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ゲームを発達障害の療育に使うって? 毎回満員の大人気セミナー「アナログゲーム療育講座」で何が行われているのか、主催者に聞いてみた

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「ゲームを教育に使うのは違うんじゃない?」

――それがアナログゲームとの出会いだったわけですね。

松本氏:
 僕はデジタルゲームは好きでしたがアナログゲームなんて人生ゲームくらいしかやったことがなかったので、まったくピンと来なかったんですが、とりあえず行ってみようかと。

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すすめ!! 海賊さん……すごろくやが企画・制作を担当し、2008年に発売したボードゲーム。大海原を舞台に、自分の海賊船コマを進めてゴールを目指す2人専用のゲーム。かわいらしいイラストとコマ、ババ抜きのような簡単なルールで、誰とでも手軽に楽しめる。待ち受けるマスや手札の増減具合の状況判断による工夫が効いているのが特徴。 
(画像は「すごろくや」のブログより)

 そこで『すすめ!! 海賊さん』という500円のゲームを見つけて、「もしかしたらこれ使えるかもしれないな、500円なら経費で落とせなくても自腹でいいや」と軽い気持ちで買ったのが、はじめての出会いでした。

松本氏:
 アナログゲーム療育を始めた初期の頃は、一部の人から「ゲームって楽しむためのもので、教育に使うのはなんか違うんじゃない?」と言われたりしました。すごろくやの丸田康司店主もゲームに一家言ある方なので、もしかしたらそういう考えをお持ちなんじゃないかとおそるおそる尋ねてみたんです。
 そうしたら「教育だろうが遊びだろうが、アナログだろうかデジタルだろうが、ゲームをどう使うかはその人の自由です」とサラッと言われました。その丸田さんの一言で、「ゲームとはこういうもの」と枠にはめる必要はないことに気づき、随分気持ちがラクになりました。

※丸田康司
1970年生まれ。元ゲームクリエイターで、現在は高円寺にある国内最大級のアナログゲーム専門店「すごろくや」の店主をしている。ゲームクリエイター時代はSEDICやチュンソフトに勤め、『MOTHER2 ギーグの逆襲』や「風来のシレン」シリーズの制作に携わった。

――ちなみに、デジタルゲームではなくアナログゲームを使うのはどうしてですか?

松本氏:
 これも丸田さんから学んだことですが、ゲームは「ルールの守りあい」「プレイの競いあい」という二つの要素で成り立っています。

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 デジタルゲームと違ってアナログゲームでは、ルールの守りあいも人間が行います。仮に誰かがボードをひっくり返したり、きつい口調で他人のプレイを指摘したり、コマをなくして足りなくなったりしたら、ゲームが成立しませんよね。裏を返せば、そうならないようルールを守りあうことが、ゲームを上手にプレイすることと同じくらい、コミュニケーションを練習するきっかけになるのです。 

――ちなみに、先ほどデジタルゲームはよくプレイされていたとおっしゃっていましたが、どんなゲームをプレイされていたんですか? 

松本氏:
 小学生のときに叔父さんがツインファミコンを買ってくれたのが出会いです。ディスクシステムの時代ですね。スーファミの『ファイナルファンタジーIV』は朝4時にデパートに並んだ記憶があります。当時は子どもたちがドラクエ派とFF派の真っ二つに分かれて対立しあっていたんですが、僕はFF派の急先鋒でした(笑)。

 高校生になるとネットワークRPGにハマって、当時はテレホーダイだったので夜11時以降に遊んでいました。初期の『ウルティマオンライン』とかよくプレイしていました。オフ会にも社会人に混じって参加したりして、ゲームを通じて年齢の違う人と交流できた経験は大きかったです。

アナログゲーム療育のこれから

――今後のアナログゲーム療育についてはどう考えていますか? 

松本氏:
 現在フリーランスとして、アナログゲーム療育の体系化に努めています。将来的には日本中の指導者が誰でも簡単にゲームを使って指導できるようになるのが理想です。

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 療育には子供のレベルにあわせて膨大な種類の教材が必要ですが、その多くは手作りする必要があり、新しい教室だと用意が追いつかないことがあります。そこを市販のゲームで補えたらという思いもあります。ゲームをすること自体に熟練は必要としないので、療育経験の浅い方が取り組みやすいのも大きな強みです。

 ただ、ひとつ課題となってくるのが、学術的な効果検証です。最近は公的機関の方もアナログゲーム療育講座に来られて「うちの市でもこの方法を使いたい!」と言ってくださるのですが、そのような場合、効果のほどは客観的に見えたほうがいいのは間違いないです。ただそもそもコミュニケーション能力の向上をどう測るかが難しいので、そこはこれからの課題になってきます。 

――最近は発達障害に対する社会の理解も進んできたと思いますが、どうお考えですか? 

松本氏:
 15年前では信じられないくらい理解が進んできたのは間違いないです。でもそれで子どもたちや親御さんが幸せになったか、安心できるようになったかというと、まだまだ改善の余地があると思います。

 そのひとつの原因として、産業が複雑化してきたこともあると思います。それこそ昔なら「会社で働けなかったら実家の畑を耕すか」といった選択肢もあったわけですが……。「自分がこう動いたら相手はどう思って状況はどうなる」といった、やや難しい課題がどんな職場でも当たり前のように求められるようになりました。

――なるほど、たしかにコンビニのバイトとかもかなり複雑な業務が求められますものね。 

松本氏:
 いや、実は逆にコンビニのバイトは有望だと考えています。『誰が世界を変えるのか ― ソーシャルイノベーションはここから始まる』という本の中で、「単純な業務」「煩雑な業務」「複雑な業務」と、仕事の内容が3つに分類されています。

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誰が世界を変えるのか ソーシャルイノベーションはここから始まる(英治出版 ・2008)
(画像はAmazonより)

 発達障害の人は、状況や相手によってやることが変わる企画や営業などの「複雑な業務」は難しいかもしれない。しかし、コンビニ店員のように、業務の種類は多いけれど一つ一つの作業手順がはっきりしている「煩雑な業務」なら、可能どころか得意かもしれない。

 発達障害の人は複雑な業務は難しいと思われて、その結果ワーキングプアに陥ることも多いですが、やりようによってはいろいろな仕事ができるんじゃないかと思っています。 

――発達障害の方が少しでも暮らしやすい社会になるのが理想ですよね。

松本氏:
 最後に、6月11日には、初の5時間となるアナログゲーム療育講座を開きます。会場は江東区の東大島文化センターで、普段すごろくやでやっている講座をまとめた集大成のような形となります。この講座は撮影され、DVDとして販売される予定なので、より多くの人に届けばいいなと思っています。

――ありがとうございました。(了)

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プロフィール
電ファミニコゲーマー編集部員。映画を観るのとアナログゲームをするのが好き。
Twitter:@_k18

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