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恐怖のメカニズムを考える──2Dゲームを怖くするには?

MC:
 この番組のベースである『RPGツクールMV』を使った自作ゲーム界隈では、“怖いゲーム”制作が流行っています。皆さん、新しい怖さの表現に挑戦しており、インディの中でホラーゲームは、ひとつのジャンルになっているんですよね。

 たとえば“逃げ”ゲームとして有名な『青鬼』であったり、電ファミニコゲームマガジンというところで公開している『シキヨク -死期欲- 夢魅テルは夢見てる』というゲームもホラーだったり。とくに『シキヨク』は、画面左にしか進めないゲームなんですよ。「ボタンは左。以上」という代物で、怖い屋敷を歩いていきます。

 この番組をご覧になっている方には、ゲームを作ろうとしている方も多いと思います。2Dゲームを怖くするにはどうしたらいいのでしょう?

河野:
 『シキヨク』をやってみて、「スゴくいいゲームだな」と思ったんですよ。それに関連するお話を。前回のこの番組のテーマはアドベンチャーゲームでしたよね。“アドベンチャー”って、ゲームをシステムで分けたときのジャンルですが、今回のテーマの“ホラー”は題材で分けたときのジャンル。だから、システム面で「これが正解」というのはちょっとわからないんですよね。どんなデザインのシステムだろうが、ホラーというジャンルにはできるわけで。そういう前提の中だと、“間”をコントロールするかしないかはけっこう大事なところですね。

MC:
 間ですか?

河野:
 ホラーのゲームでも映画でも、怖ろしいイベントは、そのイベントと静かなタイミングで作る抑揚、つまり“間”が大切なんです。ところが自由に動けるタイプのゲームは、その抑揚がコントロールできない。そして『シキヨク』に話を戻すと、一定方向に進んでいくことから間をコントロールできるんですよ。すると、一拍ぶん安心させておいてから「ドン」みたいな演出もできるわけです。それからもうひとつ、ホラーゲームを作るときに何が大事かというと、「怖いって何?」を考えることが挙げられます。

MC:
 「怖いって何?」

kson:
 「コワイって何?」

河野:
 どういうことだと思う?

kson:
 コワイは自分の危険がせまりますこと。

河野:
 すばらしい。満点。

kson:
 満点!

河野:
 満点だけど、ゲームデザインとして考えたら50点。なぜかというと、怖さにもいろいろあるんですよ。たとえば『ドーン・オブ・ザ・デッド』(『ゾンビ』)のように「ダダダダッとモンスターが来るから」という怖さがある一方で、すぐに自分が殺されるわけじゃない状況でも感じる“モワモワする怖さ”というものもあります。「殺されるわけじゃないんだろうけど、怖いなー怖いなー」というものもある。

MC:
 わかります。

河野:
 であれば、ホラーゲームを作るなら、「どの怖さに力を入れるか」ということを先に自分の中で設定しておくべきなんですね。そこから「それを最高に表現できるシステムって、どんなものだろう?」という風に進んでいくべき。その最初の時点で表現したい怖さが漠然としていると、フンワリした、とっ散らかったゲームになるんですね。ホラーもので「殺されそうだから怖い」という直接的なものって、どちらかというと北米的な、アメリカ的な怖さです。アメリカの人は、バットで殴られるなど、わかりやすいところでいちばんビビります。

kson:
 ロスでは日常サハンジだ。

河野:
 (笑)。彼らにとってそれがリアルだから怖いわけですね。たとえば中国は唯物主義で共産主義なので、ゲームに幽霊が出せないんです。だからキョンシーはOKだけど、霊が描けない。あとはナントカ肉饅飯店【※】のような、グロテスクなものなどになってしまう。日本はそのあたりのバッファがけっこう広いわけです。

※映画『八仙飯店之人肉饅頭』、もしくはその元となったマカオであった実在の事件。殺した相手を肉饅頭にして売る男の話。かなり端折った説明だが、詳しく書くと相当グロいので割愛。

 そう考えると、想像の余地を残すという描写法はけっこう大事なんですよね。なぜかというと、絵でストレートに「こうなります、こうなります」と見せられたら、それはゴールです。それ以上がない。でも「こうなります、でもその後もっとすごいことになるかもしれません……」であれば、受け手が勝手に「怖いなー、怖いなー。何だろうな……」と、想像を膨らませるわけですよ。だからゲームの制作でも「想像の余地をどれだけ残すか」という部分を踏まえて描写を丁寧に考えていくべきかなと思います。たとえば夜にひとりでいるとき、襖が少しだけ開いてるのは嫌でしょ。

kson:
 少しこのスキマから何かが来るかもしれないから?

河野:
 そう。そういう想像ができるものが怖い。でもそこに何かが立っていたら、「もうわかっちゃった」となって怖さが終わってしまう。

kson:
 Pull out imagination from the fires.【※】

※激しい想像力(=the fires)によって、想像を引きずり出してしまう、といった意味。

河野:
 そうそう。

kson:
 そゆこと。

本当に知りたい“怖さ”や“お金”の話──『クロックタワー』、『NightCry』河野一二三氏によるホラーゲーム制作のヒント解説──実況者ksonも登場の“ニコニコ自作ゲームフェスMV作~る放送”第二回_003

河野:
 僕は70〜’80年代のホラー映画を結構いろいろ観ました。それぞれに怖さがあるんですが、いちばん怖かったのはデヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』という映画です。この映画のストーリーは、本当にわけがわからない。 そのわけのわからなさが怖い。

 ホラーのシナリオをこれから書く人は、整合性をあまり取り過ぎないほうがいいですね。自分の中では理路整然としているけど、あえてそこを見せない、描写しないで、わからないまま残すというのもいいと思いますよ。たぶんユーザーから「これわからん」とか言われますが、別にいいじゃん(笑)。僕も『ビヨンド』【※】などわけのわからない映画が好きですし。

※『サンゲリア』などで有名なルシオ・フルチ監督の1981年のゾンビ映画。日本未公開。残虐シーンが多く、ラブクラフト作品へのオマージュも多い。

MC:
 (笑)。ゲームならではの理不尽さ、ゲームならではの間、そしてゲームならではの想像の余地みたいなものがゲームとしての怖さのパーツとなるわけですね。

河野:
 そうですね。いまはゲーム機の表現力が上がったせいで、AAAのホラーゲームなど、想像というよりは、やはりけっこう描写されちゃっているんです。ですが、それは表現力が低いほうがかえって想像できる余地があって怖い。『RPGツクール』で作られる方々は、逆にその表現力の低さを、ある意味有利と解釈すべきかなと思います。

 それから、ホラークリエイター何人かで会って喋ったことがあるんですが、子どものころに何か恐ろしいことがあったとき、お母さんに抱き着きますよね。そのとき、お腹側から抱き着くか、背中側から抱き着くか、「どっちだ?」という話になったことがあります。どちら側から抱き着きますか?

kson:
 お母さんがコワいの?

河野:
 怖いことがあって、お母さんに抱き着くときね。お母さんにお腹から抱き着くというのは、恐怖の存在を見えなくすることによる逃避なんですよね。ところが僕の場合は、背中をつけて後ろ手に抱き着いていました。なぜかというと、見えなくなることによって想像が膨らむほうが怖いという気持ちがあったからです。

MC:
 ああ。たとえば犬が襲ってきたときに、抱きついて犬が見えなくなるのは怖いですね。

河野:
 そうそうそう。

MC:
 犬、犬、犬、犬って言いながら見えていたほうが。

河野:
 安心でしょ? みんながなぜ見えないようにするのかが不思議でした。先ほどの襖の隙間の話でも、クリエイターどうしで話したときに、「いやー、やっぱ怖いよね」とみんな言うんですが、ひとりだけ、「いや、俺全然怖くない」という人がいたんです。その人が作るホラーゲームは、やっぱり直接的な描写が多くて。

kson:
 チョクセツ。

河野:
 あのーアトモスフィアよりはストレートな表現が多いという。

kson:
 その何かが見えますってこと?

MC:
 It’s like a SAW movie.

kson:
 Oh! I know.

MC:
 まあ『SAW』などはいかにもなホラーな、スプラッターという。

kson:
 血だらけです。

MC:
 イエス。

河野:
 たぶん皆さん、ホラーゲームでの死にかたなどもいろいろ考えると思いますが、そこでも「自分が怖いと思えるものとはどんなものか?」というのをちゃんと考えたほうがいいです。実際の事故でも怖いものっていっぱいありますよね。

 僕がいちばん怖かったのは、ショーの舞台で起こった事故。舞台のせり上がりで大きな歯車があるんでが、そこに待機してた女優さんのスカートのワイヤーが巻き込まれてギチギチギチギチとなって。どんどん歯車が迫って、「アーッ」と。すぐに巻き込まれたという話なら、それほど怖く感じないと思うんです。でも、巻き込まれるまでのあいだ、ギチギチギチとなっていたという恐怖。そこには同僚の方もいたわけですよね。助けられないけど、目の前でどんどん巻き込まれていく。「うわあ、どうしたらいいの!?」 ってそれがいちばん怖いじゃないですか。

kson:
 目の前でシにましたね……。うー。

MC:
 『NightCry』の死にざまでもそういうものがありますよね。

河野:
 そうですね。『NightCry』でもプロフェッサーがすぐに殺されるんだったら、むごい姿でもあまり怖くありませんよね。というわけで自分が怖いと思うことをどんどん突き詰めて考えていく、ということが大事かなと思います。

河野さんのホラー体験

MC:
 それでは次は、皆さんのコメントから質問をしたいと思います。「一番怖かったホラーは何ですか」とか、「ホラーゲームでBGMはいつ使うべき?」などありますね。

河野:
 いろいろな質問、ありがとうございます。

MC:
 「貞子シリーズで参考になる演出は?」、「続編を出せと言われたら難しくなりません?」。

河野:
 それはありますよね。

MC:
 「『御神楽』はどうしてギャルゲーとして出したんですか?」

河野:
 それおもしろいな、答えたいな(笑)。

MC:
 ksonさん気になる質問ありました?

kson:
 コウノさんのHorror Experienceが聞きたい。

河野:
 僕の体験……ホラーというかけっこうストレートな体験ですが、夜中に横断歩道だけある、片道が2車線ずつの道路を渡るチャンスを待っていたんです。すると、けっこう大型のトレーラーが止まってくれたんですよ。ですからなんとなく「急がなきゃ」と思ってタタッとそこへ出て行ったんですが、そのつぎの瞬間、もう1個の奥側の車線から別のトラックがバーッと走ってきて……。リアルに轢かれそうになりました。

kson:
 しにかけ!

河野:
 ぼんやりしていると意外と怖いねー、という話ですよね。

kson:
 ほんとうのシのストーリーでした。

河野:
 あとは『クロックタワー』を作っているときにお風呂に浸かっていたんですが、疲れすぎて、どうも寝たらしく、鼻くらいまで水に浸かって「ブクブクブクブク」って泡の出る音で目が覚めたことがあります。危うく溺死するところでした。

MC:
 死にかけてますねー。

河野:
 本来なら心霊体験などをお話するところですが、そういう体験がないんですよ。そういう意味では、今度『自作ゲームフェス』の勉強会の講師をされる『零』の柴田さん(柴田誠ディレクター)が、めちゃめちゃ幽霊を見ている方ですから、ぜひ柴田さんに伺っていただければ。

※参考記事:
ホラゲにゲームデザインの常識は通用しない!? Jホラーゲームの第一人者『零』×『SIREN』開発者が語り合うホラーの摩訶不思議(柴田誠×外山圭一郎)【ゲームの企画書第八回】

MC:
 ksonさんは、幽霊が見えますか?

kson:
 No。ユーレイは見たことありません。

河野:
 見たことある人ってけっこういますもんね。

「スゴくいいなと思った」──ゲーム実況についてどう考えている?

MC:
 次は「ゲーム実況についてどう考えてらっしゃいますか?」という質問です。インディゲームもホラーゲームも、最近はゲーム実況と切っても切り離せない関係にあるのかなと思っています。それは『P.T.』でも『マインクラフト』でも同じ。『ロケットリーグ』、『青鬼』、『Ib』、『ゴートシミュレーター』など、さまざまなものがゲーム実況をきっかけに拡散しているなか、インディも手がけられている河野さんから見て、ゲーム実況っていかがでしょう?

河野:
 ksonさんも実況をやられてるんですよね?

kson:
 実況します。

河野:
 僕はじつは『NightCry』までゲーム実況を観たことがなかったんですよ。そして今回『NightCry』をリリースしたところ、いろいろな人気の方が実況してくださっていたので、いくつか観たんですが、皆さん、スゴく工夫してやっていますね。単純にゲームの人気に乗っかって「うまいことやってやろう」というよりは、実況するそれぞれの方のパフォーマンスの力というのがけっこう大きいんだなと知り、僕はスゴくいいなと思いました。

MC:
 ksonさんは実況するときに何か工夫をしていますか?

kson:
 クフー?

MC:
 実況のテクニックです。

kson:
 何もしません、楽しみます。

本当に知りたい“怖さ”や“お金”の話──『クロックタワー』、『NightCry』河野一二三氏によるホラーゲーム制作のヒント解説──実況者ksonも登場の“ニコニコ自作ゲームフェスMV作~る放送”第二回_004

MC:
 楽しむ! それがいちばんかもしれない。

河野:
 素直に楽しむのがいいのかもしれませんね。

kson:
 工夫はムツカシですね。それをこれから勉強します。

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