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新卒ばかりのチームがいきなりインディーゲームを作ると何が起こるのか!? ⇒「仕様書が足りない」「コンセプトがブレる」と前途多難に。“落とし穴”にハマった事例から学ぶ「縛りだらけのインディーゲーム開発」第2回

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オリジナル要素のアイディアを取捨選択し、個性を形作る

こうしてピラーが決まっていく中で、大事だったのがオリジナルのアイディアの取捨選択だった。

チームのメンバーは「他と違う、俺たちのサバイバーライク」を作りたいのだから、オリジナルのアイディアを入れたくなるし、入れるのは当たり前だ。でも、それをやりすぎると、まとまっていないゲームになってしまうし、プレイヤーがサバイバーライクのつもりで買ったら、まるで違うゲームだと感じてガッカリされるのも困る。そのあたりの匙加減は必要だ。

そこで、メインピラー「中二病的なカッコイイ必殺技を連発して敵をバタバタ倒していく」から出てきた号令剣技、そしてプランナーふたりが明快に意識していたボスの存在、武器がスキルツリーになっていること、移動が必要なこと……といった具合にメインの要素は絞り、「サバイバーライクでありながら新しい要素がちゃんとある」というのを目標にしようねという話をした。

ところで、これらの要素はもちろん岩崎が作ったものではない。主にプランナーの櫻井君、大石君のふたりが作って、それを相談されて「こうしたら? こう調整したら? こんな手もあるよね」と、ささやかに助言した結果である。

そういった独自要素、普通のサバイバーライクではあまり見ない「グラサバのオリジナリティ」といってもいいところは、どのようにして出てきたのか? 続いては、その背景をプロジェクトマネージャー兼プランナーの大石君とメインプランナーの櫻井君に聞いてみた。


岩崎:
もともと号令剣技はあったわけだけど、仕様が今とは違ったのはともかく、アイデアはどこから出てきたの?

プロジェクトマネージャー・大石:
初期に櫻井と「もっと中二病くさくしたいよね」って話をしているうちに、ふっと「剣が集合する」って案が出てきたんです。ただそれだけだと案になっていないので、櫻井とふたりで分かれて競作してみようということになったんです。僕が西下と組んで、櫻井が角田と組んで、競作してみようと。【※】

※西下・角田:いずれも新卒チームのプログラマ

メインプランナー・櫻井:
それで大石は剣がレベルアップするみたいな方向で作った一方、僕は集まった剣が一斉に飛び散り、敵を一気に倒す……みたいな感じで作ったんです。それで僕の方が中二病っぽいよね、ということで号令剣技ができました。

岩崎:
ところで最初は、ボタンを押している間に剣が集まってきて、チャージして離すみたいな、もっと複雑な仕様でしたよね。

メインプランナー・櫻井:
最初は剣が攻撃を停止して、プレイヤーの周囲に集まり、それから攻撃するという仕様でした。でも、これだと「必殺技をバンバン撃つ」が満たせないんですよね。、たまるまでの間に自分が攻撃できないというのも、最初はリスクとして良いと思っていたんですが、単にプレイヤーを不愉快にするだけじゃないかな、と思って止めました。

岩崎:
なるほど、それはいい判断だと思いますよ。ところで開発途中で号令剣技は右スティックで狙えるようにしたでしょ。どうしてそうしたの?

メインプランナー・櫻井:
グラサバは『20 minitues till dawn』【※】が参考にしているゲームのひとつになっているんですけれど、明快に狙って撃てるのがいいなと思ったんです。でも、あそこまで狙い撃てちゃうと、ちょっとサバイバーライクというジャンルから離れる感じがしたので。それで、号令剣技は必殺技だから、これだけは狙えるようにするとバランスがとれるかなと思ったんですね。

※『20 minitues till dawn』:2023年に発売されたサバイバー系ジャンルの一作。

岩崎:
なるほど! その号令剣技で戦う中ボスやボスは、どういう流れで登場したの?

プロジェクトマネージャー・大石:
中二病な、というイメージから、最後に超強いボスを配置しようというのは、割と最初の方から決まっていたんです。で、「最後だけじゃなくても良いよね」と増えていきました。

メインプランナー・櫻井:
あと、ボスに関しても『20 minitues till dawn』の影響がありまして。10分でボスが出てくるのが進行上の壁としていいなと思ったんですが、そこをもっといい感じに自分たちでまとめました。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_007
『20 minitues till dawn』の影響などもあって登場したボス。

岩崎:
面白いなあ。僕なんかだとアーケードゲームがすぐ出てくるから、面の途中に中ボスいて、最後に大ボスがいればいいじゃんとか、自動的に考えちゃうんだよね。もう基本のゲームの在り方が違う感じがする。

ところで、剣がスキルツリーになってるでしょ、あれも珍しいですよね。というか、普通のゲームなら驚かないけれど、サバイバーライクではあまり見たことがない。

メインプランナー・櫻井:
サバイバーライクの大半はひとつの武器を取って強化していくと、一定レベルで進化するという形式が多いじゃないですか。あれだと武器のビルドがドロップに依存するのが気に入らなかったんです。なので、ひとつの武器が複数のスキルを持っていて、スキルツリーで好みの方向に調整できるようにしてみたんです。

プロジェクトマネージャー・大石:
ただ、あまり武器の数が用意できなくて。もっと用意したかったなあ……というのもあるんですけどね。

岩崎:
まあ…それはね、世の中には締め切りとか予算とかの縛りがない仕事はないから。大ヒットしてDLCで追加できることを期待しましょう。

メインプランナー・櫻井:
ただ、僕たちがやりたかったことで、あまりうまくいかなかったこともあるんですよ。マップの移動は本当はもっといろいろあったんですけれど、最終的にはほぼボスだけになっちゃったじゃないですか。

岩崎:
あぁ、そうだったね。企画の最初はマップの真ん中にショップがあって、マップのあちこちにショップとか報酬エリアとかあって、そこに行かせながらマップをくまなく旅するようなイメージでしたよね。初期のサンプルでは実際に動いて、報酬エリアとかに行っていたし。

メインプランナー・櫻井:
もともとは号令剣技のアイディアが出てきたとき、しんがりのイメージだったんですよ。

岩崎:
しんがり……?

メインプランナー・櫻井:
負け戦で、自分がしんがりにいて、超強い剣を使って群れの中を突っ切る、というイメージだったんですよ。それで、そのイメージを作りたくてどうしようと相談したんです。

プロジェクトマネージャー・大石:
それでマップの中を動けば群れの中を突っ切ることになるんじゃないのと。じゃあ、動くために目標がいるよねってことで、位置が固定されたフィールドボスができ、報酬エリアができ、強化のためにショップに戻るようにしようと思って中央にショップがある……ってことになったんです。

「縛りだらけのインディーゲーム開発」インタビュー:ゲーム開発編_008

岩崎:
ああ、僕が知っている最初のマップの話になった。そういう理由でできていたわけね。でも、今はほとんどなくなっちゃったよね?

メインプランナー・櫻井:
まず、パワーアップのために真ん中にあるショップに戻るのって、かったるいんじゃないか……となったんですね。

岩崎:
(笑)。僕は「ファストトラベルさせればいいんじゃない?」とは言っていたけど、実は言いながらも、仕様的に確実にファストトラベルできるわけではないよなと思ってました。で、ファストトラベルできない時はかったるいよなあと。

メインプランナー・櫻井:
戻すために苦労するなら、いっそやめて、普通のサバイバーライクみたいにその場で強化できればいいとなり、ショップが廃止になりました。

岩崎:
うん、それでボス以外が消えたのは?

メインプランナー・櫻井:
社内の人にテストプレイしてもらってわかったんですが、「サバイバーライク=その場でくるくる回ってプレイする」という概念が強くて、移動してくれないんですよ。それを変えるためにボスやら報酬エリアやらを配置して、移動してもらおうとしたんですけれど、ほぼ機能しないと……。ならボスだけ残して、強くなったら挑みに行く、でいいんじゃないかとなりました。

岩崎:
移動が弱くなったのは残念だけど、それは仕方ない面もあるんだよね。実は、同じようにマップを移動させることを意識している『Deep Rock Galactic: Survivor』でも、結局のところその要素はあまりうまく機能していないように思えました。

プロジェクトマネージャー・大石:
なにか、他にいい方法はあったんでしょうか?

岩崎:
あるにはあると思いますよ。例えば強制スクロールにして、どんどん右に進まないといけないゲームにしちゃう。マップのあちこちを移動してほしい、という話からは大幅にずれちゃうし、乱暴な方法だけど、移動はさせられる。

他にはマップの探索率みたいなものを作って、それが一定を超えるごとに永続強化が手に入るとか、そんな手段も考えられますよね。ただ、どちらの案も入れる価値があるかと言われたら微妙かもしれない。今の移動は、サバイバーライクとしてはバランスが取れていると思うよ。


と、このようにして、グラサバの少し毛色の変わった要素はでき上がったわけだ。
若いメンバーの判断が正しかったのかは、最終的にはプレイヤーの評価を待つしかないわけだが、岩崎としてはしっかりと考えて作られているのだから、そこは合格だと思っているのである。

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ライター
ゲームデザインディレクター。古くからゲーム業界に関わり、開発者の視点からゲームのことを言語化していくことに使命感を燃やす。電撃プレイステーションでもコラムを連載中。 個人ブログ:Colorful Pieces of Game
Twitter:@snapwith
編集者
オーバーウォッチを遊んでいたら大学を中退しており、気づけばライターになっていました。今では格ゲーもFPSもMOBAも楽しんでいます。ブラウザはOpera

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