2000年11月のオープン以来、我々日本人にとってなくてはならない存在となったAmazon。しかし、その内部が語られる機会はあまりない。
それは企業全体に限った話ではなく、ゲームに対しても同様で、内部にどのような組織があり、どのような人間がいて、どのような考え方で我々に便利なサービスを提供しているのか──そういったことはあまり知られていない。
だがそもそも、ここまで便利に使えるのには、何かしらの理念があり、血の通った人間による努力があるはずなのだ。
そこで我々は、Amazonがゲームとゲーマーに対してどのような取り組みを行っているのかを紐解くために取材を打診。アマゾンジャパン ビデオゲーム事業部でウェブプロデューサーを務める原純矢氏にインタビューすることができた。
原氏はもともとゲーム制作会社で宣伝・プロモーション・プロデュースに関わっていた人物だが、ビデオゲーム事業部とはどのような部署で、氏らはそこで何を行っているのだろうか。
今回のインタビューでは、そういった部分や、Amazon.co.jpでゲームのカタログや体験版を配信している意図などを伺った。
文・取材/クリモトコウダイ
Amazonは新作ゲームカタログ、輸入ゲーム、eスポーツ大会へのエントリーチケットまで取り扱っていた
──ゲーマーのほとんどがAmazonでゲームを買ったことがあると思うんですが、今回はAmazonがゲームに対して、どういう取り組みをしているのかを紐解ければと思います。
原純矢氏(以下、原氏):
Amazonでは、2001年10月に「TVゲーム」のストアがオープンし、以降、TVゲームのみならず、ゲームに関する多様な品揃えの強化に努めています。
私はゲームを担当するビデオゲーム事業部で、ウェブプロデューサーを務めており、ゲームメーカーさんとの交渉をはじめ、UIを含めたページデザインの改善や販促活動などを担当しています。
──「Amazonでなら大体のゲームや関連商品が買える」というのはもはや当たり前ですが、よくよく考えるとそれって凄いことじゃないですか。
例えば、Amazonではゲーム関連のアクセサリーの品ぞろえがものすごく充実していますし、日本ではリリースされていない海外の新作ゲームも購入することができますよね。
原氏:
「地球上で最も豊富な品揃え」というAmazonのビジョンのもと、ゲームに限らず様々な商品カテゴリーにおいて、品揃えの拡充に努めています。Amazon.co.jpだけで数億種類の商品を扱っているんですよ。
──“地球上でいちばん品揃えがいいゲームショップ”とも言えるかもしれませんね。
原氏:
より多くのお客様にご満足いただけるよう、周辺機器や海外ゲームなど、まずは、日々の生活の中でご利用いただく機会の多い商品の品揃えを強化しています。ダウンロード版の展開もその一環です。
──品揃えもそうなんですが、「Prime Now」も凄く便利ですよね。日用品はもちろんのこと、いざというときはゲーム関連の商品も買えるじゃないですか。
原氏:
例えば『マリオパーティー』といったパーティーゲームでコントローラーがほしいときがあるように、「急に友だちが来ることになったけど○○がない!」というニーズにお応えすることができます。
一部の対象エリアでは注文後、最短1時間以内でお届けもできます。また、発売直後に遊びたいというお客様からのご要望から、過去に『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー3』や『ARMS』などでは、発売日の午前0時に配達を実施しました。
さらに最近はゲーム大会のサポートも行っているんですよ。
──ゲーム大会のサポートですか……そういえば、2014年にAmazon.comがTwitch を買収されていましたね。
原氏:
日本では、Amazonプライムの特典として、昨年12月に新たに「Twitch Prime」が追加されましたが、2018年3月には「春拳」という国内向けの大会をTwitch Prime主催で実施しました。
実はその告知をAmazon内で行い、同時にエントリーチケットを0円で販売しました。大会の模様はTwitchでの配信と同時に、Amazonの春拳特集ページでもリアルタイムで映像配信していたんですよ。
──大会の存在自体は知っていましたが、そういう取り組みだったんですね。これ、意外と知らない人多いんじゃないでしょうか。またそういう意味では、リアル店舗で定期的に配布されている、各ゲームメーカーの新作ゲームカタログもAmazonで取り扱っていますよね。
原氏:
最近ですと、2017年の年末から2018年の年始にかけてソニー・インタラクティブエンタテインメントさんと任天堂さんの広告の一環として、カタログを配信しました。
おっしゃる通り、店舗で無料配布されているカタログをKindle本の電子書籍として特別に0円で取り扱いました。また、Kindle本のカタログにゲームの購入割引クーポンや抽選プレゼントをつけるなどの宣伝を目的とした取組も行っています。
──過去に無料配布されているカタログやチラシを貰って来て、それを記事で紹介したことがあるんですが、これが思ったよりも読まれたんですよ。その存在を知らない人がいるというか、こういうのって結構需要があるんだと気が付きまして。
原氏:
そのニーズは我々も感じていますね。Amazonのカスタマーレビューを見ると、カタログの存在をご存じなかったお客様が多くいらっしゃったことがわかりました。
最近、ゲーム情報誌を読まなくなったり、実店舗に足を運ばなくなったお客様が、Amazonで買い物をされているときに、このカタログをご覧になって、初めて新作情報を目にされることもあるようです。このような体験をきっかけに「最近のゲームって面白そうだな」とポジティブにとらえていただけているようです。
また昨今の取り組みのひとつに、Prime Videoで配信している『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』をご覧いただくと、本編が終わった後に『妖怪ウォッチバスターズ』のDLCが取得できるQRコードが表示されるというものがあります。映画の後にゲームもお楽しみいただけるようにしています。
このように、ゲームファンの皆様に、様々な形でよりゲームをお楽しみいただけるような取り組みを推進しています。
──Prime Videoでの取り組みは知らなかったです……。いずれも電子書籍の販売や映像配信をしているAmazonだからこそできる展開と言えますね。
原氏:
「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」という企業理念をもとに、今後もゲームファンの皆様に喜んでいただける取り組みはどんどんやっていきたいと考えています。
──そういえば最近、よくAmazon限定の特典を目にします。こちらは何かきっかけがあって行っていくことになったんでしょうか。
原氏:
お客様に満足いただけるよう、ゲームに関する取り組みを日々強化していく中で、自然に出てきたアイデアのひとつですね。
お客様のニーズを考え、どういうものを特典にすればお客様に喜んでいただけるか、ということをメーカーのゲーム制作の方々、あるいはマーケティング担当の方々と一緒に考えながら特典を検討しているんです。
具体的に申し上げると、『聖剣伝説2 SECRET of MANA』のときには、オリジナル版『聖剣伝説2』の取扱説明書風の解説書を特典として付けさせていただきました。
また「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」では、収録されている30タイトル全てのファミコンカセットパッケージ風のポストカードをセットにして特典としました。
このように、ゲーム内容やゲームのターゲットカスタマーのニーズを考えて、オリジナリティのある特典を常に考えています。
──そういった取り組みが影響していると思うんですが、ここ数年でAmazon のゲームに関する情報の露出が増えているような印象がありまして。わかりやすいところで言うと、毎年発表されるAmazonランキング大賞が注目されていますよね。また、ゲームの予約がAmazon で始まっただけでニュースになる場合もあるじゃないですか。
原氏:
日本では、Amazonランキング大賞を半年に一度発表しております。ゲームのランキングも皆様にご注目いただけるようになっているとすれば、ありがたく思います。
また、Amazonではお客様からニーズの高いゲームの予約注文にも積極的に取り組んでいるので、ゲームがお好きなお客様に関心を持っていただけるのは嬉しいことです。
PS4 Proや Xbox One Xの登場で需要に変化が。日本ユーザーの傾向とは?
──では少し話題を変えて、ここからはAmazonを利用しているユーザーさんについてお聞きしたいんですが、Amazonさんは様々な国で展開されていますが、地域や国によってゲームの売れ方などは違ったりするんでしょうか。
原氏:
エリアが異なると、お客様のニーズに違いがあるようですね。ためしにAmazon.com(アメリカ)の、「Amazon Best Sellers of 2017」テレビゲーム部門を見てみましょう。
例えばPS4のゲームソフトで絞ってみると……1位が『Horizon Zero Dawn』、2位が『コール オブ デューティ ワールドウォーII』、3位が『Destiny 2』ですね。この結果は他の国でも大体同じようですね。
違うところがあるとすればフランスですね。文化の違いがあって『FIFA 18』が1位になっています。ただ2位以下はそんなに違いがないようです。
一方、日本の「Amazonランキング大賞 2017(年間)」のテレビゲーム&PCソフト プレイステーション4部門では、1位が『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』、2位が『ファイナルファンタジーXV』、3位が『NieR:Automata』でした。
欧米ではシューティングゲームやスポーツゲームが好評なのに対して、日本ではいわゆるJRPGのような日本のゲームが人気だと言えます。
──海外のAmazonのビデオゲーム事業部と意見交換があったりはするのですか?
原氏:
必要に応じて海外事情やトレンドについて共有し合うことはあります。先日のE3の会場でも話をしてきました。
──なるほど。そんな日本ですが、我々の生活は日々変化しているじゃないですか。それによってゲームの売れ方に変化があるのか興味がありまして。普段お仕事をされていて何か気が付いたことなどありますか?
原氏:
ゲームに限った話だとは思いますが、今までは「ハードは持ってないけど、このソフトで遊びたい」という需要があり、「このソフトのためにハードを買う」という流れがあったと思います。
もちろんそれは今も健在ですが、PS4 Proや Xbox One Xといった上位機種の登場により、「ゲーム機は持っているけど、よりいい体験で遊びたい」という新たな需要が生まれ、買い替えが頻繁に起こるようになった印象を受けますね。
──たしかにそれは、今までにないものかもしれませんね。では、Amazonでは様々な商品カテゴリーがありますが、ビデオゲームと他のカテゴリーの親和性という面ではいかがでしょうか。
原氏:
例えば、ビデオゲームの商品カテゴリーだけでなく、アニメ・マンガに関連する商品やHDDやSSD といったPCパーツを一緒に購入されるお客様は多いように思います。こうしたPCパーツは現行のゲーム機でも使用できますので、お客様のご利用環境に応じて追加購入されるのだと考えられます。
こうしたお客様ニーズを踏まえ、PS4本体とハードディスク・ポータブルハードディスクをセットで買うとお得になるキャンペーンを実施するなど、お客様により快適にゲームをお楽しみいただける、環境作りをサポートできるような取り組みにも注力しています。
Amazonはなぜ新作ゲームの体験版を配信するのか
──Amazonがゲームに対して、どういう取り組みをしているのかがよくわかってきました。
それで気になったんですが、ここまでの取り組みを行うには、相当ゲームに詳しくないと──それこそバイヤー的な“目利き”が非常に重要になってくると思うんですが、ビデオゲーム事業部にどういった方がいるのかであったり、普段どのようなことに注目しているのか、という部分を教えてもらえないでしょうか。
原氏:
我々はゲームが大好きで、その視点を持ったうえで、様々なデータを分析しています。
わかりやすいところで言うと、商品ページに「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という部分がありますよね。ここを見るだけでも様々なことがわかるんです。
例えば、『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS』でしたら、VR繋がりで『GUNGRAVE VR』が、そしてロボット繋がりで『マクロス』の商品が紹介されていると考えられます。
これを他の情報も踏まえて分析していくと、ロボットが好きな人、VRを持っている人、VRを持っていないけれど興味がある人、昔『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』を遊んでいた人や、小島監督が好きな人、等々、どういったお客様が注目されているかがわかります。
お客様にとってはどういうポイントがより重要なのか、ということを日々膨大なデータを見ながら考え、メーカーさんや社内のスタッフにひとつひとつ相談しながら、お客様にお喜びいただけるであろう品揃えや企画に結び付けていくわけです。
──冒頭でお伺いした数々の取り組みはそういった背景があり、考案されていったんですね。では逆になんですが、ユーザーの需要を叶える取り組みではなく、原さんやビデオゲーム事業部の方々からの「こういうことを発信したい」という視点での取り組みはあったりするんでしょうか。
原氏:
先ほども申し上げたように、Amazonでは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」という企業理念のもと、お客様の満足を第一に考えています。
例えば、『Detroit: Become Human』では発売前に無料体験版を配信するなど、できる限り多くのお客様に喜んでいただきながらゲームをお届けしたいという思いを持って、様々な取り組みを行っています。
──それ凄く疑問だったんですが、なぜAmazonで体験版の配布を行うんでしょうか。正直、各ハードのストアで十分な気もするのですが……。
原氏:
今、ご説明したゲームタイトル発売前の無料体験版の配信に関して申し上げると、まずは、先ほどのカタログ同様に、お客様に『Detroit: Become Human』という作品を知っていただくことが第一でした。
そしてもうひとつの目的は、発売前にAmazonカスタマーレビューを投稿いただける可能性が出ることでした。Amazonカスタマーレビューは、原則、商品発売後でないと投稿ができないのですが、体験版を発売前に配信したことにより、体験版の内容ではありますが、その作品のカスタマーレビューを発売前から見られるようになるのです。
コアなゲームファンのお客様には、他にも多くの判断材料が沢山あるかと思いますが、多くのお客様にとっては、タイトルが発売されるまでどのようなゲームなのかはよく分からないと思います。
特に新規IPだとなおさらでしょう。そうした時に、体験版とはいえ、Amazonのカスタマーレビューを参考にしていただけると、お客様にとってより楽しく充実したお買い物体験になるのではないかと考えているのです。
実際、発売前に体験版をお試しになられたお客様からのカスタマーレビューには、「こういうゲームだよ」、「こういう人は好きかもね」といった投稿がありました。
──あ、なるほど!
原氏:
体験版ではあるものの、カスタマーレビューをご覧になって、「じゃあ予約してみよう」というお客様が一人でもいらっしゃったとすれば、嬉しいですよね。
「ゲームに出合う楽しみをより多くのお客様にお届けしたい」という想いに加え、「一つ一つのタイトルの話題作りにも貢献できれば」という気持ちもあります。
個人的にも、『Detroit: Become Human』は体験して初めて分かる魅力が多いゲームだと思っていたのですが、カスタマーレビューを含めた体験版の反応は非常に良かったです。
体験版の配信は発売の1ヵ月前に行いましたが、こうして発売前にも良い話題作りができたのは嬉しいですね。ひとりでも多くのお客様にゲームと出合う喜びをお届けできるよう、これからもゲーム業界の皆様と一緒に取り組んでいきたいと思います。
──最後の話を伺って、ゲームに対する愛がよく伝わってきました。本日はありがとうございました。
Amazonのサービスを一言で表すならば“便利”となるが、その便利さを実現させるために彼らは、「地球上で最も豊富な品揃え」、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というビジョンをゲームにも当てはめ、より快適にゲームを楽しむことができる環境作りをサポートすることに日々取り組んでいたのだ。
その取り組みの中には、カタログや体験版の配信、ゲーム大会のサポートといった「なぜAmazonが?」とつい思ってしまうものもあるが、いざその理由を聞いてみると「ああ、なるほど」と納得できるものだった。
こういった一つひとつの取り組みが重なることにより、我々は便利さを感じているのだろう。今回のインタビューでは、その便利さを紐解き、それを実現させている人間たちの想いを垣間見ることができたように思える。
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その“実態”に迫るべく話を聞いたのは、全国に店舗を構える株式会社ゲオの中古バイヤーである海津氏と、店舗担当者である片岡氏。
中古品を扱う独特の産業事情ゆえに、ゲーム市場の未来に対する冷静な洞察を持ち合わせた彼らの姿からは、私たちの知らないゲーム市場の「リアル」が浮かび上がってくる──。