スマホRPGに革新をもたらした『チェンクロ』がストーリーの役割を「ご飯のおかず」から「デザート」にしてしまった!? 『ドラクエ』藤澤仁氏と『シン・クロニクル』松永純氏が語る、「体験としてのストーリー」とは

スマホRPGに革新をもたらした『チェンクロ』がストーリーの役割を「ご飯のおかず」から「デザート」にしてしまった!? 『ドラクエ』藤澤仁氏と『シン・クロニクル』松永純氏が語る、「体験としてのストーリー」とは

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膨大にアクセスできる過去の名作群に、今のコンテンツが勝てる要素は「ライブ性」しかない

──でも、スマートフォンのゲームでそこまで物語と体験が一体化していたものって、これまでにあったんですか?

藤澤氏:
 あんまりなかったのかもしれないですね。分断した最初の作品は『チェンクロ』だと思うけど。

──『チェンクロ』以前のスマホゲームでは、そもそもストーリーがそれほど顧みられていなかったと思うんです。ストーリーの価値すらなかったところに、『チェンクロ』で価値ができて。でもそこでも、体験とセットのものではなかった。

松永氏:
 純粋なコンシューマRPGのセット感と比べるとそうかもしれないですね。スマホ的な遊びやすさも大切にしたかったので、自由にフィールドを歩いたり、村人と話したりみたいな体験までは入れてなくて。

藤澤氏:
 ある頃からスマホって「いや、オレはストーリーはスキップするから」派が出じゃないですか。それを生んだのもやっぱり『チェンクロ』という発明からだと思うんですよ。

松永氏:
 ええっ、罪が増えていく(笑)。たしかに、『チェンクロ』の出鼻の時から、ストーリーをスキップする派はいましたが……。

藤澤氏:
 ストーリーがおかずだった時代って、たとえば『ドラクエ』で「オレ、シナリオは読まないんだ」って人間も、多少はいたかもしれないけど、それは1パーセント以下だったと思うんですよ。
 やっぱりみんな、おかずとごはんをバランスよく食べていた。でもストーリーがおかずじゃなくてデザートになった瞬間から、「もう食べない」という人が増えた感覚はありますよ。

──ここで『チェンクロ』を擁護しておくと、スマホのゲームでストーリーをスキップするというのは、もっと手前のフィーチャーフォンの時代に、どんどんタップして進めていくというゲーム性があって。あの体験の延長線上にどうしても、スマホのゲームが乗ってきてしまうところはあったと思います。

 そういう意味では、それまでは9割5分スキップする世界だったのが、『チェンクロ』になってからは8割の人しかスキップしなくなった。つまり1割5分の人は、ちゃんとシナリオを読むようになった、ということだと思うんです。

藤澤氏:
 なるほどね。

うなずく株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

松永氏:
 ちなみに『チェンクロ』を出したとき、半分以上の人は、スキップせずにストーリーを読んでくれました。なので、5%を50%以上にしたことは褒めてほしいです(笑)。

 でも、読んで欲しいと思って届けているものが、スキップされ得る文化というものには、なったかもしれませんね。
 『ドラクエ』でも村人の言葉をけっこう飛ばしちゃったりするんですけど、それってストーリーにはあまり影響がなかったりしますが、それとは違いますもんね。

藤澤氏:
 ナラティブにはなってませんからね。ただ『ドラクエ』は『ドラクエ』で、さっきの「ごはんとおかず」で言えば、ストーリーがおかずでありたいんですよ。そのための努力をすごくしているんです。

 読んでいる人は気づかないかもしれないですけど、僕たちはセリフを極限まで削るんです。つまり、絶対に読まなきゃいけないからこそ、重たいものを作らない。それで結果的に読まずに済むというか、読まなくても済むための努力をトコトンまでやるんです。「あと、もう2文字削れないか?」みたいなことをやっていたりしますから。

 それがコンシューマ時代の努力だったけれども、スマホになって「いつ読んでもいいですよ」となった時に、さっき言ったような研磨ってあんまりしなくなったのかな、と思う部分もあって。

松永氏:
 どうでしょう。チェンクロなどで苦労しているのは、スマホゲームは遊びやすいようゲーム側の要素を絞っているので、テキスト以外に表現する領域が狭いということですね。

苦労している点を説明する総合ディレクターの松永純氏

 フィールドマップを使って状況を表現するとか、そういうのが少ないので、どうしてもテキストで長い説明をする必要が出るなと。あとはやっぱり、定期的にストーリーを届けていく中で、研磨する時間が限られているというのはあるかもしれないです。

藤澤氏:
 たしかに。時間もかかりますしね。

松永氏:
 そういう意味ではやっぱり、昔に戻そうとしている部分があるのかもしれないですね。『シンクロ』にもフィールドマップが存在するので。そこでの体験が「ごはん」にあたる体験になっていて。だからこそ逆に言うと、これぐらいのテキスト説明でいいんじゃないか、とちゃんと削るところも今回作れています。

 もちろんスマートフォンRPGとしてのベストを目指しているので、本当の昔からのRPGそのままに戻すわけではないですけど。説明の塩梅がむずかしい。藤澤さんがさっきおっしゃっていた、RPGの物語がどこかでサービスに変わってしまった部分というのが、みなさんの中でどのタイミングなのかなっていう。

藤澤氏:
 昔のテーブルトークRPGにはじつは物語なんてほとんどなくて。世界観が10パーセントぐらい、ナラティブが90パーセントぐらいという、そういう作りだったじゃないですか。

 それに対して『シン・クロニクル』がやっていることは、ナラティブが9割まではいかなくて。まだ70パーセントぐらいは人間の作ったテキストの中で物語をやっているってところだと思うんです。

松永氏:
 そうですね。お届けしたいのは、MMORPGやオープンワールドのようなナラティブ重視のゲームではなく、用意した物語を味わってほしいことが主のゲームなので。

 なので目指している形に近いのはやはり、ナラティブと物語のバランスが取れていた、コンシューマRPGの楽しさなんだと思うんですよね。そしてそこにライブ感や同時性を感じてもらいたい。

コンシューマーRPGの楽しさについて話す総合ディレクターの松永純氏

 ビアンカとフローラの話をどうしても出しちゃいますけど、話題として盛り上がるポイントがすごく明確だったなと。それから『ヴァルキリープロファイル』【※】が出た時も「ラストはどっちに進んだ?」とか、そういう大きなギミックって、ユーザーの中ですごくライブ感のある話題になって、そこで盛り上がるし。
 そういう体験をどう作るか。その時に「オレはこっちを選んだぜ」という会話がどこまでできるか。そこに面白さがあるんじゃないかと思うんですよね。

※『ヴァルキリープロファイル』
1999年にエニックス(当時)から発売された初代PlayStation用ソフト。女神ヴァルキリーを主人公としたRPGで、プレイヤーの選択によって結末が大きく分岐する。

藤澤氏:
 そうですね。それはそう思います。

──『シンクロ』がやろうとしていることにはふたつの軸があって。ひとつは『ドラクエ』とかがやったような、体験とストーリーの一体感を戻すということ。さらにもうひとつ、かつての『少年ジャンプ』やTVアニメが持っていた同時性を、ソーシャルゲームやスマートフォンを使ってやりたいということだと思うんです。

 その同時性の部分については、もう少しパラレルでもいいという考え方なんですか? それともイベントとかも足並みを揃えて、しっかりやろうという意志があるんですか?

松永氏:
 やっぱり足並みを揃えて一斉に楽しんでもらいたいという考え方が強いですね。正直、物語を読んでもらうのも、RPGで育成をするのも、どっちも時間がかかることなので、たくさんの人に同時に足並みをそろえてもらうってめっちゃ難しいことなんですが。でも、いろいろ工夫をして、一緒に物語を楽しみ続けてもらう運営ができればと思っています。

一斉に楽しんでもらいたいと語る総合ディレクターの松永純氏

 今の時代、エンタメが無限にあるので。べつに後でも楽しめるけど、やっぱりちょっときっかけが薄くなるし。

 正直、『ドラクエIII』とか『IV』とかが出た時って……

藤澤氏:
 同時性がスゴかったですよね。

松永氏:
 あと逆に、当時は半年遅れて「ようやく『ドラクエIII』を買ったんだ」って言っても、盛り上がれたと思うんです。でも今は半年経っちゃうとそんなに盛り上がれないよな、というのがあるので。

藤澤氏:
 最近、それに近しいことで思うんですけど。TVドラマって同時性があるじゃないですか。みんなが同じ時間に見るから。「昨日のあれ、見た?」というのを今でもできるなと思ったんですけど。
 でも昨今はNetflixの時代じゃないですか。『イカゲーム』【※】とか、同時性がなくても流行るんだなって思ったんですよ。

※『イカゲーム』
2021年9月よりNetflixで配信が開始された、韓国のTVドラマシリーズ。賞金に目がくらんだ主人公たちは、自身の生命を賭けたデスゲームに参加することになる。配信開始から約1カ月で全世界1億1100万世帯が視聴し、その時点でのNetflix史上最大のヒット作となった。

松永氏:
 でも『イカゲーム』って同時性はありませんか?

藤澤氏:
 少なくとも「最終回はどうなるんだろう?」という話題にはならないじゃないですか。Netflixは1シーズン、全話まとめて配信しちゃうから。

NETFLIXについて言及する株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

──たしかに、あれが毎週1話ずつ配信していたら、また違ったと思いますね。分かりやすい例で言うと、『半沢直樹』は完全ライブ型なんですよ。

松永氏:
 あぁ、たしかに。

藤澤氏:
 結局のところ、終わった段階じゃなくて「あれ、どうなるんだろうね?」と言っている時が、もっとも同時感が高いんですよね。

松永氏:
 わかります。『シンクロ』もそれを届けたい! 毎章配信することで、「あれ、どうなるんだろうね?」って言ってもらえればと。

 『イカゲーム』にも同時性があるのではって反射的に言ったのは、単純に自分もイカゲームの話題でひとしきり盛り上がったからですね(笑)。全話配信でも、やはりNetflixの中であれだけ目立つと、そういう感覚があるなと。

藤澤氏:
 たぶんそうでしょうね。『イカゲーム』もしばらくの間は、そういう同時共有期間みたいなものがあるんでしょう。

松永氏:
 そこは常に、賞味期限が短くなり続けている世界なのかなとは思うので。

 正直、Netflixには名作と言われるタイトルが無限にあって。誰かにオススメされて、実際に見てすごく面白かったりしても、その時に一緒に盛り上がれるのは、そのオススメしてくれた人ぐらいなんですよね。
 それこそレコメンドで出てきたものを見た時なんかは、一緒に盛り上がれる人を探すのも大変なぐらいで。

 なので、みんなで同時に楽しめるものを意図して作るということには、大きな意味があるのかなと思うんです。

藤澤氏:
 それはすごく思います。

同時に楽しめるものを作る意味に納得する株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

松永氏:
 いつでも自由に楽しめる、オンデマンド配信みたいな形でカタログ化されていくことにも意味はあると思うんですが、もっと大きな熱量を、改めてストーリーRPGの中に作れないかなと。そこにチャレンジしたいと思うんですよね。

──そこがたぶん本質のひとつで。今、Netflixもゲームも配信サービスになって、要するに無限の名作にすぐアクセスできる世界観の中で、それに対して今現在生まれてくるコンテンツが勝てる要素は何ですかと。
 ストーリー的に素晴らしい作品なんて、過去に数千作もあるわけじゃないですか。それなのになぜ、直近のコンテンツを楽しまなきゃいけないのか。

 もちろん技術的な進歩もあります。映像が綺麗だとか。でもいちばん重要なのはやっぱり「ライブ」なんですよ。今のコンテンツが過去の名作に勝てる要素は「ライブ性」しかなくて。

藤澤氏:
 『イカゲーム』だって、半年経ったら今のコンテンツではなくなって、過去の名作アーカイブの中に押し込まれちゃうわけですよ。

松永氏:
 そういう意味では「今そこにしかない価値」を武器にしつつ、その楽しさを作っていくってことですよね。

今そこにしかない価値について考える総合ディレクターの松永純氏

 さっきの「ストーリーを飛ばされちゃう」話に戻るんですけど。じつはストーリーを読んでもらうためにも「今そこにしかない価値」がとても重要なのかなと思っています。

 『ドラクエX』を含めたMMORPGも、スマートフォンの各タイトルも、運営型のタイトルでものすごく価値があるものは共通してて。それはユーザーさんが持っているパラメータ資産ですよね。
 自分のキャラクターがどんなスキルを覚えているとか、どのキャラクターを持っているとか、そこの価値がいちばん高い。その価値に対してはストーリーすらも添え物になっていて、パラメータを獲得するチャンスがあるなら、ストーリーなんか飛ばしてもいいや、とユーザーさんが思うぐらいの価値がある。MMORPGもわりとストーリーはスキップされがちですが、それは同様の理由だと思うんです。

 でも、そのパラメータを使ってユーザーさんがどんな冒険ができるかってことには、さらにもっと価値があるはずで。だって皆、パラメータを高めたいのは、最終的によりよい体験を得るためなわけですから。だから、あらためてそのパラメータの先に物語の体験を置ければと思うんです。

藤澤氏:
 そうですね。

松永氏:
 そこに物語がデザートじゃなくて、おかずに戻るチャンスがあると思うんですよね。今回、自分がどんなパーティを選んだか、どんなフラグを踏んだかという点をストーリーに活かそうと思ってるのは、それが大きいです。

「最後に重要な選択がある」と説明されるだけで、ストーリーをちゃんと読むようになった

藤澤氏:
 これまでの『チェンクロ』って、スキップユーザー率とか分かるんですか?

松永氏:
 はい。それはオープンした日からずっと統計を取っていて。スタート時がたしか60%前後で。

藤澤氏:
 じゃあたぶん、『シンクロ』はそれがひとつのベンチマークになるでしょうね。ストーリーをスキップするユーザーがどれくらい減るか、みたいな。

スキップユーザー率を聞く株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

 これは想像力を働かせるしかないんですけど、「最後に運命の選択がありますよ」と前もって言われたら、「さすがにちゃんと読まなきゃなぁ」って思うはずなんですよ。

──それはまったくその通りで。「最後に重要な選択があります」と言われただけで、「じゃあちゃんと読まないと」と、『シンクロ』のベータテストの時に思いましたから。

藤澤氏:
 人間には「損したくない」という思いが誰しもにあるので。そこは慎重になりますよね。だとしたら、これはナラティブになっていると言っていいんじゃないですか。

松永氏:
 そうですね。そこはすごく、ストーリーを読んでもらうためには大事なことだと思ってます。

──逆に言うと、「たったそんなことなんだ」と自分で思ったんですよ。たったそんなことだけで、物語をちゃんと読むようになるんだと。

藤澤氏:
 この後に大きな介入があると分かっていると、ちゃんと読むようになるという。これってじつは近代の物語が忘れていたことかもしれない。

『ドラクエ』で学んだ総合ディレクターの松永純氏

松永氏:
 そう、でもそれを学んだのはやっぱり『ドラクエ』なんですよね。村人の話を適当に聞き流していたら、「次の洞窟はこっちに進め」という情報が含まれていて。

藤澤氏:
 「さっき何か言ってたけど、覚えてねぇよ!」って(笑)。

松永氏:
 ゲームの攻略に関わっているストーリーは、ちゃんと読まなきゃいけないんだ、という。『シンクロ』ではそれを最後の選択肢に紐付けたってことなんですけど。

藤澤氏:
 だとすると、この章の最後に重要な選択があるというのをしっかりと説明するか、それとも匂わせるだけにするかはさておき、そのことをちゃんとしっかり認識させておくと、ユーザー体験はぜんぜん違うものになるでしょうね。

松永氏:
 そうですね。そこは序章でも簡易クライマックスが体験できるようになってます。あと各章、冒頭でクライマックスの危機を予告する『幻視』があったり。いろいろ事前にドキドキしてもらえると思います。

藤澤氏:
 それは大きいですね。それなら読むだろうな、って今、自分でも思いましたから。読んでも読まなくても同じ、と言われたらたぶんスキップするんでしょうね。よっぽど深い興味がない限りは。

松永氏:
 そういう意味では、物語としてどっちを選ぶかという興味に加えて、「どちらかのキャラクターが仲間になる」というゲーム的な意味も入っているので、さらにドキドキしてもらえるはずです。

ゴールとの紐づけについて説明する総合ディレクターの松永純氏

 運営されているゲームの中でユーザーさんがいちばん大切にしている資産って、やっぱり自分が持っているキャラクターなので。そこを物語のゴールと徹底的に紐づけようと思ったんです。

藤澤氏:
 それが功を奏するんじゃないかと思いますよね。

松永氏:
 あと一般的なスマホRPGだと、物語の進行で仲間になるキャラって、魅力としてガチャのキャラに劣るように設計されがちですが、今回は徹底して、一番魅力あるキャラをストーリー分岐上に置いてます。この子がどうなるのかって、絶対気になってほしいので。

藤澤氏:
 これって、物語の分岐で仲間にならなかったキャラクターに関しては、後からガチャで手に入ったりといったこともなく、本当に生涯、仲間にならないと考えていいんですか?

仲間にならなかったキャラクターについて確認する株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

松永氏:
 少なくとも、そのキャラがあとでガチャで入手しなおせるとかは絶対にないです。

 何かしら大きな手間というか、それこそアカウントを作り直すとかに近しいような、代償みたいなものを払った結果、選び直せるみたいなことはひょっとしたら、回を重ねていくと必要になるかもと思っていますけど。

 まずはユーザーさんが自分の意思で「どっちを選ぶ?」ということに、ドキドキしてほしいなと思います。

「すべての要素を楽しめるように」という合理性が、ゲームを変えてしまった

藤澤氏:
 僕もずっとRPGのストーリー畑にいた人間として、昔よりも今のほうがむしろ、物語が一本道になりすぎていた気がしますね。

松永氏:
 そこは感じますね。ゲームとしてのクオリティは高まってるにもかかわらず。

藤澤氏:
 「それでいいや」というヘンな諦観というか不文律みたいなものが生まれていたのかな、と思っていて。昔の物語ってもう少し「こいつをここで助けないとずっと仲間にならない」みたいな、わりとぶん投げた分岐があったじゃないですか。

松永氏:
 「この子ってまだ仲間にならないけど、いつ仲間になるの?」「もうとっくに過ぎてるよ」という(笑)。

藤澤氏:
 だとすると昔って、けっこう物語に集中しながらプレイしなきゃいけなかったし。
 そう考えると、さっき出た「網羅性」というのは、もしかしたら必要悪で。「オレの体験であのキャラクターが仲間にならなかったのはどうしてくれるんだ」みたいな責任論が出てくるようになって。作り手も「そういう不幸な体験をさせたらかわいそうだ」って考えるようになったという。
 そういう望まれる形で、どんどん一本道になっていったという歴史があったのかもしれない。

網羅性について言及する株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

松永氏:
 そこは利便性というか。プレイする人は合理性を求めますもんね。

藤澤氏:
 合理性を高めた結果、一本道になって。一本道になった結果、「どうやっても同じ物語なんでしょ」と思われるから読まれなくなった。そういう悪循環に陥ったというのは、あながち間違った仮説ではないのかもしれない。

──似たような話で、海外のAAA(トリプルA)のFPSって、途中から「レールアクション」と呼ばれるぐらい、決まり切った演出を楽しむようになったじゃないですか。すごく広大なマップがあるんだけど、次にどこへ行くかはミニマップに全部表示されていて、基本的には矢印どおりに動けばよくなった。

 それに対して『ダークソウル』はその逆をやったんですよ。ミニマップをなくして、あくまで自分の目視で危険かどうかを判断しながら探索していくのを、もう一回やろうと。

 それに近いことがゲームのストーリーという分野でも起こったのかな、と思うんです。

藤澤氏:
 たしかにそうですね。僕らは勇気を持ってミニマップを外さなきゃいけない時に来ていて。『シンクロ』はまさにその先駆けじゃないですか。

松永氏:
 地雷を踏むかもしれませんが(笑)。

藤澤氏:
 いちばん先頭を行く人は、地雷も踏む運命なので(笑)。

──ミニマップも、合理化されていった結果なんですよね。ユーザーさんに便利なシステムをどんどんと追求した先に何があったかというと、マップも見ずにミニマップを見ながら進んでいくという。「それって冒険ですか?」って。

藤澤氏:
 便利さの功罪だよね。

便利さの功罪と語る株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

松永氏:
 ミニマップといえばまさにの話があるんですが、マルチストーリーのゲームって、必ずストーリー分岐マップみたいなものが、ゲーム中で確認できるようになってるじゃないですか。
 あれ、今回は一切やってません。あれを見ながらやると、体験としての感覚がすごく減ってしまうので。ないと不便だって声はたくさん挙がったんですけど。

──特にスマートフォンのゲームって、便利さを重視される分野でもあるから、そのような力学がどんどんと働いて、今があって。

松永氏:
 コンシューマのほうは網羅性を高めるような方向で進化をしていった。スマートフォンのほうではストーリーを切り離した結果、いつでも楽しめるようなデザート的な立ち位置になった。

 どちらも、原因は合理性、利便性の追求。それがどんどんと進んでいくなかで、そうじゃない何かを、体験としてストーリーを楽しんでもらうために、みたいな話なのかなと思うんです。

藤澤氏:
 整然としていた物語の整然さをあえて外してみました。それがどうなるかは自分で見極めてください。つまり「おかず」にしたよ、みたいなことなんでしょうね。

 良かった、整理がつきましたね(笑)。やっぱり間違ってない。

松永氏:
 ありがとうございます(笑)。「ストーリーを体験として楽しんでもらう」ことが、ひとりで遊んでもらうことのゴールなんですが、みんなでという意味ではもうひとつ……

 ここで同時性の話に戻りますが、その先で取り戻したい体験として、プレイして「うぉー!」ってなった後、次の日学校に行って「お前はどっちを選んだ?」という会話で盛り上がる、ってあれをどこまで再現できるか、があります。

SNSのネタバレについて言及する総合ディレクターの松永純氏

 そのためにあとひとつ思っているのが、ストーリーRPGって、ストーリーの内容がどうだったかという点にユーザーさんがすごく気を遣ってくださるところがあって。逆に言うと、SNSで感想を拡散していくというのもあんまりやっちゃダメだからやらない、という側面があると思ってて。そこも今回、2択というところを軸にして……

藤澤氏:
 解除していきたい、ということですか?

松永氏:
 はい。「どっちを選んだ?」という盛り上がりを改めて楽しめるような形にしたいなと思っています。製品版では今、SNSとの連携機能を入れようとしていて。どっちを選んだかというのが終わった後にボタンを押すと、ダイジェスト化された映像とともに、SNSにアップされるという。

藤澤氏:
 いいですね、革新的ですね。

松永氏:
 あとは自分のパーティも、ハッシュタグでキャラクターの名前が入ったり。そうすると、自分と同じパーティで冒険した人が分かるという。クローズドなものも含めて、できるだけコミュニティで盛り上がれるものにしたいなと。

藤澤氏:
 それはとても正しいと思っていて。僕は『ドラクエ』畑にいた人間ですけど、周りがビアンカかフローラかで盛り上がっていると、『ドラクエV』をやっていない人も「自分も体験したいなぁ」って思うじゃないですか。そういう効果って絶対にあると思うんですよ。

松永氏:
 やっぱりみんなと一緒の話題で盛り上がりたいよなというのが、ストーリーRPGの中で上手く機能するといいなと、改めて思ったりするんですよね。

ストーリーを読むことの意味を、「マインドセット」も含めてどのように提示するべきなのか

──あとはマインドセット【※】の話もしておきたいですね。『Project:;COLD』をやる時に「これは謎解きですよ」と言わないままに始めたというのがあって。

 もしこれが「謎解き」と銘打って始めていたら、みんながんばって注目してくれたと思うんです。でも実際は、謎解きかどうかも分かんないコンテンツだったので。そもそも謎があるかどうかも分からないので、あまり注目されないという。やっぱりマインドセットって大事だねというのを、この経験から学びました。

※マインドセット
先入観などから形成される思考様式や心理状態のこと。暗黙の了解や、思い込みなどがこれに当たる。

藤澤氏:
 僕はARG【※】初体験だったじゃないですか。ARGってどういう導入にするべきかというのも手探りだったし、「これは何なの?」ってワケの分からないところからスタートさせてはみたものの、あれが正しかったのかどうかは、いまだ分からないというか。

ラビットボールについて話す株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

 僕らもARGというものの理解が進んでいって、これからやるんだったら「これはARGですよ」というのをもう少し分かりやすくやる。
 ARGの世界にもともとある言葉なんですけど、リアルなのかファンタジーなのかの境界線のことを「ラビットホール」、つまりウサギの穴って呼ぶんです。アリスがウサギの穴を通って不思議の国へ行ったから、ラビットホールなんですけど。

 このラビットホールをどう見せるかというのが、ARGにおいては永遠のテーマなんです。『Project:;COLD』はそこの部分を若干、乱暴なやり方をしちゃったなと反省していて。「ここにウサギの穴がありますよ」というのを、もう少しちゃんと言うべきだったかなと。

※ARG
「Alternate Reality Game(代替現実ゲーム)」の略。現実世界に断片的な情報を拡散することで、不特定多数の参加者が協力して謎を解き明かすタイプのゲームを指す。

──ただ、『Project:;COLD』のコンセプトは「都市伝説」だったんです。「これってなんなの!? ホントなの? それともウソなの?」というドキドキ感から味わってもらうというコンセプトだったので。
 だから「これは新しいエンタメです」って大々的にやる選択肢もあったんだけど、「それをやると興醒めだよね」という我々の判断があって、こだわったポイントではあったんですよ。

藤澤氏:
 でも、それ以降に出てきたARGのコンテンツってみんな「これはARGですよ」という了解を植えつけてからスタートしていたんです。僕らみたいに本当にワケが分かんない状態から始めたヤツって珍しいと思うんですよ(笑)。あれは本当に乱暴だったねぇ。

 だからみんな、けっこう最後まで「これは何なの?」という状態で。

松永氏:
 かなり後半になってもその会話をしていた記憶がありますね。

──いまだに「何なのか」は分からないから。

藤澤氏:
 説明がつかないコンテンツなので(笑)。全部終わったところで「あっ、そういうものだったの!」という感じでしたね。

説明のつかないコンテンツと説明する株式会社ストーリーノート代表の藤澤仁氏

松永氏:
 「ゲーム」という自覚を最後まで持っていない人が多かったのかなと思いますね。

藤澤氏:
 エンディングでは若い人たちからは絶賛の声も多かったんですけど、いろんなものを見てきた人たちからは「あんまり物騒なことをするな」と怒られましたね(笑)。

 あのマインドセットは難しかったですね。

──でも、「謎解きですよ」と言った瞬間に、配られた説明書も丁寧に読まれていたと思うんですよ。さっき言っていた、最後に重大な選択があるから物語のテキストをちゃんと読むという話と同じで。

藤澤氏:
 まさにそうですね。マーダーミステリーのキャスティング表って、メチャクチャちゃんと読むじゃないですか。あの集中力でRPGのシナリオも読んでほしいですよね(笑)。

松永氏:
 そうですよね(笑)。

マダミスのようにRPGのシナリオも読んでほしいと願う藤澤仁氏と松永純氏

──でもマーダーミステリーのスゴさってそこで。正直を言うと、ストーリー自体は大したことないじゃないですか。

松永氏:
 物によりますね(笑)。

──でも集中力を持って読むということが、あの仕掛けのミソで。

藤澤氏:
 マーダーミステリーって、トータルとしての完成度はまだまだ粗い遊びだなぁと思っているんだけど。でも、最初にキャラに成りきるセットアップの面白さは、バツグンなんですよね(笑)。

──以前、一緒にプレイした時もそうですけど、セットアップがね。雰囲気のある部屋を借りて、みんなでテーブルを囲んで座ってという。あのセットアップも含めての体験なんですよね、マーダーミステリーって。

藤澤氏:
 だから、自分が物語を読むことの意味性さえ植えつけてあげれば、みんな一生懸命読むってことなんですよ。『シンクロ』はまさに意味性を植えつけている試みだから、これは読みますよね。

──今日は「ゲームのストーリーがなぜ読まれなくなったのか」とか、いろんな話が整理されましたね。

藤澤氏:
 結局のところ「プレイヤーに読む理由を与えられていなかったから」という答えでよさそうですね。

松永氏:
 だからできるだけその理由を、マインドセットも含めてどう感じてもらうかってことなんですよね、きっと。

藤澤氏:
 今日の序盤で「網羅性」って言葉を繰り返していたけど、網羅性みたいなものが出てきたからこそ、話を読まない人が増えてきたってことですよね(笑)。ともすると見落とすぐらいヤバイから、ちゃんと読むという。

松永氏:
 そうですね、そこは大事な気がします。

総合ディレクターの松永純氏

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編集長
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。 元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999
ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』で、クリエイターインタビューや業界分析記事などを担当。現在は『電撃オンライン』『サンデーGX』などでゲーム記事を執筆中。また、アニメに関する著作も。
Twitter:@ito_seinosuke
編集
ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a
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