

・新規プレイヤーがルールをわかりやすく理解できるための「AIアドバイス」機能やチュートリアルの拡充
・完全デジタル化し効率化を行ったテストプレイ環境
・新規カードの実装工程の刷新についてのアプローチ

などについても語られている。タイムシフト視聴も可能なので、詳しい内容を確かめたい方はぜひ、そちらをチェックしてほしい。

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ライター
新旧構わず、色々ゲームに手を伸ばしては積み上げるひよっこライター。アクションゲーム(特に『メトロイド』、『ロックマン』)とストラテジーが大好物。フリーゲーム、VRゲームの動向もひっそり追いかけ続けている。
Twitter:@shelloop
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
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