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なにが、人を「ロマンシング」させるのか?『ロマサガ2』当時の企画書とキャラ設定画から迫る、河津秋敏がRPGに生み出した「ロマン」の正体とは【ゲームの企画書】

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「人のためにやっていない」から、ロマンシング

──実際に『サガ』をプレイさせていただく中ですごく感じていたのが、「いいことをしてもあんまり褒められない」ということなんです。世界を救うと「ありがとう!」と褒めてもらえるのが当たり前なのに、『サガ』は七英雄や四魔貴族を倒しても、なにも褒めてもらえないんですよね。

河津氏:
そうかもしれないですね。

別に人に言われているわけじゃないし、人のためにやっていない。
とにかく、キャラクターたちは「自分のために」やっているんです。

自分は「こいつを倒してきて」「これを取ってきて」と言われるおつかいは好きじゃないので……そのために、キャラクターには「自分なりの理由」があるように設定しているつもりです。

だから褒められるのも変だし、逆に自分は褒められると「お前らのためにやったんじゃねえよ」とか言いたくなる(笑)。

一同:
(笑)。

河津氏:
まぁ、ひねくれてるんですね。
とにかく、「いつもキャラクターが主体的に行動していく」というのは常に気にしています。

──なるほど、「人のためにやっていない」! たしかにそれは『サガ』のコアかもしれないですね。今日聞いたお話が、いまの「人のためにやってない」という言葉ですべて繋がったような感覚があります。

『ロマサガ2』ゲームの企画書 河津秋敏インタビュー:開発当時の企画書と設定画から迫る、サガの「ロマン」の正体_045

──まさに「人のためにやっていない」がそれに相当すると思うのですが、今回のインタビューは、河津さんに「『サガ』のロマンシングとはなにか」ということをお聞きできればと思っていたんです。

河津氏:
自分も、『ロマサガ3』のラスボス戦でポールが「黄龍剣」を閃いて勝ったので、「すげえなこのゲーム!」って自分で思いましたけどね(笑)。

一同:
(笑)。

河津氏:
本当にポイントも尽きて、素でタダ殴りにするしかない。
そこでポールが黄龍剣を閃いて、それがそのままトドメを刺した技になったんですよね。そして、エンディングの最後に黄龍剣がバーッと出て終わるという……たまたまだったんですけど、我ながら「すごいじゃん、これ」って思いました。

そういう、「そのプレイヤーにしか絶対にできない体験」が起きるのが、自分としてはゲームづくりで目指しているところですよね。みんながみんな、同じ場所で「ここが面白かったよね」と思えるものじゃない。だから、「ストーリーがよかったかどうか」は、自分としては特に気にしていません。

──それはすごい割り切りですね。

河津氏:
「よくできたストーリー」と言われても、ストーリーは誰が読んでも同じなので、だったらそれは小説や映画でいいのではないかと。ただストーリーをなぞって面白くするよりは、「本当にその人が唯一無二の体験をしている」ということが、ゲームならではの上等な遊びだと思っています。

『ロマサガ2』ゲームの企画書 河津秋敏インタビュー:開発当時の企画書と設定画から迫る、サガの「ロマン」の正体_046
『ロマンシング サガ3』リマスター版
『ロマサガ2』ゲームの企画書 河津秋敏インタビュー:開発当時の企画書と設定画から迫る、サガの「ロマン」の正体_047
『サガ フロンティア2』

──それで言うと、『サガフロ2』は、そのまま1本のストーリーとして遊ぶだけでもすごく完成度が高いはずなのに、あえて「ヒストリーチョイス」で時系列をバラバラにしているのが衝撃的だったんです。そこも、やはり河津さんのお考えがあったということですよね。

河津氏:
あれはひとつの世界観の中に、オムニバス的にいろいろな短編が入っているという、ファンタジー小説のひとつのあり方なんです。

ムアコックの『エルリック・サーガ』【※】では、さまざまなエピソードが前後関係なく置いてあって、それで全体を語っていく……あの語り方に対する、あこがれみたいなものがあります。

あの読む側の順番がバラバラであったり、エピソードが前後関係なく置かれていることによる「このキャラ知ってる」「これって、あの話より前だったんだ」という新しい感動を、なんとかゲーム的につじつまが合うようにして整理させられないかと、難しいけどチャレンジしていたんです。

本当は、あのやり方を『ロマサガ2』でやりたかったんですよね。

※「エルリック・サーガ」
イギリスの作家、マイケル・ムアコックの代表作。主人公エルリックの冒険と、魔剣ストームブリンガーがもたらす破滅の運命が描かれる。シリーズの各エピソードの発表順が、作中の時系列と全く違うという手法が取られていた。

──そうだったんですか!

河津氏:
ええ、『ロマサガ2』でも時代の順番は関係なくやってみたかったんです。

前後関係なく「第〇代皇帝の頃……」といった感じでジャンプし、バラバラの話を通してその時代全体のことを語れたらすごく楽しいなというイメージを最初は持っていました。

ただ、『ロマサガ2』の場合は時間を前後させようとすると、成長システムなどとのかみ合いが悪かった。そのあとに、「単純に時系列を追っていくのは『ロマサガ2』でやったから、そうじゃないことをやれるようにしたい」と、『サガフロ2』繋がっていきました。

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『ロマサガ2』が、“継承”していったもの

──最後に、リメイク版である『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』(以下『ロマサガ2R』)についてもお聞きできればと思います。河津さんは開発にあまり関わられていないとお聞きしているのですが、実際に今作をプレイされてみて、いかがでしたでしょうか?

河津氏:
最初は「これを作りきれるのかな?」と思っていましたが、すごく完成度が高かったです。

序盤のソーモンやクジンシーのあたりを作っているのを見て、単純にこの物量を作りきれるのかどうかが心配でした。自分としてはゲーム全体のダンジョンの数まで把握しているので、「これは完成するの?」と思っていたんですが……実際できていましたね。

──河津さんから見て、「ここがよかった」と思った箇所などはございますでしょうか。

河津氏:
「マップを探索していく面白さ」が、今回のリメイクで一番面白かったところですね。最終的に、一番コストがかかるのは「マップ」なんですが、ダンジョンやフィールドを含め、最初からそこにフォーカスして開発されていたのが、すごくよくできているなと思いました。

──さきほども話されていましたが、河津さんは「マップ」に惹かれるところがあるんですね。

河津氏:
マップもそうなのですが、そこに置かれている敵の配置や挙動を含め、プレイヤーが「このマップをどう攻略していくのか?」を考えながら進んでいくといった点に惹かれています。それをいかに効率よく、全部回れるか試してみたくなりますよね。

そうすると、「どう回ると効率がよくて、無駄に戦わずに済むか」を考えながらルートを組み立てていけて、きちっとハマった時にはちゃんと満足感がある。そう繋がるように全体を組み上げられているのが、よくできているなと思いましたね。上手くマップを攻略できた時の満足感が、すごく高いんです。

『ロマサガ2』ゲームの企画書 河津秋敏インタビュー:開発当時の企画書と設定画から迫る、サガの「ロマン」の正体_049
『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』

──実際にオリジナル版を作られていた河津さんの視点から見て、リメイク版に「ここは自分にない発想だった」と思われたポイントなどはございましたか?

河津氏:
そこも、「マップ攻略」が2Dの時とはまた違った感じで楽しめましたね。

やっぱり、デザインとして「プレイヤーの誘導の仕方」がすごく上手ですよね。「ここまで行くと、次の宝箱が見える」といった形で、あそこに絶対あるはずなんだけどな、ないわけないんだけどな……と思いながらも一番上まで行くと、ようやく宝箱が見える。

もう目的は達しているんだけど、「あの宝箱もあとで取りに行こう」と思わせてくれて、冒険をさらにもう一歩楽しませてくれる。ついつい順番に取らせたりとかやりがちなんですが、そうなっていないところをやりこんでいくという……プレイヤー的にすごく刺さりやすい構成でした。

『ロマサガ2』ゲームの企画書 河津秋敏インタビュー:開発当時の企画書と設定画から迫る、サガの「ロマン」の正体_050
『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』

河津氏:
あとは、バトルのタイムラインと連携ですね。

オリジナル版にはない要素なので、「どうやって入れるのかな?」と心配はしていたんですが、最終的にはいい形で入っていました。システムとして、よく考えたなと思いましたね。

──ちなみに、リメイク版の中で本質的に「わかってる」と感じられた部分などはありましたでしょうか。

河津氏:
そういう意味では、オリジナルの要素があんなに残るとは思ってなかったですね。

たとえば、オリジナルではカンバーランドが滅ぶと、そのあとに出てくるサイフリートがすごく強いんです。あのバトルだけ考えると、滅びない展開でやった方が全然楽なんですけど……そういうところとかも残ってて(笑)。

逆に、「ここまでちゃんとやってるんだ」と思いましたね。

──リメイク版は河津さんはあまり関わらない形で制作されたとのことですが、今作に限らず、河津さんから開発チームに「サガ的にこれはアリ、ナシ」についてのアドバイスなどをされることはあるのでしょうか。

河津氏:
それはどちらかというと「プレイヤーがどう感じるか」というところで……当然、リメイクなので新しい要素を期待しつつ、過去のプレイヤーは「過去作のリメイク」であることを期待していますよね。

それを裏切らない形で作られていればいいし、そこに『サガ』らしさがあるかどうかはあまり関係ありません。単純に言えば、面白ければいいんです。だから、「そこは気にせずやればいいんじゃない?」とは思っていました。

逆に原作リスペクトがすぎて、いまのゲームとしてつまらなくなってもしょうがないですしね。

──では、リメイク版における七英雄などのキャラクター性も、ある程度はお任せしている形だったのでしょうか?

河津氏:
そうですね。

あのオリジナルから盛られていく部分の原型は、もともと『エンペラーズ サガ』や『ロード オブ ヴァーミリオン』【※】の時に自分が作った設定です。その設定に基づいて描かれているので特に問題はありません。

※「エンペラーズ サガ」
GREEで配信されていた、『サガ』のソーシャルゲーム。世界観の設定は『ロマサガ2』がベースとなっており、七英雄などのキャラクターも登場した。2017年にサービス終了。

※「ロード オブ ヴァーミリオン」
スクウェア・エニックスより発売された、オンライントレーディングカードアーケードゲーム。過去に『サガ』シリーズとのコラボが行われており、その際に七英雄などの設定が新たに描かれた。

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『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』

河津氏:
オリジナル版の頃は、七英雄の設定はもっと薄かったので、なにか機会があるたびに、少しずつ設定を膨らませています。

そしてリメイク版では、七英雄の過去を見るイベントがあり、自分としては「それいるの?」と思っていました。そこにコストをかけるのであれば、もっとゲームプレイから発生するなにかを膨らませた方がいいんじゃないかと思っていました。

ただ、あの「七英雄の記憶」が入ったことで、七英雄の存在感がすごくわかりやすくなったり、プレイに深みが出たというユーザーの肯定的な意見が多かったので、自分としては意外でした。

──七英雄を最初に作った時は、細かい性格などはあまり決められていなかったのでしょうか。

河津氏:
そこまで決めていなかったですね。

さきほども話をしましたが、まずは「バトルをどうするか」を先に決めて、そのためにこういうタイプのボスに……という流れで決めていったので、それぞれの「こういう過去があって、こうなった」という設定は用意していません。「こういうボス」という出口だけが最初にありました。

そこに対して、『ロード オブ ヴァーミリオン』で設定の入り口を作ってしまったので、そこから入り口と出口の間が少しずつ埋められていきました。七英雄は設定的にいろんなところに行ってるので、どこでも埋められるんですけど(笑)。

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『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』

──若干踏み込んだことをお聞きしてしまうのですが、今日のお話を聞いていても、やはりセリフや世界観に至るまで、「サガ=河津さんの作家性」という側面はあると思うんです。ただ、『ロマサガ2R』のように、ある程度は河津さんの手から離れたタイトルもあって。河津さん自身、「サガを誰かに継承すること」などは考えられているのでしょうか?

河津氏:
いやぁ、考えてもどうにもならんので。
どうにかなるでしょう!

──どうにか(笑)。

河津氏:
なんとかなるんじゃないですか。

全然違う形になるかもしれないし、同じような味で続くかもしれないし。誰がやるのかもわからないですけど、面白ければ生き残っていくし、つまんなくなっちゃえばなくなるだけだと思います。そこは、自分としてはそんなにこだわっていません。

やめるのは簡単ですが、続けるのはそれだけで大変なんです。価値があるのかどうかはわかりませんが、そこにいろいろな人間がチャレンジし続けていく。それをずっと遊んでくれる人がいる状態が続けば、それはそれでその現象自体が面白いかなって気もします。

──本当に、いちファンとしてはずっと続いてほしいです。最後に、オリジナルとリメイクを含め、『ロマサガ2』を愛する方になにかコメントをいただければと思います!

河津氏:
ちょうどセールもやっているので、ぜひ、『ロマサガ2R』を買っていただければと。

まさか、過去に『ロマサガ2』をプレイしたのに、『ロマサガ2R』をやっていない人はいないと思いますけど!!

一同:
(笑)。

河津氏:
もしくは、初めて『ロマサガ2』を遊ぶ人にとっても、新しい体験ができますから。
ぜひ、『サガエメ』と一緒に遊んでください。

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『サガ』の面白さは、とにかく一言で表わせない。

しかし、今回のインタビューの河津氏の発言から、断片的にその答えが見えてきたような感覚がある。「人のためにやっていない」、「自分の都合で地形を作らない」、「ストーリーがよかったかはどうでもいい」……そんな中で、特に「閃き」を与えてくれたのが、このひと言だ。

「まぁ、ひねくれてるんですね。」

これだ、これなのだ。
これこそ『サガ』だと、私は思う。
私は、「河津さんというゲームマスターと対峙するRPG」な気がしてならない。

あの意地悪な展開や選択肢、強敵との熾烈な戦い……そしてどこかTRPG的なあの感覚は、やはり「ゲームマスターのひねくれ」と戦っているからではないか、と思える。しかし、それが面白い。

どこまでもゲームマスター的な視点で組み上げられた世界だからこそ、「自分だけのロマンシング」を感じることができる。用意されたストーリーでもなく、狙って作り上げられたシーンでもない、「自分だけの感動」を得ることができる。

それこそが、『サガ』の「ロマンシング」。

……と、私は思った。

しかし、これもまた人によって千差万別のはず。『サガ』を遊んだ人の数だけ、「ロマンシング」がある。人の数だけ、「ロマンシング」の解釈がある。だから、この記事から、あなただけの「サガのロマン」の答えを、閃いてほしい。

『ロマサガ2』でも、他の『サガ』シリーズでも、最新作の『サガエメ』でも、そしてちょうどセール中の『ロマサガ2R』でも……あなただけの閃きとロマンが、待ち受けている!

<セール情報>

本企画を読んで「サガ」について興味を持った、サガ初プレイの人におススメできる『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』。

元のシステムを現代風に仕上げ、難易度選択により初めての方でもファンの方でも楽しめる本作のDL版が30%OFFセール中です。

※セール期間等については下記の各プラットフォームのサイトにてご確認ください。

© SQUARE ENIX
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© SQUARE ENIX, Planned & Developed by ArtePiazza, ILLUSTRATION: TOMOMI KOBAYASHI, CG Illustration : ArtePiazza

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ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog
編集長
電ファミニコゲーマー編集長、「第四境界」プロデューサー。 ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長を経て、KADOKAWA&ドワンゴにて「電ファミニコゲーマー」を立ち上げ、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、サイトの設計など運営全般に携わる。2019年に株式会社マレを創業し独立。 独立以降は、編集業務のかたわら、ゲームの企画&プロデュースなどにも従事しており、SNSミステリー企画『Project;COLD』ではプロデューサーを務める。また近年では、ARG(代替現実ゲーム)専門の制作スタジオ「第四境界」を立ちあげ、「人の財布」「かがみの特殊少年更生施設」の企画/宣伝などにも関わっている。
Twitter:@TAITAI999
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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