『ソニック3』と『ソニック&ナックルズ』の真相!
中:
大変かぁ。たぶん『ソニック3』がイチバン大変だった瞬間というか、『ソニック』を作って『ソニック2』を作って、すごい大ヒットしていて、『ソニック3』を作るじゃないですか。当時『ソニック』から『ソニック2』になったときに、2プレイヤーモードができて。『ソニック3』でも進化を遂げたくて、『ソニック3D』っていう風にしようとしていたんですよ。
NRK:
3Dを。
中:
Dを付けて、ポリゴンのソニックを出そうと。メガドライブなのに(笑)。
NRK:
ムチャしましたね(笑)。
中:
当時『バーチャレーシング』っていうゲームがあって。それ用に作っていた「SVPチップ」【※】っていうものがあるんですけど、それを『ソニック』に使おう、ということにしてもらって。SVPチップで、ソニックがポリゴンで走るようなものを作っていたんですよ。あとは、丸いところをぐるっと走るようなところまでは、当時サンフランシスコで作っていたんですよ。
※SVPチップ
当時話題になったポリゴン演算チップ「セガバーチャプロセッサ」の通称。メガドライブの30倍の演算能力を有し、ポリゴンで描かれた画のなめらかな動きを実現した。
加藤:
もうアメリカに行ってたんですね。
中:
だけど、ある瞬間に、『ソニック3』を「1994年の2月には売らないといけない」ってなったんですよ。これが何でかっていうと、売れてきてしまったがために、マクドナルドさんとのキャンペーンが決まってですね。
NRK:
ありました!
中:
ハッピーミールってあるじゃないですか。
NRK:
ハッピーセットみたいな。
加藤:
向こうはハッピーミールですね。
中:
それに初めて『ソニック』がつくんですけど。ハッピーミールって、1年半前から仕込むんですよ。そのハッピーミールは、めっちゃ安いんですよね。2ドルとか3ドルぐらいで、オモチャまでつく。
217:
そんなに前からなんですか!?
加藤:
向こうはすごいよ、そういうタイアップは。めっちゃ早い。映画でもそうよ、なんでもめっちゃ前から。
中:
そのときのオモチャは、走るとか、空飛ぶとか。引っ張るとテイルスがビューンと空を飛ぶとか、そういうのがあったんですけど。そういうのを作るのに1年半かかるよって言われて。それで、〆切がここに来るってわかるじゃないですか。『ソニック3』をそこに出そうとしているけど、SVPチップの生産がここには間に合わないって話になるんですよ。
加藤:
あー、チップ自体が。
NRK:
ピンチですね。
中:
チップを新たに設計しているのに、それが途中で間に合わないって話になって……。作っていた『ソニック3D』が、全部なくなるわけじゃないですか。
加藤:
それはきつい!
中:
そこから、慌てていままでの2Dの『ソニック』と同じものを作り始めていくじゃないですか。なので実は『ソニック3』って、半年ぐらいで作っちゃってるんですよ。前の年の春ぐらいにSVPがダメだって話になって。実際、SVPチップに対応している『バーチャレーシング』が出たのは、翌々年ぐらいだと思うんですよね。すごくチップが遅れたんですよ。
NRK:
先取りしすぎちゃった。
中:
そうですそうです。間に合うって最初は思っていたら。それで、開発期間が短いじゃないですか、でも、短くても作りたいものがあるじゃないですか。「これだけのものを作りたい」っていうのを頑張って作ろうとしていて、十何ステージ作ろうとするじゃないですか。だけど、途中でまた間に合わないことがわかり……。
でも、6ゾーンだけで『ソニック3』としての発売になっちゃうんですよ。すごくそれは買っていただいた方には申し訳なかった。その後、どうしてもボクはあきらめきれず。その終わる直前ぐらいに、このカートリッジを上に差すことによって、『ソニック3』のデータを使いながら動くゲームを作りはじめたんです。まぁ『ソニック&ナックルズ』になったんですけど。
NRK:
そこにつながるんですね!
中:
当時メールもなかったのでFAXと電話で、「こんな仕様のハードを作ってほしいんだけど、作れる?」みたいなやり取りを(アメリカにいる自分と日本にいる担当者と)しましたね。「これは基盤があって、ここのところのピン配置でつながってくると、バンク切り替えで前のデータが読めるようになれば、『ソニック&ナックルズ』側からは『ソニック3』のデータを使って、『ソニック3&ナックルズ』になるよね?」みたいな話をしたんですよね。
加藤:
うわぁー。すごい!
中:
最終的には『ソニック3&ナックルズ』というものが、ボク的に見ていた『ソニック3』なんですね。お客さんには2つ買ってもらうことになるので、非常に申し訳ないんですが……。
それで、子供たちって、カートリッジを挿せると、色んなゲームを挿したくなるじゃないですか。でも、挿すと「No way」って出るんですよ。「ダメだよ」って。
だけど、そこでABCボタンを押した瞬間にピロンって鳴って変わって、ゲームが始まるんですよ。それが『ソニック』1作目だったら、挿したときにそれ用のパズルゲームが動いて、『ソニック2』だったら、『ソニック2』をナックルズで遊べる『ソニック2&ナックルズ』が遊べて、『ソニック3』はもちろん『ソニック3&ナックルズ』じゃないですか。
それ以外に、すべてのメガドライブのカートリッジを挿したら、そのゲームごとのパズル面が出るようにできているんです!
加藤:
すごい!
中:
なので、すべてのメガドライブのカートリッジの、違うパズル面が出るんですよ、ただ、唯一『ストリートファイターIIダッシュプラス』かな? 何かが特殊カートリッジなので、それだけは出ないんですが、他のものはほぼすべて挿すと出るようになっています。
217:
やりすぎですよ(笑)。
ビデオメッセージ3本目は、酒井智史さんより
加藤:
次行っていいですか? 実は、もう1本、VTRがございます!
中:
まだあるんですか!(笑)。仕込みすぎですね! 仕込みすぎて喋ってられないじゃないですか(笑)。
217:
3つ目のVTRはこちらです! どうぞ!
中:
おー、酒井が。
――中さんとのお話をうかがいたいのですが、最初に会われたときのことは覚えていますか?
酒井:
最初に会ったのは、たぶん……中さんが覚えているかわからないですけど、『NiGHTS』を作っている横で、ボクらは『パンツァードラグーン』を作っていたんです。
コノミ:
『パンツァードラグーン』! やったやった!
酒井:
そのときには、外から見ていて、「すごいソニックチーム大変そうだな」って思ってましたね(笑)。
217:
めっちゃ他人事じゃないですか(笑)。
酒井:
深夜1時ぐらいにミーティングしてたっていう噂は聞きましたよ。本当かどうかはわからないですけど(笑)。
中:
普通ですよ、普通(笑)。
酒井:
当時はセガの中でハードもソフトも作っていた時期で、かなり自由が効いたというか、ギリギリまでやるっていうのが割とあったので。『NiGHTS』のときは、今日マスターだよね? っていう日に、まだラスボスが入ってないかな? みたいな感じだったんですよ。
中:
そんなことないんじゃないか?(笑)。
酒井:
これどうするんだろう? って思いながら見てたような気がしますね。
中:
(笑)
酒井:
『ファンタシースターオンライン』【※】を作っていたときに、中さんが「これはどうしても入れてほしい」と言っていたのが、シンボルチャットとワードセレクト。そこに中さんはすごくこだわられていて。けっこう作るのが大変なので「やめたいです!」って、確か何回か言ったことがあるんですけど(笑)。「これは絶対にやらないとダメ!」ということで、苦労して実装したんですけど。やっぱり、それがあったからこそ、『PSO』って、ゲーム大賞を受賞させていただいたり、いろんな国で賞をいただいたりとか、歴史に残るようなタイトルとして評価される要因になったんじゃないかなと思いますね。
だから、目の付け所が違うというか、大事にするところはすごく大事にされるというか。『PSO』がマスターアップ直前ぐらいのときに、「画面写真を撮る機能がほしい!」と言い出してですね(笑)。で、「どうしても入れなきゃダメ!」と。でも、マスターアップ直前なので勘弁してくださいと言ったんですが(笑)。
※ファンタシースターオンライン
セガ(現、セガゲームス)が運営していたオンラインゲーム。略称は「PSO」。開発はソニックチーム。――どれぐらい直前だったんですか?
酒井:
1週間ぐらい前ですね。「入れても動作保証はできないが、それでもいい」ということで、結局入れたんですよ。ただ、それって今『PSO2』とかだと、画面写真を撮る機能が標準であって、著作権利用規約とかを整備してやるようにしましたけど、本当にそれの先駆けで、それまでそういったものを許可しているトコロってほとんどなかったんですよ。で、それがあったことによって、画像掲示板というのがすごく流行って。記念写真として思い出を残す、ということがユーザーの間にも広がって。そのあと『バージョン2』では標準機能にしたりとか。ココ!っていうところを絶対に妥協しないんですよね。そこはやっぱり、すごいなと思いますし、やる側としたら苦労はさせられますけど、そこが中さんの中さんたる所以なのかな、と。
中さんはクルマがすごく好きじゃないですか、スーパーカー買われたりとか。鈴木裕さんもいらっしゃいましたけど。「ゲームクリエイターという職業が憧れの職業であってほしい」という想いを中さんはすごく持ってらっしゃったので、「だからこそ、俺はスーパーカーに乗るし」という話を昔されていました。なかなか今のクリエイターの人たちって、そういうところがない人も多いと思いますけどね。ボクもスーパーカーなんて買えるサラリーじゃないですから(笑)。
新しいものがとにかく好きで、デジカメとかは本当に出始めのときに、イチバン最初に買ってきて、「これデジカメだよー」って言って、遊んでたりとかされてましたし。
すぐ飛びついて試して、実際のゲームに生かしてみるとか。やっぱり中さんがセガを辞められたときにも、「ボクはファーストペンギンになりたい」って言って辞められたんですけど。やはり、初めてのものをすごく大事にされているところがあって、『ファンタシースター』シリーズをボクらが引き継いでやるうえでも、何か必ず挑戦をするというのは、肝に銘じて、常にやっていこうと思っています。
とはいえ、ソニックチームというものの大きな柱だったので、(辞められたときには)どうしようという気持ちがありましたね。色んなことをやるために、中さんに通すというか、中さんに判断を仰いで決めるということが多かったので。
「シンパシー」【※】っていうオーケストラコンサートを2013年にやったんですが。中さんに出ていただいて。お話していただくトークタイムみたいなものがあったんですけど、その打ち合わせをしているときに突然、写真撮影をしたいという話が出て……。
※シンパシー
「ファンタシースター」シリーズの25周年を記念して催されたコンサート。指揮者に天野正道氏、管弦楽に東京フィルハーモニー交響楽団を迎えた豪華なイベントとなった。
中:
言った言った。いいやつだなぁ、ホントに。よくそんなイイこと覚えているなぁ(笑)。
酒井:
『PSO』はけっこう歴史のあるタイトルだから、そこで結婚した方とかがいるんじゃないかと。その人たちに手を挙げてもらって、呼んで、記念撮影をしたいというような話を言い出して。そうですかと。けっこう突然だったのでビックリしたんですけど、たぶん、少しでもユーザーの方たちにどうやったら楽しんでいただけるか、という気持ちがあって、その流れになったと思うんですよね。手間のかかることですし、なかなかそこまでやろうとは思わないですけど、それをやったことで「すごくよかったな」と、その方たちは思われたと思いますし。結局、32組ぐらい出てきたんですけど。
――そんなにですか!? すごいですね!
酒井:
中さんに教えていただいたこと、学んだことを活かしながら、これからも作り続けていきたいと思いますし、ボクもいつかフェラーリに乗れるように頑張りたいなと思っています!
一同:
(笑)
酒井:
ちょっと難しいかもしれませんけれども(笑)。これからも、中さんの作るソフトを楽しみにしておりますし、ボクも頑張っていきますので、これからもよろしくお願いします! 酒井でした!
加藤:
はい! 酒井さんでした!
中:
いいやつですね(笑)。何となく、ボクが怖いんで、良いこと言っておこう。みたいな感じかな、とは(笑)。
217:
そんなことないですよ!(笑)。
加藤:
もともと良い方ですもんね。
中:
そうですね。すごく色々覚えていてくれて、嬉しい。
加藤:
酒井さんじゃないと知らないことだらけだったので。いい話してくれてましたよ。そして、中さんの目のつけドコロのすごさがよくわかりました! しかもギリで言うんだ! って(笑)。
中:
マスターアップ直前になると、デバッグになるじゃないですか。チェックというか。ずーっとチェックして、テストプレイしていると、遊ぶだけになってくるじゃないですか。まぁ、実は割とまだ作っているんですけど(笑)。
ただ、遊ぶ期間が長くなってくると、だんだんお客さんの気分が自分の中で高まってくるんですよ。そうすると、「こんなのあった方がいいな」とか、「こんな隠しコマンドあったらいいな」とか。色んなことを思ってきて、じゃあ隠し機能で入れよう、と。さっきの写真撮影も、隠し機能で入れようぜって言って、とりあえず入れてテストして大丈夫そうだから公開しようか、みたいな。
そもそもが画面の中で特定のコマンドを入れてできるんじゃなくて、2コンか何かを挿して、何かのボタンを押したらスクリーンショットを勝手にビジュアルメモリにセーブするだけでいいよ、みたいな。
それで、当時はアップロードみたいなことがちゃんとないので、ソニックチームBBSの画像掲示板だけに対応してアップできるようにして、みたいな。
加藤:
オンラインサービスですね。