SNSが国家化した世界を舞台にした大規模マルチプレイアクション『Project Shaz』
──なるほど。その『Project Shaz』について、ご説明をお願いします。
保井氏:
プレイステーション5も視野に入れた、ハイエンド機向けのタイトルとして考えています。ジャンルはマルチプレイアクションゲーム。そのファンに届くものを作ろうと思っています。対戦も想定していますので、厳密にはPvPvEが最も近いという認識です。最大参加人数はおよそ30名。アクション性も高めというのが軸になっています。
既存のヒット作・企画に最新技術を用い、そこから新たなゲームを生み出すという点で、我々がチャレンジするに相応しいコンテンツであると思っています。端的には『フリーダムウォーズ』の精神的続編というのが適切かな、と。Theory Engineを使った、代表的なマルチプレイタイトルとしてローンチしたいと考えています。
『Project Shaz』の世界観は福島に担当してもらっていまして、立体機動のマルチプレイアクションを想定しています。
保井氏:
チーム体制としましては、私はスーパーバイザー……監修として参加。ディレクターは中舎、シナリオが先ほども紹介しましたが福島、アートディレクターは輪くすさがさんという方にお願いしております。
輪さんはカプコンさんのタイトルでアクションゲームを始め、多くのタイトルを作られてきた方です。メンバーはゲームを作るのが好きなゲームクリエイターで構成されており、「そのようなスタッフたちが作っています」というのは強くお伝えしたいですね。エンジニアリングも『GOD EATER』チームだったスタッフが担当しています。さらに、副社長の会社になるのですが、CURO(クロ)さんにもお願いする予定です。
福島氏:
世界観は「SNS同士で戦争があったらどうなるのか?」という設定で考えています。『フリーダムウォーズ』のときは「47都道府県対戦」のようなアプローチをしましたが、これって要するに自分で何かを背負って戦うということなんですね。体験としては珍しいものだと思っていまして、そこをより具現化させたらどうなるのか、というのを軸に考えています。SNSが「Social Network Nation=SNN」という国家になったという感じで、その中で戦いを繰り広げていく形です。
SNN・陣営は複数ありまして、それぞれ評価システムが違うなどの異なる特徴を持っています。この中でどう戦い、自分はどこに属するのか、そしてどこを裏切るのか、みたいな体験をイメージしています。また、キャラクターに関しても、SNNごとの文化、趣味嗜好の違いを表現できるように作ろうと思っています。
保井氏:
バトルシステムは基本的には立体機動前提にしたものになります。ただ、陣取りのルールもある程度組み込もうかと。『フリーダムウォーズ』の時にも「荊(いばら)」という象徴的なアクションがありましたが、『Project Shaz』では鎖を使ったアクションを考えています。TPSにおいて鎖は非常に優れた仕組みだなと思っていますので、それを軸にさまざまなアクションができるというものを想定しています。ゲームルールでは、「リンカー」……“繋ぐ”という意味の言葉があるのですが、それを大事にしたものとする予定です。
保井氏:
鎖に関してはどんなことができるのか、まだ試作中の段階です。ただ、どんどん繋いで、陣地を取っていくというルールを考えています。
福島氏:
あと、先ほどにも紹介しましたが、国家……SNNごとに評価システムが違うのですが、いずれかに足を運んで、根ざしていくことが可能です。「この期間はこの国家で戦う」といった形でプレイヤー自身が所属先を選び、選んだ国家の評価システムに従ってさまざまな実績を解除していくという遊びが楽しめます。
保井氏:
我々が重要視しているのはキャラクターとストーリー。それぞれを取り巻く環境ごとのエピソードがあり、それを重ねていくことを大事にしようと思っています。
この辺りはまさに福島と一緒に取り組んでいる部分です。その魅力を福島からもアピールさせてください。
福島氏:
SNNなる国家が誕生した世界で、それぞれに価値観があり、その中で発生する事件、出来事があり、集団を統率しているキャラクターごとのドラマがあるという構成になります。勢力もあり、それぞれで手を取り合ったり、主義主張や考え方、哲学の対立が起きるとか、そのようなものを描くことができればと思っています。
──多人数マルチプレイとのことですが、主はシングルプレイとなるのですか? それともオンライン専用とされるのでしょうか?
保井氏:
そこはいまのところ、どうしようかと検討中なのですが、どちらであっても作れる設計にはしています。ただ、マネタイズ方式に応じてゲームデザインは変えようかと。
もちろん、ネットワーク運用はあるのですが、基本的にはひとつのタイトルとして出したいと考えています
──たとえばパッケージで基本無料、といった可能性も視野に入れていると?
保井氏:
はい、そうなります。その辺は柔軟にしていますね。もちろん、パブリッシャーさんとのお話もありますから、そういったこともひっくるめて考えておく必要があるかな、と。
それと、これが入るかどうかは際どいのですが……弊社のメインプログラマーは『GOD EATER』で「バレットエディット」という、プレイヤーが弾の軌道を自由に制御・調整できるシステムを生み出した経緯があるんですね。そのようなユーザーが自ら作ったものを試せる遊びはすごく大事にしたいと思っていて。そういった要素を入れられるだけ入れたいとも考えています。
──ご紹介いただいたタイトル情報をどこまで記事に書いていいでしょうか(笑)。
坂尻氏:
まあ、立ち上げ段階ですので、何を大事にしているとか、どういう世界観のストーリーを考えているのか、というのをお伝えできたほうがおもしろいかな、と(笑)。特に世界観はすごく独特で、福島のカラーを出したストーリーとなります。
──何度か名前が出た『GOD EATER』は、基本的に4人+敵という構図でした。『Project Shaz』も同じような構成になるのでしょうか?
保井氏:
いわゆる『GOD EATER』に登場した「アラガミ」に相当する敵はいます。その敵に対して、複数のチームが戦闘を繰り広げるような構図です。優先的に敵を抑え込めたほうが多くのリソースを持ち帰ることができる、という対立構造を思い浮かべていただければと。
──強大なモンスター1匹に対し、討伐チームが複数いて、それぞれが争っていると。
保井氏:
そういうことですね。協力もできるし敵対もできる、という構図です。ルールの分け方はあるのですが、いずれにしろ現地でいろいろ協力しあったり、出し抜いたりといったことができる構図にしようと考えています。
──なるほど……。しかし、このような大規模なPvPマルチって珍しいように思います。
保井氏:
我々としては“みんなで遊ぶ”ということを大事にしていきたいと思っているんです。では、「みんなで遊ぶとはなんだ」というと、平たく言うと対戦もしたいけど協力もしたいよという、わがままみたいなものかと思っていて。
「今日は対戦の気分だけど1対1ではなくて、チーム戦で強い敵をみんなで倒したい」という、欲求に応えてくれるゲームですね。MMORPGとかはそういうニュアンスがあると思うのですが、それをもっと気軽にといいますか、「アクションゲームで暴れたい」という気持ちのゲームを我々としては作っていきたいなと考えています。
──立ち上げ段階ということは、まだプロトタイプを作るまでには至っていないのでしょうか。
保井氏:
試作はある程度やっている段階です。ここから絵をしっかり作り上げて、ゲームルールの検証に入っていこうとしているところですね。
──そうなると、すでに立ち上げからは1年ぐらい経過しているんですか?
坂尻氏:
エンジニアが少し考えていたものはあるんですが……今年に入ってからですので、3~4ヵ月ぐらいになりますね。
保井氏:
そうですね。大体それぐらいになります。
──なるほど。詳細を聞いていて改めて感じたのが、福島さんが設定などを担当される作品はフィクションでありつつも、現実味のある部分を根っこに持ってきて、時代性を取り入れているのが特徴なのかな、と。特にSNSを題材にしているのは、いま、福島さんが時代にフックする部分と考えているのかなと感じました。
福島氏:
そうですね……『フリーダムウォーズ』のときは都道府県対戦という形で入ったのですが、いま、これだけネットが浸透し、SNSが普及しているのを見ると、人との繋がりのあり方は随分変わったと思っているんです。
その中でFacebook、Google、Apple、TikTokなど、さまざまなSNSやプラットフォームが非常に大きな力を持ち、我々の生活に溶け込んでいる。ある意味、ないと生活ができないレベルのものになっていて、依存しているようなものがある。同時に、コミュニティごとに哲学とか、考え方の違いが生まれていて、それによる対立や分断、格差がSNS上でも生じている。その辺りをひっくるめてゲームにすると、おもしろいものが出来上がるのではないのかと。「争いから生まれるドラマ」を描いていきたいと考えています。
──SNSが国になっているというのは、たとえば資本主義、共産主義のイデオロギーの概念があって、それが国を超えた枠組みとして陣営ができた、みたいなノリになるのでしょうか。
福島氏:
個々のネットワークがそれぞれの哲学を語っているような生き方を定めていて、それに共感する人はこのコミュニティに集っている、といった感じですね。
──それを自分で選ぶと。
福島氏:
ゲーム的にある程度の制限はあるのですが、移籍していろいろなところへ出向き、自分の嗜好にあった場所を探したり、裏切って他の勢力に行くとか、そのような形にしたいと考えています。
国ごとにもいろいろ主義主張がありまして……たとえば「ハルモニア」という陣営は対人戦を非常に重視しているため、敵対勢力の撃破を普通に行っている。一方で「ウェル」という陣営は相互賛美者たちの集い……いわゆる「いいね」を貰うことを重視している。そのような違いがあるからこそ、「ウェル」で「いいね」を貰えない人が「ハルモニア」に移ることですごく評価されたり、その逆のようなことも起こる。「陣営によって自分の立ち位置や評価のされ方が大きく変わる」ということを、おもしろさとしてしっかり描いていきたいと思っています。
──なるほど、プレイヤーがこのSNSの世界で行き来するイメージなのですね。最初に勢力を選んだらそこで戦い続けるというオンラインゲームは多いですが、このゲームでは自分の好みに応じていろいろと行き来ができ、しかも楽しみ方も変わる、と。
福島氏:
はい。一度選んだら一定期間は再選択できなく……というシステムになるかもしれませんが、移籍は自由にできるようにしたいと思っています。
──それにしても、このロゴとか、もうだいぶ作り込んでいるように見えますが……。
保井氏:
それは輪さんの強みと言いますか、フルスタックのアートディレクターなんですよ(笑)。3Dモデルを作って実装段階までやってしまうぐらいに。コンセプトアートも普通に描いていますし、イラストレーターとしての腕もあり、かつデザインセンスも優れている。もう、本当に「ありがとうございます!」という感じです(笑)。
──しかしこれ、切り落とすのが大変そうに見えるんですよね……(笑)。
保井氏:
そうですね(笑)。
──で、いまの段階ではパブリッシャーさんとは組んでおらず、TVTで進めている、と。
保井氏:
現時点ではそうなります。
これは福島の作風でもあるのですが、現代性を前提にこのような世界観のコンテンツを作る。すると、人の本性が見えてくるといいますか、自分の最適解を求めて生きていくシミュレーション世界でのトライアンドエラーを体験できるものが作れると思っていて。そこは世界観構築において大事にしたいところですね。
福島氏:
流行りものをやっているわけではなくて、時代ごとに描くべき価値のある問題があると思っているんです。それはその時代の人たちがやる義務とまでは言いませんが、やったほうがいいことだろうと思っていまして。そのようなものをしっかりやり切ったコンテンツは決して古びませんし、その時代を生きる人たちに深く刺さるものになる。エンターテインメントとしてもおもしろく、心が動かされますから、後の時代になっても流行りものとして浅く見えるものにはきっとならないだろう、と。
ですので、時代的なことをやりつつも普遍的なもの、残るものを作っていきたいと思っています。
かつての“心残り”を実現する意図も込めたふたつのプロジェクト
──話は変わるのですが……いま、出版社さんも含めて、いろいろとインディーゲームの制作に協力するという動きがあるじゃないですか。みなさんほど実績のある方々なら、そのようなところと組んで出すというのも選択肢のひとつなのかなと思うのですが、それはTVTが掲げる方針とは違うのでしょうか? どのような考えで進めているのかがすごく気になりまして。
保井氏:
まあ、あまりそこまで熱心に動いていないというところもあります(笑)。波長が合うようならば、そのようなアプローチでも否定するつもりはありません。
坂尻氏:
ちょっと際どい話になるかもしれませんが……TVTの基本スタンスとして、クリエイターにIPを持たせたいというのが根底にあります。大きな会社さんからお声がけいただいたとして、「果たしてクリエイターのIP保持は守られるのか?」となりますと、そこまで簡単な話にはならないですよね。ですので、ある程度自分たちで見えるものを作ってから、話をしていこうと考えています。まずは自分たちでビジュアル面も含め、動くものを作り、その過程の中で一緒に組んでいただけるところを探していく、というのがスタンスとなりますね。
──なるほど。
坂尻氏:
どのプロジェクトもそうなのですが、軸になっているのはクリエイターなんですね。また、彼らにもいままでやってきた中で何かしらの“心残り”があるんです。それを実現させるタイトルというのをいま、出していこうとしている段階ですね。
──心残り、というのは具体的にどういったことですか?
保井氏:
そこは……では、小谷さんに聞きましょうか(笑)。
小谷氏:
Facebookで海外の子どもたちと繋がっているのですが、彼らに日頃から「さあさあ、次の『パタポン』はいつできるの? いつ遊べるの?」と問われていまして(笑)。ファンアートも送ってくれるんですね。
それを見ていると、「僕が作りたいという以上に、作らなくてはいけない責任がある」と思うんですね。『パタポン』のおもしろさは他の人にはできない、私にしか作れないものだったように感じていますので、もう一度、グローバルも視野に入れて、求めているユーザーさんに何とかして応えたい、と。
あと……いまはこの仕事をやりつつ、学校の先生もやっていたりするんですよ。
──え!? 復帰されたんですか?
小谷氏:
専門学校でゲームを作っている学生たちの指導をしてまして。そこで20歳前後の子たちに「昔、どんなゲームをやったの?」と聞くと、『パタポン』と言われることがあって。僕が作った人間であることは全く知らずに(笑)。
──(笑)。
小谷氏:
当時の子どもたちが『パタポン』というゲームを懐かしんでくれていて、しかもいま、いろいろなマルチプレイゲームをバリバリ遊ばれている。そんな彼らに音楽を題材にした本格的なマルチプレイのゲームを遊んでもらいたい、その楽しさを味わってみてほしい、というのもありますね。
あと、『パタポン3』の話をすると、発売日が2011年、東日本大震災が起きた後だったんですね。「みんなで楽しく遊ぼう」というテーマを掲げ、技術者としても悲鳴をあげるほどの仕様を組んで、特許まで取って発売したにも関わらず、あの当時の自粛ムードに飲まれてしまって。さらには、半年ぐらいPlayStation Networkのネットワークサービスが止まってしまったんですね。
──ああ……。
小谷氏:
『パタポン3』を買って遊んでくれたユーザーさんはそんな中、オフラインで楽しんでいただけたのですけど、サービスが復旧した頃にはみなさん、ほとんど遊び尽くしてしまっていまして。そういった状況もあり、せっかく作ったマルチプレイが盛り上がらなかったというのは、とてつもなくやり切れない思いでいっぱいでした。
ですので、今回は絶対にそれをやらなければ、という思いがあります。悔しさを払拭できるように、全部ぶつけていきたいですね。
保井氏:
福島さんはどうですか?
福島氏:
その場ごとにベストを尽くしてきたつもりですので、心残りという点ではあまりないんです。とはいえ、反省すべき点はたくさんあって。それをなかなか活かす機会が得られなかったというのは、心残りとしてありますね。
今回、保井さんを始め、いろんな方々と物を作れることになり、現代的なテーマをゲームの中で描くという機会を得られたのは非常にうれしく思っています。輪さんのようなすばらしいアートディレクターとお会いしたり、Theory Engineを開発しているエンジニア勢と一緒にモノづくりができるということも、とてもうれしいです。いままでの反省をTVTで活かしたい、そう思っています。
独立の根底には「ゲームやろうぜ!」の頃への原点回帰がある
──それにしても、いま、このタイミングで自己リスクに振り切って独立するのには、「なぜこのタイミングなのか?」「環境的にやりやすいことがあるの?」といった点が気になってしまいます。
保井氏:
結論から先に言えば、プロデューサーとパブリシティという職について知る機会があり、自分たちでIPを持つ形で世に問う準備ができたから独立したというのが大きいです。
先ほどの心残りの話とも関係するのですが、プロデューサーという職に向き合うにはある程度、パブリッシャーに在籍していないと難しい。さまざまな事情から、自分たちが作ったものを手放さなければならない頻度が高いということをまず知ったんです。
『フリーダムウォーズ』では原作をやらせていただきましたが、当初チームを組成するのが難しくて、「では、ディンプスさんと一緒にやりましょう」というところもひっくるめ、自分たちでしっかり作り上げないといけないんだな、と改めて自覚しました。まず作ることすら難しいんだというのが大元にあったんです。
当時いたシフトは本当にいい会社で、余談になりますが、私自身、経済的に厳しかった頃に社長に助けてもらったことがあり、一生恩義に感じています。ただ、ディレクターとゲームデザイナーとして伸び悩むというか、これ以上どうすればいいのか行き詰まっている部分もあったんですね。それで、わがままを言って退職させていただいて、パブリシティがわかり、プロデュースの職に近いところを見せてもらえる、ドワンゴさんに行かせていただきまして。
ドワンゴさんではそれを見せてもらい、そこで初めてパブリッシャーとディレクション、プロデュースの職と、その広げ方みたいなところまで全て見えるようになってきた。ドワンゴさんもいい会社で、エンジニアを重んじる気風がありました。ただ、一番衝撃的だったのはクリエイターを支える人たちの顔と熱意、働きを鮮明に見られたことだったんです。再生数という概念も新鮮でしたが、「こういうことを考えているのか!」と、心から思いまして。
あと、もともと私自身、ボカロPとしてニコニコ動画で活動していまして、先ほどの個人制作の話とも関係するのですが、ボカロPってユーザーと直接コミュニケーションする、トライアンドエラー可能なコンテンツじゃないですか。
ですので、インディータイトルの良さとはそういうところなのだろうなと感じましたし、実際にそのクリエイターさんとお会いすることで深く知ることができたんですね。
象徴的だったのは……過去にシナリオを手伝わせてもらったゲームで『デカボイス』というタイトルがあるんですが、これが実況映えするゲームとして、いまも実況されることがあるんですよ。それを間近に見たことで、メディアさんも含め、広げようとしてくれる方々が求めているタイトルのイメージが湧き、そういうゲームを作ってみたいと思うようになってきたんですね。
そういうことを網羅的に見たことにより、「独立して自分たちでものを作り、さらにいろんな人たちと協力し合いながら作っていけそうだ」というビジョンが見え、独立を決断したというのが根本なんです。「こういうことをやってもいいんだ」という体験と、その延長上に福島さんたちが「またやろうぜ」と言ってくれて繋がっていき、いまに至ったという感じです。
──逆に福島さん、小谷さんが「TVTで一緒にやろう」と思ったきっかけはなんだったのでしょう?
福島氏:
僕の場合、流れるがままと言いますか(笑)。ちょうどSIEさんを辞めた頃、保井さんのチーム……というよりは会社にお声がけいただいたという流れでした。
もともと、保井さんは『フリーダムウォーズ』で組んだときに極めて優秀な企画者だと感じていましたので、ぜひ一緒に仕事をしたいと思っていたんですね。SIE時代はなかなかそれができなかったのですが、晴れてそれが実現しまして。なので、押されるまでもなく……引き寄せられた感じです(笑)。
小谷氏:
一番大きいのはSIEのスタジオから居なくなったことです。大きな会社ですから、辞めるのは本当に勇気がいることで、何かをやりたいと思ってもここを出るのは……という思いは大きかったです。おかげで自由になれましたけどね(笑)。
中堅のパブリッシャーでプロデューサー業務をやっていた中、マルチプレイの新しいゲームを作りたいという思いがありまして。そんな中、Theory Engineなるものを開発しているという話を聞いて、新しい遊びというのはこういうものをきっかけに出来ていくんじゃないのかなと感じ、「じゃあ、一緒にやっていこうか」と。
私自身、『パタポン』にけりをつけないと次にいけないという思いがすごく強くて。その後にいままで寝かせておいた企画をしっかりやりたいと思っているんですね。一緒にわがままを聞いてもらう、持っているものを出し合うという形で、いまご一緒させてもらっています。
──TVTがいまやられていることって、やり方だったり、あるいは取り組むマインドだったり、そういった部分で大きな会社やデベロッパーとどういった違いがあるんでしょうか。
保井氏:
違いですか……。端的に言って、自由になったというのは大きくあると思います。
小谷氏:
クライアントもいませんからね。
保井氏:
そうなんですよね。
小谷氏:
クライアントがいる場合、やらなければいけないことがあったり、次の仕事という話で顔色をうかがうことがありますよね。そこを軸に物を考えるときと、そうではない状況で物を考えることには大きな違いがあって。自由になったいまだからこそ「何を軸にして物を考えるのか」というのは大きな課題ですね。
保井氏:
インディークリエイターの方々とお話ししたとき、改めてこういう世界もいいなと思ったのもあります。「がんばって自分たちもやろうよ」と思えるようになったのが、正直な本心ではないのかなと思います。
福島氏:
個人的にはコナミ在籍時やSIE在籍時といまを比べると、あまり変わっていないんですよね。「おもしろいゲームを一生懸命作る」ということだけですので。あまり戦略的なことはやっていません。
ただ、TVTにはなぜだかおもしろい案件が多い(笑)。保井さんの営業力もありますし、いろいろなご縁からやっていることもいっぱいあるんです。それがどれもこれもおもしろい。チームで言えば、割と大きな会社だと興味が持てないことをやることもあるんですけど、TVTに関してはそこが一切ないんですね。非常に楽しくやらせていただいています。
保井氏:
TVTでは“みんなで遊ぶゲームデザイン”というのをすごく重要視しているんですよね。直近ですと『神椿市建設中。』。作りたいと思ってもなかなか作らせてもらえないARGタイトルでしたが、ありがたいことにTHINKRさんに任せていただいた。
小谷氏:
なんというか、本当に「ゲームやろうぜ!」っぽいんですよ。バックグラウンドにその思想が潜んでいるというか、そのノリを感じさせられるんです。
──電ファミでも『Project:;Cold』でARGをやっていましたので、『神椿市建設中。』にはメチャクチャ注目していました。
保井氏:
あれはかなり「ゲームやろうぜ!」の感覚に近いんです。そもそも私自身、「ゲームやろうぜ!」に参加したときは企画書という概念を全く知らなくて(笑)。『神椿市建設中。』もそれぐらいわからなくて、ARGの文献を漁って「あ、こういうゲームデザインがあるんだ」と気づかされたり。
──あれはどのようなご縁から?
保井氏:
ドワンゴさんの業務をしていた中、THINKRさんをご紹介いただいたんです。そこからTHINKRさんとのお付き合いが始まり、『エンゲージプリンセス』でPCブラウザゲームの制作協力を打診したのですが、そこから交流が始まって、段々とTHINKRさんと仲良くなっていきまして、じつは一時期、TVTのオフィスも間借りさせていただきました。そんなご縁から『神椿市建設中。』に関わらせていただくことになったという流れですね。
──『神椿市建設中。』は作りが本格的で、「一体、誰がやっているんだろう!?」と思っていたのですが、TVTが関わっていたんですね。
保井氏:
はい(笑)。ゲームデザインは私とTVTの企画スタッフで、ゲーム部分のシナリオは福島が担当していました。
福島氏:
ただ、謎絡みの問題はその道の才能を持った方々に作っていただいています。
発信したいセオリーを持つ人たち、みんなと遊びましょう。
──予定されているプロジェクトはスマホではなく、コンシューマに重きを置く方針なのでしょうか。
保井氏:
家庭用機にコミットしていきたいです。ただ、先ほど言ったように“みんなで遊ぶ”という点を大事にしたいと思っていまして。30人以上が参加できる高速マルチプレイアクションはもちろん、たとえばDiscordで1000人が参加して謎を解いていくような、いわゆるマッシブな体験も我々としてはやっていきたいです。
なんでしたら、それらって組み合わせることも可能じゃないですか。SNS国家というのも、ある意味マッシブな体験と、勢力や敵と戦う濃密な体験の1対1で作っている新しいおもしろさが生まれたりする。同時に『Project JabberWocky』のような少人数だからこそおもしろい遊びも当然あります。『Among US』のような、駆け引きが深い人狼ゲームも、要はマルチプレイゲームですよね。我々としては、スタンドアローンのゲームであっても、そのような“みんなで遊ぶ”という要素は大事にしたい、しっかり入れていきたい。マルチプレイを大事にして、ゲームを作っていきたいと思っています。
坂尻氏:
上場されている企業さんはビジネスが先行してしまいますので、ヒットが確実に約束されているタイトルでなければ作りにくくなっている。ただ、やっぱりユーザーのニーズとしては新しい作品がどんどん出てほしいというのがある。また、過去に出たタイトルの続編を期待する声もすごくある。
我々はそれをクリエイター主導で世に出していきたいというのがあります。しかも、いまはUnityやUnreal Engineが広がったことで、ゲームが比較的手軽に作れて発信できるようになり、販路が必要なくなっている。自分たちでできる環境というものが整ってきているからこそ、やってみようというのが、ちょうど1年前に話したことでもあるんですね。
保井氏:
その通りですね。本当にいまは健全な状況にあると思っていて。「ゲームやろうぜ!」もクリエイターを立ててくれるプロジェクトでしたが、いまはインディーでそういった方々が立っている。まさに全てをコントロールできるようになっていて、本当に理想的な環境になっているなと思いますね。
──昔なら、ROMをどれだけ作るとか、その前にお金を用意してとかいろいろあったじゃないですか。そのようなことがなくなって、クリエイター主体の世界観がいま、出来上がりつつあるのは本当にすごいと思います。
余談になりますが、インディーゲーム・クリエイター支援の取り組みも活発化していますが、あの辺の動きについてはどう思われていますか?
保井氏:
私から言うと、大賛成です。大手に所属しながらできなかったことが、どんどんできるようになっていく。人の流動性が上がっていること自体がすばらしいことだと思っています。
さまざまな制作の形が出てくるというのは、本当に歓迎することだと思います。インディータイトルを見ていますと、何だか1周回って「ゲームやろうぜ!」の頃に戻ってきた、原点回帰感がすごくあるんです。ありがたい状況だなというのが率直な思いですね。
福島氏:
プレイステーション3辺りから開発規模が大きくなって、AAAなど、タイトルの規模を表す呼称が広まっていった時期があるじゃないですか。いまはUnity、Unreal Engineの登場によって参入障壁が下がり、ゲームを作りやすく、出しやすい状況になってきていますよね。
結果的にAAAとインディーの二極化も生じていますが、僕は非常にいいことだと思っていまして。すごく手間暇をかけ、最新技術を使ってものすごいボリュームを持つAAAはハリウッド映画大作。一方、インディーは独自性の高さと、作った人それぞれのこだわりで勝負した作品という多様性が生まれている。
初代プレイステーションのときは割とカオスな状況だったじゃないですか。「ゲームやろうぜ!」もカオスそのものでしたが(笑)。ただ、新しいものが芽吹くのは、そういう状況のほうが断然多いんですね。そこから生まれたものを、AAAが真似をするという流れがこれから出てくるように思っていて、本当に喜ばしい環境だなと感じます。
保井氏:
あと、いまってプロデューサーやディレクターがトライアンドエラーできる回数が一気に増えたと思うんですよね。これはけっこう、重要だと思っていまして。
福島氏:
インディーだとエンジンを使って、仲間を集めて、素材を購入したりすればゲームが作れて、短いスパンで完成できればその反省ができて、改善の機会が得られるんですよね。それはすごくいいことだと思います。
小谷氏:
『XI[sai]』を作った頃がそうでしたが、「フルプライスのものを作りなさい」と言われるんですよね。正直、僕は当時『XI[sai]』は安価で売ってもいいと思っていたんですよ(笑)。
一同:
(笑)
小谷氏:
『XIゴ』はシンプルに面白いのですが、フルプライスのバリューをつけるためにゲームモードにコスト、つまり年月を掛けざるを得なかったんです。
いまは本当に幸せで、アイデアをポンと形にして、失敗もすぐに経験できる。だから、僕もいま作っているものを早いところ形にして失敗したい……いや成功したいですが(笑)。もっとよくするためにはどうすればいいのか、という声を聞きながら作れる状況はいままで考えもしませんでした。
あと、インディー支援を見ていると、すでに遊べるようなものが持ち込まれるというのが本当にすごいと思っていて。昔はCGとか、ヘッタクソな絵を添えて企画書を書いて、何とか伝えねば、というのをやっていた時代でしたから(笑)。「ゲームやろうぜ!」でも、ルーズリーフに企画書を書き、1枚ずつ全部縛りつけて送ってくるという熱意のある人がいたんですよ。だけど、形にしてあげられないということになっちゃったんですね。そういう、熱意のはけ口と言いますか、それがなかった。
一握りの人がチャンスを掴めるという状況がいま、すごく変わってきたと言いますか。集英社ゲームクリエイターズCAMPさんのやっていることとか、まさにゲームのマッチングですよね。こういう人をほしがっているチームがいます、といったお知らせがポンポン届く形になっていて、そこから拾われることもある。いろいろなところでチャンスが形になっていく。その意味でも、いまやっていることって未来の種まきだな、と。
学校には就職率なるものがありますが、正直、作りたいものがあるんだったら、「作れる連中とつるんだほうがいい」と(笑)。「そういう人たちと一緒に作った経験は宝になるから」という話は常にしています。大手の会社には大手なりの可能性がありますが、志を同じくした仲間と作るものはまた格別なものがあると思うんですよね。
──TVTもそのような人たちの中から新しいメンバーを募集されるのですか?
保井氏:
そうですね。職種を選ぶためには、いろいろ知る必要があるじゃないですか。だから、大手に行った後にデベロッパーへ行き、その後にパブリッシャーへ行く変遷ってとても大事だと思っているんです。大規模なプロジェクトを1回でもいいので経験し、個人制作も経験してみることで、やっと何が自分に向いていて、どういうことをしたいのかというのがはっきりしてくると思うんです。
その中から弊社は意志を持って発する人、自分がやりたい、発信したいセオリー(仮説)を持った人になるべく来てほしいというのが正直なところです。その人たちが考えるビジョンをどのように形にしていくか。それがTVTにとってのミッションであると思っています。まあ、要は「みんなで遊びましょう」と(笑)。マルチプレイに志向性の高い人が来てくれるとうれしいです。
いまのゲーム業界は大手でコンシューマをやっている人もいれば、スマホでwebの流れで作っている人もいたりと、二分化されていると捉えています。TVTはどちらかというと、ゲーム好きの集まり。まさに“ゲームを作る人”たちが揃っています。その人たちのビジョンに共感いただき、集まってくれる人を歓迎しています。
現実的な職能としましては、ディレクターになりたい人ですね。シナリオだったり、アートだったり、エンジニアだったり、さまざまな部門のディレクターになりたい人を歓迎しています。ちなみにいまはアートディレクターを募集中です。
──ブランディングや展開のさせ方に関してどのような戦略を想定されているのでしょう?
保井氏:
各タイトルについては、ユーザーさんとのコミュニケーションのビジョンがあります。現時点ではユーザーコミュニティの形までは辿り着いていないのですが、ゆくゆくはそれを立ち上げたいと思っています。
──完成品に共感されれば成功という訳でもなくなっているじゃないですか。どちらかというと掲げているビジョン、作りかけのものに対してのビジョンがあって、それが楽しいから作っていこうみたいなノリになっている。そういうお客さんとのコミュニケーションの仕方も変わってくるのかとこの頃思いますね。
坂尻氏:
まだ会社としては出来立てでして、これから形ができていく集まり。それがTVTです。そこから生み出される作品を楽しみにしていただけたらと思います。保井、福島、小谷。この3人の看板クリエイターを前に出す形で、TVTのこれからに注目してください。(了)
まだスタジオとしては小規模でありながら、ゼロから新しいネットワークエンジンを開発し、それを活かした新作を作り、ゆくゆくはそのエンジンも普及させていきたい。そして、プロデュースとパブリシティの業務を学んだゲームデザイン、ディレクション業の人間として、改めて「自分たちの作りたいものを作る」という原点に立ち返って新しいゲームを作る。しかも、自分たちに求められているであろうものを、かつての“心残り”を解消する望みも込めて再び世に問いかけたい。
インタビューを通して見えてきたのは、大手のゲーム会社では難しくなってしまった新しい遊びへの挑戦、そのようなものが許容される世の中になっているからこそ改めて初心に返るという、ゲーム作りそのものが好きで仕方がないという本心だった。また、長らくそのような現場にいたからこそのプロフェッショナルとしての矜持、その時に経験した悔しい思いを多様なゲーム作りが許されるようになったいま、確実に吐き出して実現させるという熱意も感じさせられた。
特に小谷氏が『パタポン3』発売時に経験した悔しい思いというのは、実際にあの当時、ネットワークサービスの停止を経験した人ならば、どれほど悔しいものであったかは容易に想像できるかもしれない。それもあってか、氏が取り組んでいる新作の説明においては、あの時のやるせない思いを晴らすという思いにあふれていた。
保井氏の“みんなで遊ぶゲームデザイン”とマルチプレイ、そしてユーザーとのコミュニケーションを大事にしたいという思い、福島氏のゲームにおけるシナリオの考え方、そして坂尻氏の新作への思いにも独自のセオリーがあふれており、新しいプロジェクトにおいて、それがどのような形で結実し、ユーザー側に新鮮な体験をもたらすのか興味深い。
何度か話題にもなった通り、現在はスタジオとして拡充段階にあり、アートディレクターを筆頭にビジョンに共感いただける人材を求めている状況にある。数々の名作を手掛け、着実な実績を積んできたクリエイターたちが集う場で自分なりのセオリーを訴えたい、経験を積みたい思いがある方はこれを機に門をたたいてみてはいかがだろうか。
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