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『ギ・クロニクル』第一夜(End 12「絶望」)

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『ギ・クロニクル』第一夜(End 12「絶望」)_010

 翌朝
 晴天
 微風

 明るくて寒々しい夜明けは
 嘘みたいに鮮やかな
 赤に染まって
 訪れた
 ねえ、レイズルさん。
 恨んでいますか。

 あなたの警告を聞きながら、
 これを避けられなかった僕を。

『ギ・クロニクル』第一夜(End 12「絶望」)_011

 【レイズル死亡】
 【1日目の夜明けを迎えた】

 【生存】
 フレイグ、ヨーズ、ウルヴル、
 ゴニヤ、ビョルカ

 【死亡】
 レイズル

『ギ・クロニクル』第一夜(End 12「絶望」)_012

「……ぐずぐずして、
 すみません。
 私は、落ち着きました。
 
 いつまでも立ち止まっては
 いられません。
 歩きながら、
 方策を話しましょう。
 いかがですか?」

 既に、僕らのやり方で
 埋葬は済ませた。
 辺りにはレイズルさんの……
 死の痕跡は、もう残ってない。

 前を向くためには
 見たくない現実も
 直視しなきゃならない。

 僕は頷いた。
 他のみんなも、
 それぞれに肯定を示した。
 そして、黙って歩き出した。

「……ゴニヤよ。
 辛いじゃろ。
 無理はせんでええ。
 ようし、ここは久々に、
 ウルじいが負ぶって……」

「いらないわ。
 みんなのあし、
 ひっぱりたくないの。
 
 『死体の館』にいる
 レイズルに、
 わらわれちゃうもの!」

 小さな子でも、強い。
 北方の寒村なんてそんなもの。
 過酷な環境で生き延びるには、
 残酷なまでの強さが要る。

 肉体的な強さ。精神的な強さ。
 そして、
 人の心の繋がりの強さ。

 だけど……

「……勝手が違う。
 今回ばかりは」

 こっちを向かずに
 投げられたヨーズの言葉が、
 僕の心を見透かしたようで、
 どきりとする。

 レイズルさんが遺した
 あの情報のせいで、
 結束の強さは、
 きしみを起こし始めている。

 身内を疑い始めているんだ、
 僕は。

『ギ・クロニクル』第一夜(End 12「絶望」)_013

【疑問】
本当に、残り5人の誰かが『狼』なのか?
皆さんもひとつ、考えてみましょう。

「皆さん。
 言わなければならない
 ことがあります。
 
 実は、レイズルから以前、
 ある疑いについての話を
 聞いていまして──」

「『狼』のこと?」

「しってるわ!
 わたしたちのなかに、
 『黒の軍勢』のかいぶつが
 いるっておはなしね!」

「レイ坊が言っとったな。
 ワシらそっくりに化けとる
 とか、乗りうつっとるとか。
 何をバカなと
 笑いとばしてしもうたが……
 
 こうなっては、
 もはやタワゴトとは
 言えんか……」

 驚いた。
 僕とヨーズだけへの
 相談かと思ったら、
 レイズルさんは既に、
 全員に話してたらしい。
 ジジイはともかく、
 幼いゴニヤにまで……

 ……それほど、確信があった
 ってことなんだろうか。

「……ご存知ならば
 話が早いです。
 
 本当だと思いますか、
 『狼』の話」

「むしろ他に何がある!?
 レイ坊は確かに殺された!
 この、無人の雪原の
 真ん中でじゃぞ!?
 
 しかもあんな……
 人間業とも思えん、
 ムチャなやり口でじゃ!」

「……野営の周り、
 足跡はなし。
 
 野獣の気配は、
 いたるところにあるけど、
 人間の気配はない。
 
 追っ手なんていない」

「あの、まちがってたら
 ごめんなさい……
 てきは『黒の軍勢』
 なのでしょう?
 なら、どんなことだって
 かんがえられるわ!
 
 オスコレイアみたいに、
 けものをしたがえ、
 あしあとものこさず、
 ころせる怪物なのかも!」

「ゴニヤ。分かる。
 仲間を疑いたくないのね。
 
 けど、甘いよ。
 
 それでレイズル、
 死なせたのに」

「ヨーズ!
 なんでそんな、
 いやなことをいうの!?」

「落ち着いてゴニヤ。
 ヨーズも……
 レイズルさんのことが
 悔しいのは分かるけどさ。
 
 それにしてもなんで、
 レイズルさんだけ
 狙われたんだろう。
 僕らはまとまって寝てた。
 ……皆殺しにすることも、
 簡単だったろうに」

 僕の言い分に
 複数人が眉をひそめた。
 暴力は嫌われている。
 だから、これを言いだすのは、
 僕の仕事。

「……フレイグ、
 多分ですが、
 考えても無駄なのです。
 
 境界騎士の籠手(こて)は、
 魔術の力をもち、
 使命に背いた騎士を
 遠くにいながらにして、
 一瞬で殺すとか。
 
 『狼』も、一日に一度の
 魔術を使って、
 凶行に及ぶのかも
 しれないでしょう?」

「……それは、確かですね。
 僕らは魔術を知らないし。
 
 でも、それでしたら、
 僕らはいったいどうすれば……」

「もちろん、
 我らがすべきは、ひとつ。
 
 レイズルの死を無駄にせず、
 『狼』によるこれ以上の
 殺人を防ぐこと。
 
 そのためには、
 
 『ヴァリン・ホルンの儀』
 しかないと、私は考えます」

 ……さすがに、ぞっとした。

 『ヴァリン・ホルンの儀』は、
 ふだん決して仲間を傷つけない
 僕らにとって、唯一の例外。

 『死体の乙女』に捧げる、
 『犠』……つまり……
 いけにえを決めるための
 儀式なんだ。

「我らは流血を、
 とりわけ同胞の流血を嫌う。
 それが許されるのはただ一つ、
 ヴァルメイヤの名において。
 
 仮に正体が不定形の怪物でも、
 同胞の姿をした者が相手なら、
 乙女のうかがいのもと、
 判断をし、『犠』とすべき。
 
 違いますか?」

 僕らは固い顔を見合わせた。
 ビョルカさんがそう言うなら、
 もう誰も、何も言えない。

 僕らは結束を重視する。
 だからこそ、
 同胞の無念の死には
 利害ぬきで報いたいと考える。

 その旗を振るのが、
 ヴァルメイヤの巫女である
 ビョルカさんならなおさらだ。

「それが、
 『死体の乙女』の望みなら……」

 僕の言葉に、
 みんなうなずいて追随した。

 の、だけれど──

「……『犠』じたいは構わん。
 しかし確か、『犠』では
 巫女は選ばれんのが通例、
 じゃったか?
 
 それじゃと、その……
 心配を本当に除けるか、
 少し不安がないかの」

「……?
 なんのおはなしかしら?」

「……ジジイまさか、
 ビョルカさんを疑う気か!?」

「心配には及びません。
 今回の『犠』においては、
 疑わしいのが巫女ならば、
 指さしていただいて結構です」

「そうか、そうか!
 それを聞いて安心したぞ。
 ひとまずビョルカは疑わんで
 よさそうじゃ。
 もしビョルカが『狼』なら、
 あえて安全な立場を捨てる
 必要がないからの。
 
 そういうわけじゃぞ、小僧!
 しっかりせい!」

 そ……そうなる、のか?

 なるほど、あえて危険な立場に
 身を置くから、怪しくない……
 そういう考え方もあるか……

 くそっ、ジジイのくせに、
 鋭いことを言いやがって……

「ちなみに皆、
 レイ坊はどうやって
 ああなったと思う?
 ワシは……」

──え?

「ウルヴル! 忘れましたか!
 『儀』を行うなら、
 一切の相談事は控えなさい!
 特に! 誰かと共謀し、
 誰かを陥れて指名するなど!
 絶対の禁忌です!!
 
 己が良心によってのみ、
 指さす相手を決めうるものと、
 ゆめゆめ心しなさい!!」

 目を白黒させて黙るジジイ。
 いや、驚いたのは僕ら全員だ!
 どさくさまぎれに
 何を言おうとしてるんだ!?

 ビョルカさんの言う通り、
 『共謀』は禁忌だ。
 『儀』が宣言された以上、
 僕らはあくまで個々人で、
 『犠』を選ばなきゃならない。

「……改めて、
 『儀』の実施を、宣言します。
 
 日中は進めるだけ進むべき。
 実施は、黄昏時としましょう。
 皆さんそれぞれ『犠』を一人、
 選んでおいてください。
 
 それまでは昨日と同じく、
 進みましょう、南へ!」

 ビョルカさんの号令で、
 僕らは進行を再開する。

 緊迫したやりとりが終わり、
 緊張感がゆるむと同時に、
 心にじわじわ、暗いものが
 広がっていく。

 雪をかき分ける足取りは、
 昨日と打って変わって
 重苦しい。

『ギ・クロニクル』第一夜(End 12「絶望」)_014

【図解ヴァリン・ホルンの儀】
①各自だれを指さすか考える
②合図をする
③いっせいに誰かを指さす
④最も多く指さされた者が死ぬ

*最多指名獲得者が複数いる場合、それらを除く者だけで決選を行う
*決選が失敗したら誰も死なない
*不参加や指名拒否は許されない(逃避の禁忌)

 儀式は難しいものじゃない。
 巫女の号令に合わせて、
 それぞれ自分以外の誰か一人を
 指さす。ただそれだけだ。

 ただ、それで最も多くの
 指さしを受けた1人が、
 『死体の乙女』の供物となる。

 つまり、死ぬ。

 自傷や自殺はどんな時も禁忌。
 だから当然、『儀』で自分を
 指さすことも許されない。

 だから、『犠』が決まったら、
 一番腕っぷしの強い者が
 手を下す。

 それで以後、
 悪いことが起きなければ、
 犠は叶ったものと考える。

 ……悪いことが続くようなら、
 次の『犠』を選ぶだけ。

 言ってしまえば、
 『儀』で身内を殺すのは、
 身内の悪人を裁き、
 はじき出すためだ。

 もっとも、その目的での
 『儀』はめったにない。
 レイズルさんは小さい頃、
 一度だけ見たって言ってた。
 あとはほとんど、春の祭で
 供物をささげるときの
 形ばかりの儀式だった。

 だけど今、
 僕らは実際の危険をかかえ、
 『儀』にのぞもうとしている。

 もう、決まったことだ。
 やりとげる。
 でなきゃ、もっと人が死ぬ。

 だけど……

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