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『パワポケ』という野球ゲーム界の異端児はどのように作られてきたのか? アプリ版『実況パワフルプロ野球』のイベントとして復活する同作について開発メンバーに話を伺ってみた

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 シリーズ累計2350万本の売上、スマホアプリ版は4400万ダウンロードという、すさまじい記録を誇る株式会社コナミデジタルエンタテインメントの野球ゲーム『実況パワフルプロ野球』(以下、『パワプロ』)シリーズのなかで、ユーザーたちの記憶に残り続けるゲームがある。

 1999年に『パワプロ』の携帯ゲーム版としてリリースされた『パワプロクンポケット』(以下、『パワポケ』)シリーズだ。

 プロ野球界ではかつて、「記録の王、記憶の長嶋」という言葉があった。ホームランの世界記録を持つ王貞治と、昭和天皇の眼前でのサヨナラホームランなど、ここぞという場面で結果を残してきた長嶋茂雄の両雄を称える言葉だが、まさに『パワプロ』が記録に残る作品だとするなら『パワポケ』は記憶に残る作品だと言える。

『パワポケ』という野球ゲーム界の異端児はどのように作られてきたのか? アプリ版『実況パワフルプロ野球』のイベントとして復活する同作について開発メンバーに話を伺ってみた_001

 年に1作品ペースでリリースが続き、2011年の『パワポケ14』を最後に新作の登場はない。しかし、一度でもプレイしたユーザーたちの中にはそのシナリオに打ちひしがれ、生涯忘れることのない体験をした人も少なくないだろう。

 特に、本家パワプロにも搭載されている、ゲーム時間で約3年間をかけてプロ野球選手を育成する「サクセス」モードのシナリオのバラエティ豊富さは圧巻。また、Googleでは、「パワポケ」と打ち込むと「バッドエンド」、「トラウマ」などのサジェッションワードが出てくるほど、壮絶なバッドエンドの多いシリーズである。

 シナリオ内では悪の組織が暗躍しがちで、キャラクターが理不尽な目にあい、ゲームオーバーになることもしばしば。ダークな要素も多く含まれるが、そのシナリオのクオリティの高さには定評があり、根強いファンが多い。

 さらに、野球選手としてプロを目指すサクセスとは別に「裏サクセス」があるのも本作の特徴。第二次世界大戦の日本軍、ファンタジーRPG世界、忍者、人間と魔族の戦い、『STAR WARS』風宇宙モノなど、毎回異なる世界観とシステムで、もはや野球はどこへいったんだ……と思わせる。

 『パワポケ』とは、本編とは異なるシステムのゲームが遊べるうえ、シナリオは高レベルという、独自の進化を遂げていったシリーズなのだ。

 そんな『パワポケ』が、2月25日から『パワポケアプリ』とのコラボイベントで復活する。『パワポケ7』で人気だった「花丸高校」シナリオが実装され、甲子園ヒーロー編のヒーローやキャラクターたちが登場する。

パワポケ7で人気だった「花丸高校」シナリオが登場!(前回のパワポケコラボ第1弾ではシナリオ実装なし)

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【「花丸高校編」ストーリー概要】

ヒーローたちの活躍のおかげで強くなった花丸高校。
しかし、ヒーローたちに野球部を占領され、一般野球部員のオレたちは普段の練習もままならない状況。
そんな時、ある博士の協力で得た謎の部品で、練習用ロボットを組み立てることに成功するのだったが・・・
パワプロクンポケット、「甲子園ヒーロー編」のヒーローやキャラクターたちが「花丸高校」とともに登場!

【ポイント】

練習場所に色や数字の違うカードを置くことで、様々な効果の練習用のロボットを組み立てられるぞ!
また、カードを使うたびに増えるスクラップを消費することで、練習に配置する以外に「カード」コマンドで様々な用途に。
ヒーローを超えるパワーアップを目指せ!!

 電ファミニコゲーマーではこの機会に、『パワポケ』制作陣にインタビューを敢行。これまで攻略本などで語られてきた内容も含みつつも、インターネット上には『パワポケ』制作者たちの声がほとんどないため、ウェブにアーカイブするという点で、非常に貴重な機会となった。

 あらためて、シリーズが作られたきっかけや印象に残っている作品、アプリのコラボイベントには、過去作のどんな要素が詰め込まれているのかなど、さまざまな話を聞いた。

取材・文/森ユースケ
編集/ishigenn


 

『パワポケ』は4人のベテランが集い始まった

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──自分は中高時代から『パワポケ』をやり込み、攻略本も熟読していました。今回は2003年発売の『パワプロクンポケット大全』(一作目から『5』までの情報を収録した公式ガイドブック)を手元に持って、取材に臨んでおります。

西川直樹氏(以下、西川氏):
 我々3人は写真が写ってるんちゃう?

※西川 直樹
シナリオ担当。『パワポケ1』から『14』まで全てのシリーズに携わる。パワプロアプリにおいても一部のシナリオを担当。

萩原千香子氏(以下、荻原氏):
 うわ、嫌や〜(笑)。

※萩原 千香子
『パワポケ3』から『14』までのシリーズに携わる。当時はデザイナーとしてキャラクターのイラストやUIを担当。現在『パワプロアプリ』ではデザインリーダーを務め、主にデザイン全般のクオリティ管理を担当。

三浦陵介氏(以下、三浦氏):
 もう20年も前なので、西川さんは30代後半、僕と萩原さんは20歳そこそこの頃ですかね。

※三浦 陵介
ディレクター。『パワポケ3』から『14』までのシリーズに携わる。当時は一部シナリオ、裏サクセスとミニゲームを担当。

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──そうなんです。開発者インタビューのページに写真が掲載されていて、何度も読んでいたので、お話を聞けて大変うれしいです。まずお聞きしたいのは1999年に『パワポケ』の第一作が発売された時期のことでして、シリーズが生まれた経緯とコンセプトについて教えてください。

西川氏:
 まずは携帯ゲーム機で『パワプロ』を作ることになって、『パワプロ』チームのベテラン勢4人を引き抜いてチームができたのが、プロジェクトのはじまりです。求められたのはゲームボーイカラーで動く『パワプロ』。

 そこで、ゲームボーイカラーではどんなことができるんやと調べてみたら、なかなか難しいことがわかったんですね。言われたとおりに何も考えずにつくってたら面白くないゲームができあがるのがオチやと思ったので、どうすればいいかと頭を絞った。

 テキスト表示ならゲームボーイでも力を発揮できるから、ストーリーを重視すればなんとかなるんじゃないかと。そういう感じでコンセプトを固めていったんです。

──1作目のサクセスは『パワプロ5』のスピンオフ的なストーリーで、物語の舞台は『パワプロ』シリーズ初期にはおなじみの極亜久高校でした。

西川氏:
 『パワプロ5』の制作にも関わっていて、『4』まではシミュレーションぽかったんですが、この『5』からいっきにサクセスのストーリー性を高くしていたんです。甲子園を目指す物語で、批判も多かったんですけど。

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──僕は『パワプロ99』から始めたので、ストーリー性が高いサクセスを自然に受け入れていたのですが、当初はどんな批判があったのでしょうか。

西川氏:
 パワフル“プロ野球”なのに「なんで高校生の話をつくるんや」となかなかの批判を受けたんですよ。そこは一生懸命、野球といったらプロ野球と甲子園が二大テーマなんやと主張して、ようやく『パワプロ5』ができた。

 ところがユーザーさんからのお手紙を見たら、極亜久高校の外道【※】にものすごく腹を立てた人が多かったんですね。僕としては、「いや、彼らにもそれなりの事情があったかもしれへんやろう」といった気持ちがあったので、それなら極亜久高校を舞台にして、外道たちを主人公の友だちにしたらどうかと考えていた。「極亜久高校は、ほんまに悪いヤツらやったんか?」ということを言いたかったんです。

 考えが足りない、生活が苦しい、悪い人に騙されているなど、やむを得ない事情で敵に回したキャラクターも多いけど、「そいつらにも事情があるんや……」というのが、シリーズを通しての一貫したテーマになったと思います。

※外道:
外藤侠二(がいどうきょうじ)
『パワプロ5』以降、『実況パワフルプロ野球』シリーズ及び『パワプロクンポケット』シリーズに登場する。主人公の高校と同じ地区にある極亜久商業(のちに極亜久高校に変更)の野球部員。サクセスでは主人公に対する妨害工作を行い、ケガをさせるような危険行為もある。また主人公のライバルキャラのひとり猪狩進が、外藤のしかけたバナナの皮で転んで、車にはねられる展開もあった。

──理不尽な展開で、野球ゲームとは思えないほどたくさんのキャラクターが死ぬ展開が用意されていて、ダークなシナリオも多いのがシリーズの特徴だと思います。『パワプロクンポケット大全』では、別のスタッフが「つくってる人たちがひどいヤツらなんです(笑)」と冗談で語っていますが、そのあたりはいかがでしょうか。

西川氏:
 チームができた経緯からもわかると思うんですけど、もともといた4人が年寄りなんですよ(笑)。三浦くんと萩原さんがフレッシュな感じで入ってくれたけど、最初の4人は人生で嫌な経験もたくさんしてきて、現実に対して斜めから見るクセがついてるのはたしかですね。

バッドエンドで鬱展開を作りたいわけじゃない

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──『パワポケ3』あたりからダークな展開が増え、ギアが1段上がったように感じたのですが、意図的に変えた部分もありましたか?

西川氏:
 いや、意図的ではないですね。単純にシステムが出来上がった次の作品では、余裕ができてイベントが増えたってことじゃないかと思います。

──なるほど。僕は『パワポケ2』からプレイして、ここではまだ物語の舞台もプロ野球チームで、そんなにトラウマ展開も多くなかった印象でした。唯一、彼女候補の(小角)弓子が急展開で死んじゃった時に、かなり驚いた記憶がありますけど。彼女の死体があるホテルごと燃やされるという物騒な展開で。

西川氏:
 首切り球団のドリルモグラーズが舞台【※】で、経営不振でどんどん足切りをするから2軍の選手たちがレギュラーになる話ですね。最終的にプロペラ団に吸収されるオチやったかな。

 『パワポケ2』では、彼女候補のキャラが死ぬような展開はあまり作った記憶がないですけどね。1作目で(四路)智美が死ぬのは覚えてますけど、スパイの末路はああいうものと決まっているので。

※ドリルモグラーズ
 『パワポケ2』で初登場する、NPB所属という設定の架空のプロ野球チーム。万年最下位の弱小球団で、オーナーの方針から、サクセスでは1年目に大規模リストラ敢行、2年目には2軍が消滅、3年目には日本シリーズで優勝したとしても解散してしまう。

──『2』の弓子はたしか……。

西川氏:
 ああ、思い出した。秘書をやった曽根村が社長からひどい扱いを受けて怒って乗っ取りを企む話ですね。社長の息子に罪を着せるためにボディガードに殺させる。ああ、死んでましたね。犯人、僕やった(笑)。主人公がちゃんと家まで送れば、助かったはずです。

 ああいう話って、別に鬱展開を書きたいわけじゃないんですよ。ハッピーエンドを楽しむためには、バッドエンドはとことん悪くしないといけないから。

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──オチの前のフリを利かせるためにも。

西川氏:
 ハッピーエンドをハッピーにするためには、バッドエンドが徹底的に悪い方がいいと、別のインタビューで語ったこともあります。『パワプロ5』の(猪狩)進の件でも同じで、中途半端にやるよりは、徹底的にやったほうがいい。

 『パワポケ』シリーズでも鬱展開をつくりたいわけじゃなくて、ストーリーを作っていると、自然とああなっていったわけです。公序良俗には反しないようにしてたつもりなんですけど。エッチな方面にはあまりいかなかったけど、キャラクターの死に関してはちょっと麻痺していた部分もあったかもしれないですね。

「エゲツない世界」の背景に“仲間を大勢失った先祖”

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西川氏:
 大昔の話になりますが、私の先祖は自分なりの考えを持っていたんですが、仲間を大勢失ったことで「私の考えは間違ってました」と自分から宣言したんですね。最初に聞いた時は、「うちの先祖、仲間を裏切るなんて卑怯者や!」と思った。

 でも後から考えたら、抵抗できない状況下にいれば仕方のないことですよね。そんなことを日常的に考えてたことが、『パワポケ』シリーズにも反映されてるかもしれないです。

──『パワポケ』シリーズのシナリオがダークな理由として、そんなエピソードがあったとは。腑に落ちた感じがあります。たしかにゲーム内では、権力者たちから理不尽な目に合う展開がたくさんありますよね。

西川氏:
 それは現実世界がえげつないから、それを反映させたらどうしてもダークになってしまうと。

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──萩原さんと三浦さんは、若くして入ったチームで一緒に作りながら、そういったシナリオをどう感じていたんですか?

三浦氏:
 ダークな要素は、放っておいても入っていきましたね(笑)。私が担当するパートではあえて入れないように話を書くこともありました。メインストーリーに絡まない彼女候補のキャラクターを担当することが多かったので、たとえば『パワポケ7』の(倉見)春香【※】を担当した時は、できるだけ不幸な目に合わないイベントにしようと考えてました。

※倉見春香
『パワポケ7』のサクセス(謎の転校生 甲子園ヒーロー編)で初登場。主人公の1年後輩で、受験票をなくして困っていたところ、主人公に助けを求めて知り合った。イベント数が多いにもかかわらずバッドエンドがない、『パワポケ』シリーズでは非常に珍しい彼女候補のキャラクター。

萩原氏:
 当時、私は完全に真っ白な状態でチームに入ったので、すごいところに来てしまったという気持ちもありました(笑)。「これも社会勉強や」と言われながら、黒い何かを植え付けられながら育っていったというか。

 “市場調査”“社会勉強”ということで、普通の人は立ち寄らない場所まで連れていってもらい、いろんなことを勉強していって、今の私がある。

西川氏:
 報道やドラマには出てこないけど、世の中にはこういうところがあると知っておいたほうがいいこともありますからね。

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──木村さんは『パワポケ』好きがこうじてコナミに入社されたとのことですが、最初にやったのはどの作品ですか?

木村和久氏(以下、木村氏):
 最初は『パワポケ3』でした。うちにテレビが1台しかなくてテレビゲームをやらせてもらえなかったんですよ。そこで携帯ゲームの『パワポケ』をやり始めました。さきほど、携帯機で『パワプロ』を、という戦略だったという話がありましたが、まさにそのニーズの典型だったと思います。

 シリーズが出るたびにやってきて、毎回全然違う世界観で虜になって。最初にやった『3』では、「なんかみんなすぐ死んでいくな……」と思ったのを覚えてます(笑)。

※木村 和久:
プランナー。『パワポケ』好きが高じて株式会社コナミデジタルエンタテインメントに入社。今回『パワプロ』アプリの『パワポケ』コラボでプランナーを担当。

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──『パワポケ3』だと、小学生の(大宮)由佳里が、手術のお金が足りなくて死んでしまう展開は多くのユーザーのトラウマになっていると思います。

木村氏:
 子どもの頃は何回やってもお金が足りなくて死んじゃったので、大人になってからやっと救えるようになって、自分も成長したなって感じた覚えがありますね。

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