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新卒ばかりのチームがいきなりインディーゲームを作ると何が起こるのか!? ⇒「仕様書が足りない」「コンセプトがブレる」と前途多難に。“落とし穴”にハマった事例から学ぶ「縛りだらけのインディーゲーム開発」第2回

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「やりたいこと」をまとめてゲームに筋を通していく

このとき、岩崎は、とても大きな問題を抱えていた。

それはグラサバをどんなゲームにしたいのか、企画書を読んでもよくわからず、どんなゲームにしたいのか、さっぱりイメージできなかったことだ。

グラサバの企画書には『俺だけレベルアップな件』のイメージで「中二病的なカッコイイ必殺技を連発して敵をバタバタ倒していくところ」と、海外のゲーム開発で言うメインピラー【※】はちゃんと書かれていた。しかしその次が、いきなり「ヴァンサバに代表されるサバイバーライクをこう発展させます」だったのだ。

※メインピラー:ここではゲームの中心的なテーマ、表現したいものを指す。

「サバイバーライクの典型をこういじる!」というアイディアが羅列的に並べられているのだが、実はこれは「やりたいこと」がまとまっていない典型的なパターンだ。以下は、それを岩崎がシニアデザイナーの渡部さんに説明した時のログである。


岩崎:
コンセプトがブレるってどういうこと?

シニアデザイナー・渡部:
降ってきた思いつきを「これを入れたら面白くなりそうだぞ」と神の思し召しみたいに取り入れてみたものの、結果それがコンセプトからズレてしまっていることがあるんですよね。

岩崎:
そうだと思った。「スカウター」がない証拠だね。

シニアデザイナー・渡部:
「スカウター」……!? めちゃくちゃ気になります、それ!!

岩崎:
海外のゲームデザインでは、コンセプトのことをピラー(柱)って言うんですけど、新しい思いつきを採り入れるか否かジャッジするとき、「そのアイディアはピラーの何を強調しますか?」というのが必ず問いになるんですよ。

ピラーは「ゲームの売り」と言ってもいいかも。つまり、「売りを強調するアイディア」じゃなければ、入れちゃダメってことです。で、僕の友達でそれを「スカウター」と表現した奴がいるんですね。【※】

※スカウターと表現したのは菊地麻比古氏。具体的な内容は以下のCEDEC 2015での講演を紹介した記事を参考にしてもらいたい。

CEDEC 2015での当時米TinyCoに在籍していた菊地麻比古氏による講演「アイデアの戦闘力を計測するスカウターを作る – ゲームエンジンを使った開発におけるゲームデザインの評価基準」(参考:GAME Watch)

シニアデザイナー・渡部:
おおおー! 今、出てきたアイデアを精査する軸がなくて議論がカオスになっているので、スカウターを取り入れられたらすべてが変わってきそうです!

岩崎:
その「精査する軸」になるのがピラーなんですよ。で、それがないんだろうなと思って企画書を見てみたら、メインピラーは「中二病的なカッコイイ必殺技を連発して敵をバタバタ倒していくところ」とある。でも、このメインピラーを支える他のピラーがないんですね。いきなり個々のアイディアが並んでいるだけになってしまっている。だからゲームがブレるんです。

なので、これがブレないように他のピラーを立てていくのが、次の仕事になるかな。

シニアデザイナー・渡部:
最近やったゲームの要素で、良いと感じたものを片っ端から入れようとしていますね…

岩崎:
その気持ちはめっちゃわかる。興奮して「うわーっ!」って入れたくなるけど、「それはこのゲームと合っていますか=ピラーを強化しますか?」といちいち聞かなければいけないんですよ。


こんなわけで今度はコンセプトがブレないように、メインピラーの「中二病的なカッコイイ必殺技を連発して敵をバタバタ倒していく」を実現するためにはどんな要素が必要なのか、メインプランナーの櫻井君自身に考えてもらい、それを海外開発で「pitch」と呼ばれる短い企画書にまとめてもらうことにした。

本当は話は逆で、pitchのあとに仕様書へと進むのだけど、世の中には都合というものがある。以下は、そのまとめてもらったpitchの一部だ。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_003

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_004
Googleスライドで作ってもらった実際のpitch。プロジェクトの予算を獲得するためならもっと映えるスライドが必要だが、これはチーム内でのゲームの方向性を統一するためのものなのでテキストで十分だ。

味もそっけもないプレゼンテーションだが、機能としては十分。メインピラーをどう支えていくのか、方向が明確化されているので、これで進めて大丈夫だろうとわかる。

ここで岩崎が注意していたことがひとつある。それは、プロジェクトの回し方や、技術の質問には答えるが、ゲームの中身については可能な限り何も言わず、せいぜい提案までにするということだった。……さすがに致命的な地雷の踏み抜きに関する警告はしたが。

なぜなら、このプロジェクトの目的は「新人チームが自分たちで考えた、自分たちの作りたいゲームを作りきり、リリースすること」。岩崎のゲームを作ることではないからだ。

だから岩崎は技術的なアシスト、例えばSteamへの繋ぎこみや、あるいはUnityの変な癖などはいくらでもアシストしていいかもしれないが、ゲーム内容には基本的に口出ししない。あくまでチームが作りたいものを作ってもらい、それが面白い、そしてできれば売れるというのがゴールなのだ。

だから、この方針を決める時にも「表現したいと言っていることと、企画書に書かれていることが噛み合ってないよね。ちゃんと噛み合うように考えないとダメだよ」とは言ったけれど、そこから先、考えたのはすべてメインプランナーの櫻井君であって、岩崎ではない。こういうことのひとつひとつが、プロジェクトとしては大事だと思っていたので、心がけたことだった。

ところで、メインピラーの「中二病的なカッコイイ必殺技を連発して敵をバタバタ倒していくところ」というのは、そもそも中二病的なゲームを作りたいと思っていたところに、ライトノベルの『俺だけレベルアップな件』が合体してできた、と教えてもらったのだが、岩崎はどのようにして合体したのかを知らなかった。その件について、この原稿を書くにあたって行った座談会で教えてもらったのが以下の顛末である。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_005


岩崎:
サバイバーライクにする時に『俺だけレベルアップな件』が混ざってできているでしょ? あの世界観が入ってきたのは、どういう理由ななんですか?

メインプランナー・櫻井:
あれ、序盤はもうまったく影も形もなくて、世界設定をシニアデザイナーの渡部さんと考えていこうかって言われたとき、できれば中二病っぽさをもっと出したいと思ったんです。キャラクターは空を飛んでいて、剣をこう超能力でガーッと動かすみたいな。だったらこうなるんじゃないですか? みたいな感じで、いまの雰囲気になりました。

とにかく当初は「武器」っていう大雑把なくくりではなくて、剣だけに絞って、剣のカッコよさを忠実に表したい……みたいなゲームにしようと思っていたんです。で、剣で中二病っぽさを表す作品で、パっと思いつくのが『ブリーチ』『俺レベ』みたいな感じになっていまして。

岩崎
なるほど、剣って絞ると確かに作品出てこないし、それになるのもわかる。『ソードアート・オンライン』も剣だけかといわれると、ちょっと違うしなあ。

メインプランナー・櫻井:
で、そのころ僕とプロジェクトマネージャー兼プランナーの大石君が、ピッコマで連載されている『俺レベ』のマンガにドハマリしていて。「せっかくだったら僕らが好きなこっちにしますか?」みたいな感じの流れで決まりました。

岩崎:
剣がかっこよく見えるゲームを作りたい。じゃあ、剣を使ってる作品って何があるんだって考えたら『ブリーチ』との二択だったと。それで『俺レベ』の方が今やってる作品だから、参考にするイメージがそっちに行ったというわけですね。なるほど、初めて理解した。で、それはいつごろのお話だったの?

シニアデザイナー・渡部:
調べたら、岩崎さんが来る2か月前に私がそれを提案する資料を作っていたので、その時期に決まったみたいですね。

私がチームの中で世界観担保の責任者になっていて、「ステージを他のサバイバーライクと差別化したい」という意識が強くあったので、じゃあ空を飛ばそうとなりました。それにくわえ、中二病と言われて連想する作品群の中でプランナーと共通で浮かんだ作品だったので『俺レベ』が選ばれたという感じです。

メインプランナー・櫻井:
あと、中二病的に強いラスボスがいて、中二病的に強いプレイヤーが派手にそれと戦う……というのも最初の方からありましたね。

岩崎:
それでなんか最初に「すげえ強くなったプレイヤーが、すげえ派手なラスボスと戦う」って話をされて、面食らったわけだ。いや、それはゲームの最後の話だろって(笑)。

メインピラーを決める時に、ピッコマのマンガが出てくるというのが、実に現代的だなあと思った。それはともかく、こんな風にメインピラーとしての「中二病的なカッコイイ必殺技を連発して敵をバタバタ倒していく」ができ上がっていたわけだ。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_006
中二病的世界観ということで、空を飛ぶことに決まったプレイヤー

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ライター
ゲームデザインディレクター。古くからゲーム業界に関わり、開発者の視点からゲームのことを言語化していくことに使命感を燃やす。電撃プレイステーションでもコラムを連載中。 個人ブログ:Colorful Pieces of Game
Twitter:@snapwith
編集者
オーバーウォッチを遊んでいたら大学を中退しており、気づけばライターになっていました。今では格ゲーもFPSもMOBAも楽しんでいます。ブラウザはOpera

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