業務提携がきっかけで、同じビルの同じフロアで互いにすぐ行き来できる環境に
──マトリックスとスタジオアートディンクの間で業務提携を締結したことで、具体的にはどうなるのでしょうか?
矢島氏:
案件というかプロジェクトは、すでに動き出しているんですよ。そういった分担が始まっているものが、すでにあるということですね。
大堀氏:
業務提携して、特定の技術に関して高いほうが補完するというのもありますけど、今回いちばんこだわったのは、単純に提携するだけじゃなくて、密にやろうと。そのために距離のギャップを縮めたかったんですね。それで今はスタジオアートディンクさんに、ウチの会社と同じビルの同じフロアの、廊下を挟んで反対側に来てもらったんです。
モノ作りをしていれば、問題点だとか疑問点は常時出てくるものですけど、そういった時に、5メートル先、10メートル先に本人がいて、「ちょっと」と声をかけられるのは、大きいですよね。もちろん今はZoomとかもありますけど、そういうところにはすごくこだわらせてもらいました。
矢島氏:
とはいっても、今それをやっているのは、たぶん我々ふたりだけなんですけどね(笑)。現場の子たちはなかなか気軽に行き来できないので。
大堀氏:
そのへんはけっこうちゃんと教育していますから。建て付けとしてはヨソの会社になっているので、勝手に入っちゃいけないとか。
でもそれはいずれ、時間が解決していくのかなと思っていて。プロジェクトをもうすでに一緒にやっているので、だんだんと交流も出てくると思いますし。
社員がそういうやり取りを普通だと思うような会社にしていきたいですね。「ウチの中だけで」じゃなくて、良いものは他からもどんどん吸収していこう、できる人とやっていこうと。もちろん吸収するだけじゃなくて、ウチも他の人たちに提供できる会社になろうと。そういうふうになっていかないと、先がないじゃないですか。
──ちなみに業務提携に際して、具体的な条件はあるんですか?
矢島氏:
一応、契約書を作ってはいます(笑)。
大堀氏:
ただまぁ、包括的にやりましょうと。あとは当然、ケースバイケースで新しい議題とかが出てくるので、その都度話をしましょうねという形で、書面としてはまとめてあります。
矢島氏:
たとえば、こちらに来た営業的な案件について相談をして。それで受けられるようであれば、そちらからちょっと人を出してもらって、もうちょっと検討しましょう、とか。そういう関係が今、できつつあるというところですかね。
──具体的なやり取りとして、定例会議があったりするんでしょうか。
矢島氏:
毎週月曜日は定例会議で、「今週はどんな感じ?」みたいなのはやっていますね。
大堀氏:
あとは何かあったら、本当に「味噌汁が冷めない距離」なので(笑)。すぐに行って話すみたいな感じですね。
矢島氏:
プロジェクト内でのやり取りは今、Slackでやってるのかな。だから何かあれば、すぐ集まってちょっと話す、みたいなこともできますね。
そんな形で、けっこうスピーディーにモノは動かせますよ。契約ひとつについても、お互いの法務を呼んできて「ここはもっと詰めたほうがいいよね」とか。
──たとえば、パブリッシャーがお金も含めて業務提携する、要するにラインを獲得するというのは、戦略的によくある話だと思うんです。でもスタジオ同士、デベロッパー同士の業務提携というのは、あまり例がないと思うんです。そこが興味深いなと思っていて。
大堀氏:
あまり見ないですよね。イージーな感じで「人が余ってるなら貸してよ/借りてよ」みたいな話はよくあると思うんですよ。ただそれだとなんかね、なぁなぁでやってるみたいな感じなので。
そこのところをもっと密にやっていこうと。困った時にどうこうというだけじゃなくて、もっとスピーディーに決断できて、かつ、リアルタイムにお互いの状況を把握できるようにしていきたいと思っているんです。この2社の間では、今の人材の状況はシェアしていますから。
それと、お互いのコネクションで交わっているところも当然ありますけど、矢島さんは先ほどもお話しされていたように、コンソールというよりはパソコンの業界から入られた方で、我々とはカバーしている領域が若干違うので。そういう意味ではこの2社間だけじゃなくて、いろんな会社さんと連携を取って物事を進めていく上でもやりやすくなると思っているので。この2社がハブになっていけたらいいなと思っています。
以前はパブリッシャーがやっていた仕事も、今はデベロッパーが行うことに
──ということは今後のビジョンの話として、マトリックスさんとスタジオアートディンクさんをハブにして、いろんな会社の寄り合いみたいな形にしていくイメージもあるのですか?
大堀氏:
強いところと一緒にやりたいというのはありますね。ただ、領域が被らないようにはしたいと思っているので、そこはけっこう相談しています。
矢島氏:
今までにやったことのないもの、たとえば音ゲーを作りましょうというときには、音ゲーを作ったことのある会社さんと組んで、より早くより良いものを作ったほうが良いですよね。その会社の強いところを使えるというか、そのほうが安心ですから。
大堀氏:
自分たちの会社も当然、使ってもらえるような強いところを作っていかなきゃいけないんですけどね。そうでないと、存在意義がなくなってしまうので。
ただ、仕事としてやる以上は、パブリッシャーさんとエンドユーザーさんの両方ともを満足させなきゃいけないので。そう考えると、費用対効果の合うものをちゃんとウチで作れるのかどうかになってきますから。
ハンドリングとコアの部分だけをウチで作って、プログラムやグラフィックやプランニングは協力会社さんに手伝ってもらうのもアリだと思うし。プランニングだけを受ける会社さんも最近は出てきたりして、本当に棲み分けができてきていますよね。
──それは会社単位での分業化が進んだということですか?
大堀氏:
進んでいますね。プランニングはまだあまりメジャーではないですけど、シナリオだけ作るところは、ちょっと前から増えてきましたよね。今はスマホゲームが多いので、シナリオの外注が当たり前になったじゃないですか。
矢島氏:
クライアントのほうから「シナリオはここの会社を使ったらどうですか」「グラフィックはここを使ったらどうですか」と言われるようになってきていますよね。
逆に「ここはダメ」と言われることもあって(笑)。「組む前にこちらに相談してくださいね」みたいな。
──今、お話を伺っていて思ったんですが、そういうふうにシナリオ会社やグラフィック会社だとかいろんな会社をまとめていくのって、つまりパブリッシャーの仕事ですよね。
たとえばスクウェアと合併する前のエニックスは、社内に開発部署がなくて、すべて外注でゲームを作っていたじゃないですか。エニックスのプロデューサーが企画を立てて、それを1社にまるっと発注する場合もあれば、それこそグラフィックならここ、シナリオならここというふうに、いろんなところに発注して作り上げていく場合もあったと思うんです。
大堀氏:
そういう意味では、昔はパブリッシャーさんがやられていた業務も、だんだんとデベロッパーのほうに移動してきていると思います。
矢島氏:
ある案件で、パブリッシャーから「グラフィックの会社はここを使ったらどうですか」という話が来て、「じゃあそこもコントロールしてもらえませんか」と言うと、「こちらは紹介するだけです」「使う・使わないもそちらで決めていただいて構いません。いろいろと調整や協力はしますけど」って、そんな感じですね。
大堀氏:
昔ほどバブルに動かなくなってきているというのが、そういうところに出てきているんだと思いますよ。
正直、昔は開発期間が延びたときの追加金だとか延長交渉って、今よりもかなりイージーにできたんです。いざ発売されればボカンと売れるから、ある程度は担保されていたところがあったので。
でも今はそうはいかないんじゃないかな。リスクヘッジという意味でも、開発会社側にそういった部分が寄せられてきているというのはあると思いますね。
矢島氏:
パブリッシャーのほうでよく聞くのは、プロデューサー不足という話ですね。僕らのほうに案件を出したいんだけど、「この規模のゲームをプロデュースできる人間が今いないから」とか。「昔いた人間がもうすぐ戻ってくるから、戻ってきたらスタートさせます」とか。
結局、人材不足で、「作りたいモノはあるんだけど、任せられる人がいない」という。だからそういう部分がこっちにも回ってきているのかもしれないですね。
──その状況は、逆に言えばデベロッパーにとってはチャンスになっているんですか?
矢島氏:
仕事としては来るようになっているけど、リスクとしてはどうかなぁ……。
──仕事としてはチャンスでもある一方で、負担のほうも多くなっていると?
矢島氏:
そうですね。なんかこう、クライアント側の作法、制作方針が変わってきているのかな? というのはありますね。いつの間にか作り方が変わっていたり、進め方が変わっていたりして、それを我々が気付かないで動かしていると、問題が起こったりすることもあるので。
大堀氏:
受託開発というと、昔は職人の技術やどれだけトンガるかというところにフォーカスされていたんですけど、最近はどちらかというと、どうマネージメントするかのほうが問われますね。プロデューサー的な見地が必要だったり、そういうスキルが必要とされてきていると思います。
矢島氏:
「大幅に納期が遅れるようなことがなく、ちゃんとモノができることが何より重要」な感じですよね。遅れることがあまり許されなくなっているというか。
大作ゲームのナンバリング作品を作るのも時間がかかるから、移植やリメイクが増えている
──まだそこまで顕著ではないですけど、ゲームを作るときのお金の出方も、多様化してきていますよね。今はそれこそ外資のお金が動いたりだとか、今までとはぜんぜん違う軸からゲームが出始めているじゃないですか。今の大手パブリッシャーがそういった状況だとすると、この先にパワーバランスの変化が起こるのかな? というのが、メディアの視点としては興味深くはあるんですけど。まだそこまでの感じではないですか?
大堀氏:
そこまでになるのは、もうちょっと時間がかかるかもしれないですね。ただ、変わるときは突然変わりますから。
矢島氏:
昔はアニメ版権の仕事が多かったんです。でも今は世界で売れるアニメのゲームならお金が出るけど、2クール目があるかどうか分からないアニメには手を出せなくなってきている感じで、最近は商品の幅がだいぶ狭まってきているのかな、というのは感じますね。
オリジナルに大きく張るというパブリッシャーも今は聞かないですし。それでリメイク的なものの企画が中心になっているかなと思いますね。『2』や『3』よりも、「リメイク」。
──『2』や『3』ですらないんですね。
矢島氏:
そうそう。ナンバリングをあまり追っていないというか。ナンバリング作品を作るのにも、期間がけっこうかかるようになっているから、その間を埋めるような感じで移植やリメイクが出てくる、という気がしますけどね。実際に今、話が来ている案件でも、移植やリメイクが多いですし。
──移植やリメイクだと、プロジェクトの予算としてはどんなものでしょう?
矢島氏:
そんなに大きなものはないですよね。
大堀氏:
作り方次第じゃないですか。そのまんまの移植なら、費用も出ないですし。
──一方で、中国のゲーム会社の人に話を聞くと、彼らは日本のゲームの作り方を不思議がっているんです。向こうはもうちょっとスタジオ単位なので、グラフィックリソースとかはともかく、プロジェクトそのものは基本、ひとつのスタジオで完結しているんですよ。
矢島氏:
日本だとそんなに大きな開発スタジオがないんですよ。大堀さんのところも大きいほうですよね、100人以上もいれば。
大堀氏:
そうですね。今は120人ぐらいですから。
日本は大規模なものを管理するのが苦手なところがあると思います。もともと設計が細部まで終わっているわけじゃないモノ作りを、日本だけはいまだにやってますから。
矢島氏:
いまだに職人さんの仕事みたいなものですよね。
大堀氏:
背中を見て育て、みたいな感じですから。そういった意味では難しいですよね。
──とはいえ、外部にまたがれるものと、またがれないものがあると思うんです。先ほどのお話のように、シナリオやグラフィックであれば、ある程度またがっても問題ないと思うんですけど。逆に開発スタジオ同士でここはまたがれない部分、分担できない部分というのはどういうものなんですか?
大堀氏:
ある程度はできますけど、距離が近くないとやりにくいものとか、フィードバックの速度を早めにしなくちゃいけないものはありますよね。
矢島氏:
プログラムなんかだと切り出せるもの、たとえばミニゲームだけなら外に出せるけど、全体の中の一部になっているものは出せないですよ。そこはやっぱり一緒にやってかなきゃ、というのはよく言われますね。