2022年3月23日よりサービスが開始された、セガのiOS/Android用ソフト『シン・クロニクル』(以下『シンクロ』)は、スマホ向けのファンタジーRPGとしてこれまでにない新たな試みにチャレンジしている作品である。
「あなただけの、一度きりの物語を。」と銘打たれている『シンクロ』では、各章のクライマックスでプレイヤーに「究極の2択」が迫られる。やり直しできないこの選択によって、その後の物語の展開はもちろんのこと、仲間にできるキャラクターも変わってくる。
スタンドアロンな環境で動作する従来のRPGであれば、セーブとロードを使ってそれぞれの選択肢を選び直すことも体験できるが、運営型のゲームである『シンクロ』では、この2択はまさに一度きりの選択となる。それだけにこの2択はプレイヤーにとって強く印象に残る体験となるだろうが、一方でリリース前のユーザーの反応を見てみると、このシステムに戸惑いや不安を感じている様子も見受けられる。
電ファミニコゲーマーではこれまで、『シンクロ』の総合ディレクターである松永純氏へのインタビューや対談を通じて、『シンクロ』の新たなチャレンジに込められた意図を伺ってきた。
『ドラゴンクエストX』や『Project:;COLD』で知られる藤澤仁氏との対談に続いて、今回はニトロプラス所属のシナリオライター、下倉バイオ氏と松永氏の対談をお届けする。
下倉バイオ氏は、『月光のカルネヴァーレ』『スマガ』『凍京NECRO〈トウキョウ・ネクロ〉』といったPCの美少女ゲームでシナリオを手がけているほか、『STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)』にシナリオ構成協力として参加している。また、2022年1月より放送開始されたTVアニメ『東京24区』で、ストーリー構成・脚本を務めている。
今回の対談にあたって、下倉氏にはサービス開始前の『シン・クロニクル』を先行してプレイしていただいた。
下倉氏はシナリオライターとしての実績と経験が豊富なだけあって、普通のプレイヤーでは気がつかないような『シン・クロニクル』のストーリー構造に込められた意図を、そのプレイを通じて鋭く見抜いていた。詳しくは対談本文で確認してほしいが、これにはディレクターである松永氏も驚いていた。
『シン・クロニクル』をプレイしてみようかと迷っている人は、ぜひこの対談を読んでみてほしい。これまでのスマホ向けRPGとは異なる新たなチャレンジによって、『シンクロ』がどういった体験を目指しているのか、下倉氏と松永氏の対話によって明快に語られている。同作がスマホゲームにおける物語の新たな楽しみ方を切り拓く作品となっていることが、ここから読み取れるはずだ。
聞き手/TAITAI
文/伊藤誠之介
編集/豊田恵吾
撮影/佐々木秀二
※この記事は『シン・クロニクル』の魅力をもっと知ってもらいたいセガさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
『シン・クロニクル』はゲームで物語を語るということの、ひとつの答えになっている
松永氏:
電ファミさんから「RPGのシナリオにまつわるお話をしてみたい方はいませんか?」と聞かれた時に、下倉さんのお名前を挙げさせていただいたんです。以前からお話をさせてもらいたかったので、今、めっちゃ緊張してます(笑)。
下倉氏:
以前に奈須きのこさんと対談されていたじゃないですか。「それなのに、なんで自分に声がかかったんだろう?」と思っていたんですよ。
松永氏:
下倉さんはPCやコンシューマのノベルゲーム等で活躍されていますが、いろいろな対談やインタビューの中で、プレイヤーとしての視点にすごくこだわられた回答をされていて、それが個人的にいつもツボというか、共感できると思っていたんです。実際に作品を遊ばせていただいても「わかる!」という部分が多かったので、ぜひ一度お話をさせてもらいたいなと。
下倉氏:
それはたいへん光栄です。ありがとうございます。
──下倉さんは、ゲームでしかあり得ないというか、ゲームならではのシナリオの急先鋒にいらっしゃる方だと思っていて。今回、松永さんの作られている『シン・クロニクル』も、スマホRPGとしてはかなりチャレンジングなことを、シナリオのうえでやろうとしているので、今回はぜひおふたりのお話を聞いてみたかったんです。
対談にあたり、下倉さんに『シン・クロニクル』のプレイを事前にお願いさせていただきましたが、どのあたりまでプレイされたのでしょうか?
下倉氏:
序章と第1章まではクリアしました。「なるほど、こういうふうに進んでいくんだな」という感じはつかめた気がします。
松永氏:
第1章まででも、けっこうな時間がかかったでしょう。ありがとうございます。
下倉氏:
「これはけっこう深いぞ」と思いながら、遊ばせてもらいました。
松永氏:
ありがたいです! スマートフォンのゲームとしては、わりと出だしからボリューム感があるものになっているんですけど。ユーザーさんに選択の重さを感じてもらうために、どうしても1章につき、あれぐらいのボリューム感が最低限必要なのかなと思っていて。
下倉氏:
なるほど。
松永氏:
選択の重みと同時に、スマホだからこそのライブ感というか、他のユーザーさんとの違い「オレはこうだったぜ!」という部分でも盛り上がれたら、というのを念頭に置いて作っています。どちらもやるために、テキストの量だけでなく、システム的にも工夫を入れていって。結果、こうなりました。
下倉さんはこれまでの作品でも、プレイヤーに没入感というか、何かしらの感情をキチンと与えるためにいろいろな工夫をされているなと、すごく感じていて、今日は下倉さんがそういった工夫の部分をどう考えて作ってらっしゃるのか伺いたいなと思ってやってきました。
下倉氏:
どこまでご期待に応えられるのか、わからないですけど。自分はゲームにこだわりがあるというよりは、「ゲームに最適な物語をやるならこういう形なんじゃないか」という意識でいて。だからたとえば、今はアニメのシナリオをやっているんですけど、そうすると今度は「アニメで何ができるんだ」という意識で取り組んでいるつもりではあるんです。
でも、ソーシャルゲームにおいてシナリオはどういう役割を果たせばいいんだろう、というのが、逆によくわからなくて。
──えっ、それはなぜですか?
下倉氏:
ソーシャルゲームが最初に出た頃は、シナリオが軽んじられていたと思うんです。そこから『チェインクロニクル』とか『Fate/Grand Order』(『FGO』)とか、いろいろあって。今はストーリーがようやくここまで来た、という感覚があると思うんですね。
僕はソーシャルゲームをやり込んできた人間ではないので、「ソーシャルゲームにおいてシナリオってどういう役割を果たすんだろう?」とか、「なんでこういう役割を果たさないんだろう?」とか、疑問がすごくたくさんあって。自分のほうからは、そういうところをお伺いしたいなと。
──こちらとしても、下倉さんのその疑問を松永さんに、ストレートに聞いてみたいなと思うのですが。
下倉氏:
でも……じつは、今回『シン・クロニクル』の序章と第1章をやらせてもらって、そこに対する疑問がだいぶ解けちゃったかな、みたいなところがあって(笑)。
松永氏:
そうなんですか!? 遊んでいただいて、それで何か解けたのだとしたら、それはすごくうれしいですけど。何がどう解けたのか、ぜひ伺ってみたいです。
下倉氏:
「そもそもソーシャルゲームにおいて、ストーリーは本当に必要なのか?」って、自分にとってはそこからすでに疑問だったんです。ゲームをやっている時に、お話が邪魔なことって、けっこうあるじゃないですか。なかでもソーシャルゲームは基本的に、ストーリーを噛み合わせる状況を作るのがメチャクチャ難しいと思っていたんですよ。
自分はノベルゲームが出自なんですけど、ノベルゲームはそもそも「物語を読ませるのにいちばんコストパフォーマンスの高い媒体がノベルゲームだった」というところがあって。キャラクターの立ち絵と背景というシステムを使って、いかに少ない背景と立ち絵でたくさんの物語を語るかというところに重点が置かれて作られたものが、ノベルゲームであるという認識なんですね。
それは、ひとつには素材とかを作るコストが安いというのもあるんですけど、もうひとつはゲームシステムを考えなくてもいいんです。物語を語ることがシステムのメインになっていて、分岐というのはもともと物語に属するものですから。だからそれ以外の面倒くさいことを考えなくてもいい、というのがあったんですよ。
でもソーシャルゲームは逆にゲームシステムがメインになっていて、物語を語ることを第一には考えられてはいないじゃないですか。そこの食い合わせをどうやってうまく合わせればいいんだろう、というのがぜんぜんわからなかったんです。
──物語を語ることがメインになっているか、ゲームとして遊ばせることがメインになっているか、の違いということですか。
下倉氏:
コンシューマとかだとシナリオライターがいなくて、ゲームのディレクターさんが片手間にシナリオを書いちゃう、という話もよく聞くんですけど。でも「ゲーム」を作りたいんだったら、それって正しいと思うんです。
物語を語りたくてゲームを作るのと、ゲームを作りたくてシナリオを書くのは、それぐらい乖離があると思っていて。そこをどうやって組み合わせたらいいんだろうというのが、ソーシャルゲームをやる上でけっこう疑問だったんです。
でも今回『シン・クロニクル』をプレイしたら、今まで長くやられていた経験もあると思うんですけど、そこがうまく噛み合っていて。ゲームで物語を語る上で、これはひとつの答えなんじゃないかと感じたんです。
松永氏:
おお、めっちゃうれしいです!
『シンクロ』の語り口は2時間の映画ではなく、日常の会話を少しずつ積み上げる形になっている
──今の下倉さんのお話をもう少し掘り下げさせてもらうと。フィーチャーフォンとかスマホの初期のソーシャルゲームでは、物語はあくまでフレーバー的なものでしたよね。メインストーリーみたいなものは特になくて、各キャラに設定があるだけ、といった形で。そこからだんだんと、メインストーリーが組み込まれるようになって。
下倉氏:
以前の松永さんと奈須さんとの対談でも話題に出ていましたけど、ちょっと前のソーシャルゲームだと、ストーリーのあいだに戦闘が挟まっていたじゃないですか。「話の途中だが、ワイバーンが襲ってきた!」みたいな(笑)。でもそれって、システムとお話が噛み合っていないというか、完全にコンフリクトを起こしていますよね。
恥ずかしい話なんですけど、僕はゲームというものに本当にストーリーが必要なのか、よくわからなくて。というのも、自分自身の好きなゲームは『風来のシレン』や『シヴィライゼーション』、『マインクラフト』といった、お話がまったくないものなんです。システムだけで延々と、カギカッコ付きの「ゲーム」をやらせてくれよ、みたいな感じで。
FPSやオープンワールドのゲームでも、プレイしている途中でムービーパートが入ると、なんだか途中でフッと冷めちゃうところがあるんです。今のゲームは、感情移入を途切れさせないようにいろいろと工夫しているのもわかるんですけど、根本的にストーリーを語る上でシステムが邪魔をしちゃう感じになるのはイヤだなと思っていて。
──なるほど。だから下倉さんご自身は、物語を語ることに特化したノベルゲームにこだわられているんですね。ゲームとストーリーとの関係で、下倉さんが特にソーシャルゲームに対して物足りなさを感じているのは、どういったところでしょうか?
下倉氏:
ソーシャルゲームの場合、ゲームを作りたいというよりはどうしても、運営していく意識のほうが強いと思うんです。KPIとの兼ね合いでユーザーを離さないために、「テキストを○○KB以内にしなきゃいけない」といったふうに、ストーリーを書きたいという想いとは別の理屈によるコンフリクトがあると思っていて。
そこの部分で、数字と物語の両方を見て調整できる人って、基本的に少ないと思うんです。両方のバランスを取ることができる人、そのシステムに噛み合ったコンフリクトを起こさないストーリーを作れる立場にいる人って、そんなに多くはいないだろうなと。
でも『シン・クロニクル』は、ステージが進んでいって、お話のパートが始まって、またステージに戻る時のシームレスな感じだとか、ゲームとお話が切り変わるところにストレスがないんです。これまで何作も作られてきて、システムと噛み合った物語を作ろうという意識があるからこそだと思うんですけど。でもこの自然な感じというのは、やっぱりシステムとお話の両方を見ていないとできないなと、すごく感じました。
松永氏:
私は逆に、『シレン』とか『マインクラフト』とかをやっていても、「もうちょっとストーリーが欲しいな」と思っちゃうタイプなんです。マイクラで村を見つけたら、こっからなんかクエストはじまったりしないかな?とか思っちゃう(笑)。なんとかしてゲームシステムとストーリーを一緒にできないかな、と常日頃から考えているのがたぶん、ベースにあるんだと思うんです。
ソーシャルゲームにストーリーって必要なの? という疑問には「確かに」と思うところもあって。ソーシャルゲームのサイクルの本質は、自分のデータ資産を強化するところにあるのだと思っています。日本のゲームだと、資産というのはだいたいキャラですよね。
ユーザーはストーリーに対する関心よりも、自分のゲットしたキャラクターを強くしたいという想いのほうがずっと強いので、たとえストーリーがあっても、ストーリーを飛ばす人が多かったと思うんですよ。だってキャラクターのほうが大事ですから。それは、そういう構造のゲームだから正しいことで。
でもキャラクターって本来、物語と不可分だと思うんです。そのキャラクターの背景とかも含めて「こいつにはどんなドラマがあるんだろう」っていう想像と興味が、キャラクターの価値を高めてくれる。スポーツ観戦も選手のことを知ってるほうが楽しいし、音楽だってアーティストのことを知ってる方が楽しい。
キャラがめっちゃ好きで、キャラを集めて強くするのが基本です、というのが昔のソーシャルゲームの典型だったと思うんですけど。でもそこに物語がないと、僕は物足りないなと思っていたんです。そこで、キャラクターに自然な形でストーリーをつけようというのが、『チェインクロニクル』のスタートだったんです。
──そこからメインストーリーだけでなく、キャラクターごとに個別のストーリーがついているという『チェンクロ』の形式が生まれて。さらには『FGO』などに影響を与えて、他のスマホゲームにもどんどんと広がっていった、という流れですね。
松永氏:
それをやったことでユーザーさんにも喜んでもらえて、きちんと意味があったと思っています。でも5年、6年と経ってくると、ユーザーさんもキャラにストーリーが付いていることに慣れてきて。
昔は、キャラクターに付いているストーリーを読むことで、そのキャラが大きな物語の一部にいるような感覚があったのに、さっき下倉さんがおっしゃっていたような、ゲームと物語のつながりがフッと途切れてしまう状態になってきている気がしたんです。キャラとストーリーだけでなく、バトルとストーリーを交互に繰り返すシステムなんかも同じように感じて。
じゃあ次はどうしたらいいんだろうと思って、『シン・クロニクル』ではクライマックスに大きな選択があることを柱にしつつ、そこに至るまでのメインストーリーにキャラクターたちの物語を組み込みました。最後にゲームとして重要な選択があることで、そこに至るまでのストーリーにも身が入るし、そこに至るまでの物語でキャラクターたちが掘り下げられることで、最後の選択がより熱くなる。ゲームと物語が相乗効果を生むことを目指しています。
下倉氏:
『チェインクロニクル』で生まれたキャラクター個別のシナリオって、ゲームのメインストーリーの進行とは分離していますよね。メインストーリーをやって、後からキャラ個別のシナリオを読んで、それぞれ別個に満足感が高ければオッケー、という形になっている。
それに対して『シン・クロニクル』は、メインストーリーとキャラ個別のシナリオの両方を並行して見ると、おもしろいという作りにちゃんとなっているんですよ。それはシステムとして物語をきちんと融合させようとしているし、ソーシャルゲームの試みとしてアリだなと、強く思いました。
松永氏:
ありがとうございます。おっしゃられたとおり、今回はいっしょに見るから面白い、というのをすごく意識して作っています。ダンジョンをクリアした後に、パーティにいるキャラクターの誰かと話すキャンプシーンが最たるもので、ダンジョンをクリアした一瞬の合間に、誰と会話するか選ぶことによって、ストーリーの感じ方がちょっとずつ変わっていくという体験になっています。
ルールとしては、話す相手を選ぶだけです。ですがそれによってメインストーリーの進捗への影響があったり、関係性の変化がラストにつながるようになっていたり、そもそもダンジョンクリアの報酬という位置づけになっていることによって、物語に入りこめるようにしています。
ここはモバイルゲームらしい、パーティ選択の自由度や、クエストごと区切られた構造があるからこその楽しさだと思っていて。モバイルゲームと、違和感なくストーリーが読めるものとの、ちょうどいいバランスのところを狙ったので、そこが伝わったのだとしたら、すごくうれしいなと思います。
下倉氏:
僕は本当にそこの部分が、『シン・クロニクル』をやっていて「あぁ、なるほど!」と思ったところなんです。なんていうんですかね……ストーリーの質が、自分が今まで作ってきたゲームのシナリオとは違うな、と思ったんですよ。
自分がノベルゲームのシナリオを作るうえでは、お客さんにどういう情報を与えて、どういうタイミングでどういう感情を持ってもらって……というふうに、感情をコントロールしたほうが、お客さんに対して効果的にお話を伝えられるという認識なんです。その究極は映画だと思っていて。
映画って、全部の情報をどういうタイミングでどう見せるかというコントロール権が、完全に作り手のほうにあるじゃないですか。それでお客さんを2時間のジェットコースターに乗せるわけですよね。
そんなふうに自分としては、お話とは起承転結をこちらで作って、お客さんを集中させて、一緒に対話して……というものだと思っていたんですよ。実際、自分がソーシャルゲームの制作に関わった数少ない経験の中でも、そういうふうなモノ作りをしていたんですけど。
でも『シン・クロニクル』の語り口はそうじゃなくて、もっと散文的じゃないですか。
松永氏:
はい、そうですね。
下倉氏:
『シン・クロニクル』は2時間の映画じゃなくて、日常の会話なんです。日常の会話を少しずつ積み上げて、それがきちんとメインストーリーと繋がっているという作りが、「この方法論があったんだ!」と、ものすごく新鮮だったんです。
日常的なイベントから生まれるキャラクターへの愛着を、メインストーリーにつなげたかった
下倉氏:
映画だと、この展開をするためにキャラクターはこういう性格で、この性格だからこういう展開になって、みたいにストーリーの展開とキャラクターが不可分で。それが機能すればすごく効果的なんだけど、逆に言うと物語のためにキャラクターが消費されている感覚があるんです。
でも『シン・クロニクル』の場合はそうじゃなくて、キャラクターとの会話が、短い意味で見たら、起承転結になっていないじゃないですか。
松永氏:
なっていないですね。ふとしたシーンという感じにしています。
下倉氏:
ただのダベリ、みたいなこともあるわけですよ。そうやって、物語じゃなくてキャラクターの個性を立てていくことで、それが積み重なってメインストーリーに反映されていくという形で、物語を積み上げていく。それはキャラクターと毎日顔を合わせるというソーシャルゲームの特性とすごくマッチしていて、「なるほど、こういう形があるのか」と、本当に目からウロコでしたね。
松永氏:
下倉さんのおっしゃるとおりで、今回の仕組みはソーシャルゲームというか、『チェインクロニクル』でのキャラクターのストーリーの作り方からつながっているものですね。
キャラクターにストーリーがついているってつまり、どのタイミングで見てもいいものなので。メインストーリーがどういう状況であろうとこのストーリーを読む可能性がある、というなかでやっているんですよね。けれど厳密なストーリーラインのリンクがなくても、キャラクター同士の関係性が深まることで、仲間たちがメインストーリーを歩む義勇軍の一員になっていく感覚が生まれていくというのは、チェンクロで強く手ごたえがあった部分で。そこが活きていると思います。
もちろん、完全にメインストーリーと個別ストーリーにつながりがないというわけではないです。メインストーリーで出た伏線を、回収して広げるドラマもあります。けどそれも、伏線が出た直後かならず発生、というものではなく、もうちょっと先くらいに出てきても違和感のないものにして、タイミングの自由度を作って。
かといって、あまり後半に出てくると今更となるので、きっとこれくらいのタイミングまでには選ぶだろうというゲーム側のバランスを調整したり……というのを細かくやっています。これも運営経験が活きていますね。このキャラのシナリオ、このへんまでしかやってないユーザーさんだと変に見えるけど、このキャラを欲しいユーザーさんはきっとこの先までゲームが進んでるだろうから大丈夫だろうとか、そういう判断をずっとやっていたので。
そうやって確保した、ストーリーを見るタイミングの自由度が、「自分のタイミングでしゃべりかけた」という感覚の楽しさを今回作ってくれています。
──それがダンジョンをクリアした後に見られる、パーティメンバーの会話なんですね。
松永氏:
はい。日常的にダベっている感覚で、微妙にそのキャラクターのバックボーンを深掘りできる。そして最後にどのキャラクターの背中を押すのか? という選択になった際に「あの時のあのセリフが……」とピタッとは思わないかもしれないけど、あのとき暖かい時間があったな、って感覚が生きる感じになればなぁと。
結局、ストーリーの細かいつながりを意識しているというよりは、自分のパーティに入れているキャラクターだとか、ゲストキャラクターたちに対して、ユーザーさんがどうやったら愛着が沸くだろうか。そして、ユーザーさん自身がどれぐらい介入して主体的にそれをやっていると感じてもらえるか。それが大事で、それによって新しい遊び方になれば、と思ったんです。
……今、僕が後から言ったことよりも、下倉さんが先に説明してくれた言い方のほうがすごくわかりやすかったと思いますが(笑)。「そうか、そういうことをやっていたのか、自分は」と今、思っています(笑)。
──やっぱり分析力がさすがですね。
下倉氏:
いえいえ。ソーシャルゲームをいざ自分で作る側に立ってみると、「このキャラとこのキャラがいたら、こういうイベントシナリオになるよね」というのが、ある程度自動的に決まってしまうところがあるんです。それはそれで物語の作りとしてはたいへん正しいんですけど、でも一方ではキャラクターの可能性を殺していることでもあって。
自分がソーシャルゲームのシナリオをやっている時に、お客さんからのフィードバックで「このキャラだけは大嫌いだ」と言われたことがあって。「なぜなんだろう?」と思って深堀りしていったら、「もしかしてこのキャラには、こういう自意識があるんじゃないか」という、紋切り型ではないキャラの性質みたいなものが出てきたんです。それで、そこから続編のイベントができた、みたいなことがあって。
こういうことは、ライブでお客さんとやり取りできるソーシャルゲームだからこそできた展開だと思うし。逆に言うと、それを最初から可能な作りにしてあげるのは、すごく合理的だなぁと思うんですよね。
松永氏:
ライブといえば、ソーシャルゲーム独特のものとして、イベントストーリーがありますが、あれも日常の積み重ねですよね。
実際、僕も『チェインクロニクル』を9年運営していて思うんですけど、メインストーリーだけでユーザーさんがキャラクターに対して愛着形成されるかというと、そうではなくて。逆に仲間のキャラクターたちは第3部ぐらいまでは、メインストーリーにはほぼ出てこない。
じゃあ、キャラクターについている個別のストーリーで愛着が形成されるかというと、それだけでもなくて。結局はイベントごとに描かれる日々の日常シーンの積み重ねで、キャラクターに対する愛着が生まれているんだと思うんです。
そういう意味では今、下倉さんがおっしゃられたとおり構成上では狙っていない部分、キャラクターが自分で動いているというか、ユーザーさんの要望というか熱意を受けて積み重ねている部分で、どんどん愛着が重なっていて。おかげで、こちらの想像を超えていくというか、作劇上の役割とはぜんぜん違う人気の出方をするな、というのがあります。
──キャラクターに対するユーザーの反響が、作り手の意図を超えて大きくなるということが、ソーシャルゲームだとより大きくなるわけですね。
松永氏:
それって、すごく良いことだと思うんです。でもせっかくメインストーリーを用意しているゲームなのに、それがメインストーリーに集約されていないのが、ちょっとイヤだった(笑)。そこで『チェインクロニクル』の第4部では、これまでの仲間キャラクターたちにメインストーリーにしっかり主役として出てもらって、ファンの皆さんが作ってくれた愛着をメインストーリーに還元するということをやっているんです。
そして今、ゼロから始めるゲームだったら仕組み的にも紐付けて新しいことがやれるだろうと思いまして。だから『シン・クロニクル』はこういう構造でやってみて、どうなるかなと思っています。
下倉氏:
いやあ、これはすごく効果的であると同時に、めちゃくちゃコストがかかりますよね(笑)。
松永氏:
かかりますね(笑)。
下倉氏:
それは純粋にお金という意味だけではなくて、書ける人が限られるし、システム側との打ち合わせも必要ですから。