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新卒ばかりのチームがいきなりインディーゲームを作ると何が起こるのか!? ⇒「仕様書が足りない」「コンセプトがブレる」と前途多難に。“落とし穴”にハマった事例から学ぶ「縛りだらけのインディーゲーム開発」第2回

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若い子がプレイをほぼしていない、ノウハウが継承されていないジャンルがある

こうして、仕様書があり、メインプランナーが作りたい体験もはっきりして、売りとなるオリジナルな部分も決まり、岩崎はグラサバを面白くするための相談を受けられるようになった。が、実際に「面白くする提案」をするとき、ゲームの世代のギャップに恐ろしく苦しむことになった。

なにせ岩崎はもう還暦すぎ。そして新卒社員メンバーはせいぜいが25歳。30年以上のゲーム経験の差がある。以下はそれが如実に表れた「初めて夢中になったゲーム」を聞いたときの話だ。


岩崎:
一番最初に物心ついた時に覚えてるゲームって何ですか?

プログラマ・西下:
『ポケモン』の緑ですね。

岩崎:
え? ということは白黒……いや、ゲームボーイカラーでやったの!?

プログラマ・西下:
ゲームボーイの横長のヤツでやりました。

岩崎:
なあ、それゲームボーイアドバンス…つまり『リーフグリーン』『ファイアレッド』(2004/GBA)の方だよ……。で、角田君は?

プログラマ・角田:
自分も同じ『ポケモン』です。『ダイヤモンド&パール』(2006/DS)ですね。

岩崎:
ああ……ゲーム歴が『ダイヤモンド&パール』から始まる時代か……。

プログラマ・角田:
そうですね。僕はちょうど『ダイヤモンド&パール』を遊んだのが5歳か6歳ぐらいのときだったので。

メインプランナー・櫻井:
僕は『どうぶつの森』のDSの奴ですね(おいでよ どうぶつの森/2005/DS)。あと『マリオ』と、やっぱ『ダイヤモンド&パール』。

岩崎:
『ポケモン』人気は圧倒的だ。そろそろ聞くのが怖くなってきたけど、津村君は何が最初なの?

プログラマ・津村:
最初の体験でいうと、恐らく親が持っていたファミコンの『スーパーマリオワールド』(1990/SFC)が一番面白かったなっていう記憶があります。

岩崎:
あのね、『スーパーマリオワールド』がすごく面白いのはよくわかるんだけどね、それはファミコンじゃなくてスーパーファミコンね。親じゃなくて、自分が買って遊んではまった最初のゲームってなに?

プログラマ・津村:
一番好きだったのは、『メタルギアソリッド4』(2008/PS3)ですね。

岩崎:
もうPS3世代か……大石君は?

プロジェクトマネージャー・大石:
自分、あれですかね、『Newスーパーマリオブラザーズ』(2006/DS)ですね。

ツールプログラマ・小林:
自分は、メインプランナーの櫻井さんと同じで、DSの『おいでよ どうぶつの森』を一番やったと思います。

ツールプログラマ・新田:
ゲームボーイアドバンスに移植された『ゼルダの伝説 神々のトライフォース&4つの剣』(2003/GBA)ですね。確か一番最初にやったゲームです。


物心がついて最初に遊んだゲームが、例外的な『スーパーマリオワールド』を除くと、2003年以降の発売のゲームばかりになっていて、岩崎とほぼ30年、ファミコンからと考えても20年ほどのズレがあることになる。

そして教育やさまざまな理由から、ファミコン~PS1ぐらいまでのゲームを作っていた世代と、それ以降にゲームの作り手となった人たちの間には、基礎教養に明確な違いがある。そして困ったことに、そのたまたま欠けている部分が、今回のサバイバーライクというジャンルを面白くしていく上で必要になってしまったのだ。それを説明するために、まずサバイバーライクというジャンルの構造を説明したい。

サバイバーライクというジャンルを短くまとめると、自機が装備している武器で自動的に攻撃する、いわばツインスティックシューターの右スティックがないゲームだ。(通常のツインスティックシューターは右スティックで武器の方向を定めて攻撃する)

そして右スティックがない代わりに、武器を複数取って強化することで、隙をなくしていき、敵の大量せん滅を狙う構造になっている。が、基本的にツインスティックシューターに近い点は変わらない。

すなわち、敵の作り方や敵の出し方、面の作り方などはツインスティックシューターを確立した1982年の『ロボットロン2084』から『スマッシュT.V.』『ジオメトリーウォーズ』『スターストライク』『HELL DIVERS』といった連綿と続く作品たちを、間違いなく大いに参考にできる。

加えて書くと、サバイバーライクは敵が群れをなして現れる構造を持っている。これまた前述のツインスティックシューターはもちろん、90年代の弾幕シューティングの敵の出現構造や、古くは『スターフォース』(1984/テーカン)で登場し、それを発展的に取り入れたハドソンの『スターソルジャー』(1985/FC)以降のキャラバンソフトで使われた敵の出現構造と大変に相性がいい。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_009
Nintendo Switch版スターソルジャーの動画より。敵が連続して群れを成してやってくる。
(画像はYouTubeより)

乱暴にまとめてしまうと、サバイバーライクも、過去のそういったシューティングも、「たくさん出てくる敵を撃ちまくる」という点で共通点があり、敵の出現やバランスに関するノウハウは共通で使えるわけだ。

ところが、2Dシューティングというジャンルは現在でも存在はするが、過去と比較するとニッチなジャンルになったと言わざるを得ない。日本では2000年をすぎたころから、大手メーカーから出るようなジャンルのゲームではほぼなくなってしまっている。もちろんまったく存在しないわけではなく、同人では人気を集めていたりもするし、その延長でインディー作品でも出ていたりするのだが。

結果として、専門学校でも教えられることがなくなり、この手のシューティングゲームのノウハウは学生に伝えられていないのだ。

岩崎の経験になるが、会社の経営のかたわら専門学校の先生をしている知り合いに、ハドソンが全国キャラバンをやっていたころの、キャラバンシューティングの基本構造、すなわち『スターフォース』の敵の出現構造を説明したことがある。すると、それを「学校の授業でやってくれないか」と言われたぐらいには、こうしたノウハウは継承されていないのである。

そして、ゲームのプロの卵とでもいうべき今回の新人チームでも同じように、そういったシューティングゲームのさまざまなノウハウは伝わっていなかった。

だから岩崎が若いころなら「それはさ、スターフォース型の敵の管理を入れて、ゲームに戦略性を出そうよ」と言えば、話は通じただろう。さらに言えば、プログラマにも何も言わずとも、だいたいこういう構造を作るものだと分かってもらえる。しかし今回のチームには、そういったシューティングのノウハウがないので、そんなことはまったくできない。そもそも理解してもらえない。

だから「敵の出し方に悩んでいます」と相談されたとき、例えば「敵を群れの単位で管理すると考えて、群れが全滅したら新しい群れが登場するという構造にする。さらに有効な群れの数には上限があるとすると、うまく敵の群れのザコをコントロールしながら倒していけば、画面全体に押し寄せる敵の数をプレイヤーがある程度コントロールできることになる……みたいな戦略的な構造が作れるんじゃない?」というような、非常にもってまわった説明をせざるを得なかった。

しかも、メンバーのほぼ全員がシューティングゲームを遊んだことが事実上なく、上の説明でもピンとこない部分が多かったようで、何度も持って回った説明をすることになった。この手の構造は“縁の下の力持ち”的な部分なので、『スターフォース』や『スターソルジャー』をプレイすればすぐにわかるというものでもないのが、また困ったところだ。

そして、敵の出し方・敵の動き方・敵の強さなどなど、およそ相談されたあらゆるところで、もってまわった説明をせざるを得ず、岩崎は「ああ、シューティングゲームがゲームの王様だった時代は説明が簡単だったなァ」としみじみと思ったのである。

ところで、ゲームとは全く関係のない話なのだけど、キャラバンシューティングの敵が出てくる構造の説明をしていたとき、一緒に日本でゲームに関係する中で、最も名前が知られている人物の一人と思われる高橋名人を、みんなが知っているのか聞いてみた。


岩崎:
で、そのキャラバンシューティングで有名になったのが「高橋名人」なんだよ。さすがにみんな、高橋名人は知ってる…よね? 大石君はどう?

プロジェクトマネージャー・大石:
(しばし沈黙のあと)……いや、自分は知らないですね。

岩崎:
なんてこった! 名人すら断絶があるのか……大石君以外に高橋名人、まったく知らない人いる?

(しばし沈黙があり、どうやらみんな名前ぐらいは知っている感じになる)

プロジェクトマネージャー・大石:
今、調べたんですが、この方、見たことはあります!

(全員爆笑)


この高橋名人を説明する必要はないと思うが、1980年代半ば、ハドソンのゲーム全国大会である「全国キャラバン」で有名になった16連射が売りだった、あの高橋名人のことだ。

岩崎の世代で、ゲーマーで高橋名人を知らない、なんて人間はありえないし、ゲーマーでなくてもかなりの確率で高橋名人を知っていたのは間違いない。それほどの有名人だった名人も、2020年代半ばの新入社員たちになると「何とか名前を知っている」レベルになるのである。時の流れというのは恐ろしいものだ。

最後に、このグラサバを作ったメンバーを紹介しておきたい。

西下君が、インゲーム、つまりゲームの中心部分を作ったプログラマ。
角田君が、インゲームの敵回り全般を作ったプログラマ。
津村君が、アウトゲーム、すなわちメニューや強化画面などを作っている。
そして、小林君と新田君がツール関係を作ったプログラマ。
渡部さんがこのゲームでの唯一のデザイナー(アーティスト)。
櫻井君が、今回のメインプランナー。バランスもとっている。
そして大石君がプロジェクトマネージャーとしてスケジュールなどを管理しつつ、プランナーとしての仕事もしてくれた。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_010

そして、この若いメンバーたちが作ったグラサバは、少なくとも彼らが目指していた

・今までのサバイバーライクにはほぼなかった、意図的に撃てる強力な中二病的攻撃「号令剣技」
・サバイバーライクでは比較的珍しい中二病的に強いボスがしっかり用意されている。
・サバイバーライクでは弱かった「移動すること」に意味がある。

といった、同ジャンルの他にあまりない特徴をもったゲームとして、いよいよリリースを迎えようとしている。9月4日(水)からSteamでβテストが開催されているので、ぜひプレイしてみてほしい。

Steamでのマーケティングのために助っ人を呼ぶことにするが…

こうして、ゲームを作る方はなんとかメドがついてきた。そして、ある日、岩崎は長らく気になっていた別のことを聞いた。


岩崎:
ところで、気になっていたんだけど、このゲームのマーケティングってどうするつもりなの?

シニアデザイナー・渡部:
実はそれについては全く決まっていません。

メインプランナー・櫻井:
必要なのはわかっているんですが、Steamじゃないですか。どうすればいいのかさっぱりわからなくて……。

岩崎:
僕の知り合いで、Neon Noroshiというスウェーデンの会社でSteamのマーケティングをしているヤツがいるから、そいつにヘルプを頼もう。今ならリリースまでかなり時間があるから、余裕をもって頼める。


今振り返ると、これが甘かった。

規模にはよるけども、スマホアプリは3か月前から、コンソールは4-6カ月前から、という感じでマーケティングに必要な時間がおおよそ決まっている。このゲームに関して相談したのが、リリースの5カ月前だった。「経験的にこれぐらいの期間があれば大丈夫だろうから、開発の目途が立ってからマーケティングの事も少し手伝おう」と思って言ったのだが……。

そのNeon Noroshiとの最初のミーティングで「岩崎さん、相談が遅いですよ」と言われてしまうのだ。そして、岩崎は自分が経験してきたコンソールゲーム業界とも、スマホゲーム業界とも全く違う Steam のマーケティングの途方もない罠にとらわれていたことを知るのである…。

次回へ続く……

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ライター
ゲームデザインディレクター。古くからゲーム業界に関わり、開発者の視点からゲームのことを言語化していくことに使命感を燃やす。電撃プレイステーションでもコラムを連載中。 個人ブログ:Colorful Pieces of Game
Twitter:@snapwith
編集者
オーバーウォッチを遊んでいたら大学を中退しており、気づけばライターになっていました。今では格ゲーもFPSもMOBAも楽しんでいます。ブラウザはOpera

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