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「……フフッ。
ま。
あんたは指さすよね。
私を」
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「……
逆に、何故じゃ。
何故、みずから、
そんな危険な橋を……!」
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「なぜ、ね。
それ気にしてんの、
未だにあんただけかもよ。
ウルヴル。
ま。
どっちが『狼』だか、
結局分からないわけだし。
いいだろ。
五分と五分だ。
私が『狼』なら、万々歳」
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「馬鹿な!
貴様それで、そんなことで、
命を放り捨てるなど……」
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「べつに命は捨ててない。
あんたに賭けてみただけ」
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「……ぬ、う……」
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「一応、こいつは拾ってってよ。
魔法の力は枯れそうだけど。
『埋めてきたみんなの形見』
ってところで。
じゃ、後は任せたよ。
それとも銃(これ)、つかう?」
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「要らん。
ワシは、鍛冶師。
自分で決めた仕事を、
責任もって終えるには、
自分で打った、
道具を、使う……」
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「ごたくはいいから。
震えすぎ。
しっかり頼むって」
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「……
ぬ、う……
ち、ち、
血と、肉と、骨にかけて──
──っ!!」
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……
一撃とは、いかなかった。
槌(つち)の一撃は、
ヨーズを大きく傷つけたが、
命を奪いはせんかった。
ヨーズは
『落ち着いてやって。
大丈夫。痛くないから』
などと言うておった。
そんなはずが無かろうに、
穏やかに、微笑みながら。
……
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五度の強打の末、
ヨーズは逝った。
そんなことをしても
何にもならん、
むしろ冒涜(ぼうとく)にも等しい、
そんなこと、知れておったが。
それでも、
その死体に、謝った。
馬鹿のように、謝り続けた。
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【ヨーズ死亡】
【生存】
ウルヴル【死亡】
フレイグ、ヨーズ、ゴニヤ、ビョルカ、レイズル
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『ワシは、この牢へ置いてけ。
こんな老骨(ろうこつ)、おったところで
ただの足手まといじゃ……』
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『おいおい、冗談きついぜー。
人里への道知ってんの、
ウルヴル爺さんだけだろ?』
『……そうじゃった。
ならワシにも、
やれることはあるかの……』
一瞬、目が霞んで、
そんな会話を、思い出した。
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たかが数日前のことが、
大昔のことのように思える。
凍てつく牢獄のなか、
ひどい扱いは受けておったが、
同胞があった。
子供があった。
希望があった。
今はどうか。
何もない。
何も。
……何も、ない?
嘘だ。
自分に嘘をついてどうする。
もう誰もおらん。
もう、とっくに気付いとる。
言え。
白状しろ。
その醜い本性を。
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「ワシ、は、
死ぬのが、恐ろしかった!!
老いぼれが、
子を守って死ねばよしと、
勇ましく言うたびに、
恐ろしさは増した!!
じゃから、
じゃから、
死をもたらすものを、
疑って、疑って、
信仰すら疑って……
結果がこれじゃ!!
自ら望んだ結果が!!」
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「姑息じゃった!
卑怯じゃった!
なぜならワシは
欺(あざむ)いた!
『疑』を隠して!
『理』に装った!
やみくもに同胞を疑い、
男を疑い、女を疑い、
巫女すら疑った!」
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「それでも、子だけは、
ゴニヤだけは疑わんと!
たとえ『狼』じゃろうが、
命に代えてもゴニヤは守ると!
そう決めた!
そう決めとったのに!!」
『──おこら、ないで──
ねえ、ふたりとも──
ゴニヤがしんだら、
おこるの やめて
くれる かしら──』
──あの瞬間。
自分の中で、
おかしなものが目覚めた。
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「……
そうとも。
約束は果たした。
我は怒るのをやめた。
あの子の、アルマの死が、
我を怒りと滅びから遠ざけ、
代わりに、全てが滅びた。
ゆえに我は、死ねん。
わが命は、
あの子と全てを負うがゆえ。
クク、ハハハハ!
またこの論法だ!!」
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「何度これを繰り返す、
巡礼の監視者よ!
無駄、無駄! 何度やろうが、
我すら逃れ得ぬ戦乙女の鎖が、
他の亡霊どもに
ちぎれるものか!
しょせん我らは、
愚かさで故郷を焼いた前科者。
『疑』と『欺』の炎に、
全ての希望をくべるほか……
能は……ない、のだ……」
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「……
いかん……
まだ昼間じゃのに、
意識が……
老いぼれには、
ここが限界、か。
のう、『死体の乙女』さまよ」
倒れ
雪に顔がうずまった
ああ 死にたくない
死にたくない
今もって
死ぬほどに
死にたくない
が
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「死ぬ前に
せめて
レイズルを
ゴニヤを
誰が殺したのか
ヨーズだったのか
知りたか っ た」
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「……
誇れ
ゴニヤを殺したのは我
つ ま り 貴 様 だ
ウ ル ヴ ル
『あの言葉』を聞いたならば
せざるを得まい?
ハハハ
さて
時間切れだな
早く次に進めろ
監視者」
シークレットを見る(Tap)
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(へいへい、分かりましたよ。
ウルヴルのオスコレイア態は、
しばしばこうして、ウルヴルの
別人格みたいにふるまう。
真相は不明だが、
根本は他の召喚体と同じく、
『故郷の記憶』に
強く執着する亡霊に違いない。
全ては奴が深層の願望に沿って
起こした凶行、ってことだ。)
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【ウルヴル死亡】
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