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初動でつまづいたインディーゲームを“賛否両論”から“非常に好評”まで立て直した開発者に「ぶっちゃけなにがあったのか?」を聞いたら、生々しい話があふれ出た。「安さで選んだ翻訳が炎上し、再翻訳に160万円かかった」

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ゲーム開発には夢がある。

儲かるという夢、称えられるという夢、自己実現という夢。

その夢に挑み、みごとに叶えたサクセスストーリーは、枚挙にいとまがない。

逆もまたしかり。「大ゴケした大作」、「早すぎた傑作」。

失敗したことによっていまなお語り継がれるタイトルも、実に多い。

だが、そうした成功と失敗の狭間に無数のゲームが存在することを、意識されることは少ない。

ドリームを叶えるほどの成功でもなく、すべてを喪うほどの失敗でもなく──「そこそこ」「まあまあ」にまとめ上げたプロジェクト。

『シーファンタジー』は、そんな「そこそこ」の成果【※】をあげた作品の一本である。

※そこそこの成果
開発者の皆さんが語るところ、『シーファンタジー』の販売数は「そこそこ」「良くも悪くもない」成果であるという。

幼馴染であるというプログラマーふたりが起業して作った会社「メタスラ」から送り出された本作は、「釣り」をテーマにしたRPGである。ピクセルアートによって描かれた雄大な世界を冒険し、謎めいた海洋生物「シーアズ」を釣りながら世界を救う冒険を繰り広げる本作の販売本数は、約3万5000本(取材時点)。

たしかに、「インディーゲーム・ドリームを叶えた」とは言えない数字かもしれない。

一方で「見向きもされなかった」わけではない。

しっかりとユーザーに訴求し、興味を抱かれなければ、到達しえない数字でもある。

まさに「そこそこ」の軟着陸を成し遂げたプロジェクトだ。

派手な成功でも、目を覆うような失敗でもなく、地味ゆえに見過ごされてしまいがちだが、しかし何事も、「そこそこ」にまとめあげるのは言葉の印象ほど容易なことではない。

とりわけ『シーファンタジー』は、発売直後にSteamで不評レビューが相次ぎ、「賛否両論」という苦しい初動となってしまったにも関わらず、きめ細やかな対応を続け、記事執筆時点では「非常に好評」まで挽回してみせた、稀有なタイトルでもある。

メタスラは、Steam上でのゲーム展開は初めてながら、スマートフォン向け『剣と勇者とレベル上げ』『ローグダンジョンウォーカーズ』などのヒット作を送り出してきた、新進気鋭の開発チームでもある。

確かな実力を持った開発チームが1年がかりで制作した『シーファンタジー』はいかにして「そこそこ」成功し、またなぜその成功は「そこそこ」止まりになってしまったのか?

その答えを探るべく、電ファミ編集部は『シーファンタジー』開発チームのおふたりに話をうかがうことにした。

小学校の頃から続く長い交友関係のおふたりが、いかにしてゲーム開発を始め、『シーファンタジー』をリリースしたのか。そしてその結果はどうだったのか。開発者のおふたりは、聞き手である筆者が「こんなところまで聞いて大丈夫か!?」と焦ってしまうほど、ゲーム開発の内情や会社の状況を赤裸々に、生々しく語ってくれた。

前述した累計販売本数3万5000本という生々しすぎる数字は、まさにその一例である。

各種プラットフォームでの販売実績や、翻訳にかかった費用、売り上げによって賄えたコストと、未回収のコスト。

小規模インディー開発者のリアルとして、ここまで詳らかに語られたものはほとんどないのではないかと思うほどの濃密なインタビューとなったので、ぜひ最後まで読んでいただければ幸いである。

聞き手/りつこ実存
文/りつこ
編集/うきゅう

〇インタビュイープロフィール

『シーファンタジー』開発者インタビュー。Steamの評価を賛否両論から非常に好評まで立てなおしたインディーゲームの開発秘話_001
▲画像左が中島克征氏、右が飯島悠汰氏

中島克征氏:株式会社メタスラ・代表取締役。ゲーム開発では、主に企画とUIデザイン、プログラミングを担当。

飯島悠汰氏:株式会社メタスラ所属。シナリオをゲーム部分に落とし込む作業や、ゲーム内の処理を全般的に担当。

中島克征氏が過去に制作したスマホ向けゲームのアップデートなども担当している。


累計販売本数は約3万本5000本、開発コストは600万円で「(人件費のぞけば)とんとん」。そのうち160万円は「翻訳の質が低い」と炎上した結果生じた追加コスト。あまりにも生々しいインディーゲームの開発事情

——今回のインタビューでは、インディーゲーム開発者の実情についていろいろと突っ込んだ話をお聞きできればと思います。まずおふたりから、自己紹介をしていただいてもよいでしょうか。

中島克征氏(以下、中島氏):
株式会社メタスラの代表取締役をしております、中島と申します。ゲームの企画、シナリオ、UIデザインのほか、プログラミングを担当しています。

飯島悠汰氏(以下、飯島氏):
おなじくメタスラの飯島です。僕も中島と同じくプログラマーでして、主に中島の書いたシナリオを実際にゲームへと落とし込む、作品内部の処理の部分を全般的にやっています。

メタスラは中島と僕と、アートやグラフィックを担当している古澤の3人で構成された会社で、2025年に釣りRPG『シーファンタジー』をSteam向けにリリースしました。

──『シーファンタジー』は「釣りで世界を救う」というホビー漫画的なストーリーが印象的な作品で、釣り上げる魚の種類によってバトルの内容が変わる意欲作でもありました。発売から一年を迎えた今だからこそお聞きしたいのですが、ぶっちゃけた話、本作の売り上げはどのぐらいになったのでしょうか?

中島氏:
Steam版の売り上げは、だいたい2万7000本くらいですね。

飯島氏:
ほかプラットフォームへの移植版に関しては、Nintendo Switch版5481PS版は2070本Xbox版は1040本となっています。移植版は売れ行きが芳しくなく、精神衛生上悪いのでなるべくチェックしないようにしています(笑)。

──移植版の数字まで教えていただけるとは……生々しいデータをありがとうございます。

『シーファンタジー』はおふたりが1年半かけて開発し、セルフパブリッシングでリリースした作品とのことですが、総合的な印象として、売り上げに対する感想はいかがでしょうか?

中島氏:
売り上げ的な話で言うと「そこそこ」「良くも悪くもない」という印象です。

正直に言えば「もっと売れてほしいな……」という気持ちではあります。

——売り上げの比率についてはいかがでしょうか。Steam上に寄せられたレビューの分布を見る限り、英語でのレビューがもっとも多く、ついで日本語と中国語簡体字が上位に来ていますが、分布との相違はありますか?

『シーファンタジー』開発者インタビュー。Steamの評価を賛否両論から非常に好評まで立てなおしたインディーゲームの開発秘話_002
(画像はSteam Scoutより)

中島氏:
売り上げで言うと、英語圏と日本語圏は大体同じくらい売れていますね。少なくともレビューの比率ほどの差はないです。

飯島氏:
プラットフォームごとに見ると、Nintendo Switch版は日本国内での売上が8割を占めていますし、Xbox版は売上の大半が海外です。

——プラットフォームごとに、売上比率に大きな差があるんですね。それぞれのプラットフォームの強みがゲームの販売状況にも現れていると言えそうです。

中島氏:
そうですね。また、Steamでの簡体字レビューが多いのは、もしかしたら発売前におこなった施策の成果もあるかもしれません。

実は、中国向けに有料でプレスリリースの掲載をしてくれるというメディアがあったので、そのサービスを利用してみたり、また中国のゲームコミュニティ「ヘイボックス」【※】に記事を掲載してもらえるプランを実施してみたりしていたので、それが影響しているのではないかと思います。

『シーファンタジー』開発者インタビュー。Steamの評価を賛否両論から非常に好評まで立てなおしたインディーゲームの開発秘話_003
(画像は小黑盒 – Google Play のアプリより)

※ヘイボックス
中国のPCゲーマーの間で広く普及している、ゲーム情報の共有や交流、購入が行えるコミュニティアプリ。

——『黒神話:悟空』の大ヒットなどもあり、Steamにおける中国市場の盛り上がりは無視できないものがありますから、そういった部分に広告費を投入した成果が出ているということでしょうか。

飯島氏:
一方で、中国語圏へのアプローチには失敗もありました。

『シーファンタジー』を他言語対応するにあたって、僕たちは当初「あまりコストをかけたくない」と考え、翻訳の単価が安い業者さんにお願いをしたんです。

その業者さんは文字単価が5円ほどと安価で、『シーファンタジー』は約6万字ほどのテキスト量だったので「30万円で中国語対応ができる」と喜んでいたのですが、いざ実装してみるとユーザーから評判が悪く、翻訳の質に関してはゲーム発売直後に立て続けに不評レビューが寄せられました。

中島氏:
私たちも慌てて別の業者さんを探して、今度は「LQA」、いわゆる翻訳後のクオリティチェックまで含めて再翻訳をおこない、ユーザーの反応は改善したのですが、そのために追加で160万円ほどかかり、結果として翻訳コストが非常に高くついてしまいました。

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▲本作は1月7日に発売されたが、1月10日には再翻訳のアナウンスを公開している。(画像はSteam:Sea Fantasy / シーファンタジーより)

——それは大変でしたね……。ちなみに、翻訳も含めたゲームの制作費全体を見た時、『シーファンタジー』は費用を回収することはできているのでしょうか?

中島氏:
『シーファンタジー』は、人件費を除くと約600万円の費用がかかっています。これは展示会に出展したり、ゲーム制作にあたって自分たちでは用意できない部分を外注したり、前述した広告費や翻訳費もひっくるめた実費のトータルですね。

『シーファンタジー』の販売本数は各種プラットフォームをあわせて約3万5000本となっており、かろうじてこの600万円の回収には成功しています。

ただ、私と飯島がともにプログラマーということもあり、Steam以外のプラットフォームへの移植作業を内部で完結できたんです。これはコストを考えるうえで非常に大きく、もしここに外注費が発生していたら全体のコストもさらに膨らんでいたと思います。

——それをお聞きすると、翻訳のために追加で費やされた160万円というのは非常に重い金額だと実感されます。

飯島氏:
そうですね。「安物買いの銭失い」という言葉の通りになってしまったのは大きな反省点ですし、次回以降の教訓にしようと思っています。

『シーファンタジー』開発者インタビュー。Steamの評価を賛否両論から非常に好評まで立てなおしたインディーゲームの開発秘話_005
▲画像は『シーファンタジー』のスクリーンショット。作中には100種以上のシーアズ(魚や怪物)が登場し、それらのドロップアイテムなどにも紹介テキストが用意されている。

紆余曲折あり、幼馴染とゲーム開発。スマホ向けに「売れるゲーム」作るわ→3か月後に完成し、ホントに売れた。

——いきなりリアルなお話を聞かせていただきましたが、そんな本作が作られるに至る、おふたりが活動をはじめ会社を興すまでの経緯をお聞かせください。

中島氏:
もともと、私と飯島とデザイナーの古島は小学生時代からの友人でもあり、幼いころからみんなで集まってゲームをしていました。

成長してからも交友関係は続き、やがてそれぞれに就職するのですが、私と飯島は業種こそ違えどともにプログラマーだったこともあって、飯島から「プログラミングの知識を活かして、なにか副業をやらないか?」と誘われたんです。

もともと大学生の頃から飯島と私は「なにかでお金稼ぎたいね」という話をしていた仲だったので、スマートフォンアプリの開発をしてみることに決め、本屋で買った「スマホアプリの作り方」みたいな本を読みつつ、ふたりでツールアプリの開発を始めたのですが、途中で飯島が飽きてフェードアウトしていったんですよ。

——誘った側なのに!?

飯島氏:
はい……。

中島氏:
仕方がないので、しばらくひとりでツールを作っていたのですが、やがて私も飽きてしまい、「気分転換にゲームでも作ってみようかな」と方向転換したところ、思いのほか私自身がゲーム作りにのめり込んでどんどん開発していった……というのが今に至る最初の部分ですね。

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(画像はSteam:Sea Fantasy / シーファンタジーより)

——おふたりは業種の違うプログラマーだったとのことですが、ゲーム系のお仕事ではあったんでしょうか?

中島氏:
いえ、全然関係ない業種でしたね。私は車載システムを作るエンジニアでした。

飯島氏:
僕も、工場で働く機械やロボットに組み込むためのプログラミングをやっていました。ゲームもスマホアプリもまったくの門外漢だったんです。

——では本業から大きく離れた領域に副業としてチャレンジしていったところ、言い出しっぺの飯島さんがフェードアウトしてしまい、誘われた中島さんがひとりでそのチャレンジを継続していたということなんですね。

中島氏:
まあそうなりますね。そして、いろいろとゲームを作るなかで、『剣と勇者とレベル上げ』という作品が個人制作としてはかなりヒットしたんです。

「あ、これで飯食える」と思ったので、このタイミングで仕事を辞めて、独立しました。同じ時期に、飯島とひと悶着あったんですが、話し合いの結果和解し、あらためてふたりでゲーム制作をすることにしたんです。

飯島が戻ってきてくれたのは非常にありがたいタイミングでもあって、その時期こんどは私が、アプリ開発にある種の飽きを感じてしまっていたんですよ。

『シーファンタジー』開発者インタビュー。Steamの評価を賛否両論から非常に好評まで立てなおしたインディーゲームの開発秘話_007
(画像は剣と勇者とレベル上げ – Google Play のアプリより)

——「飽きが来た」、というのは?

中島氏:
当時の私は「あれも作りたい、これも作りたい」と創作意欲ばかりが溢れ出している時期でして、いろんな形で新作を作っていきたいと思っていたんですが、活動を支える資金の流入口は既存の売れているアプリです。

必然的に、すでにできているゲームへのメンテナンスやアップデートが重要になるんですが、その「同じゲームをアップデートし続ける」というのがキツくなってしまったんです。

——ライブサービスの運営に限界がきてしまったということなんですね。

中島氏:
はい。そこで飯島に「アプデをやってくれないか」と頼んで、飯島は既存タイトルのアップデートをする。私は新作を作る。という役割分担ができるようになりました。

そうやっていろいろと作っていくうちに、『シーファンタジー』の原型でもある『モンスターフィッシング』という作品が生まれるんですが、これが大ゴケしまして……。

そこで「収益性の高いゲームを作ろう」と考えて、『ローグダンジョンウォーカーズ』を制作したところ、これが想像以上のヒット作になったんです。

——「収益性の高いゲームを作ろう」と思ったら本当に作れてしまったと。

飯島氏:
しかも、その時の中島は結構あっさり作っちゃったんですよ。「2~3か月待ってくれ」って言ったかと思うと、本当にその期間で仕上げてきて、ちゃんと売れたんです。「中島、天才だな」と思いましたよ。

中島氏:
開発期間に関しては、むしろ「長く時間を費やすほどリスクが高い」という事情もありました。

すでに私は独立していたので、ゲームやアプリを長期開発して売れなかった場合、製作期間の稼働がすべて損になってしまいます。それよりも、ミニマムに作って売れたらどんどんアップデートしていく方が安全なんです。

——理屈はわかりますが、「言うは易く行うは難し」ですね。実践できる人は多くないと思いますよ。

中島氏:
ありがとうございます。

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編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest
編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ライター/編集をしています。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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