「アニサマ」はどのようにして生まれたのか?『JAMプロ』奥井雅美ら立ち上げメンバーが語る舞台裏――水樹奈々の出演が会場キャパを上げ、ニコ動の盛り上がりが「たまアリ」への移行決断となり、『ラブライブ!』が新世代のアニソンファンを呼び込んだ

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奥井雅美氏と水樹奈々氏の楽曲の着メロを自分で作ったことが、後のアニサマにつながった

──ここまでみなさんのお話を伺ってきて、アニサマがなぜ立ち上がったかというのを考えるには、太田さんについて掘り下げる以外にないというのがよく分かりました。

 僕の場合、太田さんに最初にお会いしたのはドワンゴで。その時はどちらかというと、IT会社の経営者みたいなイメージだったんです。でも後から、アニサマだとかMAGES.だとか、けっこうコンテンツの人なんだと気がついたんですけど。そういう意味で、太田さんがどういう方向を目指してこれまでお仕事をされてきたのかを、あらためて伺ってみたいなと。

太田氏:
 なんでアニサマを作ったのかの入口の話で言うと、川上さんに誘われて着メロ事業を始めた頃に戻るんですが。僕は耳コピができたので、自分で着メロを作っていたんですよ。

 それでいちばん最初に作った着メロが、なぜか奥井さんの「Shuffle」という曲だったんです。

奥井氏:
 『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』のオープニング主題歌。

太田氏:
 同時期のエンディングもたしか奥井さんですよね?

奥井氏:
 「あの日の午後」

太田氏:
 だからカップリングで両方の着メロを作ったんですけど、どっちもすごく良い曲で。当時自分がいちばん最初に作った着メロがその2曲で、「アニソンでこんなに良い曲があるんだ」と思ったんですね。それまではアニソンって、もっと電波みたいな曲ばっかりっていうイメージを、勝手に持っていたので。

 16メロでは毎週オリコンを50位までチェックして、どの曲の着メロを作るかを決定していたんです。そうしたら水樹奈々ちゃんの「LOVE & HISTORY」「POWER GATE」が、49位と50位に入って。「なんか面白い名前の子だな」と思って、この2曲の着メロも作ったんです。

 それで「POWER GATE」のほうを聞いて、すごい良い曲だなと思ったんですけど、よくよく見てみたら、これも奥井さんの曲と同じで、作曲が矢吹俊郎さんなんですよ。

森田氏:
 「POWER GATE」は作詞も矢吹さんですね。

太田氏:
 これはスゴいなと思って、奈々ちゃんと奥井さんのおふたりを追いかけ始めたんです。それがアニソンに入ったきっかけなんですね。そこから奈々ちゃんにCMのオファーをして、奥井さんにもCMのオファーをしていくって流れで。だから水樹奈々さんと奥井さんのファンになったのが、アニサマのそもそものきっかけなんですよ。

井上氏:
 綺麗な話ですよね。

奥井氏:
 私がんばってきて良かったなぁ、みたいな(笑)

 奈々ちゃんの「POWER GATE」って、もんちゃんPV出てるよね?

森田氏:
 PVでギター弾いてます。

太田氏:
 マジですか。「POWER GATE」は、その曲で奈々ちゃんのファンになったから、初年度のアニサマで、「ONENESS」の前の最後の曲にしようって決めてたんですよ。

奥井氏:
 私もあの曲、すごい好き。

太田氏:
 そんなところからアニソンっていうカテゴリが面白いと思って、イロメロミックスの中からアニソン専門の「アニメロミックス」を独立して立ち上げたんです。

 それで当時はゲームからアニメになってヒットするというパターンが、おもにギャルゲー方面であって。その音楽をランティスさんがけっこう手がけられていたんですよね。

井上氏:
 やってましたね。

太田氏:
 ゲームの中の曲だと、曲の権利をゲーム会社が自社で持たれているところもけっこうあって。それを自分でゲームメーカーさんまで行って、権利の許諾をもらってくるんですけど、それもけっこう良い曲が多くて。しかもそれがアニメになってヒットして、みたいなものがいっぱいあったんです。そういう形で、独自に許諾を得ているからアニメロミックスでしか聞けない着メロや着うたを、けっこう作れたんですよ。

井上氏:
 それは2002年頃の話ですか?

太田氏:
 2002年、03年ぐらいですね。

──アニソンというカテゴライズでそういうサービスを始めたのは、アニメロミックスが初めてじゃないですか?

太田氏:
 大きくやったのはたぶんそうですね。

──そういう意味では、個々の作品やアーティストではなくて「アニソン」という横断の括りで捉えていた人として、太田さんは当時けっこう希有というか、ユニークなポジションだったんですかね?

太田氏:
 レーベルと関係ない立場で着メロや着うたを取り扱っていたという意味では、かなり少なかったかもしれないですね。あと、他の人たちはあの当時、アニソンというカテゴリで何かをしようとは思わなかったはずなんです。それに対して僕は、着メロのダウンロード数とかでアニソンも他の曲と引けを取らない数字が出るいうのが、生で見えていたので。それでやろうと思えたというのはありますね。

──先ほどの、ニコニコ動画の再生数でファンの動向が見えていたという話も含めて、太田さんがアニソンにどれだけお客さんが付いているかというのを具体的に知っていたというのは、アニサマの成功へとつながる、かなり大きな要因に聞こえますね。

太田氏:
 それは正直、大きかった気がします。マーケットがあるというのを生で分かっちゃうのは。

まるでひとりのライブのように、ノンストップで続けるのがアニサマのフォーマット

太田氏:
 逆に僕のほうから、森田さんに聞いてみたいことがあるんです。森田さんはアニサマのステージ演出だけじゃなくて、「リスアニ! LIVE」【※】の演出もやられているじゃないですか。そのふたつの違いってどうなんですか?

※「リスアニ! LIVE」
アニソン専門雑誌『リスアニ!』が中心となって開催されている大型アニソンライブ。2010年より開催されているが、2013年からは毎年1月に日本武道館で開催されるのが恒例となっている(2020年は武道館の改修工事により幕張メッセで開催)。

森田氏:
 答えづれぇ(笑)。リスアニ側が言っていることも含めてお伝えすると、リスアニはひとつのアーティストが持っている曲数が多いんですよ。だいたい4曲から5曲。で、自分たちのショーケースを持ってきてくださいというのをウリにしているんです。

 アニサマは基本は2曲、3曲ぐらい。トリだと4曲程度、そしてコラボ。曲数とか見せ方の違いはそこですよね。

 あとは、日本武道館とさいたまスーパーアリーナの違いもあって。今は『ラブライブ!』とか『アイマス』とかで、1万人、2万人のホールを埋められるアーティストが増えてきているじゃないですか。ここでアニサマが1万人の規模に戻っちゃうと、この業界の存在意義がちょっと変わっていっちゃうかなぁっていうのがあるので。

 だからアニサマは大箱でやって、その年を代表する人、もしくはこの業界で功績を残してきたシンガーたちが出る場所。それに対してリスアニは、音楽的なところを切り取って作っている側面があって。僕はブッキングにはどちらも関係していないのでなんともですけど、そのアーティストをちょっと掘り下げた形で聴かせたいっていうのが、リスアニの意志なのかなと思います。

 いやあ、太田さんからそんな難しい質問が飛んでくるとは思わなかった(笑)。

太田氏:
 森田さんにその話は聞いたことがなかったので。

 でもリスアニは司会の方がいて止まる時点で、アニサマとは中身そのものが違いますよね

森田氏:
 リスアニはアーティストが出終わって、転換タイムの間にMCがあって。アニサマはそれが、基本的にないじゃないですか。そこの違いはたしかにいちばん大きいですね。

奥井氏:
 アニサマは今、休憩がありますけど、昔はなかったから「自分たちの出番の時にトイレタイムになったらどうしよう」とか思ってたんです(笑)。あとはJAMとか、最後にトリで歌わせてもらうのはいいんですけど、「みんなの力が残ってるんだろうか」と思って。「みんな燃えカスみたいになってたらどうしよう!?」って。ぜんぜんそんなことないんですけどね、ファンの人たちは。

太田氏:
 自分で言うのはすごく恥ずかしいんですけど、アニサマのあのフォーマット……と言って伝わるかどうかは分からないんですけど。

 まずオープニングコラボ、ないしは強烈なサプライズで始まって、基本的にはひとりの方のライブのように転換時間なしで最後まで行って、最後にテーマソングで終わるっていう。このフォーマットを作ったことに関して、僕自身はけっこう強い思い入れを持っているんです。これがアニサマが成功した大きな理由だと思っているので。

 ※2021年のテーマソング「なんてカラフルな世界」を出演者全員で歌う様子

 毎年テーマソングを変えて作っているのもそうです。わりと言われるんですよ。「なんでずっと“ONENESS”じゃないの? 最初に作ったあの曲だけでいいじゃん」って。でもやっぱり毎年旬の作家さんと関わって、今の旬を続けていくことで、終わらないイベントにするっていう。なので僕は、テーマ決めとオープニングに関してはものすごくこだわっていたので。逆に言うとそこだけしか見ていないんです。

 あのフォーマット、ノンストップでひとりの方のライブのようにって、けっこう難しいんですけど、それを今のところは、ほぼほぼ維持し続けているので。いろんなギミックを使いながら。

 ひとりのライブみたいにするっていう発想がなかったら、たぶんANIMAXさんみたいに、アーティストさんの紹介からその人のパートに入るっていう作りになっていたと思うんですよ。でもアニサマでは、アーティストさんの紹介は最初にして、あとはひとりのライブのように続けているんです。

 それができるのは、アニソンっていうジャンルだから。アニソンファンっていう一括りがあるからなんです。誰それのファンじゃなくて、アニメソングファンという一括りの人たちがちゃんといてくれることによって、まるでひとりの人のライブのような見せ方が成立する、ということですね。

※ANIMAX MUSIX
アニメ専門チャンネル「アニマックス」の運営元であるアニマックスブロードキャスト・ジャパンが、2009年より主催しているアニソンライブイベント。2010年からは毎年11月に横浜アリーナで開催されるのが恒例となっているほか、大阪や海外でも開催されている。

──それはアニサマを立ち上げる時から、明確なコンセプトとして?

太田氏:
 決めていました。

 いわゆるロックフェスって、いろんなアーティストさんがいろんなステージに出ていて、同じ時間帯に別のステージでやっていたりもするんですよ。それでファンの人が、自分の見たい演目が終わったらそのステージの前からいなくなるっていう。そういうイベントへのアンチテーゼですよね。アニソンでやるからには、そこは真逆で行きたいと。

──この人のファンが何万人、このバンドのファンが何万人という足し算ではなく、9万人なら9万人の固まりとして、アニソンファンとして捉えるというか。

太田氏:
 アニソンファンはそういうファン層だろうと、予測はしていたんです。それが1年目の時に、どのアーティストが出てきてもみんな応援して、同じように反応するのを見た瞬間に、確信に変わったというか。なのでフォーマットはその後、ずっと変えていないんです。

奥井氏:
 それはアニソンをやってて誇れるところですね。アニソンファンの人たちは本当にそうなんで。

太田氏:
 温かいですよね。

奥井氏:
 誰が出てもノッてくれるし。J-POPの人が出てきた時もワーッってノッてくれるから、アーティストさんも気持ちいいと思う。

アニメ『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』の主題歌「ゴールデンタイムラバー」を披露するスキマスイッチ(画像はYouTube「【Animelo Summer Live 2021 -COLORS- DAY1】Digest for J-LOD LIVE」より)

森田氏:
 リハをやった後と本番をやった後では、みなさん様子が違うんですよ。

奥井氏:
 やっぱり! テンションが上がって「また出たい!」と思うはず。

太田氏:
 さいたまスーパーアリーナに2万7000人、一番入った時は3万くらい入ってるんですけど、3万人がほぼほぼ同じテンションで、別のアーティストが出てきても盛り上がり続けるって、まぁないですよね。

──まずスタートの時点に、出演者やスタッフの一体感があって。そして一方では、ファン側の一体感もあって。アニサマが成功したのは、その掛け合わせの結果なんだなというのが、よく分かりました。

井上氏:
 ノンストップ、大変でしょ。もう変えてもえぇよ(笑)。

森田氏:
 いやいやいや(笑)。

奥井氏:
 あれって次に誰が出てくるのか分からへんのが楽しいよね。「どっから出るんだ、下からか、上からか、横からか」みたいな。

森田氏:
 他のイベントよりも、仕込み時間とお金は絶対にかかってると思う。

井上氏:
 こっちで出してる間に別のところで準備したりね。一回一回止めてえぇよ(笑)。

森田氏:
 それは私の判断では決められないので(笑)。

東京ドームでのアニサマ開催は、物理的に不可能だったので諦めた

──そろそろ時間も時間なので、ここでアニサマでやりきれなかったこととか、悔しかったことといった、逆の話題も聞いてみたいですね。

太田氏:
 やりきれなかったことで言うと、旬の方をその年に出演していただくというのはものすごく心がけているんですけど、それでもやっぱりできないことはありますね。たとえば『アイドルマスター』さんだったら単純に人数が揃わないとか。

奥井氏:
 多いところはそうなりますよね。

太田氏:
 あと、これは物理的にできなかったんですけど、本当は東京ドームまで行きたかったですね。「ドームでやりたい」って言ったら、「野球の都合とかがあるので、毎年同じ時期に3日間押さえることができない」って言われたので、東京ドームはそれで諦めました。

奥井氏:
 東京ドームは大きすぎるから、客席から見た時に寂しくなっちゃう。自分はSMAPのファンだったんですけど、ドームになった途端、あまりに広すぎて、「前のもうちょっと小さいホールのほうが良かったな」って思ったことがあります。昔ね。

 だからさいたまスーパーアリーナ3日間で十分ですよ。

太田氏:
 もう僕が決めることじゃないんで(笑)。

 それから、やりきれなかったのは海外ですよね。海外展開は本気でやりたかったし、できたと思うから、余計に悔しいですね。

──海外でのアニソンイベントは、他でやっていたりするんですか?

太田氏:
 アメリカだったらアニメエキスポ、フランスだったらジャパンエキスポ、みたいに各国にアニメイベントがあるんで。そこが主催でやるって感じですね。

井上氏:
 あとは「アニソンワールド祭り」っていうのを、僕ら主催でやってましたね。本当に大変でしたけど。

奥井氏:
 やらせてもらうほうは楽しかったけど。

井上氏:
 アメリカで4年やって、最後はアミューズさんと一緒にやっていたんです。アミューズの当時の社長と僕のふたりで、他社さんの出演者のケアをしてるわけですよ。でも、アミューズのアーティストはほとんどいない、ランティスのアーティストも去年までで出尽くしてね。これをずっと続けて、キャストを変えていくのは大変だって話になって。

 そういう意味では、一般のJ-POPの人たちも入っていきながら、日本の音楽フェスって形に持っていくほうがいいんじゃないかな。その中でアニソンのコーナーとか、アニソンの日があってもいいと思うけど。そこまで広げていくほうが、次につながっていくんじゃないかなって。

奥井氏:
 西川(貴教)さんも一緒に行ったのは、ワールド祭りですよね。

井上氏:
 そうそう、ワシントンかな。そうやって少しずつ広げていくほうがね。アニソンを歌っている人たちは、海外を目指しているんですよ。でもJ-POPの人たちって、そんなに海外を気にしていないし、日本で商売になってるし。そういう人たちを海外に広げていくっていうのが、次のシーンにつながるんじゃないかなと思うんですよね。

 その中の1日をアニサマでどうですか?(笑)

太田氏:
 海外公演をいちばんやりやすい上海を、「bilibili macro link」さんが押さえてるんでね(笑)。そちらはJ-POPの日はないですけど。

井上氏:
 今年のbilibiliさんのキャスティングってご覧になりました? 浜崎あゆみさんとか、いきものがかりさんとか、J-POP寄りのキャスティングになってきてますね。そうじゃない日もあるんですけど。

森田氏:
 J-POPになってる。

奥井氏:
 向こうの人も好きだと思いますけどね。日本のそのへんのJ-POPの人たちは。

井上氏:
 アニサマもそうなってきてるじゃないですか。一般のゲストアーティストの方も出てきて。だから世界も今後、そうなっていくんじゃないですかね。

奥井氏:
 ユーミン『魔女の宅急便』をアニサマで聴きたいな(笑)。『魔女の宅急便』じゃないか、「やさしさに包まれたら」か。

──奥井さんは何か、やりきれなかったことは?

奥井氏:
 私は、そんな気持ちは1年目で終わりましたから。あとは出演させてもらったり、テーマ曲を作るのに関わらせてもらったりなので。

 JAM Projectとしてはさっき井上さんが言ったようにアニサマを卒業したんですけど、個人的にはずっと出ててもいいのかなって、ちょっと思ってたところもあるんです。なんでかって言うと、グレー層のファンの人、JAM Projectを名前しか知らない若い子たちに見てもらえる場所だから。

 自分たちのコンサートだと自分たちのファンの人なんですけど、アニサマってそういうグレー層のファンの人たちに見てもらえる場だったなぁって。もちろん歳も歳なので、次に渡さないといけないっていうのはあるんですけど、やっぱりこういう仕事をしている人間なので、「いえいえ、そうは言ってもやっぱりここに残って歌いたい」っていう気持ちもありますね。それは自分だけじゃなくて、自分の個人的な気持ちとして、JAMの他のメンバーをあそこに立たせてあげたいっていう気持ちも含めて。離れてみて余計そう思う。

 ずっと出ている時は、特に裏方みたいなことまで関わっている時は、ちょっとしんどいなっていうのもありましたけども。やりきってないってことはないですけど、出ていってから思うのは、見てもらえる場所やったかな? っていうのはあります。

 そういう意味ではスゴい場所なんだと思います。だから若い子から「アニサマに早く出たいです」と言ってもらえるようなイベントになったので。それも良かったなと思います。

井上氏:
 でもJAMは、卒業してからも出させてもらってますよね?

奥井氏:
 何回も出てますね(笑)。

世界的なアーティストがやってきて、アニソンを歌えるイベントになってほしい

──森田さんは?

森田氏:
 オレは現在進行形だからしゃべりづらいですよ(笑)。鼻息が荒い時期はもう過ぎたので。

 2007年からステージの演出を担当するようになって。2005年が矢吹さん、2006年が井上さん、2007年からステージ周りをやらせてもらっているんですけど。そういう意味で言うと前半でいろいろやり尽くしたというか。今は業界のためにも、火を絶やさないことが大事だなぁって気持ちで、毎年やってますね。

 だからコロナになって、今年の開催も含めてドワンゴの中の人たちは、齋藤Pもそうなんですけど、すごくいろいろ戦ったと思うんですよ。自分の中の気持ちも含めて。それで今年開催したことにはすごく大きな意味があると思っていて。

 やり残したことはぜんぜんなくて。あるとしたら、井上さんのお話にもあったとおり、J-POPの人たちが入ってきたじゃないですか。今後たとえばですけど、ジャスティン・ビーバーがタイアップでアニソンを歌って、日本に来てアニサマで歌ってくれるとか、そういうところまで広がっていくといいなって。

奥井氏:
 話がデカいなぁー(笑)。

森田氏:
 たとえばの話ですよ。レディー・ガガが日本の文化を好きだと聞いたこともあるし。ただ、アニソンを歌わないで出るのもどうかと思うので。それぐらい日本を代表するイベントとして、そういう絡みやコラボがあるともっとおもしろいなっていう気がしてます。独り言です(笑)。

──井上さんは、何かやり残したことは?

井上氏:
 やり残したことは、僕はないんですけど。ずいぶん変わったなと思うのは、太田さんはVIPルームで見てるじゃないですか、全体を。僕も昔はPA卓の後ろで全部見てたんですよ。「こんな感じかぁ」「いいなぁ」とかって。

 でも今はずっと見ていられないんですよね。だから若いスタッフたちも、全体が見れないなと思って。今年のアニサマはこうなんだ、こんな新しいアーティストがいるんだって、見て勉強していくべきなのにと思ったり。

 あとは楽屋のほうで、昔はもっと仲が良かった気がする。

奥井氏:
 メーカーの人とか同士ですよね?

井上氏:
 そうそう。こうだああだって、お互いに相談事ができたり。特にランティスって会社は映像をやってなかったので、映像会社の人たちと常にマッチングさせてもらう立ち位置だったからかもしれないけど、もう少し交流がね。

奥井氏:
 そういう場でもありますからね。

井上氏:
 若い人たちが現場をやってて、アーティストの後ろを鏡を持って走り回るよりは、じっくりステージを見てなさいよって、僕はよく言ってたけどね。

奥井氏:
 みんなチームごとに楽屋に戻って、大名行列みたいに移動して、それで終わって・・・たしかにそうですね。

 私が出てた時は、みんなの楽屋に遊びに行ってたけど(笑)

太田氏:
 あの組数なので、かなりシステマチックにやらないと捌けないっていうのもありますけど。

井上氏:
 それはそうやね。

──では最後に「自分にとってアニサマは?」という質問で締めさせてもらいます。

井上氏:
 太田さんは最後にしましょうか。じゃあ僕からね。

 2005年というのは会社を立ち上げて5年目で、まだそんなにTVアニメの主題歌を専門にやるような会社でもなかったので。だからアニサマは、この業界に勇気を与えてくれたというか、僕にとっても「よし、いけるんちゃうか」という感じになったイベントでしたね。このままがんばってランティスもやっていけるんじゃないかって、勇気をもらったイベントでした。

森田氏:
 そうですね、アニサマなしでは僕のこの業界での立ち位置とか経歴は語れないぐらい、人生ドップリ関わらせてもらっというか。一言で言うと恩人というか「恩イベ」というか(笑)。僕の人生を賭けたとまでは言わないけど、それに近いぐらい感謝しているイベントですね。

奥井氏:
 そんな短く語れないんですけど……。私はデビュー10年目でJAM Projectに入って、その後にキングさんを辞めて、evolutionというレーベルを太田さんと作ったんです。それと並行してアニサマが始まって、アニサマのためにいろんな人に声をかけていて思ったのは、バックコーラスの時代も含めてなんですけど、がんばってきて良かったなと。

 そのあと、JAM卒業のところまでアニサマに出させてもらったり、テーマソングを作らせてもらったりして、友達もすごく増えて。同業者の、ほとんどが年下の人たちですよね。後輩と言うには申し訳ないんですけど、年下の同業者の子たちとすごく知り合えたし。JAM Projectもそうだけど、このアニサマというところで自分なりにがんばったということがあったので、その後もアニソンシンガーとして続けられたんじゃないかな、っていうのが正直な気持ちです。

 そういう意味では森田さんと同じで、恩人ならぬ「恩イベ」でもあるし、そういう存在ですね。

 JAMが出なくなってからも、けっこう毎年観に行ったりしてたんです。今年はコロナで行ってないんですけど。これからも観に行きたいですし、またよかったらJAM Projectでも出していただいて(笑)。ここでアピールしてどうすんねんって話ですけど、まだ我々も歌ってますんで、何年かに1回は呼んでいただければと思います。ありがとうございます。

太田氏:
 ええと、僕は1年目以外は、アニサマへの関わりはじつはそんなに深くなくて。基本的にはテーマ決めと、テーマソングのチェックと、オープニングコラボが何か、トリが誰か。ぐらいしか決定に関与してなかったんですよ、ずっと。中身は楽しみにして当日観に行くっていう(笑)

奥井氏:
 そうですよね。

太田氏:
 あえて途中経過を知らずに当日見て、あとでダメ出しする(笑)っていうのを毎年続けていたので。1年に一度の楽しみだったんですよ。あそこに行くのが

 なので、そのイベントが去年はなかったし、今年は行けなかったし。2年連続でなかった喪失感たるや、けっこうデカくて。なので、本当に自分にとっては、1年に一回の楽しみでしたね。ダメ出しをしながら翌年のテーマを話すなんて、メチャクチャ楽しかったし。

 テーマ決めって楽しいんですよ、本当に。アニサマというブランドがどうやったら上がっていって、どうやったらお客さんが増えて、どうやったらあの感動的なエンディングが作れるかを考えるのは。

 でも、いまだに「ONENESS」を超えるテーマソングは出てこないので。

奥井氏:
 ホントですか!? 太田さんの中で?

太田氏:
 はい。僕の中では、1年目のあの大団円が美化されているのもあるかもしれないですけど。2014年の10周年も、メチャクチャ感動しませんでした?

奥井氏:
 感動しました。服部隆之先生のアレンジで、オーケストラでね。

太田氏:
 僕は最初のアレンジのほうが好きですけど(笑)。

 でもアニサマは本当に、年に一度の楽しみですね、いまだに。だからこれからは、どうやって行かせてもらおうかなって考えています(笑)。

──どうもありがとうございました。(了)


 座談会の中でも語られていたように、2020年にはアニソンの歴史にとって、画期的な出来事が起こっている。映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の記録的大ヒットを受けて、その主題歌である「炎」が、第62回日本レコード大賞を受賞したのだ。

 企画部門的な賞ではなく、メインである大賞をアニソンが初受賞したこと自体も素晴らしいが、特筆すべきはこの楽曲の制作陣だ。作詞・作曲を手がけている梶浦由記氏はこれまで数多くのアニメ・ゲームの主題歌やBGMを担当してきた音楽家であり、歌唱と作詞(共同)のLiSA氏もまた、メジャーデビュー直後から多くのアニメタイアップ曲を歌い続けてきた、生粋のアニソンシンガーと言える。つまり「炎」のレコード大賞受賞は、まさにアニソン界から生まれた楽曲が、その年の日本の歌謡曲の頂点に立った瞬間だったのだ。

 ……だが一方で、こうしたこだわり自体に対して、多少の古さを感じずにはいられない。現在では多くのアニソンアーティストがTVの音楽番組に登場し、アニメとは関係なく楽曲を披露している。そうしたアーティストのファンもまた、楽曲と出会う入口となったのはアニメ作品だったかもしれないが、多くの人が楽曲そのものやアーティストの魅力に惹かれている。いまやアニソンは、アニメを離れて楽曲そのものを楽しむ音楽ジャンルになっている、とも言えるだろう。

 冒頭で記したように、アニソンがこのように広く認知されていく歴史と、アニサマの歴史は互いに並走している。アニサマが生まれたのは、着メロや着うたによるアニソンの人気を反映した時代の要請であると同時に、大型ライブイベントとしてのアニサマがアニソンに影響を与えて、さらなる発展を促してきた。アニソンとアニサマはお互いに影響を与えあい、共に発展してきたわけだ。

 そこで興味深いのは、アニサマの「生みの親」である太田豊紀氏が、どちらかというとアニメそのものには興味がなく、アニソンの音楽性そのものに惹かれてファンになった、という話だ。アニサマの起点に太田氏のこのような感性があったからこそ、現在のようにアニソンがひとつの音楽ジャンルとして広く愛される時代がやってきた、とは言えないだろうか。

 太田氏の手を離れたアニサマが今後、日本のアニソン業界、そして音楽シーンにどのような時代を生み出すのか、引き続き注目してきたい。

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
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