毎年アメリカで開催されているゲーム開発者会議「GDC」(ゲーム・デベロッパー・カンファレンス)のYouTubeアカウントから、ゲームクリエイターSWERY氏が2011年に登壇した講演の動画が公開された。
8年前(2011)のGDCの講演がYoutubeで公開されました。
— Hidetaka SWERY SueHERO (@Swery65) February 2, 2019
ちょっと若いのと、英語が下手で(笑)#DrinKING#GDC#DeadlyPremonition https://t.co/65lxPsHiT4
このときのSWERY氏はアクセスゲームズに在籍しており、開発した『レッドシーズプロファイル』が北米を中心に注目を集めていた時期。2010年に発売した『レッドシーズプロファイル』は、アクション重視で開発していなかったが、それでは北米の売り上げが見込まれないという理由で、途中からTPSとして再構築する方針に。しかし開発時間が足りず、結果的にアクションや操作性の品質を保つことはできなかった。
だが、それとは対照的に、魅力溢れるキャラクターたち、世界観やストーリーは絶賛された。FBI捜査官がアメリカの田舎町で巻き起こる猟奇殺人の謎を解き明かすストーリーだが、デヴィッド・リンチ監督のTVドラマ『ツイン・ピークス』の影響が濃厚だ。シュールなギャグや奇抜すぎるキャラクターたち、波乱に満ちたドンデン返しがある傑作となっている。
本作の最大の特徴としては、オープンワールドを採用しており、街の住民がスケジュールに従ってそれぞれ生活していることだ。操作を進めるにつれ、プレイヤーはこの不思議な町の住民に愛着すら感じてくるだろう。このようなことから本作は『シェンムー』がしばしば引き合いに出される作品である。海外にはファンサイトが存在するなど、熱心なファンがいるカルト作品となっている。
日本では出荷本数が少なくプレミア価格は長らくついていたが、2015年にPlayStation Storeから『Deadly Premonition レッドシーズプロファイル コンプリートエディション』として配信された。現在はPS3で気軽に遊ぶことができる。
今回、公開されたGDCの動画ではSWERY氏ならではの明晰な視線から、『レッドシーズプロファイル』の制作の秘密を明かしている。SWERY氏は本作を制作するにあたり、ゲームデザインとゲームシナリオにまつわる7つのポイントを重視したという。その講演内容をかいつまんで紹介しよう。
1 ゲームを遊んでいないときに、ふと思い出すゲームを作るには
ユーザーがゲームをしていないときでもゲームを思い出すことができないだろうかと考えた結果、『レッドシーズプロファイル』では主人公とプレイヤーのシンクロ率が高くなる実験的な試みをやっているという。それは人間の生理現象を利用することだ。
たとえば主人公が頻繁にタバコを吸う、コーヒーを飲む、実在の映画に言及する、また本作では主人公が時間経過と共に体臭が臭くなっていくが、これもそういう試みだという。現実の身近なことをゲームで描くことによって、ゲームが終わったあとでもプレイヤーがゲームを思い出してくれるきっかけとなるという。
2 綿密に作り上げたシナリオを素直に遊んでもらえるコツ
プレイヤーにとって、がんじがらめの物語を遊ぶのは厳しい。SWERY氏によると、ゲームではプレイヤーに自由度を与える手法がすでに確立されているという。それが分岐を与える「マルチエンディング」、寄り道を与える「サイドクエスト」という手法だ。しかしSWERY氏は、本作には第三のメソッド「タイミング」を加えたという。
普通のゲームでは、クエストがスタートすると、挑戦があり、次に判定がある。だが本作の場合は、クエストのスタートした段階で「途中でやめて、フリープレイに戻ってよい」という分岐が備わっている。いつでもリトライできるシステムを提供することで、プレイヤーにクエストが強制されていないことを錯覚させたという。
さらにクエストで失敗すると、途中でやめようとしたら、近くのキャラクターから怒られてしまいがちだが、本作では「いいね、僕もそう思っていたところだよ」と主人公がプレイヤーに賛同してくれるように作ったという。物語上でも重要人物が「急がなくていいんですよ、大事なのはタイミングなんです。あなたのタイミングで遊んでください」と追認することによって、自己主張がしっかりとゲーム内で完結でき、プレイヤーは素直にプレイできるようになるという。
3 オープンワールドならではのシナリオ構築方法
通常、シナリオを書くときは、シノシプスを書いて、プロット、次にキャラクターのリストを作ったあと、スクリプトを作る流れになる。そのあとにマップを作り、キャラクターのディテールを作り込んでいく流れになる。だが、本作の場合ではオープンワールドなので、シノシプスを用意したあとは、先にマップとキャラクターを作りこむことに時間を割いたという。
実際に取材に行って、街のマップを作り、そこで登場するキャラクターには24時間の行動テーブルを作る。そこまでを作り上げた上で、プロットを作り、シナリオを書く。SWERY氏によると、これは映画よりもテレビドラマや連載マンガに近い作り方になっているという。
4 リザルト画面でゲームプレイの中断を上手く阻止する方法
通常のゲームには、「課題があり、ヒントがあり、それをクリアすると報酬があり、リザルト画面がある」という進行がある。しかし、この流れではリザルトの段階で、プレイヤーがひと段落してゲームを止めるしまうキッカケが生まれてしまう。本作では課題とヒントまでの流れは同じだが、そのあとの報酬の段階で次の課題を与えて、プレイヤーの興味を引いたという。
課題の次はヒントにゲームは進行するわけだが、あえてリザルトで中断させることによって、さらに続きが気になるという感情を生みだすことができる。これは「クリフハンガー」と呼ばれる手法である。
5 魅力的なゲームキャラクターを作るコツ
本作の大きな魅力のひとつにキャラクターがあるが、SWERY氏はキャラクターを作る上で、外見だけではなく趣味、学歴、初恋の相手、子供のときに好きだった絵本などディティールを積み重ねて、履歴書にまとめるという。
またプレイヤーが真似できるポーズ、キメ台詞、癖は必ず入れること。さらにキャラクターの嫌な部分を取り入れることが重要だという。嫌な部分を描くことは勇気がいることだが、家族でも友達でも思い返したら嫌なところがあるからこそ、人間味が増す。誰にでも好かれてしまうようなキャラクターは平凡になってしまうという。
6 ボイス収録のときに気にしているところ
英語が上手くないものの、海外の人に演技をつけなければいけないときがある。そのときはキャラクター性に合う音階やリズムを、洋楽からイメージをとって物差しにしているという。
たとえば主人公のしゃべり方は、ザ・ビートルズなどのブリティッシュ・インヴェイジョンを意識しているという。ジョージという警察署長のキャラクターだと、暴力的だが伝説的なイメージのある80年代ハードロック、ヒロインのエイミーだと、田舎臭いけど懐かしい感じの80年代のオールド・ポップスを意識している。
7 もっとも重要なこと、それは……
最後にSWERY氏は、自分のアイディアに自信を持つことが一番重要だという。アイディアはあとに取っておくのではなく、思いついた瞬間に使う。たとえば、本作には地図上で犬のイラストが隠されている。このことに意味はないが、思いついたので入れていることが重要だという。思いついこと自体がチャンスであり、無駄になったとしても気にする必要はない。アイディアを使わないこと自体がもったいないことだと説いている。
以上で、SWERY氏の講演は終わりだが、動画では講演のあとには質疑応答の時間も設けられており、講演の内容も詳細に語られている。詳しくは動画を確認して欲しい。ゲーム開発に従事する方々はSWERY氏のメソッドを参考にしてみてはいかがだろうか。
現在のSWERY氏はアクセスゲームズを退社して、自身のゲームスタジオWhite Owlsを立ち上げて独立している。昨年はその第一弾となる『The MISSING – J.J.マクフィールドと追憶島 -』を発売して好評価を得ている。現在は借金返済生活RPG『The Good Life』を開発中だ。『The Good Life』はイギリスの田舎町が舞台で、殺人事件に巻き込まれるという、『レッドシーズプロファイル』を少し彷彿とさせるもの。『The Good Life』を予習するためにも、『レッドシーズプロファイル』、そして発売中の最新作『The MISSING』をプレイしてみて欲しい。
ライター/福山幸司