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日本のゲーム業界を支える「ゲームデベロッパー」の現状、そして未来。激変する環境にどう対応していくべきなのか? ゲーム会社の社長二人に聞いてみた

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デベロッパーとしてコアとなる得意分野を身につけて世界と戦う

──最近のゲーム開発会社を巡る動きで、特に興味がある点や気になる点は何かありますか?

大堀氏:
 「スマホゲームで儲かって上場」というのは、一時はアリだったと思うんですけど、今の市場にこれから上場しようとしているデベロッパーさんは、いったい何を主軸にして上がろうとしているのか、経営者としては個人的に興味がありますね。

──逆にお聞きする形になって恐縮なんですが、マトリックスやスタジオアートディンクは、いったいどんなところをコアにしているのですか?

大堀氏:
 ウチはどちらかというと、RPGや思考系のゲームを主軸に作っているので、何年か前から「“至高の思考”でやろう」ということで社内を動かしています。思考系のゲームで良いものを作れる会社にしようということで。

 海外のFPSみたいに「敵が出た、倒せ!」というゲームも面白いですけど、そういうのだけじゃなくて、私たちの先輩が作ったゲームで遊んでいた人たちが、ワールドワイドにいっぱい、ゲームユーザーとして育ってきているわけじゃないですか。
 それこそ日本のアニメを見てきた人たちが、「日本のアニメ最高!」って言っているのと同じように、「日本のゲーム最高!」って、ヨーロッパや世界各地で言ってくれている。それこそ『スーパーマリオブラザーズ』の1-1のレベルデザインがどういうものか、分かる人たちも増えてきていると思うので。そういう人たちに訴求するものを作りたいですよね。

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 自分が大学生の頃……社会人になってからだったかな、高田馬場のゲーセンで格闘ゲームをやっていたんですけど、中学生にぜんぜん勝てなかったんですよ。その中学生が後にプロゲーマーになる梅原さんだったんですけど、とにかく勝てないんですよ、なにしろ小パンチをガードキャンセルされるんですから(笑)。そんなふうに、アクションゲームだと遊ぶ側の身体がついていかなくなるんです。

 でも思考ゲームなら、まだ戦えるじゃないですか。いろんなゲームのジャンルがあってしかるべき中で、年齢を重ねても楽しめるもの、国境をまたいでも楽しめるもの、通信回線が脆弱でもちゃんと遊べるもの。そういうところにフォーカスしてやっていきたいなというのはあります。だからウチはシミュレーションゲームやRPG、ボードゲームを作る場合が多いですね。スルメゲームみたいな感じで。

──矢島さんはいかがでしょう?

矢島氏:
 ウチはデベロッパーと言っても、人が少ないんですけど。でも「あそこに頼めばできるよね」となるだけの技術力と、優秀な人材が必要だなと思っています。
 クライアントさんには作りたいものがあるはずですけど、それを実現する力というものがないと、開発会社としては厳しいのかなと。そうした技術力を持っているところが、今後生き残れる気がしますね。

──それは純粋なプログラミングやエンジニアリングの技術力ということですか?

矢島氏:
 ひとつはエンジニアリングですね。最終的には見せ方とか演出って言われるんですけど、ただ本当にプログラムとしてしっかりと作れるところが、デベロッパーとしては重要かなと思います。

──凄腕のゲームプログラマーだとか、ゲームの分野に特化したエンジニアリングというのは、今の時代に存在しうるのでしょうか? 昔だったらメモリの使い方だとか、そういうところで他とは差をつけることのできる時代があったと思うんですけど。

大堀氏:
 ありましたね(笑)。

矢島氏:
 UnityにしてもUnreal Engineにしても、それで収まりきれないところを作ってやってくれるプログラマーさんというのは、今でもいますよ。汎用のゲームエンジンでできる範囲のことは、さっき言ったように敷居が下がってきているけど、それ以上のことをやろうとしたら、優秀なプログラマーさんにやってもらうというか、作ってもらわないと実現できないですから。

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──それこそ中国や韓国だと、ゲームエンジンに限らず、普通のエンジニアリングの水準がめちゃくちゃ高いんですよ。そういった状況で、じゃあ日本のエンジニアはいったいどこで戦えばいいんだろうと思うんです。

大堀氏:
 自分は「生み出せる人」が必要だと思っています。単純に言ってしまえば、「ゲームを完成させた回数が多いプログラマーさん」ですよね。バグを出しにくいとか、モノをちゃんと納品できるとか、あとは遊びを生み出せる人ですよね。そういう人を育てていきたいというのはありますよね。最終的にはそこの勝負になっていくと思うので。

 日本に仕事を頼むのは、面白いものを作ることができるからだと思うんです。ゲームやアニメって、資源のない日本が唯一戦えるところじゃないですか。何もないところに付加価値をつけて売るビジネスですからね。
 「ここが作ったものは面白い」「斬新な発想だ」と、そういうものを考えられる人を増やしていきたいなと思います。それは絵の人もそうですし、プランナーもプログラマーもそうですよね。なので、そこはやっていきたいというのがありますよね。その中でもウチは、思考の領域をしっかり取っていきたいなと。

ゲームの開発期間が長大化するなかで、どうやって技術者を育成するべきなのか

大堀氏:
 それにしても、描画ルーチンを書かなくてもよくなったなんて、今は夢のような時代ですよね(笑)。自社エンジンってだいたい、それをメンテナンスする人が決まっていて、その人が会社を辞めると、とんでもないことになるじゃないですか(笑)。

矢島氏:
 もう保守できなくなる(笑)。

大堀氏:
 ちょっと前にスマホでRPGを作らせてもらったときに、自前の描画エンジンで作ったんですけど、クライアントさんから「移植したいんだけど、なんとかなんない?」って言われて困っちゃいましたね……(笑)。
 その時は、スマホでちょっとでもパフォーマンスのいいものを出そうと考えて自社エンジンにしたんだけど、その判断はひょっとしたら間違っていたのかな、と思ったりしますよね。

──でもそうなると、それはそれで新しいことに踏み出せなくなるとか、なかなか新しい企画を立てられなくなるみたいなことはないんですか?

大堀氏:
 当然ありますよ。移植ばっかり作っていると、新しいものを生み出せなくなってきたりとか。そういうのはやっぱりマズイと思うので、最近だとハイパーカジュアルゲーム【※】千本ノックみたいな形で、社員さんから公募したんです。そうすると何本か良いものが出てきたりしますよね。

※ハイパーカジュアルゲーム
基本無料のスマートフォン向けカジュアルゲームだが、ゲーム内に表示される広告によって収益を得るだけでなく、別のハイパーカジュアルゲームに表示された広告によって集客を行う点が特徴になっている。2017年頃から、KetchappやVoodooといったメーカーのハイパーカジュアルゲームが、無料アプリストアの上位を占めるようになったことで話題となった。

──たとえばゲームフリークさんだと「ギアプロジェクト」【※】という形でボトムアップ型の新規タイトル開発制度をやられていますよね。

※ギアプロジェクト
『ポケットモンスター』シリーズの開発で知られるゲームフリークでは、完全ボトムアップで新規タイトルの開発に取り組むことができる「ギアプロジェクト」と呼ばれる社内制度が設けられている。この制度では企画開発だけでなく、パブリッシングやプロモーションも起案したスタッフに一任されることになる。

大堀氏:
 ウチも「マトリックス大賞」というのを半期ごとにやっているんです。優秀賞に選ばれると、以前は「3カ月作っていい権利」とかがあったんですけど、通常業務が忙しくなると、それどころじゃなくなるじゃないですか。それはコンソールだったので、もうちょっと規模を小さくしたんです。

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 開発が大型化する弊害って、すごく大きいんですよ。僕はゲームの技術者さんって、『ウィザードリィ』みたいな成長の仕方をすると思っているんです。『ウィザードリィ』のパーティが、ダンジョンから帰ってきて馬小屋で寝て、それで初めてレベルアップできるように、技術者も自分の作ったゲームがマスターアップして、世の中に出て初めてレベルアップできるんですよ。

 長大なプロジェクトになると、やってる間に技術革新はないですし、「このプロジェクトならこういう作り方をすれば効率が良くなる」って、途中で変えられないじゃないですか。なので、デカいタイトルを受けちゃうと、担当した本人の看板にはなるんですけど、レベルアップにはあんまりつながらないんですね。同じ1年間プロジェクトをやるのでも、その期間をまるまる使って1本やるよりも、1カ月に1本、1年で12本作ったほうが、間違いなくスキルアップするんです。

 だから「マトリックス大賞」もどんどん小型化していって、今はハイパーカジュアルになっているんですけど、その意図するところは「とにかく作ろうよ」ってことなんです。

 プログラマーさんも大規模なゲームに関わると、ウィンドウ周りだけとかバトルだけとかになるんですけど、ハイパーカジュアルならゲーム全部を見られるじゃないですか。「誰のバグだよ!」って怒っても、ぜんぶ自分のバグになるわけで。
 それだと責任感もぜんぜん変わってきますし、どんなに小さな規模でもマスターアップとかストアの審査とか、そういうのを全部経てくるので、今はわざわざそっちをやっているんです。

 部分しか作っていなかった人がまるごと全部作るようになると、それは自分のコンテンツになるわけで、プログラマーさんの向き合い方がぜんぜん違ってきますから。チームでやると、技術のある人だと1人だけ早くできちゃうので、それで他の人のカバーに回ったりすると、「なんでオレがカバーをしなくちゃいけないんだ」みたいになるわけです。
 それはどんなに「チームで助け合うべきだ」という教育をしても、当たり前のことですよね。多くやらされることは事実ですし。だけど1本のゲームを全部自分で作りきるとなると、そこでいろんな意識改革が起きるんです。

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(画像はガッツポーズのイラスト(スーツ) | いらすとやより)

──それは、優秀な作品はスマホのストアでリリースされているのですか?

大堀氏:
 当然パブリックに出してますよ。北米でテストしたりだとか。ハイパーカジュアルだと、KetchappさんとかVoodooさんと一緒にやってみるというのも、当然やっていますし。そういったことも含めて、何事も学びじゃないですか。

 実際今は、何がトレンドになるのかなんて分かんないですよね。これから先も、私どもの想像を超えた斜め上の進化を遂げていくと思うので、いろんなことに興味を示してやっておかないとマズイのかなと。そういう意味では、ゲームゲームしたものもアリだと思いますし、ハイパーカジュアルみたいなものもアリだと思うので。

 それでゲームフリークさんみたいに、その中から売れてるゲームが出てくるといいですよね(笑)。

矢島氏:
 でもそれは、余裕がないとできないですよね。受託の仕事をやっていると、どうしてもそっちに引っ張られていってしまうので。

 ウチにも「1時間ルール」と言って、1日1時間は好きなものを作っていいよとか、企画が通ったらメンバーを集めて1時間やっていいよとかいうのをやっていたんですけど、本当に忙しくなっちゃうと、集まれないし進まなくなっちゃう。そのうち、一応は終わらせましたけど次のステップには行けません、みたいなものになったり、企画だけ集めて終わってしまったりとか。

大堀氏:
 ウチも同じですよ。だから最近、ウチは副業もOKにしたんですよ。

 「自分でゲームを作ってリリースしていいですか?」と聞かれたので、「業務に影響しない範囲ならいいよ」と。ただしゲーム会社に所属しているんだから、まずは社内にプレゼンしてくれと。それでもし会社が作りたいとなったら、会社がお金を出して作るから。そうじゃないものは自分で作っていいよと。それで自分の副業としてリリースまで作っている社員さんもいますよ

 さらに今度は一歩進んで、「機材とか買うのにお金がかかるので、会社が全部出してください」という人も出てきて(笑)。「じゃあリリースするときは会社でリリースして、こっちは分け前をもらうというのでどうだ」とか。社内ベンチャーじゃないけどやるか、みたいな感じになっていますね。

矢島氏:
 さっき大堀さんが言っていたように、「ゲームの大型化が人の成長を遅らせている」というのはよく分かります。制作も開発も、1年に1本だと1個ずつぐらいいろんなことを覚えていって、3年ぐらい経つとそこそこ一人前になっているという感じだったんですけど。
 それが1本に3年かかるとなると、3年間ずっとお手伝いだけで終わってしまうみたいな感じになって、そういうのが成長を遅らせてるのかなと思いますよね。

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 でもそれは、パブリッシャーのほうも同じだろうなと思うんです。

大堀氏:
 絶対にあると思いますよ。だって3年かけて1タイトルを作るとなったら、60歳で定年として、25ぐらいで就職して、いったい何個作れると思います? モノによっては途中で頓挫しちゃうものも出てくるでしょうし。

矢島氏:
 逆にそれで移植案件が増えているのかもしれないですけどね。パブリッシャーのほうも若手のプロデューサーに移植を任せることで、「これで勉強しろ」ということなのかなと。

大堀氏:
 移植はすごく学びがあると思いますよ。ウチは移植もいろいろやらせてもらっていますけど、単純な移植ってあんまりないですからね。「今の世に問うんだったら、これぐらいはやらないといけないんじゃないですか」という提案も、こちらからしますし。

 でも本当に、ファミコンやパソコンのころは良かったですよね。ヘタすりゃ3、4カ月でマスターアップしていたゲームが、いっぱいあったじゃないですか。本当にあの頃はすごいサイクルで学べたと思うんですよ。しかもちょっとぐらいバグがあっても、ボカンと売れてるんで「まぁまぁ」で済んでたので。今のは問題発言ですけど(笑)。

 僕はハドソンの中本伸一【※】さんと一時期親しくさせてもらったんですけど、『ボンバーマン』なんて本当に、数週間で作って100万本ですからね。「あのころは100万本売れないとダメだって言われたんだよ」って、怖い時代ですよね(笑)。

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(画像はゲームモード | スーパーボンバーマン R 公式サイトより)

※中本伸一
元ハドソン副社長。同社のプログラマーとして、『デゼニランド』『ボンバーマン』『カトちゃんケンちゃん』など、数多くのゲームを手がけている。

インディーゲームは脅威ではなく、一緒にやっていける部分もあるはず

──今の若い人たちは、何がやりたくてゲームデベロッパーに入ってくるのでしょうか?

大堀氏:
 やっぱりゲームが作りたいんじゃないですか。ゲームクリエイターは一時期、だいぶ人気の職業でしたから。今はYouTuberより下になっちゃいましたけど(笑)。

 もともとゲームを自分たちで遊んでみて面白かったので、いつか自分たちで作ってみたかったという人が多いですよね。「メインをやってみたい」というプログラマーさんもいますし。

──この仕事をしていて、いちばん楽しい瞬間というのは何ですか?

大堀氏:
 スタッフが楽しそうに作っているのを見るのが好きですよね。それで完成したゲームが市場に出て、いろんな意見が言われて、その中で「いい」と言ってくれているのを見ると嬉しいですし。
 自分が制作者だったころは、自分の作ったゲームが出たときには必ず、量販店まで見に行ってましたからね。『家政婦は見た』みたいに物陰から眺めて(笑)、「あっ、手に取った。そのままレジに行け!」って。

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 家庭用ゲームだと、家に持って帰って遊ぶじゃないですか。ガラケーとかスマホになると、遊んでいる人の光景が直接見られるんです。それで悔しそうな顔をしてたり、口を開けてやったりするのを見るとね、本当に嬉しいですよね

 最近いいなと思うのは、ソフトを回収しなくてもバグを直せるじゃないですか。ちゃんと対応すると、お客さんも優しいんですよ。「よく直してくれた。エライ!」とか(笑)。そういった意味で、反応が返ってくるのは嬉しいですよね。ウチのスタッフもそういう反応を「見るなよ」と言ってるんですけど、みんな見てますから。

矢島氏:
 広告や広報に関しても、自分たちがやってた時はまず『ファミ通』に特報で2ページ出してもらって、それからゲーム雑誌に記事を何回か書いてもらって、広告を出して、あとはできればTVCMをやって、以上で終了、みたいな感じだったんですけど。
 それが今は、ユーザーへの対応をTwitterやSNSでやって、その反応を見ながらとか、かなり細かくユーザーとコミュニケーションを取りながら販促していかなきゃいけないので。本当に変わったなと思いますね。

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大堀氏:
 でも、いい時代になったと思いますよ、本当に。こんなにユーザーさんは優しいんだって思うので。どぎついことも書かれますけど、修正したり対応するとちゃんと見てくれててね、対応に対してコメントしてくれるんですから、嬉しいですよね。

──ユーザーさんが優しいというのは珍しいですね。この手のお話を聞くとみなさん、「ユーザーさんは怖い」と言うんですけど(笑)。

大堀氏:
 もちろん怖いですよ。無視するととんでもないことになるけど、対応するとちゃんと返してくれるじゃないですか。修正が改悪になったりすると火だるまですけど。そこは出し方ですよね。難しいですよね。

──大堀さんと矢島さんは、インディーゲームに対してどう見ておられるのですか? インディーゲームってある種、「これ1本が完成すればそれでいい」みたいな作り方をするものもあるわけで。それに対して会社組織として、どう戦っていくのでしょうか。

大堀氏:
 クリエイターとして考えたら、いい時代になったと思いますよ。ゲーム会社に入らなくてもゲームを作って発表できて、お客さんの生な評価も聞けるわけですから。

 ただ、ゲーム会社の社長としては脅威ですよね。そういうふうにコスト感なしで作られたゲームと、自分たちの作ったゲームが、ユーザーさんから見れば比較されるわけじゃないですか。「このゲームはこの値段でこれだけ出来がいいのに、なんでこうなの?」って。困ったもんですよね。

 ただそれは、別にインディーゲームに限らず、国が違ったら人件費も違うので、同じようなことがゲーム会社同士でもあり得ることだと思うんです。だからもう真摯に、そういう時代なんだと受け止めて、その中でどう残っていくかというのを考えなきゃいけないなと思っています。社員さんにも「このゲームがこの値段で、ウチもお金取ってるんだから、ちゃんとやらないとヤバイよね」って、たまに話をしているぐらいですから。

矢島氏:
 ゲームって今、二極化していますよね。何年も、何十億もかけて作る大作ゲームもあれば、『カニノケンカ』みたいにクスッと笑えるゲームもあって。ユーザーさんの楽しみ方も広がって、それはいいことなんじゃないかと思います。我々はインディーゲームのパブリッシングも行いますので、脅威というのではなくて、一緒にできる部分があると思っていますから。

大堀氏:
 『カニノケンカ』はスゴイよね。だってカニがチェーンソーを持って、ベスパに乗るんだもん(笑)。

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(画像は『カニノケンカ -Fight Crab-』公式サイト – Calappa Games ( Nussoft )より)

矢島氏:
 あれは最初、「ウチで扱わない?」っていう話が来てたんですよ。でも「いやぁ、売れないでしょ」って言っちゃって(笑)。

──たしかに、あのゲームを判断するのは難しいですよねぇ。

矢島氏:
 でもウチで扱ってたら、あんなに売れなかったと思いますけど(笑)。

──そろそろお時間なので、今回出たいろんなお話を含めて、今後ゲームデベロッパーとして、あるいはパブリッシャーとしてどうなっていきたいかという抱負を伺えればと思います。

大堀氏:
 スタジオアートディンクさんと組ませてもらうことによって、カバーできる範囲がだいぶ変わったと思います。ウチは単純にデベロッパーで、矢島さんのところはパブリッシングまでやられるというのもあるし。
 お互いにいい刺激をしながら、パブリッシャーさんやエンドユーザーさんに貢献できる会社になって、それで良いものをちゃんと輩出できる会社にしていきたいなと。そのためにはこれと同じような形のチャレンジを、お互いに刺激し合いながら継続してやっていきたいと思っています。なので今後ともよろしくお願いします。

矢島氏:
 ウチはデベロッパーの部分が重要なので、ここはまずしっかりやっていきたいですね。さっきも言ったように、技術力に裏付けられた信用を得ながらやっていかなきゃいけないので。その点に関しては、大堀さんのところが大きな信用があるので、そこと組んでちゃんとやっていければいいかなと思っています。

 パブリッシングの部分はこれからなので、別にジャンルにこだわっているわけでもないし、面白いものが合ったらやっていくというふうになるのかなと思います。逆に言うと、「これじゃなきゃやらない」というようなこだわりはないので。

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 今は受託の仕事もありますから、ふだんお世話になっているパブリッシャーさんとバッティングしないように、リメイクだとかPCからの移植だとか、いろいろと気を遣いながらパブリッシングを始めている状態ですけど。ちょっと時間がかかってしまったのは、そういうところがありますね。

──そこまで気を遣いながら、それでもパブリッシングをやっていく理由は、どういったところにあるのでしょうか?

矢島氏:
 今はまだ受託の仕事が大きな収入源になっているからですね。今後パブリッシングのほうが大きくなって、それが逆転してくれば、そんなに気を遣わなくてもよくなるかもしれないし。

──長いスパンで考えたら、逆転させていきたいと?

矢島氏:
 いずれはパブリッシングのほうを大きくしていきたいですよね。

──2社のうち、会社としての規模はより小さいスタジオアートディンクのほうがパブリッシングに乗り出しているというのも、今の時代を象徴しているのかもしれませんね。本日はどうもありがとうございました。(了)

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 インタビューの中でも話題になっていたように、現在のゲーム開発においては二極化が進んでいる。超大作のAAAタイトルでは、1本のゲームに対して文字どおり世界中のデベロッパーが多数関与して、数年間も開発に費やす一方で、個人や小グループで制作されたゲームが直接ダウンロード販売されている。こうした現状では、「パブリッシャー」と「デベロッパー」という分類すら、もはや古い概念になってしまうのかもしれない。

 しかし日本のゲームの歩みを振り返ってみれば、マトリックスやスタジオアートディンクのように自らの仕事にこだわりを持つデベロッパーが、これまでの日本のゲームを支えてきたのは間違いない。そして今回のインタビューでも明らかになったように、こうしたデベロッパーは次世代の人材育成も含めていろいろなことを考えながら、ゲーム業界の変化という時代の荒波を乗り越えようとしている。

 我々ゲーマーとしては、今この瞬間も開発現場で奮闘しているデベロッパーのみなさんの声を、もっと詳しく聞いてみたい。今回は、そうした思いを改めて感じさせてくれるインタビューとなった。

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インタビュアー
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電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「 4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「 ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「 ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter: @TAITAI999
ライター
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過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
編集
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ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
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