いま読まれている記事

ダルビッシュ有の半端じゃないゲームにかける情熱──「コラボをするとしたらユーザーよりも深く知っているくらいにならないと」、「『プロスピA』は生活の一部」、「『パワプロ』のおかげで人間関係が築けた」

article-thumbnail-220210a

1

2

 世界中から才能が集まるアメリカのメジャーリーグにおいて、間違いなくトップレベルに君臨する世界最高峰のピッチャー、ダルビッシュ有

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_001

 高校時代は「松坂大輔以来の怪物」と評され、ドラフト1位で入団した北海道日本ハムファイターズでは2リーグ制以降史上初の5年連続防御率1点台、歴代唯一の通算勝率7割超え。
 さらには、プロ入り5年で2度のMVP受賞など驚異的な成績を残し、2年連続となるリーグ優勝を牽引。メジャーリーグ移籍後もアジア人選手として史上ふたり目の最多勝や最多奪三振に輝くなど、偉大な成績を残している。

 プロ野球界でいち早くフィジカルの重要性に着目してトレーニングを始め、サプリメントのプロデュースもこなし、競技の壁を超えて後進に大きな影響を与え続けている、日本の歴史上でも屈指のトップアスリートだ。レジェンドと呼ぶに相応しいダルビッシュ選手だが、じつは「大のゲーム好き」だと知っているだろうか?

 約262万人のフォロワーを抱えるTwitterアカウント(@faridyu)では、スマホゲーム『プロ野球スピリッツA』(以下、『プロスピA』)に関する内容をたびたび投稿。また、2020年に開設したYouTubeチャンネル「ダルビッシュのゲームチャンネル」では、『プロスピA』実況動画を多数アップしている。

 重課金や長時間プレイをいとわず、『プロスピA』全国大会の優勝経験者たちと交流し、凄腕の彼らからして「ダルビッシュさんはガチでうまい」と評されおり、『プロスピA』とのスペシャルコラボレーション企画「ダルビッシュセレクション」が開催されるなど、ダルビッシュ選手が『プロスピA』を熱心にプレイしていることを示すには枚挙にいとまがない。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_002
ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_003

 超一流のメジャーリーガーであるダルビッシュ選手は、どんなきっかけでゲームが好きになったのか? 『プロスピA』をどのようにプレイしているのか?

 ゲーマーならば誰もが気になるダルビッシュ選手のゲーム事情について、どうにかインタビューができないものか。弊誌は『プロスピA』の開発・発売元であるコナミデジタルエンタテインメントの協力をいただき、ダルビッシュ選手とコンタクトを取ることに成功。年が明けた1月初旬、オンラインではあるがインタビューを実施することができた。

 話題は『プロスピA』のみならず、ゲームとの出会いや学生時代のエピソードにまで広がり、ゲームを遊ぶ際の姿勢にも“ダルビッシュらしさ”が通底していることがひしひしと伝わるインタビューになっている。ゲーマーはもちろん、ダルビッシュ選手のプレイスタイルや独特な思考を知っている野球ファンにとっても読み応えある内容になっているはずだ。

文・聞き手/森ユースケ
編集/豊田恵吾


※この記事は『プロ野球スピリッツA』の魅力をもっと知ってもらいたい、KONAMIさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。

全寮制の高校時代にPS oneを持ち込んで『パワプロ』を遊んでいた

──スマホゲーム『プロスピA』を筆頭に、ゲームをよく遊ばれているダルビッシュさんですが、NPBのルーキーシーズンに「選手のデータは『実況パワフルプロ野球』(以下、『パワプロ』)で覚えた」と発言した記録がありました。まずはその真偽をお聞きしたいと思っていて。

ダルビッシュ有氏(以下、ダルビッシュ):
 正直、発言は覚えていないんですけど、『パワプロ』をやっていると選手の名前や球種、能力値を覚えられるので、各選手の特徴を覚えていたというのはあるかもしれないです。

──『パワプロ』はいつごろからプレイしていたんですか?

ダルビッシュ:
 小学校で始めてからプロになったころまで、ずっと熱心にやっていました。最初に遊んだのは、スーパーファミコンの『実況パワフルプロ野球’96開幕版』かな。友だちの家でやったときに自分もほしいと思ってクリスマスプレゼントで買ってもらったのが、たぶんニンテンドー64と『実況パワフルプロ野球5』で。プロに入るまでの野球人生で、野球をずっとやっていたけど、同時に『パワプロ』もずっとやっていました。

 『パワプロ』の対戦がきっかけで人間関係を築けた部分も大きかったですし、コナミさんに対しては感謝の気持ちでいっぱいです。

──それだけ熱心にプレイしていたゲームですから、自分が初めて登場したときにはうれしい気持ちが強かったのでしょうか。

ダルビッシュ:
 自分がゲームに登場したときの記憶はないんですよ。でも絶対にうれしかったと思いますよ。コナミのみなさんに査定してもらって、歴代のプロ野球選手と同じところに入るっていうのは、ある種、プロ野球選手として認められたということだと思うので。

──『ダルビッシュ有はどこから来たのか』(潮出版社)という評伝には、小学校時代に1ヵ月以上のあいだ、部屋にこもってゲームばかりしていた時期もあったという記述があります。当時はどんなゲームをやっていたのでしょうか。

ダルビッシュ:
 弟たちはサッカーのゲームをよくやってましたけど、僕はそっちはぜんぜんやらなかったです。本当に『パワプロ』ばっかりプレイしていたんですけど、そのほかには『スーパードンキーコング』『1』から『3』『スーパーマリオRPG』……。『スーパーマリオRPG』は、細かなキャラクターは覚えていないんですけど、すごくおもしろかったという記憶があります。あとは小学4年生のときに『ポケットモンスター』が出たので、『赤』を買ってやり込んだ記憶がありますね。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_004

──『ポケモン』も遊ばれていたんですね。当時『ポケモン』で好きだったのはどのキャラクターでしたか?

ダルビッシュ:
 ……ミュウかな。伝説のポケモンで、当時は特別な配布【※1】でしかゲットできなかったので、みんなバグ技【※2】で手に入れるしかなかった。でもそのやり方がわからなかったんです。すごく特別感があるポケモンでしたよね。

※1:特別な配布
第1回の特別配布は1996年に『コロコロコミック』で情報が公開され、抽選で20名に配布された。数万人の応募があり、当選確率は極めて低く、文字通り幻のポケモンであった。

※2:バグ技
当時はインターネットもない時代のため、これらの方法を知っている子どもがヒーロー扱いされることもしばしば。都市伝説的に全国の子どもたちのあいだでさまざまな噂やバグ技が伝播していった。そのエピソードは任天堂公式サイトのインタビュー記事「社長が訊く『ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー』」でも語られている。

──ダルビッシュさん世代の小学校時代の空気感が蘇ってくるタイトルが並んでいますね。「あのダルビッシュも、『ポケモン』や『マリオRPG』をやっていたのか〜」と親近感が湧く人が多いと思います。さて、『パワプロ』に関してもう少し詳しくお聞きしたいのですが、小さいころはテレビでよくジャイアンツ戦を見ていたとのことですが、選手のデータについて「この選手はもっとこの能力が高いのでは」などと感じていたことはありますか?

ダルビッシュ:
 当時はまったくなかったです。イチローさんのミートカーソルがめちゃくちゃ大きいとか、大魔神・佐々木主浩さんのフォークがめちゃくちゃ落ちるとか、プロのスゴさに興奮して、ロマンを感じながら遊んでいたと思います。

──中学時代には全国大会や世界大会でも上位に入り、とくに高校からは全寮制の名門・東北高校で過ごしたなかで、いつゲームをやる時間があったのかと不思議に感じます。……そもそも名門校の寮って、ゲームを持ち込んでもいいものなんでしょうか?

ダルビッシュ:
 当時、東北高校はテレビやゲーム機、携帯電話の持ち込みは禁止だったんですけど。僕は『パワプロ』が大好きだったので……本体に液晶モニターが接続できるPS one【※】ってゲーム機、覚えていますか? あれを買って寮の部屋でチームメイトと毎日やってました(笑)。野球部はだいたいみんなゲームでも野球が好きなんですよ。

※PS one
2000年に発売されたプレイステーションの小型版ハード。2001年に別売の液晶モニターが発売となった。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_005
(画像はプレイステーションオフィシャルサイトより)

──サクセスと対戦、どちらが好きでしたか?

ダルビッシュ:
 小中高とずっとサクセスもやっていましたし、チームメイトと対戦もやっていました。サクセスはたぶん自分の名前をつけて作ることもあったと思うんですけど、チームメイトの名前で作ることが多かったですね。

──この選手は肩が強いから再現しよう、といった楽しみ方ですか?

ダルビッシュ:
 いや、再現するっていうよりは、持っていない球種、たとえばフォークボールの変化量をマックスにするとか、そこまで深く考えずに息抜きとしてやっていたと思います。

──作った選手を使って対戦をされたり?

ダルビッシュ:
 12球団から選んで対戦していたんじゃないかな。やっぱりみんな強い球団を使いたいので、当時ならジャイアンツとか。ああ、ライオンズのカブレラはパワーが半端じゃなかったので、人気がありました。あとはオールパシフィック対オールセントラルの対戦もやっていましたね。

 ほかには同じチームどうしとか、フェアな戦いになったほうがいいので、同じくらいの強さでやるようにしていました。

──上下関係の強い名門校の寮生活では、先輩が強いチームを使って後輩相手に無双プレイをするんじゃないかと勝手な想像をしていたのですが、そういう感じのプレイではなかったんですね。

ダルビッシュ:
 そうですね。

──数多くのスカウトがあったなかから、上下関係が強くないという理由で東北高校を選んだダルビッシュさんらしいと感じます。ちなみに、なるべくフェアな状態で戦いたいという姿勢は、NPBからメジャーリーグへ移籍した際に会見で語った理由【※】に通ずる部分もあるようにも感じますが、いかがでしょうか。

ダルビッシュ:
 うーん……あれは正直リップサービスというか、理由をつけただけなので、本心ではなかったんです。あの発言に関しては、違う話かなと思います。

※メジャー移籍の会見で語った理由
2012年のオフ、テキサス・レンジャーズへの移籍が決まった際に、渡米前に北海道日本ハムファイターズの本拠地・札幌ドームで会見が行われた。そこで語られたメジャー移籍の理由は、以下の通り。
 「仕事というのは、倒したいとか、強い相手にぶつかっていくこと。その中で、相手の選手から、何て言うかな。試合前からもう無理とか、打てないとか、そういう話が冗談でも聞こえてきて、何かフェアじゃないんじゃないか。求められているのは違う環境なんじゃないかなと」。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_006
(画像は北海道日本ハムファイターズ公式サイトより)

『プロスピA』のリーグは本当に1日じゅうやっていないとトップ層に入れない

──ここからは『プロスピA』の話を聞かせてください。2020年1月7日にアップされた動画「【プロスピ】石川、千賀くんとガチャ引いてみた」以降、プレイ時間が加速度的に増えていき、リアルタイム対戦で「名人」【※1】、リーグ戦では「覇王」の金枠【※2】を獲得されています。
 その約半年後にはご自身で監修した「ダルビッシュ有」のデータ作成のほか、ガチャに登場する選手を選んだり、大会のプロデュースをしたりと、『プロスピA』上でさまざまなコラボ企画を開催されていました。
 極めつけとなるのが、2020年8月の登板前日の深夜に撮影した動画「登板前夜に俺を救いたい。が、まさかの結末に。」で、トップアスリートが夜遅くまでゲームをやっている姿を見て、多くのゲーマーが親近感を抱いたと思いますが、同時に心配になった野球ファンも多かったかと思います。

※「名人」
全国のユーザーと対戦して腕前を競うランク戦では、勝利を重ねることによってルーキー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとランクが上がっていく。

※「覇王」の金枠
リーグ戦向けに組んだチームオーダーによる自動対戦を、1日15試合、1週間かけて行い、結果に応じてリーグランクが変動。ランクは1〜9、覇王を加えた10段階に分かれており、覇王リーグで好成績を修めるとユーザープレートの色が変化し、1位になると金色になるため、「金枠」と呼ばれている。

ダルビッシュ:
 ちょうど「ダルビッシュセレクション」のガチャが配信されるタイミングが、登板前夜だったので。そのときは深夜1時を過ぎてもまだ動画を撮影していました。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_007
 

──動画内では「支障はないので大丈夫」と話されていましたが、素人からみると「夜ふかしして大丈夫?」……という驚きがありました。

ダルビッシュ:
 まあ、そうですよね(笑)。もちろん翌日の登板がデーゲームなら絶対にやらないですけど、ナイターだったので起きるのは10時か11時。早く寝て、早く起きても試合まで時間がありすぎるので、そのくらいがちょうどいいんですよ。ふだんから、ナイターの登板前日はだいたい深夜1時ごろまで起きていることが多いです【※】

※翌日の試合
動画翌日、2020年8月15日の登板では、7回1死までノーヒットに抑え、最終的に104球を投げて7回1安打1失点、11奪三振とすばらしい投球内容で3勝目を獲得。この年、シーズン全体では最多勝に輝いている。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_008

──最近の動画では「リーグをずっとやっていたらしんどくなったので、リアタイ(リアルタイム対戦)に切り替えた」と語っていましたが、実際、多いときには1日で何時間くらいプレイしていたのでしょうか。

ダルビッシュ:
 リーグは本当に1日じゅうやっていないとトップ層に入れないんです。この前、ちょうどセ・リーグの最強決定戦【※】があって、1日じゅうやって100位以内に入れたという感じです。この最強決定戦にエントリーすることを決めたのは、開催2週間前だったので、すべてイチから育成する必要があって。

 その2週間に関しては、スクリーンタイムでいうと毎日●時間……記事にするときは数字は伏せてほしいんですが(笑)、半日以上、できるときはつねにプレイする態勢でいないと、トップ層は維持できないんですね。

 もちろんウェイトトレーニングなど、野球の練習はしっかり行ったうえでゲームをやっているわけですけど。

※最強決定戦
『プロスピA』で定期的に開催されるリーグ戦の大会。セ・パ限定リーグ、純正(球団)限定リーグ(当該球団の選手のみが使える)、オールスターリーグなど、大会によって使える選手の幅が変わる。ちなみに、取材後に開催された中日ドラゴンズ限定リーグの最強決定戦では2位。さらにその後の通常リーグでは、覇王リーグで中日純正オーダーで1位という偉業を成し遂げている。ダルビッシュ選手のプレイヤー名は「farid」。

──リーグに関しては、狙いの選手をゲットして、育成や限界突破を繰り返して極みにし、さらに狙った称号をつけることを繰り返す必要があり、そのためには課金も必要になります。つい先日、動画内だけで100万円以上の課金をしていると報じた記事がありましたが、同じゲームをやっている人からみると、正直、100万円どころではない、のかなと……。

ダルビッシュ:
 あの動画では多村仁志【※】さんを取るのに120万円くらいかかったのかな。それでも、あのときのガチャで出た選手をコンプリートできていなかったので、さらにかかったという。大きなガチャイベントが更新されると、毎回そのくらいはかけていますね。

※多村仁志
1977年、神奈川県生まれの元プロ野球選手。横浜ベイスターズ、ソフトバンクホークス、中日ドラゴンズでプレイし、2016年に引退。日本人選手として国際大会優勝、日本シリーズ優勝、二軍優勝、一軍選手、二軍選手、育成選手と経験した唯一の選手。
 過去にダルビッシュさんが「ここで自分の体ができた」と語るジムで居合わせたことがあり、トレーニング前後に談笑していた仲だという。このように、ダルビッシュさんの『プロスピA』実況動画では、過去対戦経験や交流のあった選手にまつわるエピソードが語られることが多い。

──ここ1年はYouTubeの動画アップ頻度は減りましたが、それでもTwitterではガチャ更新からそれほど時間が経っていないタイミングで、全選手を獲得し、最大レベルの70まで上げたゲーム画面を投稿したりと、かなり時間をかけてプレイしている様子がうかがえます。

ダルビッシュ:
   選手を揃えて、レベル70にしてようやくスタートライン。リーグをやるにあたっては、すべての数値を完ぺきにしておかないといけないんです。

──その熱量の高さでプレイするうえで、どの瞬間がいちばん楽しいですか?

ダルビッシュ:
 僕がほかのリーグ上位勢と比べて決定的に違うのは、勝ち負けを重視していないことです。僕の場合はピースを埋めていくのが好きというか、『プロスピA』をパズル感覚で楽しんでいて。ほしい選手を揃えたい、限界まで育成したい、狙った称号をつけたい、はめ込みたい。

 それができたうえで、最終的に最強決定戦で負けたとしてもあまり気にしていなくて、いちばんうれしいのは、狙った称号【※】が決まった瞬間とかですかね。

 スピリッツを上げる「勝利の使者」を狙ったり、じつはいちばん難しいと言われている星2の「コンタクトヒッター」や「ミスターフルスイング」を狙ったり。そういった狙いが決まるとやっぱりうれしいですね。

※称号
『プロスピA』における選手の育成方法のひとつ。最大レベルになった選手を同名選手のSランク(または最大レベルのAランク)を消費して「限界突破」を最大の5回行ったあと、さらに同名選手のSランク(または最大レベルのAランク)を消費して獲得することができる。星1から星4までさまざまな種類があり、星が多いほうが確率が低く、能力の上がり幅が大きい。
例:星4つの「打撃を極めし者」はミート+2、パワー+1、走力+1。これらの称号をうまくつけて、同値を狙うのが上級者。
ランダムで選ばれるため狙いの称号をつけるのはなかなか難しく、再チャレンジするたびにSランク(または最大レベルのAランク)が必要なため、狙いの称号をつけるには重課金が必要である。

対戦するよりも、うまい人の動画をみたほうが勉強になる

──リアルタイム対戦では、どういったポイントにこだわっているのでしょうか。

ダルビッシュ:
 リアタイでは、とにかく打率を上げるのを目標にして、6割を目指してやっているんですけど、なかなか難しいです。少し前に環境が変わって、5割を超えると“猛者”と言われるレベル、すごくうまい人だと6割3〜4分あたりという感じでしょうか。

──打率にこだわる理由とは?

ダルビッシュ:
 6割、7割を打っている人がいるということは、理論的には僕にもできるはず。でもそこに至らないということは、自分のウィークポイントを探して、良くしていけばいい。それは野球でも同じで。そのプロセスがさきほどお話したのと同じ、“ピースを埋めていく”感覚に近くて、好きなんです。

 いろいろなYouTuberの方の動画を録画して、ミートカーソルがどんな動きでボールを追っているのかスローモーションで見て、自分と比べて何が違うのかを見ることが多いですね。

──『プロスピA』のプレイ動画を配信するYouTuberたちと連絡を取って対戦することもあるんですよね。それはうまい人たちから技術を盗むためですか?

ダルビッシュ:
 う〜ん。じつは対戦してスキルの面で得られるものってあんまりないんですよ。その人がプレイしている動画をじっくり見るほうが勉強になります。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_009

──では、対戦はあくまでコミュニケーションの一環だと。

ダルビッシュ:
 そうですね。コミュニケーション的な部分もありますし、あとは大会で上位に入るような人たちが知り合いにもいるんですけど、僕が手伝うこともあります。選手層が厚い(たくさんのキャラクターを持っている)ので、練習のために「このピッチャーを使ってもらえますか?」と言われて、手伝う。その代わりにどの選手が強いかなど、ちょっとした情報をもらうっていう感じです。

──書籍『ダルビッシュ有の変化球バイブル』(ベースボールマガジン社)など、過去のインタビューでは勝ち負けよりも投げた球の変化や、相手の反応を楽しんでいる部分が大きいと語られていますが、ゲームでも勝ち負け以外の部分を楽しんでいるわけですね。この姿勢は野球でもゲームでもつながっているように感じます。

ダルビッシュ:
 たしかに、言われてみたらそうかもしれないです。プロ野球選手で、勝ち負けをそこまで深く考えないっていうタイプはあまり周りにいない。もちろん僕にとっても勝ち負けは大事だけど、周りの人ほどそこに対する熱意がないのかな、という気もします。『プロスピA』でも、これだけやっているのに勝ち負けをそこまで気にしない人はあまりいない。似ているかもしれないですね。

──名声や他人からどう評価されるかという点に興味がないということでしょうか。

ダルビッシュ:
 もちろん気になることはありますよ。なるべく気にしないようにするけど、人間なので若干気になることはある。でもそれ以上に、細かいことを追求するのが好きだっていうことだと思います。

──たとえば、トレーニングでも自分の体を鍛えていく過程を大事にされているのですか? 見た目をバキバキに仕上げてコンテストに出るのではなく、あくまで試合で使うための体を作り、その過程を楽しむという。

ダルビッシュ:
 そこは自分でも矛盾があって、最近流行りのファンクショナルトレーニング、実際の野球の動きに近づけたトレーニングで、見た目は気にせずに機能的な体を作るっていうの、好きじゃないんです。どちらかというと、ボディビルダーのような体になりたいという憧れはあります。

──以前、奥様の聖子さんの兄である山本“KID”徳郁さんがトレーニングされているときの背中を見て「盛り上がり方がとにかくスゴい」と語っていましたよね。

ダルビッシュ:
 はい、筋肉のつき方がスゴいので、見入っちゃいました。

──いつかプロ野球を引退したあとで、ボディビルの世界を目指す、といった可能性もありますか?

ダルビッシュ:
 やりたい気持ちは強いんですけど、骨格的に向いていないし、それ以上に、あの人たちみたいにがんばれないと思うんです。コンテストに出るような人たちって、自分を律して、誘惑に勝って、弱いところも抑え込んでいく。それができる人しかあのようなステージには立てない。僕はそれができる人間じゃないので、単純に憧れの気持ちです。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_010

『プロスピA』はパズルに集中する感覚なので息抜きというより、生活の一部

──Twitterでファンの方から「妻の聖子さんはゲームに重課金していることを知っていますか?」と聞かれ、「知らないと思います」とダルビッシュさんは答えていました。以前の動画では「課金しすぎて苦笑いされている」という旨のコメントもされていたと思うのですが、実際のところはいかがなんでしょうか?

ダルビッシュ:
 妻から課金額を聞かれたことはなかったんですけど、話の流れで「めちゃお金かかってる」と話したところ、「どのくらい?」かと聞かれて伝えたら「マジで……?」という感じで。

 そのあと、さらにヤバい額になっていったので、僕も言わないようにして、iPadもサイレントにして課金してました(笑)。

 でもちょうど昨日、またそういう話になって、金額を伝えたらそれこそ苦笑いしていましたね。

──おそらく累計で数千万円……となると、苦笑いする金額ですよね、きっと(笑)。

ダルビッシュ:
 ただこれには理由があって、「この先にこう活きてくるから」って説明をしたら理解はしてくれました。

──その説明というのは、以前話されていた自律神経失調症気味になった際にゲームが息抜きになって復調したというような話でしょうか?

ダルビッシュ:
 いや、『プロスピA』に関しては、大好きなんですけど、パズルに集中する感覚なので息抜きというより、生活の一部ですね。朝起きたらiPadを開いて、状況を見て何をするべきか、コインをどのくらい貯めようか……とひたすら考えています。

 やっぱり野球はどこまでいっても仕事のうちという意識になってしまうのかな。は〜、ちょっとゆっくりやろうかと思えるのは、『Fortnite(フォートナイト)』だけです。別世界のことだから、息抜きになるんです。

──『プロスピA』への課金が「この先に活きてくる」とは、どういうことでしょうか。

ダルビッシュ:
 たとえば先日、eスポーツとして『プロスピA』のプロ選手【※】が誕生して。球団ごとに代表3人が1チームになって、プロ野球のOBが監督になり、大会(「eBASEBALLプロスピAリーグ」、通称スピリーグ)が開催されました。

 そのほかにもOBや現役選手を含め、いろいろな選手が公式とコラボをしていて、今後も増えていくだろうと思っています。ゲームにハマってしっかり知っておくことで、もし僕がそういう場に行ったとき、僕のほうが絶対にいろいろと知っているので(笑)。その意味では強みになるだろうし、という趣旨の話をしました。

※『プロスピA』のプロ選手
2021年から開催されている「eBASEBALL プロスピAリーグ」(通称、スピリーグ)。このリーグでは、オンライン予選と面接でNPB12球団の各代表選手3名が選出され、eスポーツのプロ選手として試合を行う。パ・リーグとセ・リーグに分かれて総当たり戦を行い、各リーグ上位3チームずつがプレーオフを戦い、日本一を目指す。選手への報酬とは別に、「球団ファン応援感謝企画」として、日本シリーズ優勝で300万円、リーグ優勝で200万円の賞金が用意されている。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_011

──強みどころか、ダルビッシュさんはプロ野球選手のなかではダントツ最強のはずです(笑)。

ダルビッシュ:
 スピリーグを見ていても、野球関係者のみなさんはすごく楽しんではいるけれど、ゲームのことはそこまでわかっていないじゃないですか。誰の能力がどうで、特殊能力が……といったところまでわかっている人はずっと残ると思うので、そこは大事だなと思います。

──『プロスピA』ではご自身が監修した選手・ダルビッシュ有のデータが2種類(2020年と2021年)、『パワプロ』でもみずから監修した“覚醒ダルビッシュ”というデータがあります。このあたりについておうかがいしたいのですが、どのような監修をされたのでしょうか。

ダルビッシュ:
 『パワプロ』に関しては、スプリームという新しい変化球をつけるということで、「その変化の仕方をデザインしてください」と言われて作りました。

 『プロスピA』は、そのときのゲームバランスを考えて、いろいろと設定した感じです。

──「自分の能力はこれだ」と再現するのではなく、ゲームバランスを考えて設定したというのは、非常に興味深いです。そのときの環境において、「こんなキャラクターがいたらおもしろい」という観点でキャラ設定をしたということですか?

ダルビッシュ:
 そうですね。2007〜2011年あたりの自分はだいたい成績が同じくらい【※】だったんです。変化球もいろいろな球種を投げていたので、どんな設定にしても批判はされないだろうと。たとえば球種が多すぎると言われても、「いや、僕は実際に投げていました」と答えられるので。そのなかで、ゲームバランスを考えて作りました。

※だいたい成績が同じくらい
プロ3年目の2007年から2011年までの勝利数は、15、16、15、12、18。防御率は1.82、1.88、1.73、1.78、1.44。プロ入り5年以内に2度のMVP受賞、24歳にして史上最速&最年少で推定年俸5億円到達。先発投手としては史上初など、文字通り“無双”状態であった。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_012

──『プロスピA』の2020年のデータは、リアルタイム対戦において非常に強力なキャラクターでした。球の回転が似ていて見分けづらい、現環境でのリアタイ必須級と言われているツーシームとスプリットの組み合わせに加えて、同じ方向への変化球かつ変化量の違う2球種という組み合わせ、高速カーブとスラーブを搭載しています。これはリアルタイム対戦を意識した設定なのでしょうか。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_013

ダルビッシュ:
 はい。去年のダルビッシュと今年のダルビッシュは、お互いに干渉しないような、それぞれの良いところを残しつつ、お互いの良さを殺さないようなバランスを意識しました。ここからはちょっとマニアックな話しになっちゃうんですけど……(苦笑)。

──ぜひお願いします!

ダルビッシュ:
 「2020年 シリーズ1」のダルビッシュはスラーブの変化量が6(球威B)でツーシームが球威B。高速カーブ(球威C、変化量2)とスライダー(球威A、変化量3)もある。説明いただいたとおり、リアルタイム対戦で使えるキャラクターだと思います。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_014
ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_015
ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_016

 一方、「2021 シリーズ2 OBセレクション」のダルビッシュは、高速カーブではなくスローカーブ(球威D、変化量3)になった代わりに、ツーシームがAになりました。スラーブも変化量を2小さくしてあるので、先発としては2020年のダルビッシュのほうが強いんです。

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_017
ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_018
ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_019
ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_020

 でも2021年版では特殊能力で対ピンチがあるので、それが発動するとツーシームが球威Sになって、しかも中継ぎ適性もある。さらに表ステータスの球威、制球、スタミナを83の全同値【※】で出しているので、リーグにおいては2021年版のほうが強い。それぞれで良さが出るように計算しました。

※全同値
表ステータスの3つの最大値がすべて同じであることを指す。たとえば球威、制球、スタミナがすべて78であるなど。リーグ戦では一定条件を満たすと「スピリッツ」がアップする「コンボ」が重要となるため、複数の発動条件を満たすことができる同値が重視される。

──まるで開発者のように計算し尽くされた設計だったんですね……。

ダルビッシュ:
 まあ、『プロスピA』はずっとやっているので、つねにいろいろと考えてはいます。

──ダルビッシュさんが『プロスピA』の全国大会をプロデュースした際、大会レギュレーション【※】を超高速フェードとリアル軌道に設定していました。どのような狙いで、普段の大会とは異なる設定にしたのですか?

ダルビッシュ有のゲームにかける情熱 「プロスピAは生活の一部」_021

ダルビッシュ:
 まず、それまでリアル軌道の大会がなかったので、リアル軌道の初大会を「ダルビッシュチャレンジカップ」でできるのはいいなと思って、そこは狙いました。

 同時に、同じ環境での大会が続いていたことでマンネリ化している部分もあると感じていて。どの大会でも同じような人が上位にくるけど、ひょっとしたらその中にリアル軌道は苦手という人がいるかもしれないし、逆にそれまで高い壁に跳ね返されていた人たちの中にリアル軌道なら勝てるという人がいるかもしれない。

 新しい脳への刺激にもなるし、いまの環境に新しい風が入ったらいいなと思って、提案しました。

※大会レギュレーション
『プロスピA』の対戦モードでは各種の設定が可能で、投げる球の速さは「ノーマル」「ノーマル+」、投げた球の場所を表示するカーソルの見え方は「非表示」「高速フェード」「超高速フェード」、投球の軌道に「通常」と「リアル」を選択することができる。大会では投球スピードは「ノーマル」、カーソルは「超高速フェード」、軌道は「通常」というレギュレーションが多かったが、ダルビッシュさんプロデュースの「ダルビッシュチャレンジカップ」では、軌道が「リアル」となったため、ほぼ固定化されていたプレイヤーの勢力図や、よく使われる強キャラといった環境が変化することにつながった。

──本当の意味でのコラボですよね。プロデューサー、ディレクター目線で、ゲームカルチャーをどう盛り上げるかという視点を持っていることが伝わってきます。

ダルビッシュ:
 『プロスピA』に限らず、いろいろな方がゲームとコラボしていますけど、コラボする人がゲームについてイマイチわかっていないことも多いですよね。僕自身、いちユーザーとしてそういうのはあんまり好きじゃないんです。

 コラボをするとしたら、ユーザーよりも深く知っているくらいにならないと、ユーザーたちがそのコラボを楽しむことが難しいと思うので。

1

2

ライター
毎日ウルトラ怪獣Tシャツを着ているフリー編集・ライター。インドネシアの新聞社、国会議員秘書、週刊誌記者を経て現職。意外なテーマをかけ合わせた企画とインタビューが得意。守備範囲は政治・社会からアイドル、スポーツ、お笑いなどエンタメまで。30歳を超えてなお、相変わらず「マリオ」「ドラクエ」「パワプロ」「スパロボ」「ロックマン」の最新作をプレイしている現状に、20年前から精神年齢がまったく変わっていないことを痛感している。
Twitter:@mori_yusuke
副編集長
電ファミニコゲーマー副編集長。

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます

新着記事

新着記事

ピックアップ

連載・特集一覧

カテゴリ

その他

若ゲのいたり

カテゴリーピックアップ