楽しさと苦しさと──インディでの開発
MC:
次の質問は、「インディの開発は従来の開発と何が異なるのか」というものです。『NightCry』はKickstarterでお金を集めて、6人くらいの少人数体制で作ったと伺っています。
河野:
つねに稼働していたのが6人であって、手伝っていただいた方も含めればスゴい人数にご参加いただいたと思います。そして違いはというと、ちゃんとした会社さん、パブリッシャーさんと組んで作るのと、インディで制作するのでは、じつは細かいサポート部分がぜんぜん違うんですよね。たとえ同じ予算であったとしても、ちゃんとしたパブリッシャーさんと組んだ場合、たとえばクオリティのコントロールだとか、いろいろなマシンでのデバッグだとか、必要な機材があったときに貸してもらえたりとか、そういうところまでスゴくしっかりサポートしてもらえるんです。インディはそういうものが一切ないわけです。そうなると単純に予算の違い以上に、負荷は大きくなるんですよね。
MC:
そういうサポートがあるんですね。
河野:
あります。いままでカプコンさん、プラチナゲームズさん、KONAMIさんなどと組ませていただきましたが、皆さんしっかりされています。そういう企業の力がまったくないというのは、予算以上に非常に厳しいですよね。その代わりの自由というものはあるんですが、自由よりはけっこう辛いことのほうが大きい。それも含めて、だから楽しいという見かたもありますけどね。インディの方には、そういう大手と組んだこともないから、マイナス面を気にせずに作られている方が多いのかもしれませんが。
MC:
なるほど、そういったご指摘は初めて聞きました。
河野:
それから『NightCry』を作ってびっくりしたのは、“Steam界隈って悪い奴がいっぱいいる”ということですね。「インディで作ってSteamで売る」となるとこちらを舐めてきているのか、英語で「俺は有名なYouTuberだ。実況してやるからプロダクトキーを寄こせよ」というメールが来ます。調べてみると「誰だよお前、ニセモンじゃないか」というようなものですね。あるいは「俺らがレビューしてやるからプロダクトキーを5つ用意しろ。そうしたらレビューを投稿してやる」だとか、「これだけお金を払えばレビューを投稿してやる」だとか。たとえ相手が本物であっても「うるせえ」っていう話(笑)。これらはただのニセモノで、あわよくば「タダでゲームしてやろう」と手当たり次第出しているんでしょう。そう思えるメールがいっぱい届くんですよ。「インディだからチェック体制が甘いだろう」と舐めてかかる輩がいっぱいいるんですよね。そういうものにはやっぱり英語のメールが多く、「ワールドになると悪い奴がいっぱいいるんだな」と思いましたね。
MC:
これまでは開発に集中されていたと思うんですが、インディで作ってSteamで売るということは、資金調達であったり、いわゆる販売など、お金を扱う業務もご自身で見たりされたんですよね。いかがでした?
河野:
お金を管理するヤツにもタチが悪いのがいたりして、けっこう酷い目に遭ったりとかもするので、そういう部分ではたいへんですよね。でも「たいへんなのを承知でやるものなんだろうな」とも思います。それ以外には楽しいこともいっぱいあるわけですよ。インディは、「自分が思うように自由に作れる」というのが魅力なわけですから、いま『RPGツクール』で作ろうとする方は、思い切ったゲームを作るのがいいんじゃないかと思いますね。
たとえば普通のパブリッシャーさんと契約して、1億を超えるような予算、AAAタイトルなどは10億規模の予算ですが、それでゲームを作るとなったら、「1億ぶん回収できるゲームデザインって何?」となる。すると、もうフォーマットがある程度は決まっちゃうんですよね。
MC:
FPS!
河野:
アメリカ人ならそう言いますね。実際にリクープしなきゃいけないわけですから、それは仕方ないんですよ。でも「それを考えなくてもいい」というのがインディの強みです。そこがいいところだと思いますよ。
時間をかけて練り込む──予算10万円以下でゲームを作るには?
MC:
「この番組を観ているような自作ゲーム開発者が成功するにはどうしたらいいのか?」。この番組を観ているような僕らが作るゲームは、おそらく予算が10万円以下なんですよ。
河野:
それはキツイですねえ。
MC:
でも10万円は大金ですから。
河野:
いや、僕も10万円は大金だと思いますよ。ただ、マンガ家の西原理恵子先生のお母さんがいいこと言っています。「金がないのは首がないのと同じや」と。だからまあお金がないのはどうしようもない。ですが、たとえば海外のインディってまたちょっと事情が違うんですよ。
MC:
たとえば?
河野:
AAAタイトルの『コール オブ デューティ』クラスに参加していたような凄腕プログラマーで、「僕はもう、お金をもらわなくても良くなったよ。だから残りの開発人生は好きなものを作って過ごすよ」なんて、生活の心配がないヤツが作っていたりするんで、タチが悪い(笑)。いいものができちゃう(笑)。
日本だとそういう人って少ないんですよね。日本の現場のゲームクリエイター自体が、有名な人でもそんなにお金をもらっていませんよね。普通のサラリーマンをするよりはいいお金をもらっていたとしても、少なくとも、たとえば40代で早期リタイアして、「もう俺は後は好きなもんをやるんだ」と言えるほどではない。だからそういう海外のインディのような作り方ができないんです。……この10万円規模というのは、やっぱりほかに職業を持っている方たちなんですかね。
MC:
学生さんや社会人が、土日に頑張るのが基本だと思います。
河野:
そういう方たちであれば、お金じゃなくて時間で勝負するという手がありますね。たとえば『NightCry』ぐらいの場合だと、やっぱり専門家をスタッフとして使っているので、時間が過ぎていくだけでキッチリしたランニングコストが出て行きます。
MC:
たとえばひとり月当たり50万円だとして、6人いて1ヵ月で300万が消える、みたいな。
河野:
そう。必ず300万ずつ減ります。もちろんもっといろいろなことに使っていますから、月にやっぱり何百万単位で消えていく。でも、食べていくことは気にしなくていい前提だったら、もちろん1日をフルに充てられないでしょうけど、そのぶんだけ時間をじっくりかけることができます。長期にわたって作れると、いろいろと試行錯誤したり足りないところをキッチリ時間かけて煮詰めて直したりなどできるという利点があります。実際に本当に尖ったいいゲームを作りたいときって、100人で1年かけて作るより、20人で5年間作らせてもらったほうが、クリエイターとしては満足いくものが作りやすい。そういうものだと思って、“時間を使って勝負をかける”というのがいちばんいいのかなと思いますね。
MC:
時間をかけるんだって。
kson:
ジカンをかけます。
ゲームの遊びの部分に力を──自作ゲームの開発でお金をかけるなら
MC:
インディとパブリッシャーがいて作る環境が、かなり違うということがわかってきました。そのうえでお金を稼がなくてはいけないのかどうか。どうやったらいいものが作れるんでしょう?
河野:
逆に言うとインディの、たとえば10万円ぐらいの規模で作るという方は、お金を稼ぎたいんですか?
MC:
いや、「まず作ってみたい」というところが基本だと思います。
河野:
そうですよね。それはピュアでいいゲーム制作のスタンスだと思います。お金を稼ごうとすると、せっかくのインディゲームでも、尖ったものが作りづらくなったりするので。
MC:
ですが「お金を稼ぎたい」などのコメントも。
河野:
みんなお金は好きですからね。僕も好きですけどね。
MC:
「制作でお金がかかる部分ってどこですか?」、「ソーシャルゲームはどう思いますか」という質問も。ksonさん、何か気になる質問はありますか?
kson:
シツモンが……はやくて読めない。うーん。何がいちばんお金をかけるのがいいですか。
MC:
何にお金をかけるのがいいか。
河野:
やっぱりインディだと遊びの部分ですね。
MC:
遊びの部分とは?
河野:
コンシューマーの作品やプロの作品であれば、“グラフィックにお金かけるといちばん売れちゃう”という事実があります。もちろん全要素が練られてるのがいちばんいいんですが、「どれかを選ばなきゃ」、「優先度をつけなきゃ」となったとき、それがいいことか悪いことかは別の話として、「画面の見栄えをいいゲームにするのが、手っ取り早く売れるよね」という事実です。グラフィックにはどうしてもお金がかかるんですけども。でも、インディの場合は先ほどの話のように、グラフィックがいい必要はありません。逆にホラーであれば、イマジネーションを刺激するという意味では、グラフィックがチャチなほうがよかったりするわけですよ。
ですから、僕なら「ゲームをきっちり楽しませる遊びのほうに時間が使えるというのが羨ましいな」と思いますね。本当はゲームが一度できあがった後に、ジックリ遊びをさらに練りたいんですよ。「データが全部揃いました。全部組み込み終わりました」というその時点から、倍の期間が使いたいなって思うんです。たとえば任天堂さんだったら、そこに倍どころじゃない時間をかけていると思うんです。ですが『NightCry』程度だと、データを揃えて組み込むのが精一杯。そういうものも環境ですが、「ひと通り組み込み終わった後に、いじくっていじくって」というのがやっぱりいちばんいいものに仕上がるんですよ。だから、そこにお金を使えるといいと思います。
MC:
インディですと、アーリーアクセス的にアルファ版やベータ版をリリースしてから、順次アップデートをしていくとか、バージョン1.0や0.5を出して、それから1.2や1.3へと、どんどん膨れていくみたいなケースもありますもんね。
河野:
そういうケースなら、ある時点で資金が尽きて「もう限界だ」となっても、とりあえずアーリーアクセスで資金を集めて、もうちょっと作るという手もアリなんでしょうしね。
MC:
時間を使って、その時間は遊びのコア作りにかけて、一度完成させてから、コアを磨くためにまた時間をかけるのが、ひとつのインディのやりかたではないかと。
河野:
逆にそれができるのがインディの強みなんじゃないかなと思います。よほど大手さんのしっかりしたゲームじゃない限り、メジャーな制作現場でも、組み込み終わってからデバッグの時間ってあまり確保できませんよね。
MC:
なるほど……。たっぷりとお伺いしてきましたがお時間です。本当におもしろかったです。皆さんもご満足いただけたでしょうか。
(コメントを読みながら)「ふむふむ」、「最近のコンシューマーはムービーが多い」、「でもやっぱアメリカのゲームに慣れると見た目がいいやつがいいよね」、「タメになった」、「おもしろかった」、「すばらしい」、「普通におもしろい話」、「胸が見れてご満悦」。
河野:
俺も見られて満足しています。
kson:
どこみとんねん。
MC:
関西弁だ(笑)。
前回のアドベンチャーゲームの話では、“ゲームならではの構造によって新しい物語表現が可能になる”という、システムから物語を作る話が核となった。一方今回の話は、““恐怖”を物語るには、どのようにゲームのシステムに落とし込むべきか”、という物語からシステムを考える真逆の切り口が提示された。だが、じつは河野氏の語る“想像の余地”のある恐怖の演出と、前回のイシイジロウ氏の語る“残像”は呼応している。ここに、「遊び手の想像力を刺激するのは、作り手が意図的に用意した余白である」という、規模感には関係のないシンプルなゲームの在りかたが見える。ぜひ1回目と併せてお読みいただければ幸いだ。
次回の番組(11月2日)では、『拡散性ミリオンアーサー』などを手がけた安藤武博氏にお話をお伺いしよう。
お知らせ
番組のベースとなっている“ニコニコ自作ゲームフェス”は、今回で7回目を迎える、ゲームを自主制作する人々を応援するニコニコ主催の祭りのひとつ。今回は『RPGツクールMV』で作ったゲームを投稿するというルールだったが、今回から賞金総額が50万円に引き上げられている。選出部門も「その発想はなかった部門」、「その発想はいらなかった部門」、「謎の技術部門」、「期待の新人部門」、「ガチ部門」など多彩。制作のための素材配布なども行われており、この場で取り上げられた『クロエのレクイエム』、『クリーチャーと恋しよっ!』、『Hero and Daughter』などの作品が、現在はゲーム実況などで盛り上がりながら、小説になったり、漫画になったりと、いろいろな方面へ羽ばたいている。
また、2016年11月6日には、東京・東銀座の松竹スクエアで、第三回自作ゲームフェス勉強会が催される。講師として、河野氏の話題にも登場した、コーエーテクモゲースで『零』シリーズを手がける柴田誠氏が登場。ホラーゲームの作り方の解説のほか、持ち込みゲームを遊んだり、ゲームデザインのワークショップが催されたりなど、入場無料ながら内容充実(先着申し込み順)。興味を持ったなら、ぜひ参加してみよう。