『パワポケ』という野球ゲーム界の異端児はどのように作られてきたのか? アプリ版『実況パワフルプロ野球』のイベントとして復活する同作について開発メンバーに話を伺ってみた

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RPG、戦闘システム、例のアレ……全てに思い入れがある

──『パワポケ大全』によると、『パワポケ4』の裏サクセスのRPGが生まれたのは、萩原さんが馬のモンスターを描きながら「RPGをつくりたい」と言い出したことだったとか。

萩原氏:
 まったく覚えてないんですけど(笑)。ただ私は昔からRPGのゲームを作るのが夢だったので、モンスターの絵を描くのが好きだったんですよ。それを当時のディレクターが見て、「じゃあつくる?」とわりと軽いノリで実現したって感じだったかな。

 『MOTHER』シリーズが好きで、ちょっと不思議な世界を作るのが夢だったので。それとはちょっと違う感じになりましたけど、影響はありました。

西川氏:
 『MOTHER』も実はけっこうダークな要素があったよね。すでにそういうゲームもあったから、ちょっとした黒さを入れておくことには、そんなに抵抗がなかった気がします。

──萩原さんは、RPGをつくりたいという夢を『パワポケ』で叶えたかたちだったんですね。

萩原氏:
 そうですね。そのRPGを作りたい気持ちを、全力ぶつけ続けた感じです。本当にもう、これでもかというくらい。

──『2』から『14』まで、さまざまな裏サクセスのシナリオがありましたが、思い入れのある作品はありますか?

西川氏:
 「『パワポケ』はいつも野球をしてへん」とよく言われてたので、それならと思って宇宙編【※】では最後に野球をやったろうやないかと思って、変形したロボで大統領の野球対決を入れました。あれは自分でも好きやったし、喜んでもらえた感覚もありましたね。

※宇宙編:
 『パワポケ9』の裏サクセス「スペースキャプテン編」。アドベンチャー、アクション、RPG、公益シミュレーションなどさまざまな要素を兼ね備え、歴代裏サクセスの中でも難易度が高い。星間戦争を乗り越えるべくつくられた宇宙連邦が、いつしか利権を追い求めて肥大化。宇宙ステーション「ルナリング」のパイロットである主人公が、経済制裁として資産凍結、医薬品全面禁輸措置を受けたため、250日以内に50宇宙トンの量のワクチンを集めるため、宇宙船でさまざまな星に旅立つ。システム面ではテーブルトークRPG『トラベラー』、世界観などは『STAR WARS』が元ネタとされている。

萩原氏:
 私はごりごりファンタジーが好きだったので、宇宙編はそこまでノッていなくて(笑)。無理やりファンタジー要素を入れたら、思いの外いろいろ表現できた気がします。

西川氏:
 宇宙編はファンタジーとの親和性、悪くないと思ってたからね。星に着いてからはちょっとファンタジーっぽかったやんか。「大航海編」(パワポケ13の裏サクセス「海洋冒険編」)も思い入れはあるしな。

──個人的には探偵モノが好きなので「大正編」(『パワポケ7』の裏サクセス『大正冒険奇譚編』)も楽しんでプレイしました。スタッフの中に探偵モノが好きな人がいたんですか?

西川氏:
 冒険モノをやりたかったから、「探偵がええんちゃうか」というくらいでしたね。あれも毛色が変わってて好きやったな。大正時代にした理由、なんやったかな。

萩原氏:
 洋風ファンタジーは飽きたから、和風がやりたいよねと。最初は陰陽師という案もあったけど、私はもうちょっと違うのがよかったんです。それで文明開化で明るい大正時代はどうかって話を聞かされたのかな。

西川氏:
 アイスクリームなど、いまおいしいものはだいたい大正時代にはすでにあったよな、という話から始まって。近代に変わったところで、話づくりとしても時代としてちょうどいいんですよね。武器も、和風と洋風の両方が使えるから。

萩原氏:
 いま、ちょうど世の中的にも流行ってますね、大正時代。

三浦氏:
 個人的に思い入れがあるのは『13』の裏サクセスの戦闘システムですね。これまでのシステムから変えようという話になりました。それまではコマンド制だったんですが、オート進行しつつ少し介入するってシステムで、面白くできないかとつくりはじめて。面白くなるまでは試行錯誤を繰り返しましたけど、最終的には面白くまとまったと思います。シリーズの戦闘システムでは、一番のお気に入りですね。

 ほかには「秘密結社編」(『パワポケ12』の裏サクセス)も。システム面でものすごくこだわったけど、そのぶん泣きをみました(笑)。

西川氏:
 時間がなかったよね。最後の調整が間に合わなくて、もうちょっと時間があれば……って。同じことを毎回言っていたけど(笑)。

──「秘密結社編」での泣きを見たというのは?

三浦氏:
 2周目のラスト、魔王を倒すところの難易度が難しくなりすぎてしまったんです。発売後にめちゃくちゃ後悔した……。

萩原氏:
 秘密結社編では、グラフィック面で私も魔王を描くのが大変でした。ドットでどこまで描けるのかという挑戦という意味では、デザインの面で印象に残っているシリーズです。

三浦氏:
 『パワポケ11』の裏ボス【※】とどっちが印象的ですか?(笑)

※『パワポケ11』の裏ボス
裏サクセス「怪奇ハタ人間編」クリア後のストーリーに登場する裏ボス「あれ」。宇宙人が地球の情報を研究して「子どもの崇拝する神」をモチーフとした姿で、なにかのパチモノでニセモノでオマージュ。これ以上は……各自でお調べください。

萩原氏:
 「あれ」については、何もいえないです……。

一同:
 (笑)。

三浦氏:
 悪ノリの結果なので、そっとしておきましょうか。

萩原氏:
 結晶というか、ポリープというか。

西川氏:
 ……まあ、とりあえずみんな楽しんで作っていたということですね。

萩原氏:
 すべてに思い入れがあるといってもいいくらい、楽しかったですね。

──秘密結社編が収録された『12』はニンテンドーDSで、ハードの性能が上がるぶん、デザイナーとしては書き込み量が増えるわけですよね。

萩原氏:
 性能が上がると解像度も上がるので、書き込み量も格段に多くなりますね。

──体感として、ハードが変わるとそれまでの何倍くらい大変なのでしょうか。

萩原氏:
 難しいですけど……。ハードが変わるたびに、地雷ゲームが出てることが物語ってるかなと思います。

西川氏:
 要するに、ゲームボーイからゲームボーイアドバンスに変わった『3』、そこからニンテンドーDSに変わった『8』などのタイミングでは、プログラムをまるごと作り変えるので、しんどいから裏サクセスが作れなかったんです。

三浦氏:
 しんどいから裏サクセスは無理、どうしよう、よし地雷【※】だ!と(笑)。

※地雷:
『パワポケ3』で登場した裏サクセスモード「ドキドキ地雷パニック!」のこと。「サクセス」本編と同様に作り込まれた「裏サクセス」が多い『パワポケ』シリーズだが、こちらのモードは単純にマインスイーパー風のミニゲームをするストーリーのないモードとなっている。

──ハードが変わるとシステムを作り込み、その次のタイトルからはシステムを流用できるから、またミニゲームなどが充実するってサイクルだったわけですね。

西川氏:
 そうです。でも文句を言われるのは嫌だから、『8』のときはちょっとだけ大正編の続きみたいなストーリーを差し込みましたね。

アプリ版『パワプロ』を見て「タッチ操作でもよかった」

──ハードが変わるたび、野球のゲームシステムもどんどんアップデートされました。ゲームボーイの時点では、この性能で野球は難しいと判断してシナリオが充実していったとのことでしたが、野球ゲームとしての手応えはどのあたりから感じていましたか?

西川氏:
 野球の面では、「これで完了!」と思ったことはなかった気がするけど、ニンテンドーDSになってからはずいぶん変わりましたかね。

萩原氏:
 大きく変わったタイミングでいえば『10』ですかね。ここから3Dグラフィックスが使えるようになって、だいぶ進化した。プロモーションも野球押しで頑張っていた記憶があります。

──『10』からはwi-fi対戦もできるようになりましたよね。

西川氏:
 あれ、そうだっけ。

萩原氏:
 ……。

三浦氏:
 『8』からできなかったかな。いや、『10』からだったか……。みんな野球部分の記憶が薄いな〜(笑)。

西川氏:
 すみませんが、野球のシステムをメインでタッチしてたスタッフがここにいないので。

萩原氏:
 もしかすると、ミニゲームや裏サクセスの方が思い入れが強かったのかも(笑)。

木村氏:
 『10』のときは、ユーザーとしては『パワプロ』より野球のシステムがいいなって思ってましたよ。『パワプロ14』のころだったと思うんですけど、「球が早すぎてぜんぜん打てない!バランスがおかしい」とファンの一部が言っていた時期がもあって。『パワポケ』の方がバランスいいやんとなった気がする。こんなこと言っていいのかな(笑)。

西川氏:
 そういえば、ニンテンドーDSでタッチパネル方式になったとき、じつは今の『パワプロアプリ』に近いシステムが考案されてたんですよ。当時はなぜ採用しなかったかというと、簡単に打てすぎるからと考えてしまった。でも今考えると、簡単に打ててよかったんです。それはシリーズが終わってから、「あ、しまった!」と思ったところで。

──スマホゲームの『パワプロアプリ』や『プロ野球スピリッツA』は、ただタッチするだけで簡単に打てるモードがありますね。

萩原氏:
 『パワプロアプリ』の開発の初期にも関わってましたけど、片手での操作を重視してましたね。電車の中で気軽に簡単にできるようにって。

西川氏:
 『パワプロアプリ』を見て目からウロコでした。『パワポケ』を作っているときはそれがわかっていなかった。そんな簡単に打てたらゲームにならんやろうと。本当にミスでした。

──簡単に打てて爽快で楽しい方向にシフトしたら、また違うゲームになっていた可能性もあったわけですね。

西川氏:
 もしかしたら、『14』で終わらなかったかもしれないですね。

萩原氏:
 タッチ操作でいいと思ってたなんて話、今初めて聞きましたよ。そんな気持ちがあったんですね。

アプリのイベントとして『パワポケ』がふたたび復活

──色々と聞いてきましたが、『パワポケアプリ』で『パワポケ』コラボイベントがあり、ある意味では『パワポケ』の続きともいえるわけで、シリーズのファンはぜひやってほしいということですよね。

西川氏:
 流れとしては、木村くんがメインで担当したキャラクターの人気投票があって、そこで神条紫杏が1位になったので、イベントキャラとして登場したのが2020年4月のコラボイベントでした。けっこう評判が良かったので、またやってみようかというのが今回のコラボイベントです。

木村氏:
 ユーザーの声を反映したかたちでのコラボとなっています。

──今回は過去作のどんな要素が入っているんですか?

西川氏:
 過去作を彷彿とさせ、思い出補正も含めて楽しんでもらいつつ、新しいシステムも入れてこれまでにないかたちになっています。狙いとしては、これまでに出たキャラクターの別の側面を描けるのではと試してみた部分もあって。

 たとえば天本(玲泉)さんでいうと、『4』ではメインストーリーにがっつり縛られていたので、あんまり自由じゃなかった。恋人になった天本さんはどんな行動をするだろうかと考えて、ifの世界として過去作のファンの方には喜んでもらえるかなと思ってます。

──評判がよければ、また次のコラボもあるかもしれない?

三浦祖:
 そうですね。1回、2回と続いたので、3回、4回目……という話になるかもしれないですね。

──『パワポケ』シリーズのファンとして、思春期に単なる勧善懲悪ではないシナリオを体験することで、大きな影響を受けたと思っています。『パワポケ大全』のインタビューにて、西川さんは「どんなに年をとってもアナーキーなものを作り続けると誓います」と語っており、非常に感銘を受けました。

西川氏:
 正直にいうと時代も変わって世の中的に難しい部分もありますけど、個人的にはまだまだ戦う気持ちは持っています。アプリの方でもオブラートには包みつつ、それなりに出してるとは思いますので。

──オブラートからにじみ出る部分を楽しみに、コラボイベントをプレイします! 本日はありがとうございました。

(了)


 悪の反対は善、善の反対は悪じゃ。「正義」の反対は、別の「正義」あるいは「慈悲・寛容」なんじゃよ──。

 これは『パワポケ7』に登場する、自称・悪の天才科学者の黒野鉄斎の言葉だ。『クレヨンしんちゃん』の野原ひろしの名言として紹介されがちだが、こちらが元ネタである。

 インタビューで語られた、「彼らにもそれなりの事情があったかもしれへんやろ…」というテーマは、中学生で初めて『パワポケ2』をプレイした体験は筆者の心の中に、確実になにかを残していたように思う。

 大上段に構えるなら、弱肉強食とは名ばかりの、権力者へ取り入った者のみが勝つ現代において、「彼らにもそれなりの事情があったかもしれへんやろ…」という視点は社会に最も欠けているものである。たとえば、ホームレスや生活苦で電車のレールに飛び込んだ人たちは、本当に“努力”が足りていなかったのだろうか(もし万が一、仮にそうだとしても見捨てるべきではないけど)。

 国家、人間、貧富差など、世界中で分断が大きくなっているなか、もっとも必要なのは、「正義」の反対は、別の「正義」あるいは「慈悲・寛容」だという認識だ。

 大げさにいってしまえば、自分ばっかりが正しいと思ってるヤツらは全員、「『パワポケ』を『1』から『14』までやってこい!」と言いたくなる。もし仮に世界中の人が『パワポケ』を全シリーズ遊んだなら、ほんの少しは平和に近づくのではないか。半分は冗談だが、半分は本気である。

 『パワプロ』という間口が広い人気ゲームシリーズにアナーキーな要素を入れ込んだことで、とても広くまでその影響が及んだ『パワポケ』を見習って、筆者もポップな題材で人をひきつけつつ、アナーキーな要素を入れ込む企画を出し続けたい。今回の取材を通じて、あらためて強くこう思った。

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毎日ウルトラ怪獣Tシャツを着ているフリー編集・ライター。インドネシアの新聞社、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。意外なテーマをかけ合わせた企画とインタビューが得意。守備範囲は政治・社会からアイドル、スポーツ、お笑いなどエンタメまで。30歳を超えてなお、相変わらず「マリオ」「ドラクエ」「パワプロ」「スパロボ」「ロックマン」の最新作をプレイしている現状に、20年前から精神年齢がまったく変わっていないことを痛感している。
Twitter:@mori_yusuke
編集
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
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