Electronic Arts(以下、EA)はクラウドベースの総合開発プラットフォーム「Project Atlas」を発表した。クラウドゲーミングであれば耳馴染みがある言葉だが、EAの提唱する「Project Atlas」とはいったいどのようなサービスなのだろうか。
EAの最高技術責任者Ken Moss氏によると、「Project Atlas」は1000人が開発に従事する巨大なプロジェクトだという。EAのAI、クラウド、ソーシャル、エンジンといった、これまで個別に存在していた製品をひとつに統合することが狙いとなる。この「エンジン+サービス」の統合でもっとも利益を得るのはゲームの開発者たちだ。
『Battlefield V』から『FIFA 19』まで、さまざまなEAのゲームで利用されているFrostbite Engineは開発者のためのツールボックスだが、今日のゲーム開発のプロセスにはもうひとつ、サービス設計の側面もある。
プレイヤー間のソーシャルコミュニケーション、スクリーンショットやプレイ動画といったユーザー制作コンテンツの共有から、マッチメイキングのようなプレイデータによるパーソナライズといったオンラインサービスも、「Project Atlas」が内包する。
また、ゲーム開発におけるAIと機械学習の利用にも力を入れている。ゲームミュージックは環境だけでなく敵や味方に用意されたモチーフから、現在の状況に合わせて独自のスコアがAIによって自動で生成される。アクションが激しくなれば音楽も激しく場面を盛り上げていく。
AIによるゲーム内のNPCの生活やストーリーテリングを設計することも可能とし、たとえばBioWareのようなストーリーに特に力を入れるデベロッパーがAIと協力すれば、さらに豊かな物語を生み出すだろうとしている。
AIによるゲーム設計の自動化は、巨大化するゲーム開発の手助けになる。オープンワールドゲームで同じような風景が続く、いわゆるコピペマップを避けようとすれば、数十名のアーティストが長い期間をかけて手作業でマップをデザインする必要があった【※1】。
「Project Atlas」では、実際の地形を測量したLIDARデータ【※2】を元に機械学習を用いた地形生成アルゴリズムが利用できる。開発者は数秒でひとつの山だけでなく、現実感のある周囲の環境までを数秒で設計できるという。
※1……公式ブログのエントリーより。ただし、現在のゲーム開発では地形の自動生成ツールは一般的なものであり、手作業で全てを作り上げることは少ないと思われる。
※2……LIDAR(light detection and ranging)。レーザー測量器を搭載した車両や航空機とGPS、INS(慣性航法装置)を組み合わせて、地形だけでなく植物などを含めた地表のデータを得るシステム。
「Project Atlas」はローカルデバイスの処理能力では難しい複雑な描写を、クラウドサービスに肩代わりさせることもできる。たとえば、HDグラフィックのレンダリングを個人のゲーム機やPCが行い、オブジェクトの破壊の計算をクラウドで行うことで、フレームレートを落とさずよりリアルな破壊描写が可能となる。
ゲーム開発であれば、これまで個別に行わなければならなかったマップ開発をクラウド上で、複数人が同時に共有しながら行うこともできるという。
そして、開発環境を誰もがアクセス可能なクラウド化することにより、プレイヤーとクリエイターの境界線はさらに薄くなる。ゲームプレイ中にひらめいたアイデアや作品をマーケットプレイスで公開するようなシステムも現在開発中だという。
とはいえ、個別に見ていけばほとんどのサービスはすでに何らかの形で実現している。クラウドゲーミングはいくつものサービスが運営されており、プレイヤーの制作した資産を共有するサービスはSteamワークショップが先行していると言えるだろう。また、クラウド技術を利用した高度な破壊表現は、『Crackdown 3』がマイクロソフトのAzureを使ったクラウドコンピューティングを用いることで話題となった。
しかし、これらを全て統合したサービスというのが「Project Atlas」の要となっている。使い勝手やセキュリティの面から言えば、統合サービスのほうが都合が良い。
※Azureとの連携で多彩な破壊表現を狙う『Crackdown 3』。
EAにおいては、2018年5月にGameFlyからクラウドゲーミング技術を買収したことが発表されている。Origin Accessの使い勝手を向上させる新たなサービスになるかとも思われたが、今回さらに大きなプロジェクトの一部となって現れた。
ブログエントリーの最後には、インディデベロッパーを含めた他のデベロッパーに対して技術提携することに前向きな言葉が記されている。サービスの開始がいつになるかは明言されていないが、はたしてEAが目指す未来がどのような形となって出現するのか、続報を楽しみに待ちたい。
文/古嶋誉幸