Frontier Developmentsの開発する天の川銀河を舞台にしたMMOスペースコンバットシム『Elite Dangerous』で、あるCMDRたち(ゲーム中に登場する宇宙船パイロット、プレイヤー)のコミュニティが天の川銀河の淵まで旅をする計画を立てた。2019年1月にスタートした1万3000人のCMDRが銀河の果てを目指す「Distant Worlds II」の参加者は、全ての工程を完了し太陽系からおよそ6万5000光年先の「Beagle Point」星系へとついに到着した。
過酷な旅を生き残り期限までにBeagle Pointにたどり着いたのは、全体の四分の一となる3747名。達成者として登録されるのは制限時間までにたどり着いたCMDRのみだが、今なおBeagle Pointへの旅を続けている人々もいるようだ。
「Distant Worlds II」に参加するCMDRの目的はさまざまだが、大きな目標として「新たな興味深い場所、空間的な異常、地質学的な特徴を発見し、命名すること」を掲げている。本作は天の川銀河を原寸大で再現しており、プレイヤーが探索済みの領域はその中でもわずか0.036%と公式に発表されている。
このイベントでは銀河の果てを目指すだけでなく、巨大なブラックホール「いて座A*」のすぐ近くにある「Stuemeae FG-Y D7561」星系に新たな宇宙港を建造するという副次目標もあったが、そちらも達成。デベロッパーであるFrontierと協力して設定したコミュニティゴールに、スターポート建造用の資材をCMDRたちが運んだ。建造された宇宙港「Explorer’s Anchorage」はブラックホールにほど近い場所で、危険な旅に挑むCMDRたちを迎えている。
「Distant Worlds II」の完了に際し、CMDRのQohen Leth氏が参加者の統計を発表した。今回の計画に際し、CMDRは日本を含む世界72か国から集まり、3年前に行われた前回のイベント「Distant Worlds」の参加者の約半数が今回参加。使用プラットフォームは1万人がPC、Playstation 4が1300名、Xbox Oneは1500名の割合となっている。
搭乗機は深宇宙探索に最適な長い航続距離を持つAsp Explorerや、汎用性の高い高級機であるAnacondaが人気だ。そんな中、66名がゲームで最初に搭乗するSidewinder Mk.Iでこの過酷な旅に挑んだというのは驚きだ。はたしてこの中の何名が銀河の果てにたどり着いたのだろうか。
イベント参加者が星間移動のためにハイパースペースジャンプを行った回数は合計940万回、距離は合計で約65万光年。ゲームの舞台である天の川銀河を8つ飛び越す程の距離だ。152日間に渡るイベントで、全参加者の旅した距離は合計11億8800万光年。観測可能な宇宙の大きさが930億光年だと言われていることを考えるとかなりの距離だ。探索で発見し、新たに星図に載った恒星は118万にも及ぶ。
銀河の果てを目指す過酷な旅の中で2700隻がクラッシュ。クラッシュの理由は戦闘だけでなく、海外フォーラムRedditでは高重力の惑星から脱出できずに宇宙船が爆発した例も報告されている。しかし、その中の620名が不屈の闘志で復帰し、期限内にBeagle Pointまでたどり着いたという。
事故によるクラッシュ以上に多いのが、自爆を選んだCMDRだ。その数は3000人にもなる。宇宙空間での孤独や狂気によるものか、あるいは手っ取り早く家に帰るための手段だ。事故だけでなく、救出された人々もいる。深宇宙で燃料切れとなったCMDRを、そういった人々を助けることを目標としている「Fuel Rats」と呼ばれる集団が166回救出した。
約5ヶ月に及ぶ旅を終了した「Distant Worlds II」だが、「Distant Worlds III」が行われるかどうかは今のところ未定だ。プロジェクトのリーダーであるErimus Kamzel氏は、この計画はゲームの新しいコンテンツやゲームプレイに完全に依存していると語っている。たとえばゲームにマゼラン雲が追加されるような、挑戦的で大規模なアップデートがあれば再び動き出すだろう。
CMDRによる大冒険が日夜繰り広げられている『Elite Dangerous』。今度はどんな驚くような大冒険が天の川銀河で語られるのか、今から楽しみだ。
ライター/古嶋誉幸