『パタポン』、『フリーダムウォーズ』、『GOD EATER』。PSP「プレイステーション・ポータブル」(以下、PSP)やPlayStation Vitaに親しんでいたプレイヤーにとっては、どれも親しみがあり、フックするタイトルだ。そんな名作ゲームに関わったクリエイターが集うスタジオがある。そのスタジオの名はTVT。
「ゲームエンターテイメントで培われた技術はもっとこの世界を、よくできる。それを自分たちで実証する」というコンセプトをもとに、「Tokyo Virtual Theory」の頭文字をとって結成されたTVT。そのメンバーには、錚々たる顔ぶれが並ぶ。
『GOD EATER』シリーズ、『フリーダムウォーズ』を手掛けた保井俊之、福島智和。『パタポン』、『XI[sai]』を生み出した小谷浩之。『禍つヴァールハイト』を手掛けた坂尻一人。
彼らは“みんなで遊ぶゲームデザイン”を追求し、マルチプレイにフォーカスした、ふたつの新しいプロジェクトを始動させている。また、優れた技術力を持つエンジニアたちがマルチプレイに特化した独自のネットワークエンジンの開発も進めており、将来的にはインディーゲームクリエイターへの提供も考えているという。
このたび、電ファミ編集部はそんなTVTにて「自分たちの作りたいものを作る」ことを掲げ、新作に取り組んでいるクリエイターの4人―保井俊之氏、小谷浩之氏、福島智和氏、坂尻一人氏へのインタビューを敢行。気になるふたつのプロジェクトの詳細のほか、独立およびスタジオ設立に至った経緯、開発中のネットワークエンジンのことまで、さまざまなお話を伺った。
『パタポン』の精神的続編を目指す『Project JabberWocky』
──会社の説明はまた後々にお聞きするとしまして……まず現在進められているプロジェクトの紹介をお願いしたいと思います。
坂尻一人氏(以下、坂尻氏):
いま2本プロジェクトが走っていまして、ひとつは小谷がディレクターを、もうひとつは保井がゲームデザイナーとしてプロジェクト全体を管理しています。シナリオはどちらも福島が担当しているのですが、基本的にTVTのタイトルは福島がシナリオのディレクションを担当する予定です。サウンドに関しては『パタポン』、『フリーダムウォーズ』にも参加した足立賢明にお願いしています。
プラットフォームはPCがメインで他ハードはまだ検討中です。プロジェクトの戦略上の軸に関しては既存のヒット作、この小谷のプロジェクトですと『パタポン』があります。そこに食らいつき、全く新しいものを作り出そうという考えです。
完全なオリジナルタイトルではありますが、『パタポン』を作った人間と作ったチームメンバーを揃えたうえでの制作になりますので、「大体どんなゲームになるのかは想像できますよね?」と思っていただければ(笑)。
具体的なコンセプトにつきましては、小谷から説明させていただきます。
小谷浩之氏(以下、小谷氏):
(プレゼン資料を指して)自分で書いていながら、「よくわからないことを書いているな」と思ったりもしますが(笑)。大きな特徴としては今回、船があります。この船にプレイヤーたちが乗って、一緒に旅をしていくリズムアクションというのが骨格となります。
船のうえで“みんなで一緒に音楽を楽しむ”という感覚を再現したかったんですね。音楽ライブでステージ上で歌っているアーティストを見ながら、みんなで声を合わせる、みたいな感じですね。その感覚を実現したいと考え、船にみんなが乗って、歌いながら楽しく冒険を繰り広げていくことを世界観における大きなテーマに据えています。
ステージも一直線ながら起伏に富んだ地形があり、風を味方につけるといった地の利を活かし、戦略的に進めていく形になることを想定しています。世界観に関しては新作になりますので、全体的に一新したもので挑む形です。
──なるほど。ゲームシステムは『パタポン』に準じるかたちになるのでしょうか?
小谷氏:
ゲームシステムに関しては基本的にリズムアクション、リズムによるコマンドを使って戦うというスタイルを継承しています。ただ、その部分に関しても全く新しいアプローチを行おうとしている段階です。
マルチプレイについては導入しつつ、より推し進める形で全編を対応させる、マルチプレイヤー前提のゲームにするというのがプロジェクトのもうひとつの指標になっています。さらにローグライクのようなランダム性を採用し、新しい世界の中で未知のものを探したり、常に変化する世界を探索しながら冒険していく遊びを構築したいと考えています。
──ストーリーはどんなイメージでしょう?
小谷氏:
ストーリーの大筋は、「ラタッタ」という人間の子供のようなキャラクターたちが船に集まって冒険していくというものです。世界観はいわゆるポストアポカリプスをテーマにしているのですが、滅亡後の荒廃した世界観でなく、新しく「やり直しちゃおう!」という、まっさらでツルッツルな世界のお話になります。
それから、今回ですと「ラタッタ」が『パタポン3』における「パタポンヒーロー」の位置づけで、「パタポン」に当たるのが「コーラス」というキャラクターになります。何もなくなった惑星に住み着いている不思議な生命体なのですけど、歌を歌っているとまるでイルカのように喜んで船について回ってくる。
そんな子たちがたくさん集まって、跳ね回って一緒に冒険していくという世界はすごく楽しいだろうな、と。ですので、世界観の雰囲気としてはだいぶ違ったものになると思っています。
ちなみに『パタポン3』の時はPSPのハードスペック上、「“ワラワラ感”を捨てるのか捨てないのか」と、1ヶ月に渡って現場で議論したんです。その結果、パタポンのヒーローをカッコよく見せるため、切り捨てる判断を下したんですね。それを今回は切り捨てず、しっかりと“ワラワラ感”を表現したいというのも指針の中心になっています。
──“ワラワラ感”というのは、どれぐらいの“ワラワラ感”なのでしょう?(笑)
小谷氏:
まだそこは技術検証をしていない段階なのですが、あまり大群にするとゾンビを殺しまくるゲームみたいになってしまいますので、ある程度の数量制限はかけることになるだろうと思います。とんでもない数字を出してしまうと、「スペックを見せたいんだろ!?」みたいなことになりかねませんので。
ただ、すごく“ワラワラ”はさせたいんです。いっぱい飛んでいるように引き連れ、旅をするというイメージから、多めにしたいと思っています。もっと“ワラワラ”させたい!(力説)
──(笑)。マルチプレイとのことですが、こちらのマッチングの仕様はどうなるのでしょう。ランダムマッチング、フレンドとチームを組むといういろいろな形式がありますけど。
小谷氏:
どちらかというとランダム寄りです。偶然行き交った人たちと協力しながら冒険する方向性ですね。
──『風ノ旅ビト』みたいな感じですかね? 一期一会と言いますか。
小谷氏:
そうですね。マッチングをあまり意識させたくないとは思っていまして。それまで、ずっとNPCとして同行していたキャラクターが人に代わっていた、みたいなものにできればと思っています。
──となると、途中で抜けたりしてもよくわからない感じに?
小谷氏:
見た目を含めて、意識させないものにできればと思っています。
保井俊之氏(以下、保井氏):
このタイトルは「Theory Engine」という、TVTが生み出した、新しいネットワークエンジンで作ろうとしています。端的に特徴を言いますと、いわゆるP2Pの方式でゲームが展開されますので、マッチングさえ済ませれば、ゲームサーバーが無くても、かつての携帯機のような感覚で遊べるエンジンになることを考えているんです。なので、小谷が言っているようなアプローチのマルチプレイも検討しやすいと思います。
──システムとしてはマッチング用のサーバーだけは存在する形でしょうか。
保井氏:
はい、そうなります。
小谷氏:
昔からそういうマルチプレイをやりたいというのを考えていたんです。そのひとつの形態が今回のものになるのですが、まだ他にもいろいろとやってみたマルチプレイのアイディアがありますので、今後、挑戦していきたいと思っています。
──そのような仕組みとなりますと、対戦もあるのかと気になりますが、そういう訳でもなく……?
小谷氏:
えーっとですね……まだこのプロジェクト、まずはゲームとして成立させるというチャレンジがありますので、対戦のことは先の話かと思っています(笑)。
『パタポン』をベースにしているような感じで言いましたけど、根本的なシステムはだいぶ変えています。まずは敵と戦う場面を構築してからですね。まあ、ルール次第だとは思うのですが、おそらく対戦もできるのではないかと。そもそも、『パタポン』も対戦はできていましたからね(笑)。
──先ほど、ローグライクとありましたけど、1回のプレイは大体どのくらいになるとイメージされているのですか?
小谷氏:
現時点ではブロック分けを検討中です。全体で4つか5つぐらいのゾーンに分かれて、それぞれに固有のボスキャラクターが配置されているイメージです。
ひとつのブロック単位は大体10分を想定しています。ただ、1ブロック単位でさまざまなミッションを攻略したり、ボスを倒したりとかいろいろ用意していますので、早ければ……みたいな想定ですね。
──そうなりますと、たとえばハクスラ的な要素とか、何周も遊ぶ特徴を踏まえた遊びも用意されるのですね。
小谷氏:
そこは現在、何を持ち帰って、どんな強化にすればウケるのか、という部分を検証中しています。コマンドを増やすとか、それを発生させる武器に該当する楽器を強くするとか、はたまたコーラスそのものを強化するとか。どうするのかを設計しているところです。
武器や装備は、冒険の途中で手に入ったアイテムを売って、強化できそうなものはどんどん強化していくなど、コーラスは毎回のプレイに影響する位置づけになるかと。楽しくリズムよく遊んでいると、いっぱいコーラスが集められて、その中にレアなコーラスも混ざってくるみたいな。そういう方向にもっていきたいと考えています。
坂尻氏:
補足しますと、じつは今日、ここまで企画の話をする想定はなかったんですよ(笑)。ですから、いま話した内容の中にはまだ企画の域を超えないものもあります。まあ、内容がおもしろいのでいいかなと思いましたが、いまは『パタポン』というビジュアルや世界観などが強烈な存在にどうすれば勝てるのか、というのを一生懸命考えている段階です。
ですので、最終的にはかなり変わるかもしれない、という前提でいてくれればと思います。
企画会社からマルチプレイネットワークゲームに特化したスタジオへの挑戦
──いきなり開発中のゲームのことを聞いてしまいましたが、TVTがどのような会社で、これまでどのようなことに取り組んでこられたのかについて聞かせてください。
保井氏:
はい。TVTは基本的にゲームやアプリの開発、特にネットワークエンジンを軸として、さまざまな会社さんの案件を請け負わせていただいています。主にマルチプレイのネットワークゲームですとか、そこに付随する世界観、原作の構築なども一括して携わらせていただいている会社です。
──現在は企画会社という感じなのですか?
保井氏:
そうですね。スタート時点では企画会社という感じでした。ですが、いまはエンジニアの拡充をしています。『GOD EATER』を作っていたスタッフたちと合流しまして、彼らとネットワークエンジンを作って、新しいマルチプレイネットワークゲームを生み出していこうというビジョンに移行中の段階にあります。
──現在、社員の方は何人ぐらいいらっしゃるのですか?
保井氏:
役員と正社員合計で12名、業務委託を合わせると20名ぐらいのチームになっています。
これからスタジオとしてさらに拡充していければ、と考えている状況ですね。
──TVTという会社はもともと、保井さん個人が立ち上げられたのですか?
保井氏:
最初は私と副社長の大竹、私の身内と若いスタッフ、この4人が最初の立ち上げメンバーとなります。
──そのような「何かを作る!」という志を持った方々が中心になって誕生したのですね。そこからの活動や、福島さんたちが合流したのはどのような経緯だったのでしょうか。
保井氏:
福島さんには立ち上げ時点で声をかけていましたね。当時、何をされていたんでしたっけ……?
福島智和(以下、福島氏):
当時は……確か、ゲームのお話や設定周りのお手伝いをしていましたね。
保井氏:
いわゆるゲーム会社さん、IPホルダーさんと一緒にゲームを作りませんか、といろいろ営業をかけていました。その仕事を通じて仲良くさせていただきまして、原作の構築やゲームの立ち上げみたいなことをしつつ、会社を始動させていきました。
──メンバーの中には小谷さんを始め、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)さんの「JAPAN Studio」に在籍されていた方々もいらっしゃいますが、けっこう前から、そのような方々が移籍する動きが起きていたじゃないですか。TVTが会社として始動させていく中で、やはりその影響もあったのでしょうか。
保井氏:
その頃だと、うちは立ち上げから2~3年が経っていました。小谷はどちらかというと、うちの掲げる方針に賛同して参加していただいた感じでしたね。
──となると、TVTの立ち上げは2018~2019年辺りに?
保井氏:
2019年ですね。
小谷氏:
どちらかというと「ゲームやろうぜ!」繋がりかも。
保井氏:
そうですね。私自身、「ゲームやろうぜ!」というプロジェクトの流れからゲームクリエイターになり、その後に「ゲームやろうぜ!」のメンバーが設立したシフトさんで『GOD EATER』を作らせていただきました。
小谷も「ゲームやろうぜ!」の参加クリエイターのひとりでしたから、その繋がりが強いですね。
──その立ち上げされて間もない頃のお話を詳しくお聞かせ願えればと思うのですが、最初にどのような業務から始められて、いまのスタジオの拡充へと繋がっていったのでしょうか。
保井氏:
立ち上げ間もない頃は、いろいろなところでディレクション業務からゲームの企画、世界観の構築をやった感じです。ゲーム制作の上でパブリッシングしたい方とチームを組むこともやりました。
私個人はもともと、企画・ディレクター上がりの人間で、いわゆるプロデュースとかパブリシティというものをよくわかっていなかったんです。それで、両業種の差分を見なければと思って、ドワンゴに行きまして。どのような仕事で、どう動くのかというのを見せていただきました。それを一通り終えた頃になり、自分のやりたいことをきっちり考えていこうと思うきっかけがあったんです。「ゲームやろうぜ!」の話に繋がるのですが、原点回帰と言いますか、改めて「自分たちが作りたいものをちゃんと作れる体制を築こう!」という気持ちになりまして、現在にいたってます。
──ということは、スタジオとして1本作り切るのは今回が初めてのことになるのですね。
保井氏:
そうですね。「仲間探しの旅」と自分勝手に言っていたのですが……福島が来て、小谷が来て、坂尻にも来てもらってと、自分たちが本当に作りたいものを作っていこうという体制が整ってきたので、次のチャレンジとして取り組もう、と。まさにここからが本番という段階です。なので、今回のインタビュー記事を読んでいただき、我々の掲げるビジョンなどに賛同いただいた方は、一緒に作っていくための仲間になってくれればと思っています。
──いま進められているプロジェクトにはパブリッシャーさんがいるのですか? それとも自社パブリッシングを目指しているのでしょうか?
保井氏:
現時点でパブリッシャーさんはいないです。いわゆる自社パブリッシングに挑戦したいと思っている段階です。
──ということは自己資金でやられているのですか?
保井氏:
現時点では自己資金です。もちろん、パブリッシャーさんとの共同開発も視野に入れています。また、Kickstarterといったクラウドファンディングでのプロモーションを行い、ユーザーさんのコミュニティと向き合いながらゲームを作る、というのもやりたいなと思っています。
ただ、いまはまず、自分たちで作っていこうという思いが強いです。あと、Theory Engineという独自のネットワークエンジンを開発しているのですが、これを世にお披露目することもやりたいと考えています。すでに大きな会社さんとは、エンジンの件でいろいろお話しさせていただいているところですね。
──となると、これまではいわゆる受託案件を請け負いつつ、自分たちのタイトルを仕込んできて、いまお披露目できるタイミングになったという感じなのですね。それで今回のインタビューを通し、さらなるスタッフの拡充、場合によっては条件次第でパブリッシャーさんとご一緒にできれば……ということでしょうか。
保井氏:
その通りです。