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イシイジロウ氏がたどり着いた人狼ゲームにおけるトゥルーエンド。人狼の勝利でも村人の勝利でもないエンディングとは?

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 プレイヤーそれぞれが村人と村人に化けた人狼となり、プレイヤーどうしが会話を交わしながら相手の正体を探る“人狼ゲーム”
 直感力や推理力、洞察力のほか、相手を欺く演技力などが求められる、奥深いコミュニケーションゲームだ。いまや世界中で愛されている人狼ゲームだが、日本では観覧型人狼である“アルティメット人狼”が人気を博している。

 役者、将棋棋士、ゲームクリエイター、声優など、幅広い職種のプレイヤーが出演しているアルティメット人狼は2014年にスタート。スタート時はそれほど大きくない規模で行われていたが、ニコニコ生放送での中継も手伝って徐々に人気が浸透。
 5月に開催されたアルティメット人狼10は、第一部から第三部までの模様を約20万人が視聴するまでに成長している。

 アルティメット人狼の主宰を務めるのは、『428 〜封鎖された渋谷で〜』で知られるイシイジロウ氏、アドリブ舞台劇“人狼ザ・ライブプレイングシアター(以下、TLPT)”プロデューサー、桜庭末那氏、ドイツゲームスペース・人狼ルームの児玉健氏、人狼伝道師の眞形隆之氏の4名。
 だが、主宰のひとりであるイシイ氏は、アルティメット人狼10を最後に主宰とプレイヤーを引退することを発表した。成長を遂げ、多くの観客を魅了するに至ったアルティメット人狼からイシイ氏が離れる理由とは? ゲームクリエイターがなぜ人狼ゲームにここまで注力したのか? 6月初旬、引退したイシイ氏に話を聞いた。

文・取材/編集部


──まずはアルティメット人狼10、お疲れさまでした。エンディングにて、アルティメット人狼10を最後に、プレイヤーとして、そして主宰として、イシイさんは一歩引いた形となり、引退すると表明されました。

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2019年5月26・27日にヒューリックホール東京にて開催されたアルティメット人狼10。会場は満員となった。

イシイ氏:
 引退は……アルティメット人狼の規模が大きくなっていったときに、中途半端な関わりだと納得ができない、というところがあって。インディーのサイズだと自分もゲームクリエイターをしながらそれなりのことができたんですけれども、アルティメット人狼10の規模になってくるとゲーム制作という本職があるとそれなりのことしかできないので、任せざるを得ない。そのジレンマというか、ストレスというのはあったのかもしれませんね。

 やるんだったら自分のこだわりを実現させたい。プレイヤーとしてもイベントしても。
 それをするにはゲームを作る時間を削ってやらなければいけない。直近の『428』10周年イベントとか、いろいろなものがあった中で、改めて“根本としてはゲームクリエイターをやらないといけない”という気づきがあったわけです。

──タイミング的に言うと、セガゲームスの『新サクラ大戦』にストーリー構成としてイシイさんが参加されるという発表がありましたが、大きなプロジェクトが動き出すタイミングだったというのも関係があったのですか?

イシイ氏:
 そうですね。まだ言えないものも含めていくつかのコンシューマープロジェクトのお誘いもあって、そちらに自分のクリエイターとしての時間を割きたいという気持ちもありました。

──アルティメット人狼の主宰はイシイさんのほか、桜庭未那さん、児玉健さん、眞形隆之さんがいらっしゃいます。いままではどのように役割分担をされていたんでしょうか。

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アルティメット人狼10フィナーレ時に主宰4名が登壇。写真左から眞形隆之氏、桜庭未那氏、児玉健氏、イシイジロウ氏。

イシイ氏:
 初期の段階というのは、僕が言い出しっぺで、眞形さんが企画して、桜庭さんが実際に運営して、児玉さんは……どちらかと言うとプレイヤーとして参加するというのがいちばん最初の形だったんです。

 ただ途中からは桜庭さんとTLPTの制作チームにおんぶに抱っこすぎるというところがありました。あとは人狼ルーム、児玉さんがつねにセンターにいるということがTLPTと違う”アルティメット人狼”の個性だ、という感触が出てきて児玉さんに「もっと入ってほしい」と伝えて。
 児玉さんがゲームの運営、桜庭さんがイベントの運営、眞形さんが司会と顔みたいになっていきました。僕自身が裏で企画を仕掛けていたのは、アルティメット人狼3からアルティメット人狼6ぐらいまでですかね。とくに“堀井雄二VS.ホリエモン”のように、プロレスみたいなことをやろうって言い出したのは僕だったりします。そういった異種格闘技のような対戦カードを実現していったと。

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アルティメット人狼3と4では堀井雄二氏とホリエモンこと堀江貴文氏が出演。会場を大いに沸かした。

 おかげさまで多彩なゲストに出演いただいたんですけど、ただ、いちばんチケット人気があったのはじつは既存メンバーというか、レギュラーメンバーの回という矛盾が生まれてきて。基本的にレギュラーメンバーに対して人狼ゲーム好きな人が参加して挑む、という形になったのがアルティメット人狼8以降なのかなと。
 その中で児玉さんキャスティングの主体性が移っていったという流れはありますね。

──アルティメット人狼とゲームクリエイター人狼会の関係で言うと、そもそもゲームクリエイターによる“人狼会”的な集まりがあって……。

イシイ氏:
 そうです、そうです。

──アルティメット人狼の母体となったのはゲームクリエイター人狼だったんですか?

イシイ氏:
 そうとも言えますね。もともとTLPTが7年前にスタートしたんですね。6年前にTLPTの舞台を観て、すぐにゲームクリエイター人狼会を立ち上げたんです。もともとは“放送する人狼”をしようと思っていて。
 そのために、ゲームクリエイターと人狼TLPTを対決させようと思ったんですね。ただ、テスト的にやってみたらTLPTのほうが実力が圧倒的に上だったため、「これは放送するのは無理だ」と。放送しても番組にならないと判断し、実力をつけるためにゲームクリエイター人狼会で練習することに1年ほど注力しました。

 実力的な手応えを感じたときに、眞形さんから当時放送していた 「“将棋棋士人狼”にゲームクリエイターをぶつけてみない?」と言われて。もしかしたらそこでドラマが生まれ、何かおもしろいことが起きるかもしれない、と思ったんですね。当初はアルティメット人狼という言葉は使っていなくて、“異種格闘技人狼”【※】って僕らは言っていたんです。

※異種格闘技人狼
イシイ氏も出演した異種格闘技人狼イベントは、人狼ルームの主催により2013年10月10日原宿ヒミツキチオブスクラップで開催された。アルティメット人狼のルーツのひとつである。

──なるほど。いろいろつながってきました。

イシイ氏:
 その構想の中で、将棋棋士vs.ゲームクリエイター人狼にマドック【※】が参加してくれたことがあって、僕が勝ちそうになった瞬間をマドックがかっさらうという、すごくドラマ性のある試合ができたんですね。
 「ゲームクリエイターが強くて、さらにTLPTが強いという形ができたな」と。じゃあこれをベースに、将棋棋士人狼のフォーマットでアルティメット人狼的なものができないかな、と仕掛けたのですが……。

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※マドック……TLPTにて“医師マドック”役を務める、俳優・演出家の松崎史也。“村最高の頭脳を持つ男”という設定のとおりクレバーでありながらも、周囲を巻き込む演技力で観客に強いインパクトを残すプレイヤー。

──ですが?

イシイ氏:
 将棋棋士人狼チームが11人ルールにこだわっていて。僕らがやりたかったのは13人ルール。「将棋棋士人狼はそのルールを採用できない」という話になってしまったんです。……これ、書いていいのかな?(笑)。彼らは11人ルールに誇りを持っていて、いまでもずっとそのルール(人狼最大トーナメント)でやっているんですね。
 一方、僕らは13人ルールに可能性があると思っていた。どちらが正しいという話ではないのですが、その折り合いがつかず、僕らは自分たちで13人ルールの人狼を立ち上げざるを得ない形となり、第1回のアルティメット人狼が立ち上がったと。

──TLPTをご覧になってイシイさんがいちばん驚かれたのは、“魅せる人狼”というところだと思うんです。そこにゲームクリエイターをぶつけようと考えたのは、ゲームクリエイターが持つ遊び心とか、インテリジェンスをフィーチャーしたかったからなのですか? ゲームクリエイターとTLPTの組み合わせが化学反応を引き起こすと?

イシイ氏:
 引退宣言をしたときにも言いましたが、TLPTを見たときに驚いたのは、ゲームの質がプレイヤーによってこれほど変わるのということ。もう一点は、一種のスポーツに見えたということなんですよね。
 僕自身はスポーツが不得意な人間なので、頭脳を使ってスポーツの試合のように、徹底的に戦って勝った負けたみたいなことはやってみたいという気持ちがあったんです。ゲームクリエイターは頭脳職ですから、僕たちはこの場に立てるんじゃないかと。

 人狼ゲームは1回1回つねに物語がセットされますよね。つまり、「前回がこうだったから」と言えないわけです。
 もちろん、TLPTにもその連続性はない。さらに、役者さんにキャラクターがチューニングされている。そこにゲームクリエイターの付け入る隙があると思って。

 TLPTは、人を動かす、人をだます、心を動かす芝居ができる。一方、ゲームクリエイターはゲームというものを理解してゲームデザインの裏を取ることができる。
 自分の関わっている業界とか、タイトルを背負って戦い合うというのは、まさに僕たちの世代が好きだった異種格闘技。柔道対空手の様な業界の看板を背負っての対決。スポーツが不得意だからできなかったそのカッコいい世界が、人狼だったらできる。それはTLPTにもできないことで、だから自分たちがやらなきゃいけないと。

──スポーツに対する劣等感と、異種格闘技への憧れがあったわけですね。

イシイ氏:
 TLPTでそれをやろうとするとTLPTの世界観は壊れてしまう。その世界を壊さないようにするため、それぞれが看板を背負ってやる。すると「この前やられたから今度はやり返してやる」と連続性も生まれる。格闘技やプロレスでよくあるリベンジの構図も作り出せるわけです。

 これはTLPTだけではできないこと。そう思いついたときに、いても立ってもいられなくてゲームクリエイター人狼会をスタートさせました。
 一方にTLPTがあり、もう一方に将棋棋士がある。ゲームクリエイター人狼狼を作ったことで三つ巴の構図ができた。ゲームクリエイターも、TLPTも、将棋棋士も文化がある。この文化をもとに対決構造をもっと広げていきたかったといいうのが初期の構想です。

──ゲームクリエイター人狼会はどのように広がっていったのですか?

イシイ氏:
 まず、TLPTを観た人たちを集めていきました。ゲームクリエイター人狼会は道場にしたいという考えがあって。TLPTを観たことがない人とか、ガチ勢と言うか、本当に勝つことにこだわるプレイスタイルの人とかもどんどん入れていって、その人たちに対して魅せる人狼で勝てるかどうか。
 つまり、観客を意識しながら、相手のプレイスタイルを受けて、受けきったうえでガチで倒す。

──プロレスですね!

イシイ氏:
 そうです。“技を全部受けて、そのうえで勝つ”と(笑)。だからガチ勢の人たちもゲームクリエイター人狼で遊んだら「(人狼が)めちゃくちゃうまくなってる」と言われたそうで。たとえばアルティメット人狼10の第3部2戦目でMVPを獲った古川さん【※1】も当時ゲームクリエイター人狼に遊びに来てくれていたんですが、負けて帰ったりしているんですよ。

 アルティメット人狼10の打ち上げのときに、古川さんから「ゲームクリエイター人狼に参加して負けたときてから自分の人狼を変えた」って。ゲームクリエイター人狼がそういう場になっていたんですね。
 その中でずっとハマり続けてた、森本さん大野さん藤澤さん【※2】といったメンバーに「異種格闘技戦のような人狼をやるんだけど出ませんか?」と伝えたら「そりゃいいね、腕試ししてみよう」と参加してくれて。

※1 古川さん
クイズ作家の古川洋平氏。

※2 森本さん、大野さん、藤澤さん
ゲームフリーク森本茂樹氏、バンダイナムコアミューズメント大野聡氏、『ドラゴンクエスト10』初代ディレクター藤澤仁氏。

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──大野さんは本当に人狼ゲームにハマってますよね。クラウドファンディングで人狼ゲームの書籍を発売するとは……。すごい熱意です。

イシイ氏:
 人狼ジャンキーなんですよ、みんな。で、僕自身は途中からはプレイヤーよりも運営のほうに責任感が出てきて。自分が楽しむよりも、いろんな人を楽しませたいと。あとは新しい人を入れてこないといけないというのがずっとあって。

──イシイさんは昔からそう言い続けてましたよね。

イシイ氏:
 だから初心者会を大切にしたり、エンジョイ会のようなちょっとゆるく楽しくやろうという会を大事にして。途中から僕は、新しい業界の人と会うことを重視するようになっていきました。ルールの違いが障壁になることも多かったのですが、「とりあえずTLPTを観にいってください」と勧めると、みんなTLPTに衝撃を受けてハマるんですね(笑)。

 そういう中でおもしろいのが森本さん。当初、森本さんはTLPTを観ていなかったんですよ。森本さんは自身のルールを大事にしていて「こっちのほうが正しい」と頑固な部分もあり。
 “預言者を殺さない”とか、いろいろなパターンを持っていて、5年経ったいまもポリシーは絶対に変えない。でも、いまはTLPTも観てくれて、ポケモン人狼会の顧問をやっていたり、色んなプレイスタイルを柔軟に受け入れていただいてますね。

 そのほか、スクエニさんは一度人狼が廃れていたらしいんですけど、ゲームクリエイター人狼とつき合うことで再び盛んになって。よーすぴさん【※】がやるようになって、いまでは一大勢力に(笑)。ゲーム業界の人狼会でいえば、たぶんポケモン人狼会とスクエニ人狼会が二大勢力だと思います(笑)。

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※よーすぴさん……スクウェア・エニックス取締役執行役員、齊藤陽介氏。

──人狼会のあるゲームメーカーはほかにもあるのですか?

イシイ氏:
 セガさんやコーエーテクモさんも人狼会がありゲームクリエイター人狼会に遊びにきていただいています。まだ、アルティメット人狼に出てきていないのは、基本的にゲームクリエイターにはタイトルを背負ってきてほしいというところがあって。そこがおもしろいところなんですよね。

──スクエニの『ドラクエ』軍とか、そういうことですよね。

イシイ氏:
 「俺が弱かったら『ドラクエ』が弱いってことになるかも」という責任を持って戦うのが、エンタメとしてはおもしろいと思っていて。まあ人狼が強いこととゲームはまったく関係ないんですけど(笑)。ただ、エンタメとしての割り切りは必要なんですね。

──ちなみに、初心者会や勉強会など、最盛期はどのくらいの頻度でやられていたんですか?

イシイ氏:
 最大で月5回くらいですね。ゲーム業界の人狼会は、定期的に行われているので。ただ、アルティメット人狼が先鋭化したことによって、なかなか新しいメンバーが生まれないというのが問題点としてあります。
 いまレギュラーで出演しているのは初期メンバーがほとんどですから。途中から参加していただいたのは、よーすぴさんぐらい。新しい人がなかなか出てこないのは悔しいですね。

──ある程度役職があるというか、世の中に知られているクリエイターじゃないと出づらい、というのもあるのかもしれませんが。

イシイ氏:
 そこはたしかにそうですね。ディレクター、プロデューサークラスは、舞台というものを理解して出てくる感じがあります。やっぱりタイトルを背負うと、お客さんに対して何をしなきゃいけないかという発想があって。「人狼が強い」という人はいるのですが、魅せるとなると大舞台は難しい部分もあり。

──アルティメット人狼のオーディエンスの広がりについてはどう分析されていますか?

イシイ氏:
 僕自身はもっと大きくなると思っていたんです。ゲームファン、人狼ファン、将棋ファンだけじゃなくて、もっと多くの人に届けるために、ホリエモンさん勝間和代さんマックスむらいさんに出演いただいたわけですね。アルティメット人狼を始めたことは「夢は武道館」と言っていたのですが、そこに届かなかったのは反省している部分です。
 ただ一方で、レギュラーメンバーでヒューリックホール東京(アルティメット人狼10の会場)がいっぱいになるんだという驚きもありました。誰もが知っている有名な人が出演しているわけではなく、人狼ファンで800席がいっぱいになるというのは驚きでした。芸能人的な人が入ってきて、その人たちと僕らが混ざらないといけないとこの規模には届かないと思っていたんですけど、じつはそうじゃなかった。そこは誤算でした。

 ちょっとマニアックな話になるんですけど、佐山聡さんという、プロレスから総合格闘技を発明した人が、修斗という総合格闘技を作ったんですが、立ち上げ当時はぜんぜん人気がなかったんですね。
 マニアックすぎて。でも、未来を見越していたんです。総合格闘技人気を爆発させるために、当初はプロレスラーに出場してもらって。最初はプロレスラーが人気だったけど、だんだんプロレスラーを倒す総合格闘家がカッコよくなっていく。この逆転現象が何年もかけて起きてきたと。

 TLPTのすばらしさを世間に伝えるためには、同じように負け役が必要だと思っているんですよ。それがゲームクリエイターの最初の役割だったんです。
 メジャーなゲームクリエイターをTLPTが倒し、TLPTの知名度と人気が上がっていくシナリオを考えていたんですが、僕らはまだまだ負け役としては足らなかったのかなと。結果的には僕らの、小さな先鋭化した人狼の人気が出たという。

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──もっと大きな広がりを生み出したかったという気持ちはわかりました。一方でプレイヤーとしてはやり切ったという手応えはあったのですか? たとえば「アルティメット人狼のあの試合で自分の目指したプレイができた」とか?

イシイ氏:
 アルティメット人狼2から7までは……勝率を見ていただくとわかるとおり、僕自身の勝率はむちゃくちゃ高かったんですね。ある種の無敵感がありました。
 わかるんですよ、だいたいの展開が。その展開がひどい形にならないようにコントロールするだけの仕事で、勝ち負けとかは考えの外で。

──そのプレイスタイルはすごくイシイさんらしいですよね。ふつうはプレイヤーとして集中してしまうと思うんです。

イシイ氏:
 クオリティーコントロールして、勝ちすぎないようにする。「オーバーキルしちゃダメ」だと。序盤にいなくなってコントロールできないことはありましたが、生き残っていたときにコントロールできないことはほぼなくて。だから正直に言えば「つまらないな」と思っている部分もありました。
 あと、本当にこれは申し訳ないですけど、みんながついてこないことに少しイライラしていました。でも、アルティメット人狼8から1年1回の開催ペースになったこともあり、自分の脳の体力というか、そこが落ちてきた感覚があって。飽きてきていたと思うんですよ、脳が。人狼に飽きているんじゃなくて、新しい刺激がないことに飽きてきて。

──繰り返しになってしまったわけですね。

イシイ氏:
 僕がよく言っていたのは、「アルティメット人狼7までは、人狼と役職は顔を見たらわかった」と。勝率も80%を超えていたと思います。ですので、プレイ中はどう勝つか、どう負けるかをコントロールするだけだったんです。

──完全にゾーンに入っていたんですね。

イシイ氏:
 そう。でも、納得のいくプレイができたかというと、じつはそんなにできていなくて。アルティメット人狼7の最後の試合は、みんながラストウルフに気づいていなくて、人狼を助けてしまったんです。3日目にストレートで終わらせようと思って僕はラストウルフに投票したんですけど、誰もついてこなくて。
 ストレートで勝って盛り上げようと思ったのですが実現できなかったので、その後は投票でラストウルフを助け続けたんですよ。舞台としての盛り上がりを作るために。

──人狼ゲーム上の狂人とは別の、もうひとりの狂人になっていたわけですね(笑)。

イシイ氏:
 ストレートで勝てなかったら中途半端に終わってもおもしろくないわけですね。アルティメット人狼ではドラマを作らなきゃいけないわけです。だから僕は人狼プレイヤーとしては、このときに一回やめようかなと思ったんです。「しんどい」と思って。

──では、アルティメット人狼で「やり切った」というプレイはなかったと?

イシイ氏:
 人狼には、人狼の勝利、村の勝利とは別の、もうひとつの終わり方に気づいて、そこにたどり着きたいなと思っていたんですね。アルティメット人狼の舞台上で。じつは半年くらい前にゲームクリエイター人狼会でその手前に届いたことがあって。

──もうひとつの終わり方?

イシイ氏:
  僕も500試合やって初めて起きたことだったんです。人狼のルールが機能しなくなるエンディングがあって、そこに気づいたときに「あ、これがやりたかったんだ」と。

──ちょっと待ってください。具体的な内容を教えてもらえますか。

イシイ氏:
 狼がひとり、村人がふたり、そして狩人の四人が残る状況を作るんです。で、この状態のときに昼も夜も誰も死ななくなるんです。

──あっ!

イシイ氏:
 勝ち負けの消失というのが人狼にはあったんですよ。狩人と狼が必ず同じ人を守って、食べようとする。これを続けると、夜に誰も死なない。必ずお互いがお互いに投票して、このふたりが別々に投票し続けたら、昼間に処刑される人もいない。
 誰も処刑されず、誰も食べられないという状況が永遠に続く。つまり、村に平和が訪れるわけです。「これで永遠に暮らしていける。GMさん、もう終わりです。これで村と人狼の勝利です!」というのが、僕がたどり着きたかったエンディング。

 でも、ゲームクリエイター人狼会でこのエンディングを迎えるあと一歩のところまでいったけど、達成できなかったんですね。自分がプレイしながらこのエンディングに気づいたときに説明してもうまく伝えられなくて。
 僕は狩人だったんですが殺されてしまって。「誰も死ななくて済むから勝ち負けがなくなる」と説明したら、村人のプレイヤーから「いや、私は勝ちたいんです!」と言われて僕が処刑されてしまい……。

──ドラマを作るということを意識せず、勝ち負けだけを求めて人狼をプレイするとそうなってしまうのかもしれないですね。

イシイ氏:
 このエンディングは狼次第でもうひとつドラマが生み出せるところがあって。それは狼の避けられない欲求、狼は人を食べなければいけないということにあるんです。永遠の平和は訪れたけども、狼の衝動として人間を食べたい。
 平和なのに、狼としての衝動がそれを覆してしまう。食べてしまったら平和を築いていくという約束を破るわけですから、狩人と狼の区別がついてもちろん翌日に処刑される……。

 こうなったらすごくドラマチックですよね。「せっかく村人に許してもらっていたのに、狼としての衝動に抗えなかった」となるわけです。
 この結末に気づいたときに「アルティメット人狼のような魅せる人狼のゴールのひとつはここだ!」と。でも、そこにたどり着くには、実力も運も周囲の理解も必要なんですよね。

──人狼のコミュニティーは全国に数多くあると思うのですが、イシイさんが気づいたこのエンディングにたどり着いたコミュニティーはあるのですか?

イシイ氏:
 このエンディングは、魅せる人狼として考えなければ、ただのシステム上の話なんです。条件的にたどり着いた人は多いかもしれません。でも僕は人狼をドラマとして見る必要があるわけですね。僕は人狼をストーリーテリングとして理解しているので、ドラマとしてこういうエンディングを探していたんですけど。

 あと、このレベルに到達するためには相当うまい人の組み合わせでないと実現するのは無理なんですよ。もちろんグッジョブが起きなければいけないし、クロス護衛を固定させるグッジョブを出さないといけないし、狩人のクロス護衛することを双方OKとするのは人狼側からすると負け確定を飲むわけですから。

──本来であれば成立することのない、矛盾ともいえる人狼との信頼が求められるわけですもんね。

イシイ氏:
 ゲームとしての根本が変わるわけですよね。結果として『まどか☆マギカ』のエンディングみたいなことが起こるわけです。……こういうドラマを持った人狼のエンディングって、たぶんいくつかあると思うんですよ。
 でも僕は、さらにそのエンディングを探してたどり着くまでのテンションとコンディションがもうないかも知れない。アルティメット人狼7までに舞台上でたどり着けなかったから、僕にはもう無理だと。

──たどり着けていれば、アルティメット人狼はまた違うものになっていた?

イシイ氏:
 舞台上で見せられていれば、さらに違う人狼の境界線、ゲームデザインの境界線みたいなところにたどり着けたかもしれません……。

 このエンディングについて棋士の中田さん【※】と打ち上げで話していたときに、将棋の千日手の話になって。もし負けたほうが殺されるという将棋を、たとえば親子で対決しなければならなくなったときに「ふたりが勝利するには千日手しかないよね」って。この話にはTLPT主催の桜庭さんも入ってきてノリノリだったのですが。

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※中田さん……将棋棋士、中田功氏。

 でも人狼には千日手はありませんし、指し直しにもならない。だから、これは人狼におけるトゥルーエンドなんです。
 このトゥルーエンドの存在に気づいたというのも引退の理由の理由のひとつですね。

 アルティメット10で、僕は最後のカードが村人だったんですけど、そのときにもう一度配り直してもらおうかと思ったくらい悔しくて。自分が狩人であるのがいちばん仕掛けやすいんです。
 でも、1部の2試合目で人狼であっても仕掛けられたことにあとで気づいて。それが舞台上でできなかった、気づけなかったことを考えると、まあ引退して当然なのかなと。本音を言うと、僕はやっぱり人狼でリアルタイムにストーリーを作りたい。
 でも、それをやるためには圧倒的に強くないといけないんですよ。勝って負けて、ぐらいの腕前では盤面に左右されてしまう。圧倒的な強さがあれば、たぶん僕は人狼プレイヤーとして理想的な何かを追い求めることができるとは思うのですが。

──イシイさんの話を聞いていると人狼への本気度が違うと思うんですよね。動機が違うというか。
 楽しいというのは同じだと思うのですが、イシイさんはさらにその奥に行こうとしている気がします。

イシイ氏:
 ゲームデザイナーとして参加していて、プレイヤーとして参加していないんですよね、たぶん。人狼をプレイしながら、同時に人狼を書き換えようとしているんです。だからプレイスタンスが違うかも知れません。ストーリーやドラマを考えていなければ書き換える必要はありませんから。

 あ、もう一点言っておきたいことがあって。僕はアルティメット人狼でヒールになれなかったんですよ。
 それは演技性の問題で。結果的に強かったとしても、その強さを演出できない。ただふんわり勝率がいい人になっちゃっていたと思うんです。倒し甲斐がないっていう(笑)。

──たしかにおっしゃる通りアルティメット人狼の出演者にはヒールがいないですよね。どのプレイヤーも観客から愛されちゃっているというか。

イシイ氏:
 そうなんですよ。僕から見て、児玉さんと古川さんはヒールになれると思うんですが(笑)。人狼プレイヤーの中でヒールの大切さをわかっている人ってなかなかいなくて。
 TLPTはキャラクターなので本当の意味でヒールになれないんですよね。だから生身の人間としてのヒールが生まれれば、アルティメット人狼はこれまでと違った盛り上がりを見せてくれると思います。

──そういう意味ではアルティメット人狼には、まだまだ伸びしろがあるということですね。

イシイ氏:
 あると思います。でも難しいですよね。……いまだったら逆にアルティメット人狼のプレイヤーを芸能人が倒す、という図式のほうが一般にはノレる気もしますし。
 たとえば元AKB・HKTの指原莉乃さんが「人狼に興味がある」とTwitterでつぶやかれていたのですが、もし指原さんに出演していただけたとして、彼女を立てつつもアルティメット人狼のレギュラー陣がしっかりと叩き潰せるかどうか。「人狼をナメるなよ」と言えて、その中で指原さんがリベンジしていくようなドラマに持っていけたら、僕だったらすごく燃えますね。

──これからのアルティメット人狼がどうなるか、イシイさんの今回のお話を含めて、楽しみにさせていただきます。今日はありがとうございました。(了)

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 ゲームクリエイターとして、ストーリーを紡ぐ者として、イシイ氏は“魅せる人狼”の信念を掲げてアルティメット人狼の主宰を担ってきた。

 「誰も食べられず、誰も処刑されない。永遠の平和が続いて終わるんです」。

 イシイ氏が語った人狼ゲームにおけるトゥルーエンド。インタビューで語られたように、ゲームシステム上で言えばバグのようなものかもしれない。
 だが、そこにドラマが組み込まれたとき、単なるバグではなく、観る者を魅了するエンターテインメントに昇華されるのだろう。

 すべての人狼を処刑できれば村人チームの勝ち、生き残った人狼と同数まで村人を減らせれば人狼チームの勝ち。どちらの陣営が勝つかを競う人狼ゲーム。
 何十万人もの人が視聴する舞台上において、イシイ氏が提示したトゥルーエンドが披露されたとき、出演者と観客はどのようなカタルシスを得るのだろうか。今後のアルティメット人狼での実現を期待せずにはいられない。

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