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好きなアバターを身にまとい、腹ペコ少女におにぎりをシュートする狂気のVRスポーツ『ペコペコバトル』とは。『VRChat』で局所的な人気をほこる本作の制作者にインタビュー

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好きなアバターを身にまとい、腹ペコ少女におにぎりをシュートする狂気のVRスポーツ『ペコペコバトル』とは。『VRChat』で局所的な人気をほこる本作の制作者にインタビュー_001

 VR機器の普及によりユーザーが徐々に増加しているVRSNS『VRChat』には様々なワールドが存在しており、ワールドを作る能力さえあれば誰でも『VRChat』内にワールドを生成することができる。そこには連日様々なユーザーが集まり、決して小さくないコミュニティが発生している。

 「バーチャルマーケット」に参加したことのあるユーザーであればすぐに想像できると思うが、『VRChat』内のワールドでできることは中々多く、様々な技術やギミックを用いて多くのユーザーを驚かせる。

 サービス初期からゲームをプレイできるワールドも存在しており、脱出ゲームやFPSシューティングをプレイできるワールドも存在している。

 そんな中”オリジナルのゲーム”を『VRChat』内に完成させ、局所的に熱狂的なファンを生み出しているゲームワールドがあり、ひそかに話題となっている。それが『ペコペコバトル』だ。

 お腹を空かせた少女におにぎりをシュートして争うチームスポーツ。文字だけじゃイマイチわからないが、何か『VRChat』ならではの新しさや、面白さの雰囲気を強く感じる。

 今回は『ペコペコバトル』の制作者であるキャンディーちゃん氏にお話を伺った。なぜ『VRChat』内にオリジナルゲームを作ったのか、またそうするとどの様な良いことが起きるのか、新しいインディーゲーム開発のあり方のひとつを知ることができた。

聞き手/クリモトコウダイ
文/tnhr


腹ペコ少女におにぎりを投げろ!『ペコペコバトル』とは一体どういうゲームなのか

──まずは、『ペコペコバトル』がどんなゲームなのかからお伺いさせてください。

キャンディちゃん:
 言葉で説明いたしますと『ペコペコバトル』は赤チーム青チームの2チームに分かれて1つのおにぎりを奪い合います。簡単に言うと、手で行うサッカーだったりラグビーだったりというイメージです。

 お腹を空かせてる少女がそれぞれの陣営にひとりずつ居るので、自分の色のチームの少女におにぎりを届けて、食べさせた方の勝ちというゲームとなっています。

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──「バーチャルマーケット5」との連動イベントで行われてたガチ勢の試合はとてもレベルが高く、見ていて非常に面白かったです。

キャンディーちゃん:
 あの人たちはもうすでに1年以上プレイしている人もいるんです(笑)。あそこまで異常に熱中してくれる人がいるのは想定外でしたね。平日でも深夜の3、4時まで8人ぐらい集まってやってる人たちもいるんで。

──ペコペコバトル』自体がちゃんと熱中できるように、緻密に設計されているという印象を抱きました。

キャンディーちゃん:
 『ペコペコバトル』は作り始めた時から、VRならではのスポーツの在り方について考えながら設計していました。

 VRって高いところから落ちても大丈夫だし、人とぶつからないし、そういった点を踏まえていくとスポーツのあり方っていうのは結構変わると思ったんです。

 サッカーやバスケなどの実在するスポーツは地球上の物理的制約を考慮、つまり人とぶつかってしまうからルールを加えていこうよという中で成立していっているはずです。そういう制約をVR空間で取っ払った場合、人はどういうスポーツを生み出すことができるのかを凄く意識してやっていました。

 高いところから突き落としたり、クリスタルが爆発するとかゴールが人の姿をしているとか、そういった部分で常識にとらわれないゲーム作りを徹底しました。VRのスポーツはこういうのがスタンダードになってほしいなと思います。

──『VRChat』は対戦ゲームのために作られているわけではないので、ラグはある程度仕方ないと思うのですが、そんな中でも対戦ゲームというのは成立するのでしょうか。

キャンディーちゃん:
 ほとんどのゲームワールドはラグほとんど考慮してないものがかなり多いですよね。『VRChat』はアメリカにサーバーがありまして、日本人同士でやると最大2秒から3秒のラグがあるんですよ。

 ですので、自分がボールを蹴ったとしてもそれがもう2秒前には他の人が蹴って全然違うところにボールがあるみたい現象があるんですけど、『ペコペコバトル』はそこのラグに対してかなり力を入れたゲームになってるんですよね。

──ラグにも配慮されていたんですね。また、もう一点凄いなと思ったのが撮影モードでして。遊んで楽しいだけじゃなく、遊び自体を広げて行こうっていう所まで考えているのは、凄く配信時代にコミットしていると感じました。

 やっぱりVRゲームってプレイしないと分からない部分が多いと思うんですが、撮影モードといったものがあることにより、外に広げやすいのがいいですよね。

キャンディちゃん:
 撮影モードを作った理由は、結構『VRChat』以外のところに『VRChat』が届かない問題があるからですね。それはカメラ自体が貧弱であるからだと思ってまして、あと基本自分が映らないんですよね。

 自分を映した撮影ってなかなか難しくて、だからいまいちどんな感じで自分がそのゲームに入れるのがイメージできないんです。目的としては『VRChat』以外にも発信していけるようにあの撮影ギミックは作ってますね。

──これらの開発はほとんど個人でやっているんですか?

キャンディーちゃん:
 プログラミングの部分は全部私です。エフェクトとかは所々手伝ってもらってます。

 あと、音楽についてはペコペコバトルオリジナルの楽曲が使用されています。『VRChat』のつながりで、複数人の作曲家から様々な楽曲を提供していただいています。

──凄い……。

製作者がゲームのワールドに居る。感想をすぐに伝えられる『VRChat』の強み

──1番最初のバージョンのリリースはいつぐらいになるんでしょうか。

キャンディちゃん:
 『ペコペコバトル1』は2019年の8月にリリースされました。

 元々大学時代にVRのゲームを作っていたので、『VRChat』でもゲームを作れるぞと聞いて早速『ペコペコバトル』を作ってみたという感じですね。

 そして『VRChat』がアップデートされて新しい開発言語に対応した上に、私自身がUDONっていうプログラム言語にも触れるようになったので、作り直したものを『ペコペコバトル2』として2020年12月にリリースされました。

──もともと『VRChat』向けのワールドを作られていたんでしょうか?

キャンディーちゃん:
 『ペコペコバトル』を作る前は、1個ホームワールドを単純な家を作るだけだったんですよ。元々大学時代にVRのゲームを作っていたので、『VRChat』でもゲームを作れるぞと聞いて早速『ペコペコバトル』を作ってみたという感じですね。

 『ペコペコバトル』の前に作ったワールドは、お腹をすかした少女が居て、おにぎりをあげると食べて喜ぶっていうギミックがあったんです。

 ある日フレンドがそのおにぎりを奪い合いながら、どっちが女の子に食べさせるか揉めていたので、それを見て「これはゲームになるな」とアイデアが浮かびました。

──そこでいきなり作れちゃうのがすごいですね。しかもそれがオリジナルの対戦ゲームという。

キャンディちゃん:
 そうですね。オリジナルの対戦ゲームって結構少ないんですよね。既存のゲームを移植してワールドを作ればもっと人が集まるワールドは作れると思ってるんですけど、それは何か私が作らなくても黙ってれば絶対他の人が作るって思っています。

 なのでまだ存在していない、私が作らないと意味ないものは作っていきたいなっていう感じでオリジナルゲームは作っていますね。

──実際『VRChat』内のゲームは作ろうと思って、すんなりと作れるようなものなのでしょうか。

キャンディちゃん:
 うーん、うまくいかなかったことも結構ありました。最初は味方にパスするためのシュートという要素がなかったんですよ。

 おにぎりを持って走って、とられないように手を振ってブンブン手を振り回しながら運ぶってだけだったんです。

 最初はそれは、それで面白かったんですけどすぐ飽きちゃったんです。味方の存在意義が全くないなとか思ったりして。ならシュートを作ろうかみたいなことを思いついてからは、結構トントン拍子で面白い形になってきましたね。

 というのも、今まで大学時代にVRゲーム作ってた時は、せいぜいテストプレイしてくれるのは研究室の人か、兄とかそこら辺の狭いところだけだったんですよ。だから作ったものに対するレスポンスが全然なくて大変でした。

 けど『VRChat』って作ったらその場でアップロードして、そのワールドに入って好きなだけ人を集めてプレイしてもらえて感想がもらえる。フリーゲームを作っていた身としてはこんなことまでしてくれるのかと驚きました。

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──そういう意味では、『VRChat』はVRゲームのプラットフォームと言えるかもしれませんね。ユーザーの熱量が高いのもいい。

キャンディーちゃん:
 そうなんですよ。なんか自分が作ったものを見てもらって遊んでもらって、喜んでもらえるっていうのは昔から好きだったんです。

 それに加えて自分が作ったワールドで人が集まって楽しく遊んでる様子をワールドの端っこで高みの見物するっていうのはVRSNSならではの面白さや魅力のひとつですよね。クリエイターからの視点からしても、ユーザ-の視点からしてもかなり新鮮な気持ちになります。

──実際に完成して公開されたと思うんですが、公開してすぐの反響とかっていうのはどんな感じだったのでしょうか。

キャンディーちゃん:
 『VRChat』のユーザーたちはみんな面白い事に飢えているので、twitterを見て知らない人達が無作為に集まるみたいなことが発生しました。

 遊んでる人達に私が製作者であるということを教えると驚いて、直接感想を頂いたりしました。制作者がゲームの中に出てくるので、そこら辺の熱量の伝わり方とか速度とかは他にはないですね。

──すごく可能性を感じますね。

キャンディーちゃん:
 そうですね。最近だとFPSのシューティングゲームとか、凄く完成度の高いビリヤードのワールドなんかができています。遊ぶ余地は1年前の時よりかは、全然増えてますね。

──それは先ほど言われていた『VRChat』が新たな開発言語に対応したからでしょうか?

キャンディーちゃん:
 以前はすごい複雑で裏技じみたことをしないと、うまくギミックを組むことはできなかったんですけど、最近はC#由来の言語を使えるようになっているのが大きいです。

 あまり慣れていない人にとっては難しいことですけど、慣れ親しんだ人はかなり使いやすくて、やりたいことが割と素直にできるようになっていて、ゲームは作りやすくなっていますね。

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『ペコペコバトル』とキャンディーちゃんのこれから

──『ペコペコバトル』の今後についてもお聞きしたのですが、バージョンアップとか大会の予定とかあったりするのでしょうか。

キャンディーちゃん:
 それなんですけど、あるんです。2月14日に大会をガチ勢のトーナメント大会を開催する予定です。

──それは面白そうですね。

キャンディーちゃん:
 ガチ勢の大会は過去に5回開催していまして、一応の生配信していたんですが、それは結構身内向けのアーカイブのためのものみたいな側面が強かったんですよ。今回はinspur様とのコラボあって注目度もかなり上昇しているので、外部に向けた配信も視野に入れて、それを加速させるためにチャリティーイベントを同時に開催しようって考えてます。

 コロナ禍で人が集まれない中、VRスポーツができるということを応援していきたいんです。同時にチャリティーをして世の中を盛り上げるエネルギーにも変えていきたいなと思っています。

 『ペコペコバトル』だけに、食糧支援団体への寄付を考えています。ゲームの少女も満腹で実際の世の中の人たちも満腹にしていこうみたいなコンセプトでやる予定です。(現在開催中、期間は2月21日まで。)

──キャンディーちゃんさんの今後の抱負などはあったりしますか。

キャンディーちゃん:
 私は『ペコペコバトル』以外にも色々ワールド作ってまして、『ペコペコバトル』をより盛り上げていくのと並行して、まだ誰も作ってないものをどんどん作っていきたいと思ってます。

「ペコペコバトル集会」に集まってみんなもプレイしよう!

──最後にお聞きしたいのですが、『ペコペコバトル』をやってみたいけど「フレンドがいないなあ」と困った時は、どうすればよいのでしょうか。なにか簡単にアクセスできるコミュニティがあったりとか。

キャンディーちゃん:
 ありますよ!このアカウントをみて欲しいのですが、「ペコペコバトル集会」というものがありまして。毎週土曜日に21時からやってます。特定の時間にスタッフに入ってもらってみんなで遊ぼうって企画です。

 あと、言い忘れていたのですがこのゲームはVRヘッドセットがなくてもデスクトップモードでも遊べます。

 ガチ勢たちの間でも、この2つの操作方法のどちらが強いかの議論は決着がついていません。どちらにも良いところがあるので、デスクトップで参加していただいても大丈夫です。

──なんか格闘ゲームのアケコン勢とパッド勢みたいな感じですね。

キャンディーちゃん:
 大会も控えていますし、ぜひ様々な人に参加していただきたいです。


 『VRChat』でゲームをリリースすることによって製作者とプレイヤーの距離が近づき、どのプラットホームよりも交流が広がっていくのではないかという可能性を感じるお話を伺えた。また、バーチャルの世界ならではの挙動を利用した新しいスポーツの在り方はについては、今後も注目していきたい。

 徐々に注目度や住人が増加している『VRChat』であるが、このような形での利用ができることを知らなかったユーザーも多いだろう。バーチャルの世界には、様々な発見や面白いことが転がっている。ぜひ、読者の皆さんもバーチャル空間での交流やゲームを楽しんでみてはいかがだろうか。

好きなアバターを身にまとい、腹ペコ少女におにぎりをシュートする狂気のVRスポーツ『ペコペコバトル』とは。『VRChat』で局所的な人気をほこる本作の制作者にインタビュー_005
(画像は『PEKOPEKO BATTLE(ペコペコバトル)』チャリティーイベント開催!観戦しながら食料支援しよう! | バーチャルライフマガジンより)

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新聞配達中にトラックに跳ね飛ばされたことがきっかけで編集者になる。過去に「ロックマンエグゼ 15周年特別スタッフ座談会」「マフィア梶田がフリーライターになるまでの軌跡」などを担当し、2017年4月より電ファミニコゲーマー編集部のメンバーに。ゲームと同じぐらいアニメや漫画も好き。
Twitter:@ed_koudai
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メイプルストーリーで人との関わり方を学び、ゲームのゲームらしさについて考えるようになる。主にRPG、アドベンチャーゲーム、アクションゲームの物語やシステムに興味のある学生。
Twitter:@zombie_haruchan

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