今から遡ること5年前の2020年、『ヒットマン』シリーズで知られるIO Interactiveが『007』の新作ゲームを手がけることが発表されました。当時のプロジェクト名は『Project 007』。
同社の得意分野であるステルス暗殺と自由度の高いアプローチで、エージェントとして冷静沈着に仕事をこなすボンドが描かれるのだろうと予想していたのですが……。
最新映像を見た瞬間、それはもう、ガッツリ覆されました。
敵に気づかれるリスクを承知で遮蔽物を取らずに正面突破を選ぶ場面や、銃声が響いてもそのまま撃ち続けるシーンが目立ちます。また、敵を仕留めたあとも呼吸を整える間もなく次の行動に移るなど、練り上げられた作戦に沿うのではなくその瞬間の判断や衝動が色濃く見えます。
これらは、任務を遂行するために感情を切り離して冷徹に振る舞う後年の「完成された007」とは対照的。まだ若いからこそ生々しい感情を見せてくれる、我々にとっては新鮮なボンドの姿を描いているように思えてきます。
そんな中、東京ゲームショウに合わせてメディア向け発表会が開催されるとの知らせが届きました。
これは、これ以上ないタイミング……!
映像だけでは知ることのできない開発の舞台裏や、IO Interactiveがどんな思いで初めて“ジェームズ・ボンド”を描こうとしているのか。直接話を聞かずにはいられない。
そう考え、電ファミ編集部は幕張の奥地(駅から徒歩1分のシアター)へと足を運んだ……!
映画館のスクリーンで見る超巨大な実機デモ、迫力がありすぎる
『007 First Light』は、IO Interactiveによるシングルプレイ専用スパイアクションで、『Project 007』として2020年に発表されました。若きジェームズ・ボンドが“007”の称号を得るまでを描く完全オリジナルストーリーで、プレイヤーは映画や小説の再現ではなく新たに書き下ろされた“ボンドのオリジン”をプレイヤーが体験することとなります。
今回のイベントは、なんと東京ゲームショウ会場近くの映画館で実施。全身を包む大音量と大画面での実演は、映像配信とは別次元の迫力。
ゲームプレイでは、先述のとおり敵に発見されても銃撃で突破する場面や、戦闘後すぐ次の行動に移る若いボンドの姿が映し出されました。
冷静沈着な後年の「007」とは違って、まだ経験の浅いエージェントっぽい。壁を登って侵入する音や、カーチェイスで発生する激しいエンジン音、銃声の反響が会場全体に広がり、若きボンドの荒削りなアクションが一層生々しく感じられました。

『ヒットマン』では暗殺という目的に向けて計画を緻密に積み上げ、プレイヤーも冷静に“完璧な暗殺”を遂行することが前提。
一方で、本作で描かれる我々のよく知る「ボンド」になる前の若き日の彼は、銃をぶっ放し、派手に暴れています。カーチェイスを繰り広げ、大勢に囲まれながらも敵をぶん殴り、他のキャラにその暴れっぷりから「標的を定められない弾丸」と言わしめている模様。

IO Interactiveの描くジェームズ・ボンドとは一体どんな人物なのか、どんなゲーム体験が待っているのか……。
Q&Aコーナーでは、そんな疑問を開発陣に直接ぶつけてみることにしました。
『007 First Light』は若きボンドのエモーショナルな成長の物語を描くアクションアドベンチャー。開発陣Q&Aセッション
──『007 First Light』は2012年以来となるボンドの新作ゲームであり、ジェームズボンドの起源を描く、完全に再構築されたタイトルとなっています。これまで数々のステルスアクションゲームを作ってきたIO Interactiveが新たな方向性としてジェームズ・ボンドを主人公に選んだ理由、また、本作で新たに挑戦したいことはなんでしょうか?その狙いなどを教えてください。
Martin Emborg氏:
まず、みんなジェームズ・ボンドになりたいですよね?ジェームズ・ボンドになりたくない人なんていないと思います。……それはそれとして。
我々にとって、この作品を作るのはとても自然な流れだったと思っています。
ナラティブな物語を通して、まだダイヤの原石のような若きボンドのエモーショナルな成長を描きたいと思いました。そしてボンドが「原石」であるということが、ストーリーの原動力になっていくかと思います。
彼がこの世界に身を置きながらどんなふうに成長していくのか、その行く末をユーザーの皆さんに寄り添って感じていただきたいです。
──IO Interactiveといえば『ヒットマン』などエージェントが活躍する作品を多く扱うゲームスタジオですよね。『007 First Light』では、どういった独自の要素を取り入れていますか?
Martin Emborg氏:
『ヒットマン』と『007 First Light』では、全く違うゲーム体験になるかと思います。『ヒットマン』と異なるポイントは、キャラクター主導のアクションアドベンチャーであることです。
「ジェームズ・ボンド」というキャラが立っておりますので、彼の魅力やウィットを楽しんでいただければと思います。

──カーチェイスのシーンを見たときに、とても映画的だなと思いました。こういった部分への苦労や工夫はありますか?
Theuns Smit氏:
本作では、これまで作ってきたタイトルとは全く違うことをしなければなりません。
この作品は我々の「Glacierエンジン」を使って開発しました。2020年に本作を発表したときに、ユーザーの皆さんだけでなく、さまざまな人材が我々のスタジオに興味を持ってくれました。そして多くの才能のある人材を採用することができました。
これによって、先ほどのカーチェイスのシーンだけでなく、エンジンの最適化なども行うことができました。

──『007 First Light』ではゲームとしての体験と物語、そしてシネマ性についてどのようにバランスをとりましたか?
Martin Emborg氏:
本作は、キャラクターが推進してストーリーを動かしていく設計になっています。
先ほどご覧いただいたように、本作にはさまざまなシーンがあり、さまざまな体験をすることができると思います。
シーンによってはベルボーイにどうにかして接近しなければならないようなシーンもありつつ、もっとスピード感のあるカーチェイスのシーンも存在しています。これらがすべて組み合わさることで、ストーリーが動き、流れていきます。
『ヒットマン』と『007 First Light』の最も異なるポイントは、本作では「プレイヤーの皆さんがゆっくり座って考える時間がない」というところです。その場ですぐ考えなければならないし、その場でやらなければいけないことがあります。
プレイヤーが常に忙しく考えなければならないというのが、『007 First Light』の特徴だと思います。
──「First Light(ファースト・ライト)」は何を意味していますか?
Theuns Smit氏:
ボンドの映画シリーズにも共通するポイントなのですが、スパイの世界には光と影があります。
本作では、ボンドのオリジンストーリーを再構築しています。ボンドは白黒つくことばかりではない、グレーなことがたくさんあるシークレットエージェントの世界を知っていきます。
最初は希望に満ちていたかもしれないボンドがこの世界を学んでいくのと同時に、ユーザーの皆さんにも体験していただきたいというような思いを込めて、このタイトルをつけました。
──『007』シリーズの中のゲームとしては13年ぶりのタイトルですが、本作で『007』とIO Interactiveはどんな風にコラボレーションしていますか?
Theuns Smit氏:
ご存知の通り、我々は『ヒットマン』で、エージェントファンタジーというジャンルへの経験や知見があります。
これを踏まえて、我々の『007』の独自の解釈と、ファンがジェームズ・ボンドに求めるものをうまく組み合わせるのが非常に楽しい作業でした。

──本作について、どちらかというとリニアな印象を受けました。IO Interactiveのスタイルや『ヒットマン』のようなエージェントファンタジーで培われたものは、本作にどのように活かされていますか?こういった作品をこれからも期待してもいいんでしょうか?
Martin Emborg氏:
いま現在、我々が本作において注力しているのは、サードパーソンシューティングで、ストーリードリブンなアクションアドベンチャーのゲームであるということです。
これはもちろん、我々がエージェントファンタジーというジャンルや過去のゲームで培った経験や、知見が活かされているものです。
ゲームを進めていくともっとステルスな体験ができたり、ガジェットが解放されて増えていきます。いろんなプレイを楽しむことができると思いますので、ぜひいろいろ試していただきたいです。
それから、たくさんのサプライズを詰め込んでいます。一度クリアしただけでは体験できないことがたくさんありますので、ぜひ何度も繰り返しプレイしていただければと思います。
──『007 First Light』をプレイするにあたって、知っていると面白いポイントや、注目してほしいポイントなどがあれば教えてください。
Theuns Smit氏:
たくさんあるんですけれども、ぜひご自身で見つけていただきたいので教えられません……。ごめんなさい!
これまでの『007』シリーズのファンがニヤリとしてしまうようなイースターエッグをたくさん散りばめておりますので、ぜひ楽しみにしていてください。
「あんまり役に興味がなさそうだった」からこそ、ボンドガールオーディションを突破できた?ミス・ロス役:中井ノエミさんが登壇
つづいて、ボンドガールであるミス・ロス役を演じた中井ノエミさんが登壇。
──中井さん、よろしくお願いします。
中井ノエミさん(以下、中井さん):
東京が地元なので、せっかくなので日本語でもちょっとご挨拶しようかなと思ったんですけれども。
ミス・ロス役を演じた中井ノエミです、よろしくお願いします。苗字が「中井」なのでバレバレだったと思うんですけれども(笑)。
撮影はずっとロンドンだったんですけど、今日は皆様の前で、東京で、ご一緒できて本当に嬉しいです。よろしくお願いします。
──キャラクターについてぜひ教えていただけますか?
中井さん:
トレーラーでもちょっとだけ流れたと思うんですが、私が演じたのは、ミス・ロスという役です。ネタバレをしないために、あまり多くを語らずにいようかなと思います。
ひとつ言えることとしては、彼女はとても不思議というか、ミステリアスな女性です。

──ロス役のオーディションの感想を聞いてもいいですか?
中井さん:
オーディションのプロセスが非常に長くて、1年くらいかかったんです。実際にオーディションの場に行ってシーンを演じた後に、エージェントから電話がかかってきて、エージェントに「何やらかしたの」って言われて。
エージェントいわく、スタジオの方から「あんまり役に興味がなさそうだった」というようなフィードバックを受けていたそうなんです。
私、この役の準備のために非常に頑張って、この役に入り込むためにいろいろと準備をしたんですけれども……。「あんまり役に興味がなさそうだった」というのは、私の準備の賜物なんです。興味のなさそうな演技をしたら、それが功を奏して、実際に役を受けることができたという経緯が、実はありました。
──ファンのみなさんからは、新たにボンドガールのひとりとして見られると思います。「ボンドガール」というレガシーのようなものを、どうやって受け継いでいきますか?どんなお気持ちでしょうか?
中井さん:
非常に長い歴史、レガシーに伴ってプレッシャーも大きかったんですけれども……。
撮影でスタジオに足を踏み入れたその1日目から、ボディースーツを着せられて、さまざまなものをくっつけられて、トイレもひとりで行けない、ソファーに座ったらもう起きれないというような状態になるので、非常に謙虚になりました。
鏡を見ると自分はそんな状態なので、膨らみ上がったエゴとかも萎みます。プレッシャーを感じていたのは、10分程度です。
新たな「ジェームズ・ボンド」を作り上げていく自由な探求。ジェームズ・ボンド役:パトリック・ギブソンさんが登壇
つづいて、本作で主人公であるジェームズ・ボンド役を演じるPatrick Gibsonさんが登壇。ジェームズ・ボンド役が決定した時の心境を教えてくれました。
Patrick Gibsonさん:
(日本語で)初めまして、パトリックです。よろしくお願いします。
東京はとても大好きな街なので、今日ここにいることがとても嬉しいです。このプロジェクトに携わるようになって4年ほど経ちます。皆様にスクリーンでご覧いただけるこの場にいられることを、とてもエキサイティングだと思っています。
──「ジェームズ・ボンド」を演じるにあたって、彼をどのように表現しましたか?
Patrick Gibsonさん:
私がこの役を演じることになった連絡を受けた時、本当に非現実的に感じました。ジェームズ・ボンドの声を演じ、そしてモーションキャプチャーの演技もさせていただくということを信じられませんでした。
このプロジェクトは「ジェームズ・ボンドのオリジンストーリー」ということで、独自の再解釈と全く新しいストーリーが描かれます。
みんなが知っているジェームズボンド像と、その前の「ジェームズ・ボンド」になる前の若くて未熟だった頃の初々しいボンドということで、そのギャップを埋めるのが非常に面白い作業だと思いました。

──他の出演者の皆さんとは、演技での絡みなどもあると思います。そういったものは、ボンドの演技に影響がありましたか?
Patrick Gibsonさん:
まず、「若いボンド」をどんどん作っていくにあたって、素晴らしい才能に恵まれた俳優の皆さんに囲まれて演技をするということにたくさんのインスピレーションを受けました。
皆さんのとてもフレッシュなエナジーも相まって、人間的な要素をボンドに与えることができたのではないかと思います。
皆さんもご存じのようなマネーペニーやQ、それから隣にいるノイミさんが演じられたシャーロット・ロスというキャラクターにも、たくさんの大きな刺激を受けました。
中井さん:
パトリックさんは、ものすごい努力をして撮影に臨まれています。私たちがスタジオに戻って撮影する間も、パトリックさんはずっと努力をされているわけです。
我々がどこかに漂流しないように、アンカーや碇のように留める役割を演じてくださって。その点において、我々役者としてもとても感謝しています。
──「ジェームズ・ボンド」という名前を演じるにあたって、歴代6名のジェームズ・ボンドの影響を受けたり、学んだり、誰に似ているといったことはありますか。
Patrick Gibsonさん:
このプロジェクトの面白いところは、オリジンストーリーであるところです。独自の解釈をした新しいボンド像を作るというということで、それに伴って、キャラクターのDNAを自由に探求していけるような、そんな自由さがありました。
なので、これまでのものに囚われすぎることなく、新しいものに挑戦して受け入れるということが、オリジナルなボンドを作っていけることが楽しかったです。
──ありがとうございました!(了)
今回開催されたメディア向け発表会では、若きジェームズ・ボンドを描く完全オリジナルストーリーとしての『007 First Light』の方向性が、開発者とキャストの言葉から明確に示されました。
IO Interactiveが『ヒットマン』で培った経験を活かしつつも、キャラクター主導で突き進んでいくメインストーリーを通じて、『ヒットマン』とはまったく異なるプレイ体験を目指していることが印象的です。
新たなジェームズ・ボンドを演じるパトリック・ギブソン氏、そして“ボンドガール”としてミステリアスな魅力を放つミス・ロス役の中井ノエミさんらキャスト陣も、自分たちなりの『007』像を熱く語りました。
映画のような大画面デモと、開発・出演者が語った制作の裏側は、本作が単なるシリーズ最新作という枠組にとどまらず、「ジェームズ・ボンドの始まりを体験するアクションアドベンチャー」として新たな一歩を踏み出していることをヒシヒシと感じました。
また本イベントの後半では、TwitchやYouTubeで活躍する人気ストリーマーである「ボドカ」氏が本作の日本アンバサダーに就任することも発表されました。
ボドカ氏は『007』シリーズについての思い出を聞かれると、ニンテンドー64向けに発売された『007 ゴールデンアイ』をきっかけに作品の存在を知り、大人になってからジェームズ・ボンドも愛用するアストンマーチンに興味を惹かれていたとのこと。アンバサダーとして積極的な配信や動画化などを行い、本作品について数多くの人に広めたいと語りました。
そんな『007 First Light』は2026年3月27日発売予定。対応プラットフォームはPS5、Xbox Series X|S、PC、Nintendo Switch 2となっています。