東京・お台場の東京ジョイポリスにて7月から稼動中のフリーローム(自由に移動できる)VRシューティング『ZOMBIE SURVIVAL』(ゾンビサバイバル)。これを体験して得た楽しさを考えるとともに、開発元であるZero Latency社のCEO、ティム・ルーズ氏に尋ねたインタビューをお届けしよう。
自由に歩けることがVRの実在感を押し上げる
世界初を謳うフリーロムのVRシューティング『ZOMBIE SURVIVAL』(ゾンビサバイバル)は、オーストラリアの開発会社Zero Latency社とセガ・ライブクリエイションが手を組んで作り上げたアトラクション『ZERO LATENCY VR』の対応コンテンツ第1弾だ。東京・お台場の東京ジョイポリスに2016年7月23日から完全予約制でオープンしている。
まずザッとアトラクションの概要を話しておこう。
参加者はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、ヘッドフォン、小型PCの入ったバックパック、そしてガン型コントローラーを携え、17メートル四方のスペースに6人で踏み込むことになる。
舞台はゾンビがはびこる市街での防衛戦。エリア内を自由に移動しつつ、にじりよるゾンビを撃退し、救出ヘリを待ちながら12分を耐えしのぐのが目的だ。仮想空間上ではフロアが2層になっており、仮想のエレベーターで行き来したり、特定のマークを撃ってバリケードを築き、ゾンビの侵攻を遅らせたりなど、ルールはいろいろあるのだが……細かいことは置いておこう。プレイの流れやルールなどは、以下の各メディアの皆さんの記事をご参照いただきたい。
参考記事:
新VRアトラクション『ZERO LATENCY VR』を体験 特殊部隊になりソンビに襲われた街で死闘してきた
(情報元:ファミ通.com)
動き回れるこれまでにないVR『ゾンビ サバイバル』を体験。協力してゾンビを撃つ爽快感をレポート
(情報元:電撃オンライン)
6人参加可能なフリーローム型VRアトラクション「ZERO LATENCY VR」を体験してきた。2016年7月23日に東京ジョイポリスにてグランドオープン
(情報元:4Gamer.net)
【山本一郎】VRアトラクション「ZERO LATENCY VR」が熱い! キミも大迫力VRの世界でゾンビと握手しよう
(情報元:4Gamer.net)
さて、この記事でお伝えしたいのはプレイの手順ではなく、この新しいタイプのVRコンテンツ『ZOMBIE SURVIVAL』で“自由に歩ける”ということが、楽しさにどう影響しているのかということだ。そこを軸に以下に書いていこう。
最初に言っておくと、ゲームに登場するゾンビは、一見それほど怖くない。それはなぜか。記事後半のインタビュー中でも理由を明かしているが、このゲームは初心者からリピーターまで、幅広いプレイヤーに向けたものだからだ。緻密なプレイや命のやりとりを楽しむというよりは、高揚感やノリを楽しめるようにするため、恐怖をほどほどに抑えてあるのだ。そのために解像度、ポリゴンの細かさ、テクスチャー、あるいはヒット判定などもある程度の水準に抑えられている。
だからといって楽しくないわけではない。このコンテンツに興味を持ったり、体験しようと決めている皆さんであれば、おそらくプレイ前の5分程度のブリーフィングやバックパック装着の時点で、はち切れんばかりに気分がアガっていくことだろう。この高揚感はHMDを装着し、現場突入前に映画『トロン』のような仮想空間に佇んだときに最初のピークに達する。
ゲームに突入すると、燃え盛る荒廃した街、転がるオブジェクトを見回して、きっと「ああセガっぽい」と感じることだろう。そんな感慨に耽っていると、オペレーターのアナウンスとゲーム内のアナウンスによりゾンビの接近が知らされる。緊張しながら前方を凝視していると、遠目からヌーッとゾンビが登場する……のだが、想像していたものより小さく感じる。なんというか、視界の極端に広い『ハウス・オブ・ザ・デッド』風味なのだ。だが、この感覚はのちに裏切られることになる。
その様子に緊張を解き、「楽勝じゃん」などと乱射をしていると、だんだんとゾンビの数が増え、攻撃が激しくなってくる。フィールド上にある工具マークを撃つと、敵とのあいだにバリケードが築かれてゾンビの侵攻速度を抑えられるのだが、数が増えてくるとバリケードの構築も容易ではなくなってくるのだ。
ほどなく事件は起こる。
左右に動きながらゾンビ殲滅に励んでいると、ほかの仲間が撃ち漏らしたゾンビが、気づかず自分の横や後ろに回り込んでいたりするのだ。これが視界の隅をスッとかすめたり、何かのはずみで振り返ったときに間近にいたりすると、声が出るほどギョッとする。そしてさっきまでただの的だったゾンビすべてが、リアルな“ホンモノの敵”同等に認識されるという、言いようのない感覚に襲われるのだ。
簡単に言えばある種のパニックだ。本能的に後ずさりしつつ、何も考えられなくなりながら、ひたすら必死に撃ちまくる。波状攻撃がほんの少しだけ止んだときに、ようやく客観的になれた。
プレイ中は、前述のいろいろな緩さがプレイに対する完全な没入を適度に防いだり、実在感をともなったり、いいバランスで続いていく。それによって心臓がキュッとなる怖さというよりは、適度な焦りとなって殺る気を奮わせてくれるのだ。中盤以降、2メートルは越えようかという巨漢ゾンビが連続して現れたときなどは、手強そうな相手と戦えるうれしさと強烈な圧迫感で「おほほほほほほ」と変な声が出た。出しながらひたすら撃った。
こうして12分はあっという間に過ぎていく。
VRは歩けることで説得力が増す
プレイし終えて考えたのは、自由に歩けることがプレイにもたらす楽しさだ。じつはこのコンテンツでは走ることも跳ぶことも禁止されている。実際のところ、リアルのフロア中央にある柱(ゲーム内では防衛すべき施設)を中心に外側四方から敵が来るため、プレイヤーは必然的に柱を背負う形となり、移動もその周囲を回ったりフロアを上下する程度となる。さらにほかのプレイヤーもいるため、おのずと移動範囲や担当範囲が決まり、逃げたり走ったりなどしづらい仕掛けになっているのだ。
ただ、じっと1ヵ所に留まってのプレイに比べると、少しでも歩き回れる点が楽しさを跳ね上げている。なぜか。それはこれまで体験してきたVRコンテンツに感じていた、自分の動きに対してゲームからのフィードバックが弱いという不満が緩和されているからだ。
現状のコンテンツの多くでは、視覚的には自分が別世界にいるように感じられるにもかかわらず、視覚以外のフィードバックが十分ではなかった。だがフリーローミングVRでは、歩きが加わっただけながら、身体から脳に届く信号と、目から得られる信号が一致する。「その世界に自分がいて、そこを歩いている」という説得力がものスゴいことになる。
歩くことに違和感がないため、それがほかの情報にも錯覚を引き起こす。背後にいた敵をホンモノと認めて脅威に感じるのも、エレベーターを使っていると本当に上昇している浮遊感を身体で感じている気がするのもそのためだろう。
付け足していうなら、これを商業ベースで実現していることが『ZERO LATENCY VR』のスゴさだ。説得力のある土台のうえで、実在感あふれるゾンビ討滅が存分に楽しめる。楽しくないわけがない。
VRの黎明期を見逃さないために
とここまで書いたが、現状のVR体験は非常にパーソナルなものなので、テキストで読者の皆さんとイメージを共有するのにも限界があるだろう。ただひとつ自信を持って言えるのは、2016年のいまを生きるなら、この黎明期のフリーロームVRである『ZERO LATENCY VR』は体験しておいたほうがいいということだ。これまでとはフェイズが一段階上がったコンテンツがそこにあるのに、手を伸ばさないのはもったいない。
さらに後から振り返ったときに、いまが本格的なVRの始まりのタイミングであることは明白で、「その時期のVRをオレは逃さず体験したんだ」と語ることができるのは、やがて堪らない喜びとなると思われる。それはちょうどインベーダーやファミコンがどれだけのブームであったかを語るおっさんの喜びに等しく、大きなムーブメントを肌で味わった者だけが持てる興奮や快感だ。聞かされる側の気持ちは斟酌するが、語るおっさんの楽しそうな顔たるや。VRはそうなる可能性が約束されているのだ。