『ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブン』(以下、『ロマサガ2 ROTS』)……1993年に発売された名作RPG『ロマンシング サガ2』のリメイク作品であり、その美麗なグラフィックや新たなキャラクターデザインなどが、大きな話題を呼んでいる。
今回は、そんな『ロマサガ2 ROTS』のプロデューサーを務める、田付信一氏へのインタビューを行った。
田付氏は『聖剣伝説3』のリメイク版である『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』(以下、『聖剣伝説3 ToM』)のプロデューサーも務めており、あの作品も魅力的なキャラクターデザインや「抑えてほしいところは抑える」ようなリメイクの手腕が好評だった。そして、おそらく『ロマサガ2 ROTS』にもその経験値が活かされているのではないか……と感じていた。
そこで、今作の新たなキャラクターデザインの意図や、リメイクする上でオリジナル版から何を大切にしたのか、『聖剣伝説3 ToM』のどういった部分が活かされているのかを、お聞きしてみた。
もうタイトルに書いちゃってるけど、ロックブーケで頑張ったそうです。
ロックブーケファンの方、必見!!
リメイク版『聖剣伝説3』から、リメイク版『ロマサガ2』に受け継がれたもの
──本日はよろしくお願いします。まず、田付さんがどういった経緯で今作のプロデューサーを務められることになったのかをお聞きできればと思います。
田付氏:
まず、私は前任として『聖剣伝説3 ToM』のプロデューサーを担当していました。2020年に『聖剣伝説3 ToM』のコンソール版が発売され、そこから1年ほどスマホの移植版を作っていました。
その時に、ちょうど「これから何を作ろうかな?」ということを考えていた時に、市川(雅統)【※1】から「『ロマサガ2』のリメイクとかどうですか?」といった誘いを受けて(笑)。
そこから河津(秋敏)さん【※2】とも話をして、制作に移っていきました。
それが最初のきっかけですね。
※1「市川雅統」
現在『サガ』シリーズのプロデューサーを務めている、市川雅統氏。スマートフォン向けの『ロマンシング サガ リ・ユニバース』や、最新作『サガ エメラルド ビヨンド』などでもプロデューサーを担当。
※2「河津秋敏」
ゲームクリエイターであり、『サガ』シリーズ生みの親の河津秋敏氏。第1作目の『魔界塔士 Sa・Ga』から最新作の『サガ エメラルド ビヨンド』まで、シリーズに携わり続けている。
──そういった経歴があったんですね。今作はグラフィックなどにも『聖剣伝説3 ToM』の開発の知見などが活かされているのではないかと感じていたのですが、実際はいかがでしたでしょうか?
田付氏:
グラフィックの面で言うと、『聖剣伝説3 ToM』で一度作り上げたものを、どう『サガ』にするかを重視していました。加えて、『聖剣伝説3 ToM』のリリースから時間が経っていることもあり、よりグレードアップするにはどうしたらいいのかも合わせて考えていましたね。
例を挙げるとすれば、『聖剣伝説3 ToM』は背景にテクスチャーを描き込んでいたんです。細かい影などにも、全部描き込んでいました。ただ、結果としてゲームの容量が重たくなってしまったんです。加えて、『聖剣伝説』はどちらかというとかわいらしい世界観を持っているのですが、『サガ』はもう少しシビアな世界観ですよね。
その2点を解決するために、「背景はもう少しリアル目にしよう」と考えました。つまり、テクスチャーを描き込む方式ではなく、基本的にはライティングを当てて影を作る方法に変えたりしました。
さらに、「キャラの頭身」も調整しましたね。
『聖剣伝説3 ToM』は大体5.5~6頭身くらいでキャラクターのモデルを制作していたのですが、やはりあれは『聖剣伝説』のかわいらしい世界観に合わせた頭身でした。それを『サガ』の世界観に落とし込むにあたって、6.5~7頭身くらいに調整を行いました。
やはり『聖剣伝説3 ToM』で一度「これだ!」と思えるビジュアルは作り上げられていたので、それをカスタマイズしていったというか……「サガナイズ」したようなイメージですね。「サガナイズ」という言葉は、いま勝手に作ったものなのですが(笑)。
キャラクターの再デザインで考えたのは、「〇〇化」
──引き続きビジュアル面についてお聞きできればと思うのですが、今作のキャラクターはオリジナル版の小林智美さんのデザインを踏襲しつつ、『聖剣伝説3 ToM』のようなアニメ調の雰囲気を取り入れているように感じます。『ロマサガ2』のキャラデザをリメイクするにあたり、どんなことを考えられていたのでしょうか?
田付氏:
基本的にはオリジナル版の小林智美さんのイラストと、ドット絵をベースとしています。ただ、3D化にするにあたって……小林智美さんの絵はそのまま3D化するというよりかは「絵」だからこそ映えるような描かれ方をされていますよね。だからこそ、「3D化するためのデザイン」を意識しました。
加えて、やはり元のデザインは平成の初期に描かれたものだったこともあり、現代に合わせて少しスタイルを調整したキャラクターもいます。
たとえば、女性の宮廷魔術士は小林智美さんの絵だと全身が赤のスタイルなんですよね。もちろんそれも素晴らしいデザインなのですが、現代で3D化した時に、どうしても「単色」になりすぎてしまうんですよね。
そこで、宮廷魔術士(女)はパンツをちょっと茶色っぽいダークな色に調整したり……「今っぽいファッション」に変えているキャラは何人かいますね。
──事前にプレイさせていただいた際、シティシーフ(女)やインペリアルガード(女)のように、かなり新しい印象を受けるデザインのキャラもいました。
一方、軍師(男)のように、オリジナル版の雰囲気を意図的に残しているキャラクターもいたと思います。この「新しく調整するキャラと、オリジナル版の味を残すキャラ」の判断基準はどういったところにあったのでしょうか?
田付氏:
まず、シティシーフ(女)に関しては、もちろんオリジナル版の時点でかわいいデザインに仕上がっているのですが……元は「マント」がピンクと白の縞模様になっているんです。それをそのまま3D化すると考えた時、少し現代的ではない印象を受けてしまったんですよね。
そこで、リメイク版ではマントではなくスカーフになっています。
スカーフにしたことで、マントからは面積なども少し調整しています。
加えて、髪型も今風なかわいらしさを持たせられるような形で調整しました。全体的に、「もうちょっと現代風にかわいらしくしよう」というイメージでリメイクをしていますね。
一方、軍師(男)のデザインは……正直「今風」も何もないですよね(笑)。
──たしかにそうですね(笑)。
田付氏:
別にいま見てもデザイン的には全然おかしくないというか……現代で見たとしても、しっかり「変わってるヤツ」という印象を受けますよね。良い意味でおかしくてキャラが立っているデザインだと判断し、あえてそのままの雰囲気を残しています。
──今作のキャラクターデザインは『聖剣伝説3 ToM』にてキャラの各クラスの衣装デザインを担当されていたあんべよしろうさんが行われていると思うのですが、キャラクターデザイン周りを進行していく中で、あんべさんとのやり取りで印象的だったことはありますでしょうか?
田付氏:
あんべさんは、もう本当にオリジナル版の『ロマサガ2』が大好きなんですよ!
だからめちゃくちゃ詳しくて……正直、自分よりも詳しい方だと思います(笑)。
まさに、さきほどの「キャラクターデザインをどうリメイクするか」という点においても、結構あんべさん側からの提案が多かったんですよね。まず最初にあんべさんからの「こんなデザインはどうでしょう」という提案があり、こちら側でもアイデアを出していく……そんな形でやり取りをしながら作り上げていきました。
最もこだわったキャラも、最も難航したキャラも、ロックブーケ
──七英雄も、リメイクするにあたっていくつか調整をされているキャラがいたと思います。クジンシーなどは原作の雰囲気を残しつつ、一方でロックブーケはかなり大胆な再デザインが行われているように感じました。
田付氏:
七英雄も、基本的にはオリジナル版のドット絵から「多分このキャラはこういう形をしているだろう」と読み取っていくような形で再デザインを行いました。
そして、ロックブーケに関しては……やはり七英雄の紅一点ということもあり、結構力を入れています(笑)。元々人間っぽい見た目だということもあり、リメイクしたことでより美しい印象を与えられているのではないかな、と思います。
ただ、こちらとしては「ロックブーケを大胆に変えよう」というつもりがあったわけではなくて、元々の人間らしいドット絵を現代風な形に落とし込んだことで、結果的にそうなっちゃったところはあります。
──ちなみに、七英雄なども含めて、「最も再デザインが難航したキャラクター」はいたりするのでしょうか。
田付氏:
たぶん……一番時間がかかったのはロックブーケですね(笑)。
──やっぱりロックブーケなんですね!?
田付氏:
「顔」などにすごくこだわりましたし、比例する形で時間もかかりました。
『聖剣伝説3 ToM』では、リースとアンジェラの「顔」にすごく時間をかけたのですが……同じく、ロックブーケにも時間をかけましたね(笑)。さきほど、シティシーフ(女)などで髪型を調整したという話をしましたが、ロックブーケも同様に髪型を調整しています。
やはり、ロックブーケは原作のままにしてしまうと、ちょっと怖い雰囲気も感じるんですよね。ドット絵では、ちょっと不気味な印象も受けますよね。そこに、「どうかわいらしさを持たせるのか、どう綺麗なお姉さんとして作っていくのか」ということには、かなりこだわりました。
特に、この「顔」と「髪型」はあんべさんがかなりいいアレンジをしてくれました。
「顔」って、モデルを作る中でも本当に難しくて……ちょっと動かすだけで、全然印象が変わってしまうんですよね。ライティングを少し変えたりすると、急にかわいくなくなってしまうんです。そこを良い形に調整していったので……みなさんの満足のいくかわいさになっていたらいいなと。
田付氏:
あとは、ボクオーンもシンプルに難しかったですね。
ボクオーンはドット絵からだと、身体の構造がどうなってるのかよくわからない部分もあるんです。シンプルだからこそ、難しいといいますか。
──たしかに、ボクオーンは元がスッキリしているからこそ3D化が難しそうですね。
田付氏:
そう、ボクオーンって意外にシンプルなんですよね。
だから、そのまま今の画面に落とし込んだ時に、ちょっと「普通の雑魚敵」っぽく見えてしまいそうだったんですよね。そこをしっかり七英雄として見せるために、結構時間をかけました。
──少し余談になってしまうのですが、今作のコレクターズエディションには「ロックブーケのフィギュア」が特典としてついてくる形になっていました。この「ロックブーケのフィギュア」は、どういった経緯で作られたのでしょうか?
田付氏:
ロックブーケは元々人気だし、嬉しい人も多いだろうということで……(笑)。
もちろん、フィギュアもあんべさんに監修をしてもらっています。
そして、『聖剣伝説3 ToM』のように主人公が固定されていれば、そこからフィギュア化することも考えられたのですが……『ロマサガ2』のシステム的に、誰かひとりをフィギュア化するのは中々難しいなと思いました。そこで、七英雄からロックブーケを選んだ形でした。
ちなみに、無事に予約も好調なので、やってよかったかなと思っています。
一同:
(笑)。