Fukujiさんの絵に影響を与えたのは『ポップンミュージック』。ゲームと育った幼少期
──Fukujiさんのアニメーションについても詳しく触れていければと思います。どういうきっかけでゲームを好きになったのかなど、絵を描き始めたのとかをお聞きしたいです。
Fukuji氏:
小学生の頃、家にひとりで留守番することが多かったので、親から「大人しく留守番していてね」みたいな感じでゲームを買い与えてもらえる機会が多かったですね。
特に『スーパーマリオサンシャイン』は、攻略本を初めて買った思い入れのあるゲームです。
シャインっていうスターに当たる収集物が120個あって。それを頑張って全部集めたりしていました。すごくやり込むというより、純粋に楽しんで遊んでいましたね。小学校から高校生までは、好きなゲームのキャラクターを描く事が多かったです。
アニメーションに興味を持ったきっかけもゲームですね。『ポップンミュージック』というコナミの音楽ゲームがあって、中学生の頃に物凄く夢中になって遊んでいたゲームでした。
このゲームは、プレイするスコアや判定によって、キャラクターの仕草や表情、演出が変わるんですけど、当時すごく衝撃を受けましたね。ゲームを通してアニメーションのキャラクターとコミュニケーションを取れるような感覚にさせてくれて。いつか自分でアニメーションを作ってみたいな、と志すきっかけを与えてくれたゲームでした。
──なるほど、ゲームが強く絵を描くことに影響していたんですね。今回は実況動画にアニメーションを付けるという内容でしたが、普段はどういう作品に関わっているんですか?
shu3氏:
あ、Fukujiさんって『PUI PUI モルカー』のタイトルカードを描かれてましたよね。
Fukuji氏:
そうですね。すごい驚かれていましたよね(笑)。
shu3氏:
びっくりしました本当に。
──そうなんですね!でも時期的には動画シリーズの真っ最中ですよね。
Fukuji氏:
そうですね、動画シリーズの真っ最中に描いていましたね。主夫リンクを描きながら、同時にモルカーのタイトルカードも描いていました。
shu3氏:
幅がすごい…!
──ゼルダシリーズ関連も本や資料で研究したのでしょうか?
Fukuji氏:
そうですね、この企画のお話をいただいた時に、全シリーズとまでは言わなくても私もある程度履修しておかなければならないなと思ったので、真っ先にSwitchを購入してまずは『ブレワイ』をプレイしました。他シリーズに関しては、shu3が実際に参考にされている30周年記念書籍の『ハイラルグラフィックス』、『ハイラル百科』、『マスターワークス』などを、読んで実際に制作する際に活用しました。
あとは昔、漫画家の姫川明先生が描かれていたゼルダシリーズの漫画を何作か読んでいたので、そこでも大まかなストーリーを改めて確認したりしましたね。私なりにゼルダシリーズの足りない知識を吸収して、この動画シリーズの制作に臨んでいく、という感じでした。
「語り部」として重なるカッシーワさんとshu3
──Fukujiさん的に思い入れのある動画ってどの回なのでしょうか。
Fukuji氏:
全部……!なんですけど、いくつか挙げても大丈夫ですか?
──ぜひぜひ。
shu3氏:
聞きたいですね。
Fukuji氏:
最初に挙げるとすればまずはPart1ですね。ちょっと裏話になるんですけど、動画が投稿される前に仮編集の動画が上がってくるんですよ。
Part1の仮編集が上がった時、初めてアニメーションが実況動画に組み込まれた状態を見たので、すごく感動したんですよね。これからやり込んでいく熱意と覚悟に感化された回です。
あの回ってライネル戦で終わるじゃないですか。あそこの衝撃は凄まじかったです。私はとんでもない企画に携わったのだなということを改めて実感した瞬間でした。
shu3氏:
けど実は投稿する前に「これおもしろいんですかね?」と僕は不安になってしまっていて……。
Fukuji氏:
そうでしたよね(笑)。
shu3氏:
「これで大丈夫ですかね」みたいな。
──ここまでやったのに不安だったんですか!?
shu3氏:
本当に不安でした。
Fukuji氏:
すごい心配してましたね。
shu3氏:
「これ、ぬるくないかな」と……。
──ぬ、ぬるい……?
Fukuji氏:
そんなことはないと思っていたのですが、徐々に私も自信がなくなってきて「いや、いけると…思います…!冒頭からこんなにやり込まれているので…!」みたいな弱々しい励まししかできなかったですね(笑)。
shu3氏:
Part1のエンディングのアニメーションがめっちゃ感動的で「すごいものができあがってきた……!」と思った反面、なんか自分のプレイのほうが大丈夫かなという気になりました。
Fukuji氏:
そんなこともありながら、Part1はいろんな意味で「最後まで全力で走り切るぞ」っていう覚悟を持った回ではありました。
shu3氏:
ありがたいです……。他にも印象に残った回がありますか?
Fukuji氏:
あとはPart41のカッシーワさんのお話がすごく印象に残っています。カッシーワさんって常に、ゲームの壁を超えてプレイヤーとリンクの両方に語りかけるように詩を奏でているじゃないですか。
構造上プレイヤーにしか聞こえないその作品のテーマ曲を、あえてゲーム内で演奏することでメタ的に音楽を伝える“キーキャラクター”だなとすごく思ったんです。この回では、カッシーワさんはプレイヤーであるshu3とリンクのいる『ブレワイ』の世界を繋ぐ大事な存在だなあとしみじみ感じました。
あと、Part54ですね。動画自体の内容と出来が良すぎて、どうやって蛇足にならないように演出するかすごく悩みました。
shu3氏:
Part54は良い動画でしたね。今まで動画を作ってて良かったなっていうくらい良い動画でした。
Fukuji氏:
導師ミィズ・キョシア戦の反応とか、最後の映像の部分は初見でしたよね。
shu3氏:
そうですね。僕がやっている実況シリーズもカッシーワさんの曲も「語り部」みたいな位置にあると思います。だから無意識のうちにあらすじの曲として使ってたんだなと今思いました。
カッシーワさんと、カッシーワさんのお師匠って厄災の事件があった後、それを伝えるための陰の功労者だったんです。作中に英傑の皆さんで撮った写真があってそれも尊いものに感じました。あのシーンは本当にヤバかったですね(笑)。
Fukuji氏:
百年前に厄災が起きて、お師匠はどのような気持ちでこの写真を持ち続けて、どういう思いでカッシーワさんに託したんだろうと思いを馳せると、目頭が熱くなりますよね。
shu3氏:
そうなんですよね。もうなんか、あそこで一気に涙腺が崩壊して。なんか師匠の気持ちを考えずにはいられないというか、師匠が写真を持ってるっていうのがすごく……。
あと、DLCをクリアしたプレイヤー向けにカッシーワさんがめちゃくちゃ褒めてくれるんですよ。「あなたの凛々しさはあの英傑たちのようです」みたいなことを言ってくれて、音楽とか今までのキャラクターのセリフが全部重なって、このシーンは「泣かない人いるのかな?」ぐらいに思いました。
Fukuji氏:
ゼルダ姫とカッシーワさんは特にプレイヤーをいたわったり、努力を見ていたり、その人が成し遂げてきたことを、間接的に讃えるセリフが多いですよね。
shu3氏:
多いですね。なんか、ゼルダ姫に「リンクリンク」って呼ばれると、待たせすぎているからちょっと申し訳ない気持ちになるんですよ(笑)。
──完全にリンクと同化してるじゃないですか。
shu3氏:
また呼ばせてしまった……みたいな。大体呼ばれると、もう敬語で、「はい……。はい……。」ってうつむきながら返事をしていました。
すさまじい妄念と覚悟を決めた瞬間
──今回のシリーズからニコニコ動画とYouTube両方ではなくて、YouTube一本に絞った展開をしていたと思うんですけど、なにか心境の変化などがあったのでしょうか。
shu3氏:
そうですね。まず動画的なことで言うと、YouTubeはニコニコ動画と違って30分という縛りがないのでそこがかなり大きいです。結果、今までに比べたら苦労してるところを多めに見せてるシリーズになっています。最後のPart60とかだと、厄災ガノン戦をノーカットで使ったりしています。
あと、今回の動画を作るにあたって、覚悟を決めたエピソードがあって。
──ぜひお聞かせください。
shu3氏:
仕事の関係で何人かと食事をしていたときに、色んなゲーム実況をよく見てるよって方がいらっしゃって。その方が「shu3って何をやりたいんですか?」って聞かれた時に、僕がちょうど『ブレワイ』もやる構想もあったので「おもしろいゲーム実況作りたいです」って言ったら「そうなんですか。ハハッ」みたいな感じであしらわれてしまって。
その方はもちろん悪気はないと思うんですけど、なぜかすごく悔しい気持ちになったんですよね。ゲーム実況を真面目に作るって何?みたいなことを思われているんだろうなと感じてしまって。
僕は苦労して動画を作っている方々を知っていたので、実況をよく見てる人ですら、そういう感じで捉えてるのかというギャップを感じたのと同時に、たしかにこれが「世間一般の反応だよな」って思ったんです。
僕自身も褒めてくれる人が周りにたくさんいて思い上がってたなと感じました。これが「素の声」だなと。
で、次作る動画は絶対に驚いてもらおうと決意したんです。「ゲーム実況ってこういう驚きがあるんだ」とか、ゲーム実況ならではの「ゲームの魅力を伝える」というのはもちろんなんですけど、それプラスなにか凄みを伝える。見終わったあとに「なんかわからんけど凄かったな」と思ってもらいたいなと。
これが覚悟を決めた瞬間です。そこから、執念みたいな、というか妄念でやりました(笑)。
──そこのモチベーションをずっと維持するのってすごく大変だと思うんですけど、続けていく中でモチベーションは下がったりしなくて、ずっと高いままだったんですか?
shu3氏:
モチベーションっていう意味で言うと、シリーズが始まってしまうと、もうあとは「やるだけ」なので関係ないんです。
はじまってしまえは楽しい時間なんですよね。つらいこともあったと思うんですけど、僕自身はゲームをひたすらプレイするだけなので、ほんと楽しかったです。
一番つらい時がコンセプト決めてる時で……。ここを失敗すると、あと2年は、「冷や飯食う」という感じになってしまうので。
──なるほど……。
shu3氏:
今回失敗したらもう後はないぞと覚悟決めてる時だったんで。その時は本当にナイーブになってました。あと、Part1出す前ですね。本当に、気が変になるぐらいナイーブでした。
──Fukujiさんも、モチベーションに関してはどうでしたか?
Fukuji氏:
先ほどのshu3のお話で、コンセプトを決めている時が一番辛いというお話は、ものづくりをされている方なら誰しもが共感する部分だと思います。
はじめのほうは「ゲームを実況をしている方」として接していたんですけど、ご自身でゲームの魅力を工夫して伝える努力をされている様子を見ていると、クリエイティブな精神に溢れる方だなと感じる事が徐々に多くなって。
私は、shu3のアイデアをさらに発展させる事に徹していたので、モチベーションとしては毎週どんな発想で動画を作ってくるのだろうっていう「ワクワク」があったので、全然苦しくなかったです(笑)。
shu3氏:
ありがたい……。本当にありがたいです。
──めちゃくちゃ良い話ですね。
Fukuji氏:
やり込みの内容はもちろん、各Partのタイトルやあらすじ、シーンチェンジの言葉選びや、「ブレワイ飯」での一言だったり。とにかく細かい部分まで、視聴者におもしろさを伝えることをすごく徹底されていて。
そこにクスッと来るユーモアもあったりして、shu3の人間味や魅力が動画に鏤められているなと。なので私のモチベーションは、shu3に与えられていた気がしますね(笑)。
shu3氏:
本当に良かったです(笑)。
おふたりの今後の展望
──最後に『すべてを越えた超やりこみBotW』シリーズを終えたことをふまえて、今後の展望などをお聞きできればと思います。
Fukuji氏:
普段はイラストレーターやアニメーション作家として、いろいろな業務をしています。今回この実況シリーズに携わるにあたって、ゲームの魅力を伝える動画の趣旨に寄り添いたいなと考えていたので、この動画シリーズが終わるまで名前を伏せさせていただきました。
最終回を迎えて、改めてお誘いいただいたshu3や最後まで見てくださった視聴者に対してこの場を借りて感謝の気持ちを伝えたいと思ったので、実名を出させていただきました。
本当にありがとうございました…!!
今後も、ひとりで活動できる範囲もやりつつ、誰かのお力になれるような活動も併せてしていきたいなと思っています。
余談ですが、サムネイルで、普段表には出さない様々な絵柄を大勢の方々に見ていただけたことも個人的にとても嬉しくて、その機会を設けてくださった事にshu3に改めて感謝しています。
shu3氏:
ありがとうございます…!
──お次はshu3、お願いします。
shu3氏:
実は、やりこみシリーズは今回で終わりっていうのを決めてたんです。本当に大変なんで……(笑)。
──そうなんですか!?
shu3氏:
やり始める時が一番大変で終わっても「終わったなあ」ってなんかポカーンとする感じで(笑)。
次をやろうっていう感覚は今のところないなと思ったんですけど、終わった時のものすごい反応見て「長編でしか得られない感動だな」って思ってしまって……。1年3ヶ月という長い間、見続けてくださった視聴者のみなさんへの感謝の気持ちがとても大きくなりました。みなさんに楽しんでいただけるシリーズをまた作りたいな…という感覚になりつつあります。
ただ『ブレワイ』は完結までに2年かかっていて、今からまた2年間かけて新しいものを作るっていうのは生半可な覚悟だとできないので……。
次回はスケールはちっちゃくなるかもしれないんですけど、何か好きなゲーム、自分の熱意が伝えられるような、伝えたいようなゲームを見つけることができたらやりたいなって気持ちはちょっと湧いてきています。
あと、このシリーズをやってて思ったのが、Part20の時に風のカースガノン倒して、リーバルの解放を撮った時に、今までにない「手応え」があって、過去最高良い動画できたなっていう感覚があったんですね。
人が感動するのって「振れ幅」があるからってよく言われると思います。悲しいことがあって嬉しいことがあって悲しいことがある。こういう感情の振れ幅があると、なんか泣けるし笑えるしみたいなのがあるはずです。
Part20にはそれが詰まっていて、ボス戦での苦しさとやっと倒せたっていう達成感、解放後のリーバルのセリフによる感動。そういう感情の振れ幅が詰まったすごい良い動画になったなと思ったんです。そういうことを、今後もやれたらいいなと強く思いまして。
それって「シリーズじゃなくても出来るんじゃないかな」っていうのは今、考えていて。感情の振れ幅がある動画、達成感がある動画をまた作り続けていきたいな、という気持ちがあります。
実は今、次回に向けてそれを作ってる最中なんです。今回の動画シリーズを見てくださった方々にまた楽しんでいただけるような動画を作り続けていきたいですね。(了)
shu3氏が覚悟を決めて取り組んだやりこみ実況シリーズは、ふたりのクリエイター、そして『ゼルダの伝説BotW』のユーザーの自由を信じて許す設計が掛け合わされて生まれた”奇跡”のような動画であった。
shu3氏のひたむきな姿勢に感化されFukuji氏の想像力も頂点に達し、”ゲームの魅力”を最大限に伝えることを達成。この痺れるような感覚をもたらす実況動画の裏話を存分に知ることのできるインタビューになったはずだ。
この実況シリーズがひとつの金字塔となり、ゲーム実況文化が今以上に盛り上がっていき、さらなる進化をとげることを期待したい。そして何よりも我々ゲーム実況ファンはおふたりの活躍を応援していきたい。
ぜひ『すべてを越えた超やりこみBotW』シリーズを視聴していない方がいたら観て震えてほしい。
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