2017年1月19日にソニーより発売された『GRAVITY DAZE 2』。前作に引き続き作曲家の田中公平氏がBGMを担当しており、ゲームの世界観にマッチした楽曲は、プレイヤーからの評価も非常に高い。
2月20日に放送されたニコ生『GRAVITY DAZE 2 / 重力的音楽祭:ジルガ・パラ・ラオからヘキサヴィルの調べ』は、そんな魅力的な楽曲の数々を聴きながら、田中氏にお話をうかがっていくという内容の番組となった。
番組は、『GRAVITY DAZE 2』宣伝担当の北尾泰大氏&ゲーマーとしても知られる声優の青木瑠璃子さんがMCを担当し、作曲家の田中氏と『GRAVITY DAZE』シリーズのディレクター・外山圭一郎氏を迎えて進行した。
随所で田中氏が生演奏してくれたり、番組の最後にはスペシャルバンドによるライブがあったりと、豪華すぎる内容となっており、『GRAVITY DAZE 2』を未プレイの人であっても虜になること請け合いだ。
GRAVITY DAZE 2 / 重力的音楽祭:ジルガ・パラ・ラオからヘキサヴィルの調べ | |||
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配信チャンネル | GRAVITY DAZE 2公式 | ||
配信日時 | 2017/2/20 21:00〜 | ||
備考 | (c)2017 Sony Interactive Entertainment Inc. |
『GRAVITY DAZE』シリーズ豪華開発陣が集結!
まずはMCのトークからスタート。2人は、クレーン付きのカメラや、バンド用のセットなど、慣れないスタジオの雰囲気に少々緊張している様子だった。ちなみに、この冒頭のトークでも話題になったが、番組の内容的に『GRAVITY DAZE 2』のネタバレがところどころ出てきてしまうので、気になる方は注意しておこう。
田中氏&外山氏をお迎えする前に、青木さんによる実機プレイで『GRAVITY DAZE 2』を軽く紹介している。すでにプライベートではクリア済みというだけあり、視聴者も素直に驚いてしまうほどの華麗なプレイを披露してくれた。
戦闘では、敵を空中へ投げて落とすという容赦ない戦い方にツッコミが入ったりしながらも、危なげないプレイで楽しませてくれた。『GRAVITY DAZE 2』がどんなゲームかわかってきたところで、いよいよ田中氏&外山氏を迎え入れ、音楽鑑賞がスタート。
BGMを聴きながら、曲に込められた意味や、作曲の工程といった裏話を田中さん自ら語ってくれた。まずは、前作からかなり雰囲気が変わったメインテーマ『GRAVITY DAZE 2』についての話を紹介していこう。
作曲家・田中公平×ディレクター・外山圭一郎が語る作曲秘話
田中:
まあ、イチバン最初に流れる曲ですよね。
青木:
そうですね。
田中:
飛ばされたりしちゃうと嫌だけどね。
青木:
いやいや、ずっとオープニング見ていられます。
田中:
ありがとうございます。『GRAVITY DAZE 2』(の仕事)をするときに、外山さんからイチバン最初にイメージをお伺いしたんですよね。
外山:
そうですね。『GRAVITY DAZE』とは打って変わって青空が広がる、明るい。そのときはプロモーションでメキシコとか行ってて。そこからインスパイアされました。
田中:
あとね、なんか1つキーワードでね。“ベネズエラ”という言葉が出てきて。あれは、私も外山さんも同じYouTubeで見たんですけど、「ベネズエラオーケストラ」というのがありまして。
北尾:
へぇー。
田中:
これがね。指揮がグスターボ・ドゥダメル【※】という人で、素晴らしい。皆さんも一回見てみてください。『ウエスト・サイド・ストーリー』の中の『マンボ』という曲です。「♪タッタタッタラタッタ、タッタッタッタ、マンボ」というのがあるんですけど、この「マンボ!」をですね、オーケストラ全員で叫ぶんです。
北尾:
活気がありますね。
田中:
楽器をうわーってやりながら、そのようなものすごい面白いベネズエラのオケがあるんですけど。それを見ていて、「ベネズエラとはこういうことかな?」と思って。それぐらい明るい。あと、もう一個キーワードを言ったんですよ。
外山:
そうですね。“光と影”みたいな、憂いがあるというか、悲しげな感じも、この街にはあったりするみたいな話。
田中:
その両方を表現してくれ、と。まあ、“第一”ムチャ振りですね。これからもムチャ振りは死ぬほど出てきますが、これが“第一”ムチャ振りでございます。
それで、どんな曲にしようかな? と思ったときに私がちょっと思いついたのが、ポルトガルの「ファド」という。
※グスターボ・ドゥダメル
ベネズエラの指揮者。2017年のウィーン・フィルハーモニー新年公演では35歳で史上最年少のゲスト指揮者を務めた。嵐の松本潤が「憧れの人」と名前を挙げたことから日本でもファンが多い。
青木:
ファド?
田中:
民謡なんです、ポルトガルの民謡。アルゼンチンにはタンゴがあり、フランスにはシャンソンがあり、イタリアにはカンツォーネがあり、ブラジルにはサンバがある。それと同じように、ポルトガルにはファドがあるんです。これは悲しげ。女性が悲しく歌う歌なんです。
北尾:
テーマ的にそういうものなんですね。
田中:
まあ、だいたいそういう歌です。「大航海時代に船の帰りを待つ女たちの歌」とか言われてるんですけど、それは嘘らしいです。
青木:
嘘なんですか(笑)。
田中:
Wikipedia見たら、これ嘘だって書いてました。そんな情報しゃべる必要がないってぐらいですけど。
で、まず、ベネズエラとポルトガルはありましたよね。で、私の大好きなアルゼンチンの作曲家に、アルベルト・ヒナステラ【※】という人がいるんですけど、このヒナステラの『エスタンシア』という曲が素晴らしい。
これもベネズエラオケでやってたりするんですけど、ここ丁度流れてるのがその雰囲気なんですけど、インスパイアされまして。ちゃんと雰囲気だけを取りましたんでね。その3つを合わせたら、こういう曲になった、と。
北尾:
なるほど。公平先生は前もおっしゃってましたけど、インスパイアをイロイロ受けると言いつつも、それはメロディーとか、そういうことではないんですよね。
田中:
サウンドとかメロディーではなく、なんというかな……書かれた背景の雰囲気だったり、色とか風とか、そういうものに私は触発される感じなので。ちょっと今の、弾いてみましょうか。
※アルベルト・ヒナステラ
アルゼンチンの作曲家。代表作『エスタンシア』はラテンアメリカの民族色を取り入れたバレエ音楽として知られる。アストル・ピアソラなど後進の育成にも取り組んだ。
ここからは、田中さんによる電子ピアノを使った生演奏が始まる。作曲家による生演奏には、視聴者も感無量といった様子だ。この後も、随所で田中さんによる生演奏が入り、とても豪華なトークとなっている。
3曲目には、青木さんリクエストの『強襲と凱旋』。これは、通常バトルの曲であり、ゲーム中でも耳にする機会の多い曲となる。この曲についてのトークでは、ゲームの楽曲制作において田中さんが重視するポイントについて語られた。
田中:
あー、これ好きなんだ。やっぱりさっきの(実機プレイの際の)しばき方でわかるね。
青木:
それは関係ないです(笑)。ゲーム中でイチバンかかるし、戦闘ってテンション上げたいんですよ。
田中:
そうだよね。私がゲームを引き受けるとき、RPG、アクションに限るんですけど、イチバン大事にしてるのが“雑魚バトル”。これ、なんでかっていうと、イチバン聴くから。ひょっとしたら何千回聴いてるかもわからない曲じゃないですか。
その次に、フィールドの曲を大事にしようとしてますね。今回でいうと、フィールドというより街のBGMですけど。それによって、イロんな雰囲気が固定できるじゃないですか。ただ、これに関してはどこの街でもかかるわけで、その何十回何百回聴くかもしれないものを一回で飽きちゃうとイヤでしょ。「きたー!」って思ってくれた方がすごくイイ。「またこれかよ」とか思われると、ちょっとイヤなので。だから、イチバン気合いを入れて書いてます。
北尾:
なるほど。今回『2』にあたっては、バトル曲のイメージとか外山さんから何かあったんですか?
外山:
そうですね。『1』のバトル曲もすっごい好きだけど、ちょっと重々しい感じからすると、今回キトゥンもすごいパワーアップしてるし、もっとこうエスカレートする感じとか、そういう気持ちよさっていうのにいってほしいな、と。
田中:
これ、サントラに入ってるんです。3回ループするんですけど、どんどん楽器が増えていく。
北尾:
楽器が増えていくんですね。
田中:
すごい勢いで楽器が増えていきます。そして、3回ループしたら普通はフェードアウトで終わる、と思いきや、もう1つ違う部分がありまして。これは、もっと優勢になったときにかかる曲を書いてくれと言われたモノ。だからムチャ振り“その2”ですよ。こんな長い曲書いて終わりかと思ったら、まだそこからもう一回ありまっせと。
北尾:
あそこ、いいですよね。
田中:
いいですけど。だから雑魚バトルに関しては5分以上ありますよ。イチバンすごいのはリズムの人たち。リズム隊。やっぱ川口千里【※1】ちゃんは……。
北尾:
すごいドラムでしたね。
田中:
すごいドラム。若々しい。このね、弾けるようなドラムの臨場感たるや、ビックリしました。この曲がイチバン端的に、彼女の精力があるところが出てるね。すごくいいと思います。
北尾:
軽やかなのに力強いですね。
田中:
ブラス隊もエリック・ミヤシロ【※2】さんなので、モノスゴイですよ、このへんとか。すごい大変ですよ、この曲。5月3日にひょっとしたらこの曲を演奏するかもしれないですけど、やったらオケの人、大丈夫かな。
北尾:
かなり大変そうですね。
田中:
だから、これに関しては私、ものすごく気に入ってます。リクエストしていただいてありがとうございます。
※1 川口千里
1997年生まれのドラマー。13歳でYouTubeにアップロードした「けいおん!! GO! GO! MANIAC (Full) 叩いてみた」は再生回数600万回を超え、大人顔負けのパフォーマンスと高く評価された。2016年12月にメジャーデビュー。
※2 エリック・ミヤシロ
日系3世のトランペット奏者。「ブラタモリ」旧オープニング曲「KICK UP」などで知られる。
この後、前作のバトル曲『反抗と殲滅』と聴き比べもしている。曲を紹介する際には、「前作と似てるところもあるかな」と言った青木さんに対し、「なんで似てるかお話ししましょうか。書いた人が一緒だからです」と言った田中さんには、思わず視聴者も「そりゃそうだ」と総ツッコミ。
実際に比較してみると、似ている部分はありながらも、今作の曲はパワーアップのワクワクを感じさせるような、力強さや賑やかさがふんだんに盛り込まれていることがよくわかる。
次に紹介されたのは、新エリア「レイ・コルモスナ」のBGM。異国情緒に満ちた雰囲気の曲となっているが、ここにも田中さん独自のこだわりが詰め込まれている。その様子がこちら。
北尾:
コメントでもやっぱり「心地よい」とか「リゾートに来たようだ」とか。
青木:
リゾート、わかります。
田中:
これ、皆さんに私から質問なんですけど、最初にお聴きになったとき、どんな感じを受けました?
北尾:
僕は前作からの宣伝担当で、今作を作り始める前から、ディレクターからコンセプトを聞いてたんです。さっきの話とちょっと似てるんですけど、俺の知ってる『GRAVITY DAZE』ではない、とすごく思ったんです。
でも、外山ディレクターの言ってる『GRAVITY DAZE 2』の曲だなっともすごく思って、驚きとともに“本当に外山さんの言っている世界が音と共に見えてきた”みたいな感じはありましたね。
田中:
おー、うれしいな。青木さんは?
青木:
けっこうビビッドな色というか──私の場合『2』のパッケージというか、イメージイラストと一緒に見たというのもあるのかもしれないですけど──、かなり陽の光みたいなのを感じるというか、先ほどコメントにもありましたけど、リゾート感みたいなのをすごく感じます。
北尾:
「空港に着いたときみたい」なコメントもありましたけど。
青木:
そうですそうです。窓から強めの光が差してくるみたいな。
田中:
外山さんは?
外山:
そうですね。お願いしていたイメージは、漠然としたイメージ。異国感というか、どこか懐かしい、行ったことがあるようでどこでもない。そういう感じ、というのを。
田中:
本当にその通りのつもりで書いたんだけど。先ほどおっしゃられた、空港に着いたとき。それってイロんな人種がいるじゃないですか。たとえば、メキシコの空港で全員が南米の方みたいなのとか、それとかブラジルでサンバ踊ってるとかだと、その色一色になっちゃう。
それとは違った雑多な感じ、ものすごい混ぜこぜ、女性も子どもイロんな人や人種がいて、ということを表現したくて。
始め、はあの……。(田中さんがピアノを弾き始める)
田中:
これね。皆さん気がついたかな。4分の5なんですよ。「1-2-3-4-5 1-2-3-4-5」なんです。これを4分の4でやるとね、すごい南米的というかな。踊りの音楽だから、サンバとかはきっちり「1-2-3-4」といくからうまくいくんだけど、4分の5だとなんかひっかかる感じ。
青木:
ワンテンポおいてから……。
田中:
そう。「なんか気持ち悪い」みたいな。その気持ち悪さがあるからこそ、雑多な人種を演出できるんじゃないか、と。4分の5で有名な曲がありますけど。(田中さんがピアノを弾き始める)
北尾:
ああー。
田中:
これ『テイク・ファイヴ』、超名曲です。もう1曲あるんです。チャララー。スパイ大作戦。
『ミッション:インポッシブル』のテーマ曲ですね。この2曲を超える4分の5はないの。昔にはね、こんな曲もありますよ。チャイコフスキーの『悲愴』の6番の2楽章です。4分の5というのは、こういう風に、ちょっと優雅にもなるんです。「1-2-3-4-5 1-2-3-4-5」という5拍目がつまづく感じですね。これが雑多な感じを1つ演出してるんです。もう一個。普通のペンタトニック【※】ってあるんですけど。(田中さんがピアノを弾き始める)
※ペンタトニック(ペンタトニック・スケール)
1オクターブに5つの音が含まれる音階(スケール)のこと。
田中:
だいたいこの曲は、これベースに書かれてますけど、ここになんと、インド音階の「ラーガ」というのを入れました。途中にこんなのが出てきます。なんでそんなことしたか? やっぱりインド人もいるだろう、と。
青木:
(笑)
田中:
そういう意味じゃないんですよ(笑)。他にも、今のインド音階だけじゃなく、ビルマの音階だとか。沖縄入れようと思ったけど、沖縄入れると、沖縄っぽくなりすぎるんですね。
北尾:
強いですね。
田中:
ベースは普通にメジャーなペンタトニックでやってるにも関わらず、中に入ってくる人たち──バイオリンでチャララーみたいに入ってる人たち──は、違う音階を持った、違う国の人たちが紛れ込んでいるということなんです。だから、ものすごく猥雑な感じがするんです。
青木:
なんかイロんな音が、特にアップデート後は、より聴こえるようになってます。
田中:
そう。それで、みんなアップデート後は「えー、何これ変な音」って。
北尾:
ちょっと音を変えていて、違和感を感じた方もいるかもしれないですけど。
田中:
でも、サウンドトラックを聴けば、ひと回し目は入ってなかったりするから、なんとかなると思うんだけど。
自分としてはものすごいチャレンジングなことをしてしまいまして。みんな思うじゃないですか、「なんで変な音が入ってんの?」って。でもその変な音が入ってるからこそ、あの曲の醍醐味があるという風に思ってくださると嬉しいですね。
北尾:
ああいった音楽の演出部分も先生に考えてもらいましたからね。
田中:
こういう番組で、こういうことしゃべる機会を得たんでね。よかったと。
北尾:
「こういう意図があったんだ」と。
田中:
「なんだこいつ、音間違えやがって」と思われたまま、一生誤解されたままはイヤだからね。今日は来て良かったです。
青木:
イロイロ遊び部分も多いということでね。
田中:
それを受け止めてくださるディレクター、プロデューサーがいるからこそ。「これはだめだよ、もう少し普通にしてよ」と言われたら、普通のはすぐ書けるんだけど……ということです。どうもありがとうございます。
他にも『黒き疾風』、『燭光の域』、『オルドノワ Revisit Ver.』、『プレジューヌ』、『インダストリエ』、『レベル4』、『アンジェ』、『因果の螺旋』、『電磁力の女王』、『世界の半分を統べる力』、『灰燼に帰す』といった曲についての裏話も語られている。これらについては、ネタバレも多くなってくるので、どうしても気になるという人は、ぜひともタイムシフト視聴で確認してみてほしい。
視聴者も大興奮の、生バンドによるスペシャルライブ
一通り楽曲鑑賞も終わったところで、『GRAVITY DAZE 2』の楽曲を演奏した、バンドメンバーからのコメント付きのメイキング映像も公開された。
まるでドキュメンタリー番組かのような映像に一同大興奮! 打ち込みではなく、実際に演奏して作っているというだけでも驚きだが、そのメンバーの豪華さにも改めて驚かされるばかりだ。
さらに、番組終盤にはスペシャルバンドによる生演奏を披露。
ギターは鈴木直人さん、サックスを始めとした諸々の楽器を担当する庵原良司さん。ドラムスは岩瀬立飛さん、ベースはバンマスでもある川村竜さん。そして田中公平さんという、普段は聴けない豪華すぎるスペシャルバンドの演奏は一聴の価値あり! 途中、ちょっとしたトラブルもあり、生演奏の緊張感もありありと伝わってきた。
視聴者からは「お金を払わせてくれ」というコメントまで飛び出すほど、濃い内容の2時間だった。ここでしか聴けない、まさにチケットを買ってでも聴きたいような演奏とトークの数々。まさに、音楽から『GRAVITY DAZE』に興味を持つ人々が生まれるであろう、最後まで大喝采の生放送だった。