コンテンツの興りは物語がないがしろにされて始まる
平氏:
さきほど「まだ誰もやっていない場所で物語を展開したい」という話がありましたが、ゲームってジャンルやプラットフォームによっては、物語がずっと添え物だった時代がありますよね。ところが、そこを突破すると、一気に飛躍するイメージがあって。
藤澤氏:
そうですね。その観点で感動したのが、きださんの作った『沈みゆく豪華客船からの脱出』というリアル脱出ゲームでした。脱出ゲームって、当たり前ですけど脱出するゲームじゃないですか。だから初期の脱出ゲームって、物語が重視される分野ではなかったんですよ。
そこに物語や感情移入を与えると、どれほどのことが起こるかっていうことを誰も想像できてなかった時に、たぶん、きださんは最初にそれをやったんですね。
で、その『沈みゆく豪華客船からの脱出』を家族でやった時に、うちの娘が動けなくなるほど泣いてしまったんですよ。それで「これはすごいことだなあ」と。でも、彼女がそれほど泣いてしまう気持ちは、ちゃんと理解できていた。
なんでこんなに感情が動くのかというと、それは物語が他人事じゃなくて自分事になっていたからなんですよ。自分のミスが誰かの人生に悪影響を及ぼしてしまった自己嫌悪というか、強い自責の念に駆られてしまっていた。
その感じって、物語で作れるんだと衝撃を受けたんです。
平氏:
脱出ゲームもきださんの活躍以降、物語性が重視されるようになった印象はありますね。やっぱりあるところから物語が主体になっていくものなんですかね。
藤澤氏:
そうだと思います。デジタルゲームに関して言えば、堀井(雄二)【※】さんとかがやったことだと思うんだけど。
平氏:
なんかそういう、物語を語れるだけの、ある種の許容がされた瞬間にそういうことが起こる気がしますね。
藤澤氏:
すごく古い話を持ち出すと、昔アドベンチャーゲームブームというのがありまして。
平氏:
はいはい。
藤澤氏:
『デゼニランド』や『サラダの国のトマト姫』など、当時はハドソンのアドベンチャーゲームがすごく人気だったんですね。
なぜ人気だったかというと、とにかく物量が凄かったんですよ。特に絵の枚数が圧倒的に多くて、当時はCG1枚1枚にとてもコストがかかる時代だったのにもかかわらず、そこに凄くコストをかけていて。当時のゲーマーたちは「ハドソンは本気でアドベンチャーゲームを作ってる」なんて思っていたんです。
ただまあ、物語としてはやっぱり添え物だったんですね。もちろん “脱出する”とか“話を先に進める”とかそういうのはあるんですけど、そこに感動があったかと言われると、決してそうではなかった。
そういう時代にミステリーをぶちこんだのが、堀井さんなんです。
平氏:
『ポートピア連続殺人事件』【※】ですね。
藤澤氏:
ええ。先ほども言ったように、当時はCGを作るのが大変だったので、絵の枚数があんまり作れないと。そこで堀井さんは、ミステリーっていう立て付けにして、それまで物語性があまりなかったアドベンチャーゲームに物語性をもたらすことによって、新しい分野を作ったんです。
堀井さんはそこで、ある種の勘どころを掴めたから、その後『オホーツクに消ゆ』や『軽井沢誘拐案内』といった傑作が生まれていったんだと思うんだけれども。
だから平さんが言われたことはまさにその通りで、たぶんコンテンツの興りって、物語がないがしろにされて始まるんですよ。
平氏:
なるほど、なるほど。
藤澤氏:
だから、物語がないがしろにされていた場所に対して、ある程度準備ができたタイミングで物語を与えると、そこから急に新しいメディアが花開いていく、みたいなことが起こる。
さっきから「まだ誰もやっていない場所で物語を展開したい」という話をしているのは、そういう場面に立ち会いたいという思いが根底にあるからなんです。
平氏:
藤澤さんにとっての『ポートピア連続殺人事件』が『Project:;COLD』なわけですね。
受け継がれる堀井雄二の血筋
平氏:
いまの話を聞いて思ったのは、やっぱり藤澤さんにとって堀井さんの存在は大きいんだなと。『Project:;COLD』の話からは逸れますけど、少し堀井さんの話もしたくて。
堀井さんって本当に現代を代表するストーリーテラーじゃないですか。で、今や『ドラゴンクエスト』のお話や、あるいは「『ドラゴンクエスト』的なお話」って、もう、桃太郎とかそういうレベルのもので、「現代の神話」だと思うんですよ。
藤澤氏:
ああ、わかります。
平氏:
藤澤さんは、その堀井さんの血筋や文脈を受け継いでいて、藤澤さんなりの解釈を持っているんじゃないですかね。
藤澤氏:
そう言うのもおこがましいとは思うんですが、そういう部分はあるのかもしれないですね。僕が最初に認識したゲームクリエイターが堀井さんでしたし。
当時、『ポートピア連続殺人事件』のPC-6001MkII版を買ったんですが、説明書の一番最後に作者のあとがきがあって。そこに「ある晴れた日 アドベンチャーは心だ」って書かれていたんですよ。意味は分からないんだけど。
一同:
(爆笑)。
藤澤氏:
たぶん堀井さんも若気の至りだったと思うんだけど(笑)。
平氏:
「人生はRPGだ」的なね。
藤澤氏:
そうそう。これが後に「人生はRPG」になったんでしょうね。
で、意味は分からなかったけど、当時中学生ながら「すごい人がいるなー」と思って。その時にたぶん、既に感じていたんですよ。アドベンチャーゲームっていう、物語のない世界に物語を与えた人なんだって。
だからその時に刷り込まれたもので、自分は今でも仕事をしているっていう感覚がありますね(笑)。
平氏:
それって言い換えると、物語が持つ何かに惹かれたわけじゃないですか。その何かって何だと思いますか?
藤澤氏:
それはもちろん、“心を動かすこと”じゃないですか。たとえば脱出ゲームって、脱出できた・できなかったというシンプルな感動しかないじゃないですか。で、アドベンチャーゲームもそうで、クリアできた・クリアできなかったしかない。だけど、そこに物語が入った時に、世界に自分が引き込まれて自分事になる。そういう効能なんじゃないかなと思うんです。
平氏:
なるほど。あともう少し堀井さんの話を聞けるといいんですが、物語作りとか物語体験っていうものにおいて、堀井さんから受け継いだものとか、堀井さんとのエピソードって何かありますか?
藤澤氏:
そういう話を始めちゃうと、朝までいけますよ(笑)。
平氏:
(笑)。
藤澤氏:
まあ話はいろいろあるんですけど……たとえば、堀井さんはよく「みんな『ドラクエ』をやって感動したって言ってくれるけど、物語で感動しているんじゃないんだよ」って言っていたんですよ。じゃあ何で感動しているかっていうと、「体験で感動しているんだ」と。
だから、「お話を作るんじゃなくて、大切なのはプレイヤーに何を体験をさせるかっていう一点で、お話はそれに自然についてくるものでいいんだ」と。これはほんとそうだなと、今でもよく思います。
この考えで象徴的なのは、やっぱり『ドラゴンクエストV』の結婚ですよね。プレイしたときに既に結婚していた人もいるとは思うけど、多くのプレイヤーは結婚したことないわけですよ。
平氏:
特に子供だとそうですよね。
藤澤氏:
そうなると、初めて自分が結婚するということをリアルに想像するわけで。そういうことをゲームを通してではあるけど体験させる。これは、堀井さんという人は、最初からそこに向けてゲームを作っていたんだ、ということを如実に表しているエピソードだと思いますね。
平氏:
そうですね。しかもそこがまたね、体験のさせ方がある種えぐい。えぐいって言うと語弊がありますけど、幼馴染みとお金持ちの女の子が出てきて、対比が分かりやすいじゃないですか。
藤澤氏:
いや、僕的には堀井さんのやることは「おしゃれだな」と思いますよ。いっつも(笑)。なんていうんだろう……表現って洒落ているか野暮ったいかって、如実に出ちゃうじゃないですか。
平氏:
(笑)。
藤澤氏:
堀井さんのやることはいっつもおしゃれ。野暮ったいことが全然ないなって常々思うんですよ。
平氏:
「野暮ったい」ものって、たとえばどういうものですか?
藤澤氏:
うーん。やっぱり「既視感が強い」ものじゃないですか。
平氏:
ああ、なるほど。
藤澤氏:
言葉で定義すると、「こういうのはもう分かったよ」というものが野暮ったいく見えて、「見たことがないんだけどスッと入ってくる」みたいなものはおしゃれ、ということかなと。
だからRPGって、『ドラクエ』よりも前に『ウルティマ』があったわけだから、堀井さんがその道の先駆者だとは思わないけど、あのフォーマットの中で、ユーザー体験を表現するという観点においては、本当の不世出の天才だと思いますよ。
平氏:
そういう意味でいうと、堀井さんはゲームシステムそのものの発明の人ではなく、アレンジャーの人じゃないですか。
藤澤氏:
まあ、『ウルティマ』と『ウィザードリィ』のいいところをくっつけたのが『ドラクエ』ですからね。こんなこと言うと怒られそうだけど(笑)。
平氏:
で、結構堀井さんのすごさって、ゲームに対する才能と物語を書く才能が両方あって、しかも両方一流であると。だから超一流のスーパースターみたいな。
僕、マイケル・ジャクソンに対する評論で好きな話があって。マイケル・ジャクソンの何がすごいかって、超一流の歌と超一流のダンスを兼ね備えていることなんですね。その片方だけ超一流はいくらでもいるんだけど、両方超一流ってなると、一気に希少性が増す。だからスーパースターになり得たんだって話なんですけど。堀井さんってそういう存在なのかなと思います。
藤澤氏:
うん。そういう意味でいうと、僕は堀井さんの超一流の部分は、物語とかではないと思っていて。もちろんそこも凄いんだけど、そこよりも凄いのは「徹底したユーザー視点」なんですよ。
まあこの話は語り尽くされていて、今さら持ち出しても新鮮味ないと思うんですけど。
平氏:
(笑)。
藤澤氏:
堀井さんのユーザー視点の凄さを示すひとつのエピソードとして、『オホーツクに消ゆ』【※】っていうゲームがあって。これ、先にパソコン版が出て、後にファミコン版も出るんですけど、パソコン版のころからコマンド選択式だったんですよ。
当時、アドベンチャーゲームといえば、さっきの『デゼニランド』や『サラダの国のトマト姫』もそうなんだけど、「open door」「take pencil」みたいな単語入力式だったんですね。なぜかというと、当時のアドベンチャーゲームは“言葉を探すゲーム”だったんですよ。言い換えれば、どんな言葉をコンピューターが認識してくれるのかを探り当てる推理ゲーム。
だから普通は、そこをコマンド選択式にしちゃったら面白さが消滅してしまう、ゲームが壊れてしまうと考えるはずなんですよ。だって探すべき言葉が最初から画面に書いてあるんだから。
だけど堀井さんはそうじゃないと。むしろコマンド選択式にすることで、自分で考察しながら物語に介入する介入容易性を圧倒的に上げた。そしてそれは後に、ファミコンでコントローラーを使ってアドベンチャーゲームを遊ぶっていうことに繋がっていく。
堀井さんは、最初からユーザー視点に立って作れば「こっちだろ」っていうことを、若い時からちゃんと表現していたんです。これをやっていたのは、本当に日本で……というか世界的に見ても、堀井さんだけだったと思うんですよ。
だから堀井さんのどこが凄いっていうことを語るんだったら、「圧倒的ユーザー視点」。ここだと本当に思いますよ。
平氏:
そう言われると、「発明してない」は間違いでしたね。
藤澤氏:
って、こういう話させるとまた堀井さん大好きキャラみたいになっちゃうんで、この辺で(苦笑)。
平氏:
でもやっぱり今回の話を伺って思ったのは、体験を伴うというところの視点とか勘どころを持っているのが、物語を描く人としての藤澤さんのユニークさであり、堀井さんや『ドラクエ』から受け継いだものなんじゃないですかね。
藤澤氏:
うん。まあ、あんまり言うと恥ずかしいんですけど、ずっと堀井さんの後を追っかけているんだなあと思いますよ。今でも。
でもだからこそ、僕は「ドラクエ」という世界から外に出たかったんだと思いますよ。僕はやっぱり、堀井さんがやったように、物語性のないものに物語を与えて新しい世界を作るということをやってみたいんですね。
「ドラクエ」の世界にいたら、堀井さんが若い頃にやったようなことをやることはできなかった。だから今やっていることは、堀井さんがやってきたことを自分もやりたいという想いで動いているのかな、という気がしています。
今回得たノウハウをもっと活かしていきたい
平氏:
いろいろとお話を聞けたところで、そろそろ今後の話もしましょうか。
藤澤氏:
そうですね。単純に気持ちだけの話で言うと、もっと上手くやれたなっていう感覚も強いし、お話的にも完結しているわけではないので、当然新しい展開をやりたいと思っています。
次にやるんだったら「こういう形なんだろうな」ということも、日に日に頭の中で像は生まれてきていて。でも完全に今回と同じ形を踏襲するつもりはなくて、手を替え品を替えじゃないですけど、次やるんだったら違うやり方で新しい驚きを提供したいですね。
平氏:
物語方面の構想もすでにあるんですか?
藤澤氏:
そこは悩んでいて、「都まんじゅう」の少女たちとイオリという、時を超えた登場人物の物語っていう体裁は考えられると思っています。ただその場合、謎解きや考察の要素を強く入れるのはミスマッチになるかもしれないと思う部分もあって。漫画や小説のようにストーリー仕立てにするんだったら書ける自信があるんですけど、今回のような謎仕立てにするんだったら、ちょっと違うやり方がいいのかなと今は感じていますね。
ただ理想を言えば、今回と同じような立て付けで、「都まんじゅう」のみんなも出てくる物語にできたらいいですね。
平氏:
アンケートの結果を見ても、「今後『Project:;COLD』に期待することを教えてください」の結果が、アニメ化やゲーム化よりも「今回実施した「case.613」のようなリアルタイム性のある体験」がダントツの一位なので、何かしらそういう立て付けにしたいですよね。
藤澤氏:
アンケートの結果とか僕のツイートに対するリプライとかは全部見ているんだけど、「こんな試みは見たことがないからすごい」と言ってくれてる人が沢山いて。
平氏:
ARGの文脈でいうと、ほとんどのARGは映画とか何かのコンテンツのプロモーションとして行われているじゃないですか。だからコンテンツとしてこれをやりきるっていう事例が、たぶん相当珍しいはずなんですよ。それこそ、この規模感で最後までちゃんとやりきった事例というのは、世界的に見てもほぼ初くらいの事例だと思っていて。
藤澤氏:
ここまでしっかりと、ARGを物語にインクルードした例はないでしょうね。
平氏:
だから実際に作るのは初めてのことばかりで大変でしたけど、今回『Project:;COLD』をしっかり終わらせることができて、ノウハウとかは結構たまったと思うんですよ。だから次の展開では今回の反省を活かして、もっといいものを作りたいですね。
藤澤氏:
しかも今回やったことにより、繰り返しになりますけど、ある程度の「こういうコンテンツだよね」っていう相互理解を作ることができたと思うんですよ。だから次の展開は、その相互了解のある中で展開できるので、より理解しやすく、かつ完成度が高いものが作れるという自負がありますね。
平氏:
あとはマネタイズの問題だけですね(苦笑)。
藤澤氏:
一番正攻法でいうと、YouTubeチャンネルの登録者が10倍になったら、そこで収益化するというのも選択肢に入るのかなと思うんですよね。これが一番健全ですし。
あとは積極的に介入や考察をしたい人に対して、特定のサービスを提供していくとか。たとえば情報を最初にタッチできることに対して、少しだけ負担をお願いする。その両軸がうまく機能すれば、黒字化も遠い夢ではないという気がするんですよ。
平氏:
そうですね。あと可能性としては、Netflixみたいなところと組んで、世界に殴り込むみたいなことも面白そうですよね。オンデマンドのサービスが台頭したことによって、双方向性がある物語っていうのは今後改めて開拓されていく分野だと思うんですよね。
藤澤氏:
可能性はあると思います。今回はYouTubeでやったけど、別のプラットフォームでの展開も全然考えられるわけで。Netflixで最初からワールドワイドを前提に仕掛けていくという立て付けは、想像しうる展開ですよね。
何にしろ、今回培ったARG的な手法を用いて物語を展開するノウハウは、いろいろと役に立つと思うんです。
平氏:
そうですね。そういった知見とかノウハウを使って面白いコンテンツを今後どんどん作っていくのは夢が広がっていいですね。たとえばTVアニメをやるにしても、ネットとキャラクターを連動させるとか。そういうことを面白いと思ってくれる人たちがいれば、一緒に仕事をしてみたいですね。
今後ディレクターを担当するのは、おそらく『Project:;COLD』だけ
平氏:
さて、そろそろお時間ですので、締めの話題に移れればと思います。
藤澤氏:
改めてですけど、今回、不本意ながら(笑)、総監督をやらせてもらえたことは非常にありがたかったですし、とても楽しかったです。
監督業はやらないという考えは今後も基本的には変わらないんですが、『Project:;COLD』……というか、平さんとこの手のプロジェクトをまたやらせてもらえるなら、そのときはまた監督をやりたいと思っています。
平氏:
やっぱり、このプロジェクトには可能性を感じますよね。今回も十分成功はしたとは思っていますが、もっともっと大成功する可能性を秘めていると思うので、『Project:;COLD』の次回作はぜひ挑戦したいですよね。
藤澤氏:
この先のことはまだ何も約束できないんですが、もし次の機会を頂けるのならば、SNSという特性を物語にちゃんと含めて、もっと上手にできると思うので、より完成度の高い作品をお見せしたいですね。
そのためにも、ぜひファンの皆さんの応援をお願いできればと思います。
今回、こういう企画をやるチャンスをくれたバンダイナムコさん。そして、協力してくれた関係者の方々。そして、何よりも3か月も物語に付き添ってくれたファンの皆さま。本当にありがとうございました。
ぜひ、また新しい形でお会いしましょう。(了)
まず2Dゲームで開発、社員300人で1週間遊ぶ!? 新作ゼルダ、任天堂の驚愕の開発手法に迫る。「時オカ」企画書も公開! 【ゲームの企画書:任天堂・青沼英二×スクエニ・藤澤仁】
この記事では、ゲーム史の偉大な「天才」から人気シリーズを継承した二人から、そのシリーズを受け継ぐことの苦悩が語られている。
当時、藤澤氏はすでに『ドラクエ』の開発から離れており、スクウェア・エニックスで『予言者育成学園』というスマホゲームを手掛けていた。その後、短期間であるがフロム・ソフトウェアに移籍。そしてストーリーノートという会社立ち上げて独立するに至っている。
あえて大げさな表現をすれば、今回の『Project Cold』という作品は、そういった藤澤氏の苦悩の結末、あるいはそれに対するアンサーとも言えるタイトルである。
「ドラゴンクエスト」や堀井雄二といった、偉大すぎる先達の元を離れて、自分はクリエイターとして何を作っていくのか? その悩み抜いた末の一つが、こういう形となって世に出て来たわけだ。
今回は、そんな藤澤氏に付きそう形で、私(平)もプロデューサーを務めたわけだが、実際の制作のやり取りの中で、藤澤氏の物作りのありようや、その考え方、あるいは実務能力を直に見ることが出来たのは、自分としてもとても貴重な経験であった。
藤澤氏は、物語を描く人であると同時に、やはり優れたゲームデザイナーである。
藤澤氏のゲーム的な感性を併せ持った創作能力や、長年のゲーム開発で培われてきた実務的な手腕は、これからの時代でこそ、その真価を発揮できるはずだ。
『Project:;COLD』の次の展開こそ、いまはまだ未定となっているものの、今回で得た経験は、必ずや藤澤氏の次の取り組みで、大きな意味を持ってくることだろう。
然るべき“次”が来た時には、筆者もまたプロデューサーとして、氏をサポートできればと思っている。
情報やモノが溢れる現代において、いかにして“貴重な体験”を提案できるのか?
この『Project:;COLD』を行ったことで得た手応えを、ぜひ次に活かしたいものである。
最後に。
『Project:;COLD』がちゃんと終わりを迎えることができたのは、関わってくれた全てのスタッフの尽力、そして物語を全力で追ってくれた参加者(融解班)のみなさまのおかげである。
本作は、文字通り“みんなで紡ぎ上げた作品”であり、そういった意味でも、“一度きりの物語”だと思う。
関わってくれたすべての人たちに、改めて感謝申し上げたい。本当にありがとうございました。
平信一