2017年で30周年を迎える「ファイナルファンタジー」シリーズ。その初の実写化となったTVドラマ『FFXIV 光のお父さん』(以下、『光のお父さん』)が2017年5月末に最終話を迎えた。
そこで今回、電ファミニコゲーマーは、『FFXIV』吉田直樹プロデューサー兼ディレクターと、『光のお父さん』原作者のマイディー氏による対談をお届けする。
……と言っても、このドラマがどんなものか全くわからない読者もいると思うので、最初に説明しておこう。
そもそも『光のお父さん』とは、マイディー氏が運営するWebサイト「一撃確殺SS日記」にて2014年8月からスタートした、『FFXIV』のプレイログを書いた大人気連載だ。
その内容は、“『FFXIV』の世界で父に親孝行する”というもの。60歳を超えるマイディー氏の父親に『FFXIV』をプレイしてもらい、自分は正体を隠してフレンド登録。共に冒険を続け、いつの日か自分が実の息子である事を打ち明ける――という実話をもとにした物語で、多くのファンと仲間に見守られながら2016年3月に完結を迎えた。
かくして、この連載は無事に終わり、それが映像化された――ということなら話は早かったのだが、マイディー氏と『光のお父さん』の物語はまだここで終わらなかったのだ。というのも、ネット発コンテンツの商業化に伴う“面倒なあれこれ”に、マイディー氏は巻き込まれてしまったからだ。
だが、マイディー氏が凄かったのは、ここから。2016年4月――突然『光のぴぃさん』という新連載がサイト上でスタート。そこには『光のお父さん』のメディア展開にまつわる裏話がストーリー仕立てで書かかれていたのだ。
……「光のお父さん計画」完遂から数ヶ月が経った後のある日、マイディー氏のもとに同連載の書籍化の提案が持ち込まれる。本来ならば嬉しいことだが、その出版社の提案は“悪魔の囁き”とも言える内容で、受け入れ難いものだった。さらに、後日また別の出版社から書籍化の話が舞い込むも、その内容は誰も得しないもので、マイディー氏は深く傷つき倒れてしまう。
だが、『光のぴぃさん』は絶望の物語ではない。2社目の提案から数日が経ったある日、マイディー氏はある運命的な出会いを果たす。彼のもとに「ぴぃ」という人物が現れたのだ。本名・渋谷恒一 ――ゲーム会社たゆたうのプロデューサーである。彼が持ち込んだのは『光のお父さん』のTVドラマ化の話だった。
プレイヤーブログをドラマ化、それも「ファイナルファンタジー」シリーズ初のドラマ化である。普通に考えれば無謀な挑戦であるが、渋谷氏は熱意をもって事に当たり、見事な手腕でドラマ化まで導いていくのだった――。
こうして完成したドラマは現実世界とゲーム世界が違和感なく切り替わる“今までにない映像”になっており、再び大きな話題を生んだ。一体、ただのブロガーが「FF」初の、それもスクウェア・エニックスが企画したわけでもない 「ドラマ化」という、前代未聞の偉業を成し遂げるまでに、どのような苦労があったのだろうか。
二人の対談は、その裏話に始まり、オンラインゲームの歴戦の猛者ならではの「魅力」や「未来」を語り合うものになった。
聞き手/クリモトコウダイ、小山オンデマンド
文/クリモトコウダイ
カメラマン/小森大輔
『旧FFXIV』立て直しのとき、スクエニ社員も注目していたマイディー氏
――まずは、吉田さんがマイディーさんを知った経緯からお聞きしたいです。『旧FFXIV』時代から「一撃確殺SS日記」をご覧になられていたんですよね。
吉田直樹氏(以下、吉田氏):
『旧FFXIV』を引き継ぐことになり、調査や改修を行う一方で「プレイヤーコミュニティはどうなっているんだろう」ということが非常に気になっていました。そこで、プレイヤーの方が書かれているブログを片っ端から巡り始めて……というのがきっかけですね。当時は単純にネットをランダムに見ても、罵詈雑言の嵐だったので、どれが本当のプレイヤーの声なのか分からない状況でした。
――これ、読者には『FFXIV』というゲームが辿った、“とてつもない経緯”について知らない方もいると思うので、説明しますね。
『FFXIV』は2010年9月にスタートしたわけですが、ゲーム内容に多くの問題を抱えていて、なんと作品全体の作り直しを行うため、3ヶ月後の12月にサービスを一時的に停止させる危機に陥ったんです。そのときに現れ、以降の指揮を執ったのが吉田さんでした。そして2013年8月に『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』として生まれ変わり……立て直しの結果は大成功。今も続く大人気MMORPGになっています。
で、当時の吉田さんは、立て直しに当たってなぜブログを見られるようになったんでしょうか。
吉田氏:
MMORPGを運営する上で、「プレイしてくださっているプレイヤーの声を聴く」ということはとても大切です。
しかし、先ほどもお話をした通り、ゲームの出来が非常に悪かったため、あの当時は「どれが本当のプレイヤーの声なのか」が、とてもわかりにくかったのです。そこで、僕自身もかつてオンラインゲームのWebサイトを運営していたこともあり、プレイヤーの皆さんのブログを見て回ろうと思い立ったんです。「一撃確殺SS日記」を初めて見たのはその時で、『旧FFXIV』の不出来を認めるスクエニに対して「認めんなやっ!」という叫びがあって面白かった(笑)。
――あの叫びは凄かったですよね(笑)。これも読者に向けて説明しますと、『旧FFXIV』のサービス開始から2ヶ月後、スクウェア・エニックスの決算発表会が行われたのですが、この頃にはすっかり『旧FFXIV』の問題が浮き彫りになっていました。
そこで当時の社長だった和田洋一氏は「お客様にとって満足のいく状態ではない」と同作の現状の説明を行ったのですが……この発言に対して、マイディー氏がブログで投稿した記事に、怒りとともに「認めんなやっ!」という叫びが書かれていたんですね。
まあ、和田前社長が認めてくださったおかげで今があるとも言えますが……当時のプレイヤーの気分を代弁した言葉ではあります。
吉田氏:
でも、面白いことに、あのときに和田さんに「決算発表会で出来が悪いことを認めるべきだ」と言ったのは僕なんです(笑)。
だって事実でしたし、僕は当時やたら強かった「高飛車なスクウェア・エニックス」という雰囲気がとても嫌いでした。駄目であることを認めた上で、きちんと直していく、ということを始めていかないと信頼は取り戻せないです――という話をしていたんです。
そんなさなか、マイディーさんの「認めんなやっ!」ですよ(笑)。とても印象的でしたね。
――なるほど(笑)。つまりかなり早い段階から吉田さんはマイディーさんを知っていたんですね。ちなみに、マイディーさんとしては、当時どんなお気持ちだったんでしょうか。
マイディー氏:
豪華客船に乗り込んでみたら、扉の立てつけが悪いとか、どんどん粗が見えてきている状況下で、急に船長から「もうこの船は駄目です!」と言われているような気分でした(笑)。
吉田氏:
駄目どころか「出港するべきではありませんでした!」って感じでしたからね(苦笑)。メディアの皆さんもそんな気持ちだったのではないでしょうか。
――当時のプレイヤーたちの気分を言うと、「もうそれを楽しもう」と頑張っていたわけですよ。この立てつけの悪いドアをいかに綺麗に開けるか――みたいなノリで(笑)。
マイディー氏:
そうなんですよ! だから「もう俺が漕ぐ!!」ぐらいの気持ちでしたね。
いちプレイヤーである僕がこんなこと言うのもおかしな話なんですが、「駄目だった」と認められたら困るんです! これからスクウェア・エニックスが! 「ファイナルファンタジー」の名を冠した国産MMORPGを! 世界に向けて展開していくわけじゃないですか!
それなのに……もし、もし『FFXIV』がこけてしまったら、もう国産のオンラインゲームは後に続かなくなるかもしれない――という懸念があったんです。
しかもですよ、その数日前に「最初のつまづきを救いたい。」という初心者向けの記事を書いていたんです。「これがあれば初心者さんでも大丈夫だろう!」と思いながら朝の4時ぐらいまで。そんな矢先の宣言でしたので……怒りしかなかったですね(笑)。
吉田氏:
そういう「俺たちは俺たちで楽しんでるから、放っておいてくれ!」というか、「スクエニは、いつか何とかしてくれる」という祈りに近い悲鳴のようなものは、マイディーさん以外のブログでも多く書かれていまして、これはしっかり立て直さなければ、とより強く思うようになりました。
マイディー氏「書いてたことが直っていくのは非常に嬉しかった」
吉田氏:
ちなみに、当時ブログを見て回ることを続けていたら、急に文章がかしこまるブログさんが現れ始めまして(笑)。だいたい僕が各ブログを巡回するのが深夜2時くらいなのですが、おそらくアクセス分析をされて、スクエニ社員が見ていることに気が付かれたんでしょうね。
――マイディーさんは気づかれていましたか?
マイディー氏:
ええ。気づきました。「どんな人が来てくれてるんやろ」と事細かく見ていたので、ビックリしましたね。なんかまずいこと書いたかな……と(笑)。
吉田氏:
ただ僕としては、ゲームがあんな状況でもブログを書いてくださっていたので、とてもありがたいと思っていました。もしかすれば、「スクエニからアクセスの痕跡がある」というのは、ブログ更新のモチベーションに対して、ちょっとした励みにして貰えるかもしれない――という思いを持ちつつ拝見していました。
マイディー氏:
書いてることが伝わるんだということが分かりましたので、励みになりましたね。また、別の機会や「プロデューサーレターLIVE」【※1】でも吉田さんが「光のお父さん読んでます」とおっしゃってくださったのは、凄くモチベーションにつながりました。
吉田氏:
『光のお父さん』は、いろいろな人に勧めてましたよ。南條さん【※2】に勧めたのも僕ですし(笑)。
※1 プロデューサーレターLIVE
『FFIXV』のWeb生放送番組。ゲームの最新情報が発信されるほか、世界中のプレイヤーから寄せられる様々な質問に対して、吉田氏がリアルタイムで答えていく。
※2 南條さん
南條愛乃。1984年生まれ。日本の声優。『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』では「クルル」のキャラクターボイスを担当するほか、ドラマ『光のお父さん』ではエオルゼア(ゲーム内)パートのマイディーを演じる。
――そして、今回のドラマではついに南條さんがマイディーを演じることに。
吉田氏:
そういう縁が繋がっていくのがまた面白いですよね。
――ブログが読まれていることを意識してから、書き方に変化はありましたか?
マイディー氏:
「こうなったらいいな」という希望は書くことが増えましたね。「椅子座ったらしっぽが埋まるぞ」「目のグラフィックが欠けてるぞ」などを面白おかしくネタにしていけば、いつか気が付いてくれるかなと。
でもその甲斐あってか、どんどん直っていくんですよ! 書いてたことが直っていくのは非常に嬉しかったです。
吉田氏:
『旧FFXIV』の改修をスタートさせた頃、チームのみんなに言ってたんです。「今このタイミングでランダムにネットを見たり、2ちゃんねるの厳しいコメントばかり見てもしかたがない。プレイヤーさんのブログを見て、彼らは何を楽しみ、その中で何に困っているのかを知るほうが大事だし、前向きだよ」と。
例えばその、椅子に座ったミコッテ【※】のお尻がきちんと椅子に接地していなくて、尻尾だけが接地している、というような状態は、ゲームコンテンツの追加に比べるとプレイヤーへの影響は小さい。だから僕が提示する改修のロードマップには載っていませんでした。ですが、当時はまだ改修初期であり、「直せる部分は個人でできる単位でもどんどん直そう」という号令もかかっており、スタッフ個人がブログを見て気づいたところを、片っ端から直していた時期でもありましたからね。
※ミコッテ
『FFXIV』に登場する種族の名前。大きく張り出した耳と、しなやかな尾が特徴。マイディー氏がプレイするキャラクターも、このミコッテという種族。
マイディー氏の考える『FFXIV』の魅力
――なるほど。そもそもマイディーさんは、どうして『FFXIV』がこれほど好きなんでしょうか。「一撃確殺SS日記」には『FFXIV』以外のゲームも登場しますが、比率は『FFXIV』が圧倒的に多いですよね。
マイディー氏:
僕はゲームとブログをセットで考えているんですよ。そしてどっちかというとブログの方が比重が重たいんで、僕にとってはブログが面白くなるゲームが良いゲームなんです。
そう考えた時に、『FFXIV』って旧時代からとにかく絵になるんですよ。口がちゃんと動くだとか、目線が動くだとか。いまだにスクリーンショットを撮るのが楽しい。『FFXIV』はプレイヤーの表現力を広げてくれるんです。だから文章にも自然と熱が入るんです。これは他のゲームでは味わえない『FFXIV』だけの魅力ですね。
吉田氏:
マイディーさんが凄いのは、1日1小話【※1】を徹底しているところですよね。僕も読み進めていくうちにマイディーさんが元芸人だったことを知ったんですが、「ああ、だからこの人はオチをつけないと気が済まないのか」と(笑)。しかも同じスクリーンショットは基本的に二度と使わない。回想シーンもセピアにしたりしてますよね。
だから、「1日ひとつの小話を誰かに見せる」というのがマイディーさんのアイデンティティで、そのためのブログなのかなと。そういう意味だと、『FFXIV』はその小話をより面白くする絵が撮れるゲームだと言えますね。
そうそう、僕は「独身万歳」というシリーズネタが大好きです。完全に同世代のネタを、清々しく「好きだ!」と言って終わるから(笑)。あと「ナナモと女子会」【※2】も最高ですね。
※1 1日1小話
「一撃確殺SS日記」はずっと1日1記事更新を続けている。マイディー氏いわく「1日でも更新を休んでしまうと、僕のサボり癖に火がついて更新が休みがちになっていずれ……もういっか……とかなってしまう」とのこと。
マイディー氏:
……ナナモ様、あんな扱いで大丈夫でしたか?
吉田氏:
全然大丈夫ですよ! 他のブログさんもそうですが、キャラの扱いはご自由にどうぞ(笑)。僕は北海道出身なので、関西方面の地域の関係性って分からないんですが、あれを読んでいると「あー、なるほど……そういう感じね」となって、それが面白くてしょうがない(笑)。
マイディー氏:
実はあのシリーズが一番気楽に書けるんです(笑)。僕はナナモ様が好きで、あの子、顔だけ見ると東大阪でホンダのLIFEを運転してるような少しガラの悪い女の子に見えてくるんですよ(笑)。