アリスと名付けられた少女、また異世界へ。しかし主人公は彼女ではなく「私」。
アリスという名前をつけられたキャラクターはこの世に数多といるが、その誰もが大なり小なり、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』と関連づけられることは避けられないだろう。
その名をつけられた時点で、そのキャラクターは異世界に旅立ったり、青と白のピナフォアを着せられたり、チェシャ猫的なキャラクターに揶揄われたりするのだ。多分。おそらく。大体。8割くらいは……。
台湾のデベロッパーSTORIA Gamesが作り上げた本作『Alice’s World』に登場するアリスもそんなキャラクターのひとり。
病弱な彼女は、きっかけもわからぬまま異世界に迷い込むことになる。
ただし、本作の主人公はアリスではない。
それはプレイヤーたる「私」。あるいはこれから本作をプレイするであろう、この記事を読んでいる「あなた」なのだ。
そんなわけで東京ゲームショウ2025、インディーゲームコーナー(9〜11ホール)の「ホール11-C44」に出展されていた『Alice’s World』を試遊する機会を得たので、そのインプレッションをお届けする。
なお、本作はSteamにて発売が予定されており、すでに体験版も配信されている。気になった方はTGSの会場やご自宅などで、ぜひプレイされたし。
※本稿には『Alice’s World』体験版のネタバレが含まれます。予めご注意ください。
ゲームの中の夢の中の異世界という入れ子構造。そしてそれを遊ぶ「現実」
兄とふたり暮らしをしているアリス。幼少のころより病に付せがちだったようでほとんど表には出られず、また治療費がかさむようで家計も苦しいようだ。

この日もひとしきり家のなかをうろついた挙げ句に、おくすりを飲んで眠りにつくアリス。
しかし目を覚ますとそこは、荒涼とした異世界だったのだ。
異世界にて怪物に襲われるアリス。だがプレイヤーの干渉を受けることで難を逃れる。
本作は『Ib』や『ゆめにっき』からインスパイアされていることを公言しており、また多くのメタ演出を取り入れていることを隠そうともしていない。

そして本作におけるプレイヤーは「アリス」になってロールプレイングをするのではない。あくまでパソコンの前に座っている自分自身としてアリスを導き、異世界を探索し、ともに脱出を目指すことになるのだ。
一応、ゲームの体としては探索アドベンチャーであるし、謎解きやパズル的要素もいろいろある。
しかし、要所要所でアリスとはコミュニケーションを取ることはでき、そのたびに「そもそも”彼女”はなんなんだ?」「ゲームのなかのキャラクターである彼女が、さらにゲームのなかの異世界に迷い込む?」「それって、なんだか入れ子構造すぎるけど、どういう状況?」という疑問を考えさせられる羽目になる。
いや……そうして考えていると、なぜ「ゲーム」とそれをプレイしている「現実」を分けられようか?といった根本的な疑問に辿り着いてしまう。
少し試遊しただけなので気が早いかもしれないが、もしかしたら本作はそんな「ゲームと現実の境界」を揺さぶろうとしているのかもしれない。
たとえば探索中、怪物に追い詰められやむを得ずアリスを死なせてしまう。
ビデオゲームなら当然のごとく発生する試行錯誤だし、仕方のないことだ。たとえ直前まで交流していた少女だとしても、そこに倫理的躊躇いは存在しない。
アリスはゲームのキャラクターなので当然、復活する。
だがアリスは「死に至ったその苦しみや恐怖」を覚えており、またその痛みが「プレイヤー」によってもたらされたことも自覚しているのだ。
あくまで本作が「そういうふうに作られている」だけで、本当にゲームのキャラクターと双方向なやりとりをしているわけではないのだが、「本当にごめんなさい…」と思わざるを得なかった。
試遊では本作の隠された真意まで読み取ることはできなかったが、執拗に挟まるグリッチエフェクト、メタ演出を越えて「こちら側」に介入しようと試みる演出などにはゾッとするものがあり、心を掴まれた。
いろいろと牙を隠していそうな本作『Alice’s World』に後ろ髪を引かれた諸兄は、ぜひTGSやSteamで体験版をプレイしてみていただきたい。私と同じ気分を味わえ!