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本コンテンツはリアルタイムの興奮をみなさんと共有するため、声優さんにもあえて脚本を事前にお渡しせず、皆さんとおなじ画面を直接読んでいただいております。
そのため、つっかえや読み間違え等が発生することがあります。
ご不便をおかけしますが、コンテンツの性質としてご承知いただければ幸いです。
第四の分岐
Twitter人狼ADV #ギ・クロニクル
— 電ファミニコゲーマー (@denfaminicogame) August 8, 2022
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第四の分岐:疑心
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クマ襲撃の影響は深刻だ。
今や僕らは同胞や自分自身すら疑い始めている。
そんな中、『誰も犠としない』選択を
加えて『儀』が行われる。
誰も殺さない選択は正しいのか、
それとも……
僕はなにを指さすべき?
選択肢:誰も『犠』としない
が選択されました!別離(d)に分岐します。
「……黄昏時となりました。
フレイグ、あなたの盾を
そこに置きなさい。
これを指さすことで、
『誰も犠としない』を
選んだものとみなします」
僕は従った。
それ以外の選択などない。
僕は剣で、巫女に従う力。
それ以外の意志はいらない。
意味不明な記憶も、
狂気とかも、
いらない。
「何か、疑問などはありますか?
念を押しますが、この段で
何者かへの疑いを誘うことは
重大な禁忌で、許されません。
何も、ないようですね。
それでは、始めます」
この手続きに、
ほとんど意味なんてない。
僕を選ぶだけの手続きだ。
それは、そうだろう。
僕でさえ、思い始めてる。
僕が『犠』となるべきだと。
それでも、巫女の剣としての
使命を果たすべく、
疑わしい誰かを指さすか。
それとも、『狼』はもういない
と信じ、『誰も犠としない』を
選び取るか。
よく考えて、決意した。
「『ヴァルメイヤよ、
我らを導く死体の乙女よ!
信心と結束をいま示します!
ご照覧あれ!』
血と肉と骨にかけて──
みっつ!
ふたつ!
ひとつ!」
そして、
みんながそれぞれ、
意志を示した。
ジジイが指さしたのが、僕。
ゴニヤが指さしたのが、盾。
そして、
ビョルカさんが指さしたのが、
ジジイだ。
「──なぜじゃ、ビョルカ!
なぜワシを指さした!!
分かっとるはずじゃろう!!
怪しいのはただ一人!
フレイグの小僧じゃと!!」
「やめて、ウルじい!
ゴニヤは、ゴニヤは……
もうだれにも、
しんでほしくないわ!
でもビョルカも、なぜ!?
なぜ『だれもえらばない』を
ささなかったの!?」
「……ゴニヤ。
あなたの気持ちは分かります。
いやなことを直視したくない、
という気持ちは。
しかし、この状況下で
最も変わってしまったのは、
やはりウルヴルだと、
私は考えます」
「勇士とは、我ら皆のために
剣を執(と)る役目です。
我らの先頭で身を危険に晒し、
血を浴びる役目です。
『村』では難しい立場ですが、
この苦境にあって、
誰よりも敬意を受けるに
値すると私は思いますし、
先程の苛烈(かれつ)な戦いの中でも、
フレイグは気高い役目を
わきまえていると、
私は見ました」
「翻って、今のウルヴルには、
勇士への敬意も、感謝も、
感じられません。
むしろ屁理屈で、立場の弱い
勇士をおとしいれよう……
そんな魂胆さえ見えます。
だから私は思ったのです……
今日の『儀』の選択は、
フレイグに委ねるべきだと」
「僕に……委ねる……?」
「はい。
ウルヴルがフレイグを、
ゴニヤが盾を指さすことは、
およそ想像できました。
むろん私の選択は、
私の良心に沿ったものですが、
これで指名は、奇しくも均等に
分かれます。
あとは勇士フレイグが
誰を指さすかにかかる。
最も我らに尽くす彼が、
誰を選ぶかにかかるのです。
これが私の考えた、最善です」
そんな
そんなビョルカさんの
大それた発想なんて
知るよしもない僕は
選んでしまった
もう 選んでしまった
その結果は──
「結果、
ウルヴルを指さしたのが1人。
フレイグが、1人。
誰も犠としない、が2人。
決まり、ですね。
今日は誰も犠としません」
「フレイグぅ!」
ゴニヤがいきなり
抱きついてきた!
ちょっと泡を食いながらも、
僕はなんとか抱き止める。
……ゴニヤと僕の選択で、
更なる犠牲が防げたんだ。
喜びは、僕も一緒だ。
思わず頬がゆるんだ……けど、
慌てて引き締めて、
ビョルカさんのほうを見た。
穏やかなお顔で、
ビョルカさんはうなずいた。
「……うん。
あなたの望みにかなったなら、
何よりです。
さあ、今日はこれで野営に──」
「待たんか!!」
ジジイの大声での一喝。
顔は真っ赤で、
今にも倒れそうにも見える。
「ワシは認めんぞ!
小僧はどう考えても怪しいし、
それにあえておもねる巫女も、
控えめに言って
責務を果たしとるとは思えん!
きさまら、よもや私情で──」
──確かに、
ジジイの僕に対する疑いは
ある程度正当だ。
僕の戦いでゴニヤを
傷つけたのも確かだし、
僕は自分に得体の知れない
ものを感じ始めてる。
でも、ビョルカさんへの
薄汚い言いがかりだけは、
絶対に許しがたい。
僕は思わず拳を固めて、
「い い 加 減 に
な さ い ! !」
ビョルカさんの怒号。
初めて聞くそれは、
全員に向けられて発せられ、
ジジイと僕の緊迫を
的確に打ち砕いた。
「先人たちの教えは正しかった。
『理』を究めることは即ち、
際限のない責めと攻撃により
前に進もうとすること。
そこに『調和』はない。
『許し』もない。
我らの生き方では、ない」
「よって『理』は『死体の館』に
秘めるべきもの、
ヴァルメイヤに委ねるもの!
軽々しくもてあそぶものでは
なかったのです!
ウルヴル! 皆さん!
改めて言います!
『理』を手放しなさい!
ヴァルメイヤへと戻るために!」
──僕は、ひざを折った。
僕だけじゃない。
ゴニヤも、ジジイもだ。
「ぬ、う……」
「────……」
僕らにとって『死体の乙女』の
権威とは、そういうもの。
個々の考えや思いを越えて、
僕らを『全て』に変えるもの。
そうだ。
これでいいんだ。
揉め事も、わだかまりも、
全て『死体の乙女』の手に
委ねて、手放せる。
「すべきことが、わかりました。
この旅は、試練……
我らが魂を磨き、鍛え、
ヴァルメイヤと向き合う旅。
『儀』は行いましょう。
旅が終わるまで、何度でも。
他の全てを手放して。
よろしいですね」
巫女の背に、
僕は深く頭を垂れる。
他の二人もそうだろう。
これでもう、僕はブレない。
悩む必要なんてない。
他の2人も、そうだろう。
【誰も犠とされなかった】
【2日目の日没を迎えた】
【生存】
フレイグ、ウルヴル、
ゴニヤ、ビョルカ
【死亡】
ヨーズ、レイズル
偶像
「ふう……
これでもう寝られるな……」
ヨーズには悪いけど、
いや、『館』でくつろいでる
はずなんだから、
悪く思うことないんだけど、
仲間を埋めなくていい夜は
やっぱりいい。
『狼』も多分、もういない。
天気は下り坂だけど、
久々に穏やかな夜だ。
それでも、今夜もみんな
バラけて野営だ。
ビョルカさんは、
『死体の乙女』に尽くすことで
みんなをまとめようと
決めたんだろう。
伝統行事はとにかく、
なんでもやっていく姿勢だ。
……それでいい、と思う。
ジジイだけじゃない。
僕だって、心は強くない。
何かあればすぐに迷うし、
その迷いが、結束を弱くする。
ゴニヤはまだ、どう生きるか、
みたいに悩む歳でもない。
導きが要るんだ。
強い導きが。
……導きと言えば、
ビョルカさんだよな。
というわけで
寝る前に少しご挨拶に行こう。
当然いっさい下心はない。
「へえっ!?
……びっくりしました、
フレイグでしたか」
夜闇(よやみ)と雪で視界はどんどん
悪くなっていて、
ランタンもほとんど無意味。
あきらめようかと思った直後、
枯れ木の影から
すっとんきょうな声がして、
僕もびっくりした。
気を引き締めろ。
厳かに、低い声で言い放て。
「ぶん殴ってください」
「なぜ……」
「ビョルカさんに恥をかかせると
いう大罪に対して自ら頭蓋骨を
打ち砕くということが教義上ゆ
るされないため『死体の乙女』
の間接的な神罰をいただきたい
のでさあぶん殴ってください。
いやでもお清め中の巫女には直
接会えない作法だったはずだし
ここはひとつ投石で妥協を──」
「そこまで。そこまでです。
うーん、
どこから言ったものか……
こほん。
いいですか、フレイグ。
何だか久しぶりに言いますが。
卑屈はほどほどに。ね?」
「……御心のままに」
叱られてしまった。
我ながらどうかと思うけど、
何だか心が落ち着いたな。
「それで、何のご用でしたか。
あまり遅くに出歩くと、
オスコレイアに捕まりますよ?」
「何だか落ち着かなくて……
でも、もう収まりました。
ビョルカさんの人徳に触れれば
万事解決ということです。
一生ついていきます。うおお」
「……ふふ。
何だか前と同じようですね。
こんな穏やかな夜」
同じですよ、とは言えない。
『村』は失われた。
僕らも、欠けてしまった。
穏やかな『村』の思い出を、
思い返すのもはばかられる。
でも確かにあった、はずだ。
みんなで共に過ごした日々。
心を分け合う温かい暮らしが。
守らなきゃならない。
いま、手の中に残ったものを。
「……きっと、取り戻せます。
明日には、きっと」
「そう、ですよね。
ありがとう、フレイグ。
実は私も眠れなかったのです。
少し、心配で。
でも気持ちが落ち着きました。
きっと眠れるでしょう」
ビョルカさんは
眠りたがっている。
退散どきだろう。
そうは思ったけれど、
気になって、聞いてしまった。
「何が、心配だったんですか?」
「……我らの敵を打倒するのに、
十分な血を流したのか。
『誰も犠としない』なんて
選択を、巫女の一存で増やして
よかったのか……
ううん、まとまりませんね。
寝ましょう、フレイグ!」
最後はやや不自然に明るく、
ビョルカさんは話を打ち切り、
僕は言葉少なに立ち去った。
憶測にはなるけれど……
ビョルカさんは、この現状を、
「できすぎ」と思ってるのかも
しれない。
いや、思ってるのは僕か。
ヨーズが怪しいと本気で思った
わけじゃない。
なのに、彼女が『犠』になって
『狼』の襲撃は止まった。
最小限の犠牲で、最高の結果。
そんな都合のいい話、
本当にあるんだろうか。
あったんだよ。
そう思うしかないだろ。
だって、そう思わないと、
ヨーズは……
……風が強くなってきた。
僕も、寝よう。
ただ、さっきと違う理由で
なかなか眠れそうにないし、
ビョルカさんももしかしたら
そうなのかもしれない。
不遜(ふそん)にも、
そんなことを思った。
夜が明けた。
浅い眠りから覚めた僕は、
吹雪と闇が閉ざす東の地平を、
不気味なほど温かい
陽の光が引き裂いて、
オスコレイアの時間を
終わらせるのを見た。
知っての通り、
僕らの受難は終わった。
それをただ確かめる朝になる。
そのはずだ。
そのはずだったろ。
なあ。
誰か説明してくれよ。
【ビョルカ死亡】
【3日目の夜明けを迎えた】
【生存】
フレイグ、ウルヴル、ゴニヤ
【死亡】
ヨーズ、ビョルカ、レイズル
惨殺された巫女の遺骸の前で
どれだけ佇んでいただろうか。
いつのまにか老人と幼い娘が
すぐそばにやってきている。
反応する気にもならない。
でもこうしていても無意味だ。
意味?
何もかもが、無意味だ。
「……フレイグ……おまえ……
だいじょうぶか……?
しっかりせえ、
気をしっかり持つんじゃ!」
別に僕は狂ったわけでも
混乱してるわけでもない。
僕という装置の存在意義が
失われてしまったのだから
何もしないのは自然だろう。
「これ……
フレイグがやったの……?
……いや……
ひとごろし……!」
状況も関係性も認識してる。
だから奇妙だと分かる。
昨日までなら、
僕を責めるのはジジイで、
僕をかばうのがゴニヤだった。
なぜか逆転してる。
別に気にはならない。
どうでもいい。
なにもかも、
目の前の遺骸(いがい)に比べれば。
「何を言っとるんじゃ、ゴニヤ!
小僧が……フレイグが、
ビョルカを殺すハズが
ないじゃろうが!」
「ウルじいこそ、
なにをいってるの?
ゴニヤたちのてきは、
ひとにばけた『狼』よ!
これはもう、
フレイグではないの!!
それともウルじい、
あなたが『狼』だとでも
いうのかしら!」
「そっ、それは違う……
じゃが!
ワシにはこやつが、
いつものフレイグにしか
思えんのじゃ……!」
知ったようなことを言うな。
「きさまは誰よりもビョルカを
敬っとったじゃろ!
何なら『死体の乙女』よりも!
きさまは昔から、得体の知れん
熱と歪みを秘めておった。
それでも折れんかった!
強靭なビョルカへの敬愛が
魂の芯にあったからじゃ!」
「あっぱれな筋金入り!
得体の知れんきさまは
気に入らなんだが、
敬服もしとった!
じゃからこそ今、ぶち折れて、
何もかもを曝(さら)け出しとる……
きさまは間違いなく
きさまのままじゃろ、
フレイグ!!」
「……」
「……そう。
じゃあウルじいは、
ゴニヤが『狼』っていうのね?」
「……そ、それは……
そうは言うとらん……」
うるさいな……
もう何でもいいから、
早く片付けて……
ぜんぶ終わらせてしまおう。
真相は以下のどれか。
1。僕が『狼』。
僕が狂っていたら証明不可ゆえ
考えるだけ無駄。
2.ジジイが『狼』。
ここしばらく情緒がおかしいが
怪しむほどかというと微妙。
3.ゴニヤが『狼』。
ずいぶん攻撃的だが、
子供が錯乱すれば
こんなものかって気もする。
決め手はない。
その上で、できることは何か。
1、自殺。
→不可。さっきから何度も
剣を執ろうとしてるが無理。
2、2人を攻撃。
→不可。自殺と同じ手応え。
3、共謀。
→不可。2人に『協力して
もう一人を陥れよう』と話そう
としてみても、できない。
4、冒涜的(ぼうとくてき)な思考
→可。現在進行形。
つまりヴァルメイヤ信仰に
反する言動は『できない』。
仕組みはわからない。
とにかく、心の問題以上の
何かがある。
しかし思考は可能ということは
『冒涜(ぼうとく)を形にする』ことが
できないだけだ。
それを踏まえて、
この不快な膠着(こうちゃく)を終わらせる
にはどうすればいいか。
ああ、分かった。
ちょっと力加減をして、
口を閉じたまま喉の奥を開く。
簡単に涙があふれてくる。
それをこぼしながら、言う。
「……どっちだよ……
ビョルカさんを殺したのは、
どっちなんだよ!!
もう日没を待つまでもない……!
『狼』を……
『死体の乙女』の名のもと
ブチ殺してやる!!
『ヴァリン・ホルンの儀』だ!
それで決着をつけてやる!!」
「……!」
「!!」
これでいい。
最大の被害者を演じれば、
『狼』は僕以外のどちらか、
という流れに持っていける。
すると、2人は『儀』で
お互いを指さす。
『狼』は僕を指さしても
『犠』にできないと踏み、
避ける。
もう一人は当然、僕でない方を
『狼』だと思い、狙うからだ。
あとは僕の選択次第だ。
僕は、
何で……こんな、
冷酷な考えをスラスラスラスラ
並べ立てられるんだ?
僕はやはり『狼』なのか?
だとしても、
結局自殺はできないので、
手順に従って、
終わらせるしかない。
魂の抜け落ちた、
このカラッポな儀式を。